第180話 さっそく、煌輝と茉優を誘いに行こう!


俺は大地先輩達と昼食を共にした後、すぐに茉優へメールを送った。


『今日の放課後、中学校へ行っていいか?』と。


既読は一瞬で着き、ほんの数秒で返信は来た。


────『ダメ』だと。


はいはい、やっぱりそうだよね。予想通りの返信に俺は冷静に受け入れる。


「……やっぱりダメだったの?」


俺の反応を見て、雫が俺のスマホの画面を覗いてくる。


「うん。まぁ、当たり前だよね。自分の学校に身内は来て欲しくないもんね。」


俺も授業参観とかは何となく嫌だったしなぁ。

親にいつも見せている自分と、学校の自分。それは違うのだから。


「……え、別に違うと思うけど?」

「あれ……!?じゃあ、どんな理由があるのさ?」

「……ゆーまは茉優のお兄ちゃんなんだよ。そんなの独占したいに決まってるじゃない。」

「ん……ん?」


あまり意味の分からなかった俺。まぁ……いいや。

女の子には女の子の気持ちがあるのだろう。男の子の俺には……分からないや。


「……それで、どうするの?別に中学校に行ってまで渡す必要は無いんじゃないの?」

「そういう訳でもないんだよね。だって、今週の土日が旅行なんだから、早めにチケットを渡さないと何か別の予定を入れちゃうかもしれないだろう。それに煌輝にも渡さなきゃならない。」

「……まぁ、それもそうだけど。」


それでも雫はなんだか不安そうだ。


「あ、もちろん。素の俺の姿では行かないよ。素の俺で行ったら中学校が大混乱すると思うからね。」

「……女装して行くの?」

「うん。」

「……メイクするの?」

「うん。お願い。」


あれ、俺が素の姿で行こうとしてるから不安なんじゃないのか?


「……別にゆーまが行く必要は無いんじゃない?私がコソッと渡して来るから。」

「うーん、でもさ。茉優が一体どんな学校生活をしてるのか、放課後だけど見てみたいんだ。」


つまり、簡易的な授業参観をしてみたいのだ。茉優の兄としてな。


「……案外、メイクとかって大変なのよ?」

「うん。それは重々承知しています。」


これは俺のわがままだ。雫には悪いとはもちろん思っている。


そんな雫は俺の頼みに少しだけ悩んだ後、頬を珍しく赤くさせながら、か細い声で……


「……温泉旅行中、ちょっとだけでいいから。

…………………………………2人っきりになろう。

それを約束してくれるなら。やる。」


それは……俺の“婚約者”からのおねだりであった。


「……………………っ!?」


ついつい、俺も顔を赤くさせてしまい反応が鈍くなってしまう。頭の中が“可愛い”で支配される。


「交渉成立だね。」

「……ええ。」


さてと……放課後、茉優の中学校へ乗り込むと致しますか。茉優には悪いけど、素の茉優を見せてもらうよ。


☆☆☆


放課後になり、俺はすぐに雫からメイクを施され、お馴染みの女装姿にチェンジすると……急ぎめで茉優の中学校へ向かった。


もしかしたら茉優は家に帰ってしまってるかもしれない……と、思ったけど。取り敢えず居ることを信じて向かう。


今回は中学校へ行くので、服装はちゃんと制服じゃないと相応しくない。そう思ったので夜依に頼み込み、制服を貸してもらったのだ。


雫の案内の元、俺達は茉優の中学校に到着した。

既に中学生達は続々と帰宅している中、茉優がいる確率はかなり低いが……取り敢えず行く。


中学校の正門に高校生がいるという事だけで目立つ。下校する中学生達からは若干変な目で見られる。


「へへ、ちょっとだけ緊張しちゃうね。」

「……そう?別に。」


俺のちょっとした愚痴に少しだけ嫌そうな顔をする雫。理由は特に聞かなかったけど、いずれ分かる事になるはずだろう。


中学校の正門では既に人混みの様なものが出来ていた。小さな声で聞こえて来たが“2人の美人高校生が中学校に来た”との事らしい。


はぁ……俺、一応男なんだけどなぁ。

かなり落ち込む俺。


元々、どちらかと言うと女よりの顔だった俺。だから頑張ってカッコ良く髪型とか服装とか雰囲気とかその他諸々頑張っていたのになぁ……


もう、さっさと茉優を見つけに行こう。

この目線は俺にはツラいからな。


「さ、行こう。」


裏声で女の子らしい声を出し、俺は雫の袖を引っ張る。


「……ええ。」


雫もすぐに了承し、俺の事をリードしつつ人混みを突破し、職員用玄関まで連れて来てもらった。


中学校の先生にきちんと許可を取り、校舎へと入る。


「よしよしよーし。後は茉優と……煌輝を探すだけだね。」


正門に集まっていた中学生達も流石に校舎までは追って来なかった。


「……そうね…………………………っっ!?」


雫がそう言った後、雫ははっと口を開けて固まった。


「どうした……雫?」


俺はすぐに雫の目線を追う。すると一直線に、俺の少し前にいるテニスラケットを持つ中学生に固定されていた。


「──あれ、雫センパイですか?」

「……緋鞠ひまりっ!?」

「やっぱり!雫センパイだ。お久しぶりですね!」


どうやら……その緋鞠という人物は、雫の元テニス部の後輩らしい。突然の後輩出現に戸惑う雫“センパイ”。いつにも増して動揺している気がする。


「雫センパイ、聞きましたよ。どうしてテニス辞めちゃったんですか!私はセンパイに認めてもらいたくてテニスを頑張ってたのに。」

「……緋鞠、それにはちゃんとした理由があるの。」

「なんですか理由って、ちゃんとした理由じゃないと納得しませんからね!」

「……分かった。ちゃんと話すから。でもその前に、」


そう言いかけた後、雫はくるりと俺の方に向き直ると、


「……ゆーま、先に行ってて。私はちょっと、真剣な話をしなくちゃならなくなったから。」


そう小声で言ってきた。


「う、う、うん。了解。じゃあ………また後で。」


嘘だろ。ここからこそ雫から道を教えて欲しい所なのに………雫なしだと、俺は確実に迷うぞ!?

俺は何とかして雫に着いてきて欲しかった。


だが、先輩と後輩の重要そうな話に割って入る程、俺は肝っ玉では無くそれも出来ない。

結局……一人で行くしかないのかぁ。


はぁ、取り敢えずそこら辺にいる中学生に声を掛けてみるか……


俺は覚悟を決め、1人で彷徨うのであった。

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