第175話 鶴乃、小学校へ行く
「よぉーし!行くか!」
「はっしんするのー、パパっ!」
俺は娘の鶴乃を肩車しながら立ち上がる。鶴乃は軽いので楽々と持ち上がる。
「たかいたかいー、たのしーの、パパ!」
俺の頭にしがみつき、楽しそうにはしゃぐ鶴乃。
「そうかそうか、鶴乃が嬉しいと俺も……パパも嬉しいぞ!」
……そんなほのぼのした空気感。それは例え血が繋がって居なくても作れる最高の親子の空気だった。
「──もぉー、和也くんったら。
…………それで、今日行く場所は勿論わかってるんだよね?」
そんな俺達に声を掛けてきたのは姫命だ。
今日の姫命はメイド姿やエプロン姿などでは無く、お母さんやかすみさんがよく着るような黒いスーツ姿だった。
神様である姫命は絶世の美女で……何を着ても異次元に美しく、目を引かれる存在だ。まぁ、毎日姫命を見て何とか興奮耐性を習得した俺はポーカーフェイスを作り動じないけど。
「ええっと……ごめん。分からん。どこだっけ?」
「だめだめ、パパ。かっこわるいー」
「ちょ、鶴乃?それはパパ傷ついちゃうぞー」
頭の上にいる鶴乃から頭をポンポンとされる俺。
姫命だと冷静でいられる俺。だけど鶴乃の前では、その冷静さは皆無なのである。
「──はぁ、親バカすぎるよ和也くん。って、早く行かなきゃ。そろそろ時間だよ!」
「おっとっと。そうだったね。じゃ、行くかー」
──今日、俺達は鶴乃の新しく通う小学校へ面談に行くのだ。もちろん俺は親としてで、姫命は付き添いでだ。
☆☆☆
鶴乃はここから5年以上この道を通う事になるので通学路の確認をしっかりとしながら歩き、小学校に到着した。
家からだとまぁまぁ近い距離にあった小学校。これだったら家の可愛い鶴乃も危なげなく学校に行けるだろう。
今日は休日という事もあって、小学校にはスポーツクラブで活動する子達と数人の先生程度しかおらず、誰にも気づかれずに難なく小学校へと入れた。
小学校の中に入ると、俺達の事を待ち構えていたのか……すぐに校長室へと案内され、貫禄のあるおばあちゃん校長先生と……鶴乃の担任の先生になる予定の先生の2人が俺達を迎えてくれた。
「──よ、よ、よ、ようこそ、滝川小学校へ!」
緊張しまくっている担任の先生。冷や汗がダラダラで、落ち着きがない。更に言葉も釣っかえ釣っかえで上手く会話が成立しない始末。
……本当に大丈夫だろか?
まぁ、隣のおばあちゃん校長先生は逆に落ち着いていて、年の功を感じられたけど。
「ゴホン、じゃあ早速、面談を始めましょうか。」
落ち着けず、慌てまくる担任の先生をサポートしたのか、おばあちゃん校長先生は渋い声で面談を開始させた。
「──お、お願いします。」
それから……鶴乃に簡単な質疑応答が始まった。
☆☆☆
鶴乃の質疑応答が終わり、次は俺への質疑応答が始まった。
────
「じゃあ、そういうことなんですね。」
「はい。意外と大変なんですよ。」
鶴乃の時とは違い、それなりに長く質疑応答を行った。その頃になると、初めは緊張でおばあちゃん校長先生にサポートされていたの担任の先生も緊張が抜け、ちゃんと会話が出来ていた。
「それで……」
すると……担任の先生は鶴乃の事を見てなんだか言いずらそうな雰囲気を醸し出した。今はちょうど鶴乃の書類を見て……話をしていた。
……だから、何となく察することは出来た。
「ごめん姫命、ちょっと……」
俺はすぐに姫命に頼み、鶴乃と共に一旦退出しておいてもらう。姫命は何となく分かってくれていたのか、すぐに鶴乃を連れ出してくれた。
俺、担任の先生、おばあちゃん校長先生の3人になった校長室は一気に空気がピリつく。まぁ今からする話も関係するからだろう。
「その…鶴乃ちゃんって……神楽坂さんの………」
初めに切り出したのは担任の先生。恐る恐る……俺の顔を伺いながら聞いてくる。
「──はい。鶴乃は俺の実の娘じゃないです。まだ俺は高校1年生ですからね。現実的に不可能ですよ。」
そんな俺は案外スッパリと言い切った。
「やっぱり……そう、なんですか。」
やはり聞きたかったのは、鶴乃が俺の実の娘ではないことについてだった。
「──失礼だとは思いますが、聞かせてもらいますよ、神楽坂さん。あなたは本当に鶴乃さんの事を愛しているのですか?大切に思っているのですか?
あなたは他の男性とは少し違う。ですが……私達は子供を預かる身、ですので常に子供のことを第一に考えてしまうのですよ。」
おばあちゃん校長先生はそう苦笑いした。
でも、その言葉は本当にその通りで………散々悩んでこの学校にして良かったと心の中で俺は思った。
「鶴乃は俺の“娘”です。それは絶対に変わりません。先生方の心配はもちろん分かります。ですが、俺は本当に鶴乃の事を愛しています。大切にしようと思っています。……もう、心の底からッ!
こんな若造ですが……俺の娘の鶴乃の事、どうかよろしくお願いします。」
俺は頭を下げる。
言葉なら誰だって言える。でも敢えて声を大にして宣言した。それは俺にとっての揺るぎない心と覚悟を少しでも伝わって欲しいと思ったからだ。
──男という立場自体はこの世界では狂ったように強い。だが代償に常に男には偏見が付きまとう。
それは周りのクソみたいな男のせいで、男というだけで認めて貰えないのである。
「──テレビの通りの……誠意ある立派な男性なんですね。正直、上っ面だけのペラペラな男性かと思っていましたが……感服致しましたよ。」
うん……おばあちゃん校長先生は中々やばい事を言いつつニッコリと笑った。その表情から察するに、俺の事をどうやら認めてくれたようだ。
「つ、鶴乃ちゃんはこれから苦労するはずです。なんせ男性の娘さんなんですから。ですが、私達教職員一同は誠心誠意を込めて鶴乃ちゃんをサポートし、立派な生徒に育て上げてみせます。
──こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
おばあちゃん校長先生の言葉を聞いてか……担任の先生も覚悟を決め俺に決意を述べてくれた。
「はい。これからお願いしますね。」
俺は笑顔で答えた。
☆☆☆
それから、鶴乃と姫命に戻って来てもらい……
「──神楽坂 鶴乃さんの編入を認めます。これからよろしくお願いしますね。」
おばあちゃん校長先生がそう宣言し、鶴乃は小学校に編入する事になった。
☆☆☆
「──というか、本当にいい“夫婦”なんですね。」
最後に帰ろうとした時、担任の先生が問題発言をする。
「は……?」
どうやら担任の先生は姫命のことを俺の奥さんだと勘違いしているようだ。まぁ、雰囲気的にも立場的にもそう見えたのは分かるけど……
「夫婦……!?」
もちろん反応する姫命。若干興奮気味で即座に「はいーそーなんですぅ。」と嬉しそうに付け加えやがった。
「ちょ、おい!」
俺は姫命の首根っこを掴み耳元に寄せると、苦情を訴える。
「ち・が・うだろ!お前は!」
「えー、いいじゃんいいじゃん。そういう設定の方が鶴乃ちゃんも今後楽になると思うよ?
そ・れ・に……まだだから!」
「あっそ……」
姫命の言葉を軽く受け流す俺。神様だって言うのに……毎回毎回おかしなこと言って、本当に大丈夫なのだろうか?俺は心配である。
「それにね、ちょうど私指輪付けてるし、いいと思うんだ。」
「あ、ほんとだ……」
姫命の言う通り、姫命の左手の薬指にはちょっと不可思議な指輪があった。その指輪はよく見ると繊細で中々凝った造りで、高級感がある。でもその指輪には宝石では無く、砂時計みたいなヘンテコな物が付いていて、どういう仕組みかは分からないけど常に動き続けているようだった。
そんな姫命は指輪を俺や先生達にチラつかせ、俺の奥さんであると強くアピールする。
つたく、しょうがない。今回はいちいち説明するのもなんだし、別にそこまでプライベートを晒す必要も無いなと判断したので、今回俺は折れてやることにした。
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