第176話 せっかくの休日。だけど、一瞬で消え失せた
「──ふわぁーぁ。」
俺は盛大に欠伸をかまし、自室でのんびりとする。今日は休日で、何も予定が入ってない俺としては珍しい1日。なので、久しぶりにダラダラと出来る日なのだ。
まぁ、暇なのは俺だけで、雫は鶴乃と小学校へ持っていく道具の買い物へ、葵は妹の青葉とのお出掛けへ、夜依は弓道部の大会へ……と、皆今日は家にいなかった。
本来ならば俺も雫と鶴乃の買い物について行く予定だったけど、最近疲労で疲れているのが目に見えて分かっていたからか、休ませてもらうことになったのだ。
ということなので、今日は精一杯休日を満喫させてもらおう。そんな、俺は皆に感謝しながらベットでゴロゴロし、スマホをいじっていると……
「──和也くーん!!!」
俺の頭の中で、完全に除外されていた人物が勢い良く部屋のドアをぶち開け、ズカズカと侵入して来る。そして流れるような動きで俺のベットに潜り込み、キスを迫ってくる。
「ちょ、ど、どうしたんだよ!?」
慌ててキスを止め、ベットから距離をとる俺。そして呆れながら彼女を睨む。
「もう……惜っしいーな。あともう少しで和也くんの唇を奪えたのに。」
……そう、迫って来たのは“姫命”。一応、神様で俺の最大の秘密を知る唯一の人物。だが、最近無下にされがちな家のお手伝いさんである。
「ねぇねぇ、今日は和也くんは暇なんでしょ?だったらさ、一緒にデートに行こうよ!」
俺のベットの上でパタパタ足を上下させ、色気を醸し出す姫命。
「デート、かぁ……」
だけど俺はデートと聞いて、あからさまに嫌な顔をする。だって雫や葵、夜依なら全然構わないんだけど……デートの相手が姫命だからである。
「はぁ、」
「えぇー!?そこでため息するのっ!?嬉しくないの?こう言っちゃなんだけど、私に誘われて嬉しくない♂なんて居ないはずなんだけどぉ?」
「それ自分で言うかな!?」
「えへへ、それぐらい自分に自信があるって言うことだよ!」
「へー、そうすか!」
そんな雑談を挟みつつ、俺は自分の意見を少し遅れて言っておく。
「せっかく今日、俺はのんびり出来るんだよ?最近は多忙だったし、たまにはしっかりと休ませて欲しいな。」
「うんうん。それはもちろん分かってるよ。だからさ、デートしようよ!」
「いやいや、デートはいいって。」
「分かってるってば!
だから今から“お家デート”をしようよ!」
「お家……デート?」
何を口走ったかと思えば……お家デートと、だと?
予想外の言葉にたじろぐ俺。だって……
「──でもさ、それって、俺がいつもやってることじゃないのかな?」
そう。お家デートって、外でイチャイチャする事を家の中に移してイチャイチャするってことだろう?
そんなの毎日と言っていいほど、皆でやってるんだけど?(姫命以外の婚約者、娘と)
「違うよー!いつものやつはただのスキンシップ。お家デートはお家デートなの!」
だけれど姫命はハッキリ違うと豪語し、自信満々に「楽しみにしてて」と言う。
「あー、そう。じゃあ期待して、満喫するとしようかなぁ。」
俺に大見得を切った姫命。まぁ、たまには任せてみるのも悪くはないだろう。そう思う俺なのであった。
☆☆☆
姫命はあんなに大見得を切った訳だけど……お家デートは予想より随分と控えめであった。
俺は着替えて1階のリビングに移動すると、フリフリが付いた可愛らしい服装に着替えていた姫命は疲れに効くと言うお香を炊き、早速マッサージをしてくれた。
どうやら、俺の予想したスキンシップとは別格のスキンシップで攻めてきたようだ。
お香とマッサージの効果からか、気持ちよくて意識が飛びそうになる俺は何とか必死に耐えていた。もし寝落ちとかしたら、1人の姫命に何をされるか分かったもんじゃないからだ。
そんな切羽詰まった俺に姫命はそっと声を掛けてくる。
「──ねぇ、和也くん。私が来てそろそろ3週間だよ。もう……私と居れるのは少しの期間しか無いんだよ?」
「あー、うん。そっか。もうそんなに経っちゃうんだね。あっという間だったなぁ。」
姫命に言われて気付いたけど、もう姫命が来てそんなに経つのか。最近は月光祭があって色々と忙しかったから、すっかり時間の感覚が早まっていたんだな。
「──だからさ!私と…………あ。」
「──そっか……そうだ!……あ。」
たまたま、俺と姫命の言葉が同時に重なり、言葉どうしで打ち消されてしまった。
「いいよ、先で。」
「い、いや。やっぱりなんでもないよ。和也くんが話して。」
申し訳ないと思いながら、俺は先を譲ったけど、姫命は何か躊躇ったような雰囲気を醸し出し、何も言わなかった。うつ伏せでマッサージを受けているため、姫命の表情は伺えない。だけど、多分苦い顔をしてるんじゃないだろうか?
「そっか?じゃあ、言わせてもらうけど、どうして俺と……お家デートなんてしようと思ったの?
まぁ、今の状況はお家デートとは言えないような気もするけど。」
「えー、そんなの言わせないでよ~」
「いやいや。説明してくれないと分から無いんだよ?焦らす必要は何一つ無いよ。さぁ、さっさと教えて。」
照れる姫命に対し、案外冷静に言う俺。普通だったらマッサージをされているだけで興奮しっぱなしなはずなんだけど、相手が姫命だったからかな。こんな神みたいな状況でもあまり興奮はしなかった。
多分、姫命は姫命。神様なんだと。恋愛対象にはしてはいけないと……心の中で完全に割り切って境界線を作っているからこそ、心が意識しないのであろう。
まぁ、だからこそ……少し曖昧な関係に陥ってしまったけれど。
姫命の手に少しだけ力が入る。
──マッサージの力加減が少しだけ揺らいだのを背中で感じたのだ。
「う、うーんっと、それはね。私だって乙女の端くれ。普通の恋に憧れてるんだもん。」
悩みながらも幼稚なことを言う姫命。それを聞き呆れた俺は少し強めに反応してしまう。
「恋ってさぁ。そう簡単にしようとしてするものじゃないだろ。恋ってのはいつの間にか“なってる”ものなんだから。」
「じゃあ、私は“なってる”よ!和也くんへの愛が止まらないんだから!大好きなんだから!」
「姫命、それはこの世界のせいだろう?なにせ男がほとんどいないんだから!」
「違うよ!私は……っ。私は、天界で……ずっと、ずっと君を見てきて、和也くんしかいないって思ったんだよ。」
「ふーん。」
「…………信じて、くれないね。」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。そういう理由なんてさ、いくらでも言えるなぁと思って。」
恋について初心者同然のくせに。俺は姫命に説教をしてしまった。言ってから気付いたけど、もう遅い。俺の言葉に姫命は強く怒りながら?呆れながら?反論してくる。
「う……もう。じゃあ、話すよ!私が和也くんに恋をした理由を。でも、あんまり期待しないでよ。」
言葉と同時にマッサージに加わる力も強くなる。
「う、うん。分かったよ。聞かせて……よ?」
そこまで言うのなら……と、俺は頷く。
「──じゃあ、言うよ。私は……」
姫命はそうして話し始めた。1人の神様。いや、1人の乙女としての恋路を……
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