第179話 大地先輩からの誘い
煌輝が俺をアニキと呼ぶようになってから数日後。
今の所、煌輝からも茉優からも連絡は無い。だから2人の関係があれからどう変化したのかが俺は普通に気になっていた。
煌輝にでも状況を聞こうかとも思ったけど、そもそも俺は煌輝の連絡先を知らないし、茉優にも直接は聞けない訳だし…………くっ。
そんな悩みを抱え込んだ俺は学校に来て早々に考え込んでしまい、クラスの皆が何となく話し掛けづらい状況を作り出してしまっていた。
うーむ。あの2人の関係だと、何かきっかけがあればいいのだけど………………って、なんで俺は2人が結ばれる事を期待しているんだよ!バカか俺は。俺はまだ煌輝を認めてないんだぞ!
そんな、心の中で自問自答を繰り返していると……
「──おー、どうした優馬。悩みか?」
1人が俺に声を掛けてくる。俺ははっと意識を現実に戻し、話し掛けてきた相手を見る。
「あれ……って、大地先輩じゃないですか。珍しいですね。1年の教室に来るなんて……」
てっきり春香とかだと思ったが、俺に声を掛けてきたのはまさかの大地先輩だった。
「そうか?」
大地先輩は明るく笑い、俺の隣の席に無言で座る。
俺は改めて大地先輩を見る。前は前髪で目元を隠し、暗いオーラを常に纏っていた大地先輩。だが、今の大地先輩はちゃんとオシャレして、見栄えを良くして、明るいオーラを纏って……本当にカッコ良くなったと思う。
……大地先輩は月光祭以来、本当に変わった。これも全部全部大地先輩の婚約者の椎名先輩のおかげだな。
「──それでだな。今日の昼、屋上で久しぶりに昼飯を食べないか?もちろん、婚約者達も連れて来て、な。」
「あ。はい。分かりました。喜んで。」
……昼食の誘いか。
最近は後輩として、大地先輩と椎名先輩のイチャイチャの空間を邪魔してはいけないと、距離を置いていたので久しぶりに屋上に行けるのは正直嬉しかった。
俺はいつにも増して無邪気に笑い、大地先輩もつられて笑う。男同士の友情。それはこの世界のみならず、どの世界でも相変わらずに不変的なものなのである。
☆☆☆
──昼休み。
大地先輩の言われた通り雫、葵、夜依を引き連れて屋上に来た。
「……屋上とか初めてね。」
「そ、そ、そうですね。落ちないように気を付けないと……」
「大丈夫よ。ちゃんとフェンスがあるんだから。」
3人は俺の後ろを追いながら、そんな会話で盛り上がっていた。雫と葵は若干ビビり気味で、その2人を夜依が宥めていた。
「はいはい、そろそろ屋上に着くからちゃんと先輩に挨拶するんだよ。」
なんて……お母さんみたいな事を言いながら、俺は屋上への扉を開ける。
少しだけ冷たい風が俺達をすぐに包み込む。まぁ、少しだけ肌寒い気もするけど、そうだと予想してそれなりに厚着をしてきたので余裕で耐えられる。
俺達はゾロゾロと屋上へ入り、当たりを見渡す。
「あ、もう先輩達は来てるようだね。」
既に大地先輩と椎名先輩は屋上に来ていて、地面に腰を下ろし、ラブっラブな空気を全開に醸し出しながらお弁当を食べていた。
「ん、なにをしているんだ……あれはっ?」
俺は先輩達を見て呆気に取られた。なぜなら、大地先輩が椎名先輩に弁当を「あーん」で、食べさせてあげているのだから。
完全なるバカップル。それは否定出来ない。
このカップルは昔から相思相愛の関係で……
……時折、空先輩も釘を刺すらしいがそれでもあまり効いていないとか。
そんな2人を見つめる俺達。完全に2人の世界で中々入って行けず、大地先輩から気づかれるまで俺達は固まっていた。
「──おっと、来てたか優馬。声を掛けてくれれば良かったのに……」
「あ、はい。すみません。2人が想像以上にラブラブで……邪魔しては悪いかなと、思いまして。」
俺がそう言うと、2人は満更でもない顔で互いに笑いあった。
「さ、お前達も座りなよ。久しぶりにゆっくり話そう。」
「はい。失礼します。」
俺は大地先輩の隣に。雫、葵、夜依は椎名先輩の近くに座り、互いに話を弾ませながら昼食を共にするのであった。
☆☆☆
話が一段落し…… 全員が昼食を食べ終わったのを確認した大地先輩は、俺達に向かって声を掛ける。
「──それでだ、お前達は温泉には興味があるか?」
「温泉……ですか?それはまた、唐突ですね。」
いきなりの事に俺は驚くが、
「温泉は……まぁ、好きですね。」
すぐにそう答える。嘘ではない。本当だ。
転生する前は家の近所に天然の温泉があって……よく部活帰りに1人で行ってたっけ。
ちょっとした懐かしさを感じつつ、
「でも、どうして温泉なんですか?」
大地先輩らしからぬ、その発言に俺は少しだけ疑問に思ったのだ。
「ふふ、まぁ“これ”に優馬も誘おうと思ってさ!」
そう大地先輩は笑うと、複数枚の紙を手渡ししてきた。
「こ、これは?」
「隣県の温泉旅館への招待チケットだよ。」
「お、おぉー!それは凄いですね。」
って、枚数が……まぁまぁ多くないか!?
「昨日の買い物帰りの福引で、運良く大量の温泉旅行招待チケットを当てたんだ。」
「す、すごいですね。さ、流石先輩です。」
こんな量の招待チケット……普通当たるか?えげつない確率のような気がするけど……まぁ、流石先輩だ。俺は考えるのをやめ、素直に先輩が豪運だと思う事にした。
「日程は急だけど、今週の土日の1泊2日で行くつもりだよ。もし、予定があったのならしょうがないけど、行けたら一緒に行こうよ。」
「今週ですか……随分と……急ですね。」
俺はすぐに3人に目をやる。俺は特に予定は無い。だが3人は違うかもしれない。俺は1人でも行けないとなれば行かないつもりだ。だって、残された側も残していく側も、なんだが気が引けて楽しい旅行なはずでも、あまり楽しめなくなると思ったからだ。
俺の目線に雫、葵、夜依の3人はほぼ同時に頷き、どうやら予定は無く温泉に行けるようだった。
むしろ3人は若干興奮気味で、温泉旅行を既に楽しみにしているようだ。
「はい、大丈夫です。有難く、行かせてもらいますね。」
「おー、そっかそっか。それは良かった。旅行は人数が多い方が楽しいからな。」
「ですね。」
「そうだ。チケットはまだまだあるから優馬の身内や知人を誘うといいよ。チケットを残してしまうと、勿体ないからね。」
そう言われ、大地先輩から追加で招待チケット何枚か受け取った。さっき貰った物も含めて、改めて数えてみると枚数は全部で7枚。
俺含め雫、葵、夜依………姫命、鶴乃で5枚使うとして……残りは2枚。
うーん。茉優、お母さん、かすみさん……だと枚数が足りなくて誘えないしな。そもそも最近のお母さんは本当に忙しいらしいからなぁ。温泉旅行なんて行ってる余裕は無いと思う。
じゃあ、あと2人。どうしようか……温泉旅行に行きたそうな2人かぁ。
俺はこれまで出会った様々な人達を思い出し、誰を誘おうか迷う。
「あの……ゆぅーくん。」
すると、葵が俺の肩を軽く叩いた。
「ん、どうした葵。」
「残りの2枚のチケット……煌輝くんと茉優ちゃんに渡せばいいんじゃないですか?」
「え……煌輝と茉優に?」
葵に言われ、俺は気付く。
2人の曖昧な関係を進展させるきっかけが……この温泉旅行なのではないかと。
「でも……………………いや。」
なんで認めていない男の恋路を手伝わなければならないのかと、すぐに否定したかった。
だが、煌輝のあの熱意を思い出し、ここは兄として……アニキとして、1度だけチャンスをやる事に決めた。
「──ふぅ、分かったよ。じゃあ、残りの2枚で煌輝と茉優を誘う事にするよ。」
一応、煌輝にも男しての魅力は感じているのだから。
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