第177話 姫命の恋路


天照 姫命……とは仮初の名前。彼女の本当の名は天照大御神アマテラスオオミカミという。何度も言うが彼女は本物の神様なのである。それも……天界のナンバー1に近い至高の存在である。


細かい説明はザックリ省くが、今の姫命と天界の姫命はほとんど変わらず、絶世の美女であり、誰にでも隔てなく接し、フレンドリーで、誰からでも愛される存在だった。どんな偏屈な男でも、性格がねじ曲がった男でも、怠惰な男でも……彼女の前では全くの無力。一瞬で心を奪われ夢中になってしまう。


彼女を愛する神は数しれず、儚く散った神も多い。


そんな順風満帆で理想の天界生活……とは姫命にはならなかった。姫命にはある大きな悩みがあったからだ。

──それはどんなに強くても、カッコよくても、人気があっても、人望もあっても、魅力があってもも、姫命の心にはほとんど響かなかったのだ。


どうせ、そういう♂は姫命の“内”ではなく“外”に惹かれているのだろう。もし姫命がブスだったら、どうせ近付きもされないのだから……と決め付けていたからだ。


(あーあ、つまんない。♂は私に対してはいつも同じ反応だから。私のことを第一に考えてくれるのはすごく嬉しいんだけど、毎回同じ反応じゃ流石に飽きちゃうんだよね。)


姫命は本物の“恋”と“愛”に飢えていた。だから自分を無我夢中にさせて、ときめかせてくれる圧倒的♂をずっと捜し求めていた。


──そしてとうとう出会った、彼に。


初めて出会った時は、彼は事故死して魂だけの存在になっている時だった。彼は人生が一瞬で終わってしまった事に自暴自棄になっていた。


まぁ、あるあるな反応。この人も夢中にさせてくれないのかな?ときめかせてくれないのかな?つまらない人なのかな?……と最初は決め付けていた。


それから彼を少し見ていると、彼は優柔不断で、切り替えも遅いし、不安症。ヘタレだし、見てて腹が立ってくることも多くあった。

見た目も悪くないけど、そこそこだし。圧倒的至高の存在の姫命には…………到底釣り合わないとさえ思っていた。


──それに転生先の男がほとんどいない世界で、私利私欲に人生を謳歌するのだろうとも思っていた。

そう決め付けていた。


だけれど転生してしばらく彼を見続けていると、彼は真っ直ぐだった。自分の目標は絶対に曲げないというその精神が。世界?常識?そういうものなど些細の事の様に扱うその傲慢さ。でもその強い心に姫命はひどく感銘を受けた。


何か……彼は……違う。そう確信さえ持てた。姫命の心を動かす最大の一撃は“他人の為に自らの命を指し出す覚悟でいつも突き進む”彼の姿だった。


その姿はどんなにカッコイイ神なんかよりも、とっても素敵でカッコ良かった。姫命の心に火が点った。


──神と人間は釣り合わない?だから、無理?

いや……断じて違う。釣り合う釣り合わないじゃない。どちらかが片方に手を差し出せばいいのだ。

自ら歩幅を合わせればいいのだ。だからそういうものは一切関係ないのだ!!!!!!


(彼に会い行きたい!)


姫命がそのような考えに至るのは、案外ずっと早かった。もう、我慢ならなかった。本当に興味を持ってしまったのだから。無我夢中にさせてくれそうだったから、ときめかせてくれそうだったから。


☆☆☆


……という感じの話を姫命は俺に話したのであった。


「──どうかな、これで分かったでしょ?私が和也くんの事が大大大好きだってこと!」

「うん。まぁ、気持ちは十分に……伝わったよ。」


姫命が俺を好きになってくれた事は凄く嬉しいし、光栄だ。全てを投げ打って来てくれた事も嬉しすぎる。まぁ好きになった理由は特殊な気がしたけど。


「えと、返事を貰えると……嬉しいかな。」

「うん。でも──ごめん。

……俺はまだ全然姫命を知らない。姫命が来た時から、何も自分から知ろうとはしなかったから。だから返事はまだ“保留”にしておいてくれないかな?」

「えー、早めに頼むよ。私だって、忙しいんだからね。」

「分かってるって。自分なりに精一杯考えて……答えを出すつもりだよ。」

「りょうーかい。楽しみに待ってるね!」


姫命は俺の上々な反応に嬉しそうに飛び跳ねた。まぁそうだな……俺もそろそろ姫命を見る目を変えなきゃならない時が来たのかもな。そう思いながら俺は彼女との“心の隔たり”をゆっくりと退かすのであった。


☆☆☆


姫命は優馬とのお家デートが終わった後、お風呂に浸かりながらじっと左手に付けている指輪を見ていた。その指輪に内蔵されている砂時計は……やはり、止まることなく砂はゆっくりと落ち続けている。


その砂時計の砂は前よりも目に見えるほど減っているのが見て分かる。それを見て姫命は少し寂しそうな顔を浮かべる。


「もう……あと、少しかぁ。時間が経つのって随分と早いんだなぁ。上にいた時はこんな感覚全然なかったのに。

……もっと、頑張んなきゃね。和也くんに振り向いてもらう為には。大丈夫。私ならやれる。頑張れ。私にとって永遠の悔いならないように……」


そうボヤいた姫命はゆっくりとお湯の中に沈んで行くのであった。


明日からはもっともっともっと、アピールして行かなきゃ。頑張れ私。頑張れ。


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