第156話 大反響!


月光祭2日目。


「ねぇ……本当に俺って今日一日この姿なの?」


俺は雫と夜依に聞く。


「……完璧!」

「うん……いい具合ね。」


だけど、2人は俺のボヤキなどには聞く耳を持たず、和気あいあいと作業を進める。

俺は特別に作られた俺専用の着替えスペースで雫と夜依からメイクをされていた。


今日俺はクラスの皆との約束通り、女装をして接客をしなければならない。


はぁ、そのため朝から早く来て用意してる訳で……俺は憂鬱でならなかった。でも、やるしかないのだ。俺はそう自分を鼓舞する。


……あ、そうだ!こう思えばいいんだよ。女装をするんだから、普段より目立たないでいい……と。

それに女装は初めてという訳でもないんだ。前は茉優に見間違われるぐらい可愛かった筈なんだから自分に自信を持てよ!


あぁ、そうだ。

さっき用意されてあった俺の女装用の衣装を着てみたんだけど……これってメイド服じゃ無くないか?


俺の予想していたメイド服はフリフリのフリルがついた可愛らしい衣装で、動きやすいやつじゃん。

例を挙げるとするならば、姫命が着ているやつとか美波さん達……豚野郎の元妻達が着ていたようなやつのイメージだった。


でも、俺の衣装はクラスの衣装担当の子達が頑張ったのか……結婚ドレスみたいな程の豪華な作りだった。

これでは、重くて動きにくく体力を大幅に使う。

この衣装はメイド喫茶という店のコンセプトに合致していないぞ!だってこんなのを着たら、まともな接客なんて出来るはずがないのだから。


「はい、完成っと。」


夜依が最後に俺に黒のウイッグを被せた後、満足気に言う。


鏡を見ると、俺がしていた女装の姿の時よりもメイクは厚く。なんだか自分で自分が分からなくなるほどに別人に変身していた。


かすみさん以外に初めてメイクをして貰ったけど

……なんだか、すごいなぁ。メイクに気合いが入りすぎていて、俺がたまにやる女装とははっきり言ってレベルが違っていた。


はは……こんなに女装が完璧だと、初見だったら絶対に騙されるな。


「……早速お披露目。クラスの皆、楽しみにしてるから腰を抜かすぐらい驚かせてあげなよ。」

「そうそう、自信を持って。」


2人はとても自信満々で……すごくいい笑顔を見せてくれる。けど俺は……全く気乗りしない。


「自信ないよ……というか、俺の男としての大事な何かがここから出たら失う気がするんだよね……」

「……はいはい、そういうのはいいから。行くよ、ゆーま。」

「もう着替えたんだし逃げられないから、ゆぅ。」


俺は2人に両腕を捕まれ、グイグイ引っ張られながら着替えスペースから出た。まるで結婚式で父親と嫁が一緒に歩くシーンの時みたいだった。


外に出た。このぐらいの時間は開店前で慌ただしく用意をしているはずなのに……その時だけは妙に静寂で……外にはクラスの全員が俺を待ち構えていた。

俺の姿を見た瞬間。ほとんどの人が目を奪われたのだろう。


──ほぼ全員が口を合わせて、


「「「「「「「可愛いっ!!!」」」」」」」


そう連呼した。

そして、俺は羞恥の限界を突破したのだった。


☆☆☆


「はい、これ。ゆぅの小道具よ。」


そう夜依から花束を持たされる。これで完全に俺……花嫁なんだが!?


「この花って?」

「桔梗の花よ。花言葉は『永遠の愛』」

「え、永遠の愛?」


ロマンチックな花だと、青紫色の花を見る。

そこまで花に興味の無い俺でも心が和む。


「一応……言っておくけど、この花を選んだのは私と、しずのんの2人よ。」

「──っ!?」


ず、ずるいぞ夜依。も、も、もう開店直前だと言うのにそんなことを言ったら。顔が赤くなってまともに皆の顔が見れなくなっちゃうじゃないか……


婚約者達のたまにこういう事をしてくる。本当に嬉しい。でも、言うタイミングがいつも嫌らしい。

特に夜依とかはいつもそうだ。


少しだけ花束で顔を隠し、クラスの子達に顔が真っ赤な状態な事を隠した。数分後……ようやく落ち着いた俺は仕事のスイッチを入れる。

ため息を1度し、気持ちを作る。


「──で、どうすんの俺は?

衣装的にまともな接客とかの仕事は出来ないと思うけど?」


そう、由香子に聞く。


「優馬君の仕事は座って接客してくれるだけでいいんだよ。優馬君専用の特別席を作ってそこでお客さんと一緒に飲食をして存分に楽しませてね~~」


との事だった。


まともに移動出来ない俺からしたら万々歳だけど、そんな女装した俺が座ってるって明らかに不自然だし……邪魔にならないだろうか?


お客さんはもしかしたら、いつもの俺が目当てなのかもしれない訳だし……


初めは不安だった。だけど────


「わぁぁ!可愛いね優馬君。誰にメイクしてもらったの?」

「えっと……あそこにいる婚約者達ですよ。」


俺は男装した雫と夜依を指さす。


「きゃぁぁぁ!すごいすごい!」


何がすごいかは分からないけど……女装姿の俺は何故かすごい人気だった。

もしかして、俺の女装目当てだったりするのか?


これで、俺が3人目のお客さんが終わった所だけど、俺の女装が可愛すぎるのかお客さん皆は興奮しっぱなしのようだった。

男だから、「可愛い」と言われて少し複雑だったけど。


何故か人気の女装姿の俺、更に男装姿のクラス。

それはそれは意外性なもので大反響。昨日の噂を聞き付けた人も昨日来れなかった人も生徒も先生までも!大勢が1年3組に押し寄せた。


「──優馬、お前面白い格好してるなぁ!」

「──そーだね。写真撮っていい?」

「──この子が優馬君、嘘でしょう?」


さて……次のお客さんはと…………!?

どこかで聞いたことがある声だなぁと思い、次のお客さんを見て俺は唖然とする。


「そ、空先輩、それに椎名先輩、李さんもぉ!?」


な、な、なんと次のお客さんは空先輩、椎名先輩、そして李さんだった。

まさかの、月ノ光高校の生徒会長と副会長、さらに日ノ元高校の生徒会長という学校の頂点に君臨する人達がお客さんだった。


空気がピリつく。それは、空先輩と李さんがいるからだろう。視線も3人とついでに俺にやけに集まる。でも、俺を除く3人は全く気にする様子は無いようだ。


3人は昔からの幼馴染で仲が良く、一緒に月光祭を回っていると大地先輩から話は聞いていた。

けど……まさか俺のクラスに来るとは正直大変である。


「1年3組が人気だと聞いたからな、来てみた訳だが……すごい面白い状況だな。」


ずっと、俺の事を見て笑っている空先輩と椎名先輩、李さん。


「くっ……」


まだ高校の人達に見られてもいい、だけど仲のいい人達にはマジでこの姿を見られたくなかったので俺は顔を真っ赤にする。


「優馬達のクラスはすごいですね。」

「確かにな。月光祭の早くも売上優勝候補だしな。」

「あー、あれか。空から聞いた時はびっくりしたけど、あれ本当にやるの?」


意味深な事を言う空先輩と李さん。

でも、今の俺はそんな事気にならないくらい動揺していたのであまり気にならなかった。


「当たり前だろ。」

「ははは……空はドSだなぁ。」

「空ちゃんはいつもの平常運転だよぉ、李ちゃん。」


3人は楽しく、話している。いつも忙しいこの3人が集まる事自体久しぶりなのだろう。俺はなるべく3人の邪魔をしないように気を配りながら接客するのであった。


案外、弄られると思っていた先輩のお客さんは最後に一緒に写真を撮って終了した。

3年生という最終学年だからか……すごい楽しそうだった。


☆☆☆


今度のお客さんは……って、葵じゃないか。


「ゆ、ゆぅーくん!?」


葵は今日俺が女装すると知らなかったらしく、俺の姿を見て驚く。


「お、葵。店は大丈夫なの?」


葵だったら……まぁ、いいや。何回か、女装姿を見せたこともあるし……


「はい!!私達の店は焼きそば屋さんで食べ歩き形式にしているので人員削減に成功してるんですよ!」


それは随分と楽そうだ。だって、焼きそばを作る人と会計をする人の2人がいれば店が回ってしまうのだから。


食べ歩き……か。

俺も早く皆としたいな。今日は無理かもだけど。


「そっか!いいね。……って、あれれ久しぶりだね。」


俺は葵にだけ目がいっていたので気付くのに遅れたが、葵と一緒に菜月が来ていた。


「久しぶりっすね……優馬くん。」


菜月は1年6組で、色々とあった林間学校で同じ班になった事がきっかけで友達になった子だ。背が小さめで華奢だけど、いつもノリが軽く元気という印象だ。


そんな菜月も葵と同じように俺の姿に驚く。


「随分と……これはまた。すごいっすね、この店。色々とぶっ飛んでるっす。」

「あはは……俺もそう思うよ。」


菜月の素直な感想に俺は激しく同意したのだった。


「それで、菜月の方のクラスも大丈夫なの?」

「はいっすよ!ウチのクラスは展示会っていう折り紙とかで作ったりした簡単な物を展示しているだけなので月光祭の期間中はずっと休みみたいなもんっす。」

「あぁ、なるほど……その手があったか。」


初めから売上の勝負は捨て、働き詰めで月光祭を終わるより、3年に1回しかないビッグイベントの月光祭を最大限に楽しむつもりなのだろう。


葵と菜月のおかげで、緊張していた心も少しだけ解れこの女装にも慣れて気がする。


俺はそれから、2人と楽しく話をするのであった。


☆☆☆


よし……次だ、どんどん来い。

後、もう少しで月光祭2日目は終了する。


体力は既に限界。クラス全員が満身創痍という状態だ。

もう、気力で頑張っていた俺だけど……次のお客さんを見て俺は心が折れる。


「──パパ……か、かわいいね?」

「そうだね……パパくんは可愛いねぇ。」


2人の親子……いや、違う。この聞き覚えのある声は……


「──────────な、な、な、なんで!?」


俺は瞬間的に立ち上がり驚く。


「なんでここに鶴乃が!?それに、姫命が!?」


俺は驚愕し、絶望する。み、み、み、見られた、つ、鶴乃に。


俺は鶴乃の親代わりなんだから……変な教育、変な知識を与えないでちゃんとした子に育って欲しい。という形式で鶴乃を育てることにしていた。

なので、危険な物や怪しい物、いやらしい物などは極力与えないようにしていた。俺の女装もいやらしいという部類に入る。


今日は月光祭には来ないでねって、何度も何度も釘を指しておいたのに……どうして来たんだ。


鶴乃は俺との約束をちゃんと守るいい子だ。鶴乃の意思で来たいと言った訳では多分無いだろう。そう考えると……俺は姫命の顔を見る、姫命はニヤリと笑いスマホで俺の写真をカシャリと撮る。


これで俺の今日のターゲットがロックオンされた。

俺との約束を破ったのは姫命、お前だなぁ!

後で説教とお仕置だな。


怒りのオーラを纏わせ、姫命を睨んでおく。

姫命は俺のオーラに気付き、降参のポーズをとったが今更遅い。今日は徹底的に怒ってやる。


でも、そんな俺が頭で姫命になんと言おうか考えている中……鶴乃を初めて見た他の女の子達は──


「「「「「「───パパだぁぁぁ!?」」」」」」


……と、一斉に鶴乃の事を見る。


「…………あ、」


俺は今気付いた。そう言えば……皆に鶴乃のパパになったって言ってなかったっけ。

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