第162話 克服し、変わった大地先輩!


大地先輩の劇は無事、大成功に終わった。

観客、俺達は大興奮。

更に大地先輩の言葉は俺達に深く突き刺さる、いい言葉で思わず涙が溢れてきそうにもなった。


空先輩や椎名先輩は大号泣だった。

生徒会長だとか、生徒会副会長だとかはもう関係なく、大地先輩の姉とその姉の古くからの友達として……見たのだろう。


肝心の 梵 愛葉は、大地先輩のあの変わり様に驚き、逃げるように体育館から去って行った。

でも、俺は再び大地先輩に会いに来るのではないか?と不安だったので周りの警戒は怠らない。

そして、いつ現れても対応出来るように、心と体の準備をしておく。


「──あ、いたいた。」


すると、制服姿に着替えていつもの髪型に戻った大地先輩が俺や空先輩達が待っている場所まで走ってやって来た。


「お、大地先輩っ!お疲れ様──」


俺が大地先輩の元に駆け寄ろうとする前に……


「──大地っ。」


俺よりも数秒早く、空先輩が大地先輩に抱き着いていた。それに続いて椎名先輩も抱き着く。


「ねっ、姉さん?そ、そ、それに椎名先輩っ!?」


空先輩の空先輩らしからぬ行動と大好きな椎名先輩に突然抱きつかれたのだ。大地先輩の顔は驚きと興奮でごちゃごちゃになっている。


「よくやった!よくやったぁ!」


空先輩は大声で大地先輩を褒める。頭をぐしゃぐしゃに撫でられながら褒めている。まるで、親のようだった。


「わわっ!せっかく髪を治したのに、ぐちゃぐちゃにしないでよ、姉さん。」


いつもの生徒会長のイメージが強い空先輩だが、今はもう完全に大地先輩の姉で、近くにたまたまいた生徒達や葵達は驚きを隠せないでいる。


俺もまだまだ慣れない。


そこからしばらく、大地先輩が褒められているのを見守ったのであった。


☆☆☆


空先輩達や葵達と一旦別れて、俺と大地先輩の2人で話をしていた。場所は、いつもの屋上。話の内容は明日の“告白”についてだ。


すでに月光祭6日目が終わっているので、一般のお客さん(鶴乃と姫命)は帰ったが、劇の興奮がまだまだ抜けないのか生徒達は元気にはしゃいでいた。


既に日は落ち、真っ暗なのにまだまだ明るい月ノ光高校。この元気が月光祭最終日まで続いてくれればいいんだけど。月光祭実行委員長として、それが心配だ。最終日は最終日でしっかりと準備しているのだ。


「大地先輩……あのセリフってアドリブですか?」

「お、分かったのか?」


大地先輩はベンチに腰を下ろし、ジュースを飲んで疲れを癒している。もう少し、休ませてあげようかと思ったけど暇だったので聞いてみた。


「はい、もちろん。分かりますよ。だって、主役の人とかがかなり驚いた表情をしていたし、言っている事がすごく危なっかしくてヒヤヒヤしてましたよ。」


大地先輩のセリフは俺達へと向けられた言葉だった。俺や空先輩とかはいいんだけど、問題なのは椎名先輩へ向けてのセリフだ。もしかしたら、大地先輩の想いがバレてしまっているかもしれない。


「う……それは、すまない。つい熱くなってしまってな。」

「椎名先輩にバレてなければいいですけど。バレていたら、カッコ悪いですよ。」


まぁ、告白する事には変わりはないんだけどサプライズの方が絶対にいいに決まっている。


「あ、あぁ。」


大地先輩はやってしまったと頭を抱えているが、後悔は一切していないようだった。


そうだ。今なら……聞けるよね?

女嫌いも克服した訳だし、丁度いいよな。


「大地先輩……あの。」

「ん、どうかしたのか?」


俺のさっきまでとは雰囲気が少し変わり、真剣な表情に気付いてくれたのか、大地先輩は先輩らしく振る舞う。


「その……1つ、聞いてもいいですか?」

「僕に聞きたいこと?珍しいな。いいよ。なんでも聞いてくれ。」


少しだけ言いずらい。先輩の気分を害してしまうかもしれない。だから、数秒の無言の後に言った。


「──東雲 莉々菜について……です。」


これまで……意識的にその事は話さないようにしていた。だけど女嫌いを克服した今の大地先輩ならば、大丈夫だろうと思ったのだ。教えてくれると思ったのだ。


大地先輩は東雲 莉々菜と聞いて、動きが止まる。少し笑っていた顔も一瞬で引き締まった。飲んでいたジュースをコトッと地面に置く。


「………………あ、あぁ、そっか。優馬には話していなかったな。」


声色が変わっている。少しだけ、悲しそうな声だ。

ベンチの背もたれにもたれ掛かり、ため息をひとつする。


「はい……教えて欲しいです。」


俺はダメ元で頼んでみた。断られても構わない。


「いいさ。優馬には、彼女の事を知ってもらわないといけない。」


大地先輩は俺を手招きして俺を隣に呼ぶ。俺は無言で隣に座る。


「一応、言っておくけど……中々キツイ話だから十分な覚悟を持って聞いて欲しい。それだけは忠告しておくよ。」

「っ……はい。覚悟は出来てます。」


ようやくだ。ようやく、俺の知らない過去を知れる。別に……嬉しいとは思わない。だけど、ずっと知りたかったし、これで東雲 莉々菜に……いや、東雲 莉々菜“先輩”に謝れるのかもしれない。「勘違いをしていて、すいませんでした!」っと。もう……俺のあの悪い態度的に、許して貰えないかもしれないけど、精一杯、誠意を込めて謝ろうと思う。


大地先輩は俺の覚悟をしっかりと見てから、話し始めてくれた。


「まずは僕が入学する前から、話すよ。

僕はね、昔──」


☆☆☆


──同時刻。


暗い家に彼女はいた。彼女の名は……東雲 莉々菜。

ある出来事で人生を狂わされてしまった“被害者”だ。


怒りと恐怖、そして失望にすっかりと頭を支配され、死に取りつかれた亡者となってしまった彼女は狂った目でずっとずっと待っていた。


月光祭最終日を……


どうでもいい日に死んでも、誰も気付いてくれない。誰も見てはくれないのだ。だから……これまで彼女を苦しめた奴らに一矢報いるため、1番注目度が高くほぼ全ての生徒が集まる最終日に……華々しく死のうと決めていた。


もう涙は流れない。もう、涙腺が乾いてしまったのだ。心が動かないのだ。


彼女は最後に……昔の事を思い浮かべる。

あの、辛い日々の始まりの日々を──

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