第158話 俺が今日一日、女装する事は変わらないんだね
月光祭3日目はいつもの俺の姿で接客し、クラスはやっぱり大繁盛。続いて月光祭4日目も頑張り、クラスには多くのお客さんが訪れ、俺や雫や夜依の姿をじっくりと堪能し楽しんで貰った。
そして、今日は月光祭5日目。
月光祭はまだまだ大盛り上がり、月光祭実行委員の仕事も同時にこなしつつ俺は今日も頑張る。
5日目という事で、俺は約束通り女装姿で接客をしていた。今回のメイク担当も雫と夜依。衣装は俺が頼み、軽量化をしてもらい俺の負担を少しだけ減らしてもらった。
そのおかげで、いつもより衣装を気にせずに接客ができ、お客さんを十分に楽しませることが出来たと思う。
既に俺達1年3組のクラス売上は売上優勝が確定していた。細かい売上はまだ計算していないが、何となく繁盛率から見れば計算する必要も無かった。
という事で、1年3組の“性別逆転メイド喫茶”は午後から休みにし、これまで楽しめていなかった月光祭を楽しもうという事になった。
来てもらったお客さんには申し訳ないが、俺達はまだ学生だ。接客業が本職ではない。それぐらいはさせて欲しい。
☆☆☆
クラスの皆は思い出作りのために出て行き、教室には俺と雫と夜依が残った。
「でさ……なんで俺はこの女装姿から解放されてないのかな?」
俺は2人に愚痴を言う。2人は男装姿では無くいつもの制服姿に戻っていた。俺は皆が着替えていたため、着替える事が出来ず待っていた。
俺の衣装は1人では難しくて脱げない。雫と夜依に手伝って貰わないとまともに着脱が出来ない。
でも、2人は俺の事を手伝おうとはしてくれない。
うーん、どうしてかな?
「……だって、ゆーまは今日一日女装する約束じゃない。」
「そうそう、メイクだってすぐに落とすのは勿体ないでしょ。」
そうか、そういう事か……
「いやいや、でも、これじゃあ、自由に動き回れないじゃん。2人と一緒に出店回れないよ。」
この姿でも気合いでやれば歩き回る事は可能だ。だが、あまりにも目立ちすぎるし肉体的限界が来て楽しく回れないだろう。そんなのは嫌だった。折角のビッグイベントなんだし、全力で青春の1ページを埋めたかった。
「大丈夫よ。こういう事もあろうかと予め準備して来たから。」
そう夜依が自信満々に言うと、1つの紙袋を渡される。もしかして、俺の着替えか?そう思いながら紙袋の中を覗いてみると……
「なにこれ……」
「もちろん、私の服よ!」
私のって……夜依のか!?俺の服じゃなくて!?
「っ!?」
な、なんで、もしや……
「私とゆぅは背格好が似てるから問題無く着れると思うわ。」
「えっと……これって絶対着なきゃダメなの?」
「ゆぅはそんな重くて目立つ格好で歩きたくないでしょ?」
「あぁ……」
俺が今日一日中、女装する事は変わらないんだね。
「………………はぁ。」
俺はため息を1つ付き、紙袋から夜依の服を取り出す。夜依がよく家で着る黒くてダボッとしたユルい服だ。これなら男の俺でもガタイが隠せる。それに地味で目立ちにくいので、女装向きの服と言える。
「……じゃあ、早速着替えましょう。」
「ついでにメイクも軽く直すよ。」
「はいはい、分かったよ。もういいよ。好きにしてくれ。」
もう何を言っても、俺の婚約者達の考えは変わんないんだ。もうどうでもいいや。
最近……俺の扱いがぞんざいな気がする。これが家じゃなく学校だからか?家だと2人はデレッデレなのにな。
(追記、葵はいつなんどきもブレずに俺にデレッデレです)
雫と夜依に手伝ってもらい衣装を脱ぎ、夜依の服を着た。俺と同じ洗剤で洗っているから特に夜依の匂いとかはしないけど、夜依の服を着ているという謎の違和感と緊張があった。
「ほい、着てみたよ。」
「いいわね。似合ってる」
「……そうね。」
夜依は自分の服を着られているからか、少しだけ嬉しそうだった。逆に雫は悔しそうだった。
それから、メイクを直された。
──数分後、メイクが終わり鏡を見ると、どう見ても妹の茉優に酷似していた。
「これって、茉優だよね?」
呆れ気味に聞く。
「……ええ、ゆーまの女装を見たら何となく茉優に似せたくなって…………」
「そうね。つい、ね。」
だからか、見た目は完全に茉優だ。髪もウイッグを弄り茉優っぽいし……
後は俺が茉優っぽい仕草をすれば完璧に茉優になりきれるだろう。
茉優は最近連絡してないし会ってないけど、多分今日は来ていないはずだろう。そう信じ、俺は2人の手を取る。
「じゃあ、行くか。」
「……ええ。アオの店にも行こ。」
「折角の休みなんだから存分に楽しみましょう。」
俺が真ん中で右に雫、左に夜依のポジションで教室から出る。女同士で手を繋いでいる状態は少しだけ違和感だけど、まぁ気にしない。
もう今更だ。他人の目なんて気にしない。
☆☆☆
女装して俺は歩く。でも、バレない。
流石に知り合いやクラスの人達にはバレるけど、一般の人には俺が男だとバレないので案外楽しめる。
俺と雫と夜依の3人で、葵のクラスに遊びに行ったり、菜月の所にも行ってみたり、大地先輩のやっている店にも行ってみたりと楽しんだ。更に、2年生がやっている劇にも行ってみたりした。
気を使わずに好きな人と思いっきりはしゃげて楽しかった。
でも、こういう時に限って1番会っちゃダメな人に会うのがこの俺なんだよなぁ。
「────え………………お兄ちゃん、だよね?どうしたの……その格好?」
沢山出店を回り、次はどんな店に行こうか考えている時……声を掛けられた。
「ま、ま、茉優……っ。」
そう、それは茉優だ。この女装は完璧に茉優であって、本人と出くわしてしまうと……どうしようも無くなる。
茉優はなんとも言えない表情をしている。若干軽蔑に近い目をしているかもしれない。
「茉優、これはね。ちょっとした事情があるんだよ!」
俺が焦りながら、茉優に説明しようと努力する。
でも、妹に酷似した格好をする兄の言葉なんて聞いてくれなかった。
「ごめん、後からその格好のちゃんとした理由を聞かせてもらうから。今はそれ所じゃないの!」
そう言い残すと茉優は全速力で逃げるかのように走り去った。
「え、どういうこと?」
そして数秒後に……分かった。
「──はぁはぁ、やっと追い付いたぜ。足早すぎだろ、茉優。」
息を切らしながら金髪の……“男”!?が俺に声を掛けてきた。瞬時に、声を裏声にチェンジし、俺は答える。
「な、なにかな?」←(裏声)
その裏声は非常に茉優の声に似ていてその男は騙せただろう。だが、俺の隣の雫と夜依が俺の声を聞いてツボに入っているのが微妙に腹立つな。
「せっかく、このオレ様と一緒に、この月光祭だったか?そういう祭りを回れるんだぜ、もっとイチャついて来いよ!」
「はい?」←(裏声)
この男は何を言ってるんだ……も、もしかして。
ま、ま、ま、ま、茉優の“彼氏”なのか!?
そんな……有り得るのか?
まだ茉優は中学生なんだぞ!犯罪だろッ!
「その……もしかして……私とあなたって付き合ってる?」←(裏声)
いや、まだ分からない。ここは兄として聞いておかなければならない。
「お!何言ってるんだよ。オレはもう付き合ってると思ってるぜ?」
あぁ、言い切りやがった。
そして、このしゃべり方や髪の色、雰囲気……それで俺がこの男の事を思い出す。
そうだ!こいつは一度俺が茉優の姿で会ったことのあるチャラ男だ。
「ん?オイ、茉優。お前……着替えたか?」
「あ……」←(裏声)
確かに顔と雰囲気、声は似ていても着ている服は茉優とは全く違う。そこに疑問に思ったのだろう……チャラ男は意外と細かい所まで見てるんだな。
でも、俺が男だという事には気付かないんだな。
もう、俺はこの男が茉優に本当に相応しい男かどうか勝手に見定めていた。
今の所は、微妙だ。チャラいし、言葉遣いも荒い。
どことなく、自己中心的な思考を持っていそうだ。
それに、茉優にはデレデレかもしれないけど、他の女の人は無下に扱う最低な男かもしれない。
「そうだ!」←(裏声)
つい地声が出そうになるのを堪え、裏声にする。
俺はニヤリと笑うと、ポケットから折り畳まれたプリントを取り出しチャラ男に見せる。
そのプリントには……
「イケメン……コンテスト?」
そう、これは月光祭5日目にある実行委員主催のビッグイベントの1つ。“イケメンコンテスト”だ。
さっき、月光祭実行委員の子から詳細のプリントを貰ったのだ。
本当は雫と夜依にあの男装姿で出てもらいたかった……だけど、考えが変わった。
「私……君のカッコイイ姿、見てみたいなぁ。」←(裏声)
茉優は絶対にそんな声ださないだろうけど、想像した声で適当に言ってみた。
「このコンテストで優勝したオレを見たいのか?」
お、案外、単純なんだな。
軽くお願いしただけなのにもう乗り気だ。
「うん!見たい見たい!」←(裏声)
「しゃーねーな。やってやるぜ!だけどな、対価に見合う報酬を支払って貰わないとオレは出ないぜ?」
チャラ男は俺を見てニヤつく。
「オレがそのコンテストとやらで優勝したら、俺とデートしろ!」
「で、デートっ!?」←(裏声)
その発言で……怒りの地声が飛び出しそうになるが、何とか……何とか耐える。
「このオレが出るんだぜ!いいだろ、それぐらい?」
「………………っ。分かった。
茉優には悪いけど勝手に約束をした。
でも、安心してくれ……こいつが優勝することなんてありえないから。
「やったぜ!確定で男のオレが優勝するに決まってるのにな!頭の良い茉優が読みを間違えたな!」
このチャラ男が!
コンテスト前まで、調子に乗ってるといいさ!
あと数時間後に行われる、イケメンコンテスト。
そこに、新たに2人の大物が参加申請を出した。
茉優のため、早々に叩き潰してやる。俺の目には久しぶりのお兄ちゃんとしての炎が付いた。
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