第149話 “恐怖”
結局、大地先輩と椎名先輩に空先輩の事を聞く事は出来なかった。だけど、俺の中に残った謎は深まるばかりだった。我慢をしきれなくなったら大地先輩か椎名先輩、最悪空先輩の誰かに聞いてしまうかもしれないな。
そんな事を思いながら俺は日ノ元高校の校舎から出る。
「ふぅ……やっと終わったぁ!」
俺達は既にヘトヘト。重い体を引きずりながら、進む。外はすっかり夕方になっていてそれなりの時間を
「そうだね、僕はもうお腹減ったよ。」
「そーだねー、どこかで食べてくぅ?近くの店とかで。」
「椎名先輩、ゆぅと大地先輩がいるのでそういうファーストフード店はまずいですよ。」
「確かにね……僕は嫌だね。」
今日は誰も昼ご飯も食べていない為、全員がお腹ペコペコの状態である。ここまで月光際のPRが長引くとは思わなかったからだ。
そのため、皆でご飯を食べに行くという流れはすでに決まっていた感じだった。
「じゃあ、どうしますか?個室のある店とかですかね?」
「そういうのって、高級店で値段が高いんじゃないの?」
「そうだね。今日は余りお金は持って来てないよ、僕は。」
「う……俺もです。」
というか、俺はお金の事は夜依達にまかせている。お小遣いも既に夜依達から貰っているため夜依がダメと言ったらダメなのだ。
まぁ、お母さんからの極秘のお小遣いも貰ってるけど、そんな俺の些細なお小遣いで個室のある高級なお店に行くのははっきり言って無理である。
「そうですね……無理ですね。」
あ、夜依が言ったから確定で無理のようだ。
「うーん。じゃあ、本当にどうしようかねぇ。」
「あ……じゃあさ、僕の家に来ないかい?狭いけど、そこだったら存分に騒げると思うけど?」
まさかの提案したのは大地先輩だった。
「大地先輩の家ですか?」
「おー、空ちゃんちね。久しぶりだよぉ。」
「いいですね、そこなら食材を買っていけばいいですしね。」
と、皆空腹のため話が纏まるのが早く、今から大地先輩の家に行くのが楽しみになっていた俺。
1度だけ尋ねた事がある大地先輩の家。趣のあるその家は味があり居心地がよかった。またあそこに行けるのは楽しみでならなかった。
だけど……迫り来る“恐怖”がそれを邪魔した。
「────久しぶりだね、大地くん!」
「「「「!?」」」」
突然──誰かから声を掛けられた。
その女の人は、清楚な格好。というか、お嬢様学校だから当たり前なのだろうけど、何故か服が乱れている気がする。思いすごしかもしれないけど……
まだ俺は日ノ元高校の生徒が残っていたのかと思い、営業スマイルで反応しようとするが、それよりも早く……
「ひぃぃっっ!!?」
大地先輩が悲鳴を上げ、尻もちを着き後ずさる。
ここまで動揺した大地先輩は見た事がなく俺と夜依は驚く。
「ど、ど、どうしたんですか大地先輩ッ!?」
すかさず駆け寄ろうとするが、それよりも早く椎名先輩が大地先輩に駆け寄っていた。
「どうしたんですか、大地くん?私の顔になにか着いてますか?」
その女は俺と一緒に近くまで駆け寄っていた夜依を押し退け、大地先輩の目の前でしゃがみ、手を指し出す。
でも、大地先輩は今にも泣きそうなほど恐怖をしているようで、必死に椎名先輩に抱き着きその女の事は見ようともしない。
こんなにも恐怖の感情が表向きな大地先輩は初めてで俺はこの女を警戒する。
恐らく、大地先輩が日ノ元高校に行く前に言っていた
「こっち、見て下さいよ。ねぇ、ねえってばぁ。忘れちゃった訳じゃないでしょ?」
大地先輩に恐れられるその女は声を掛け続ける。
だが、大地先輩は既に恐怖という感情で支配されている。そのため何も言葉は返せない。
それを見てつまらなくなったのか、その女は無言で大地先輩に触れようとする。
「──ダメっ!」
それを椎名先輩が体を間にねじ込んで止める。
女の手は椎名先輩の胸を触り、数秒後に離した。
「なんでですかぁ、椎名さん?久しぶりに大地くんに会ったんですよ?元クラスメイトとして挨拶をするだけですから!」
ぶりっ子ぶっているのか、わざとらしい演技をする女。あざとさがムンムンである。
「あの時、大地くんにあんな事をしたのを忘れた訳じゃないでしょう?だから今すぐこの場から消えて!」
そう言って椎名先輩は鋭く、その女を睨みつける。
そんな表情を見た事すら無かったため俺は唖然とする。
「あーもう。怖いですよ。それに、そんな事ありましたっけぇ?」
だけど、その女は椎名先輩に全くうろたえず、すっとぼける。言葉遣い的に椎名先輩より歳下であるにも関わらず先輩を敬わないし完全に舐めている。
「貴方ねぇッ!」
その態度に椎名先輩は今までに無いほどキレる。
いつもはあんなにもゆったりとし、その場いるだけで場をほのぼのとさせてくれる人がだ!
今にも手が出そうなほどの迫力もあった。
それほどまでに恨みがある人物なのだろうか……
完全に蚊帳の外である俺と夜依。何も言う事が出来ず、ただその場にいて会話を聞くことしか出来なかった。
「あはは、冗談ですって。勿論覚えていますよ。だって、それだから私はここにいるんですしね。」
愉快に笑いながら言う女だけど、どこが面白いのかは俺には分からない。
「それにね、言わせてもらいますけど悪いのは私じゃ無いんですよ。全部あの子なんですよ。私は騙されたんですからね。」
「──あの子?」
俺は口に出して呟く。
「そう、あの……
俺が反応したからか、その女は俺にウインクをしながらある人物の名前を言った。
ん……?誰の名前だ?
自分の名前では無いし、その東雲っていう人が……大地先輩の事で鍵を握っているということなのか?
「それに、私はね!大地くんを────────」
女は何か重大な事を言いそうになった時。
──バンッと、その女の肩を掴む者がいた。
「──おい!いい加減にしな、
その人の声は俺達がよく知る人物のものだ。
俺はその声を聞き、少しの寒気に襲われる。
まさか…………
俺達はその声のした方向に顔を向ける。
「っ……姉さんっっ!!!!」
大地先輩が感激の声を上げた。
そう……女の肩を掴んだのは、我らが月ノ光高校の頂点であり、親玉。
そう呼ぶに等しい人物の……空先輩だった。
どうして……と俺はすぐに疑問に思う。だって、今日は俺達に仕事を任せて空先輩は来なかった。だから、ここにいるわけが無いのだ。
「余りにも、遅くて李に愚痴を言いに行こうと思ったら……とんでもない事になっていたな。」
空先輩はため息をひとつ付き、ギロリと梵 愛葉と呼んだ女を見る。
「くっ……ッ!?空さんっ……」
急に現れた空先輩にたじろぐ、梵 愛葉。
「お前……また私の弟に何かしようとしてるのか?」
「ッ!?」
凄まじい眼力……ドスの効いた声。全身の毛が逆立ち、恐怖する、圧倒的強者のオーラを空先輩は放つ。
その迫力に、俺や夜依は腰を抜かしそうになる。
何とか俺や夜依は耐えたが、それを100%向けられている梵 愛葉は恐怖で顔を引きっていた。冷や汗もすごい。
「ふ、ふんっ。今日は仕方が無いからいなくなりますよぉーだ。じゃーね、大地くんと優馬くん。」
そう言って逃げるように梵 愛葉は立ち去って行った。最後の最後までぶりっ子の皮は被ったままだった。
「一体、何だったんだろう。」
俺は呆れてその女の後ろ姿を見ていた。
「はぁ……大丈夫か、大地?」
「う、うん。ありがとう助かったよ、姉さん。」
椎名先輩に守られていた大地先輩が空先輩の手に引かれ立ち上がる。
大地先輩の顔は涙でそれなりにぐちゃぐちゃで、すかさず椎名先輩にハンカチを渡されていた。
「まぁ、話は後だ。1回車に戻るぞ。」
俺は空先輩と話そうとしたら、空先輩がそう言い俺達は移動する事になった。
事情は後って事か……
「それで、どこに行くんですか?」
専用タクシーの前まで移動し、俺は聞くと空先輩はニヤリと笑い。
「私んちだ!」
そう言うのであった。
☆☆☆
空先輩、そして大地先輩の家に到着した。
タクシーの運転手さんにお礼を言い、降り、そのまま家に入る。
元から大地先輩の家に行く予定だったので、まぁ結果オーライ的なやつだけど……そんな“打ち上げ”という雰囲気では無い。
完全に、梵 愛葉に雰囲気を壊されてしまったのである。
空先輩は一見平常を装っているがいつにも増してし目付きが鋭いしイラついている。大地先輩はまだ震えていて怯えているし、椎名先輩はいつも明るいムードメーカーな筈なのに今は暗い。
「じゃあ……行ってくるね…」
「いっぱい美味しいもの買ってきますから!」
椎名先輩、そして夜依は夜ご飯の買い出しに出かけた。
この提案者は夜依でとにかくこの暗い雰囲気を明るくしようとしてくれたのだ。
そのための買い出し。俺もついて行こうと思ってけど「ゆぅ、あなたは男なんだから!」と、夜依に断られた。
今この場にいるのは俺、不機嫌な空先輩、精神的に疲弊しきった大地先輩だ。
空先輩はスマホを見ているが、ちょくちょく大地先輩のことを見ていて心配そうだ。
こういうのを見ると空先輩はお姉さんなんだなと改めて思う。確かに空先輩と大地先輩は見た目は似ている。だけど、性格が違いすぎるのだ。
なので、姉弟と言われることは少なそうだ。
「大丈夫ですか?」
俺は大地先輩に寄り添い、声を掛ける。
ここまで精神的に追い込まれている大地先輩……それほどまでに“恐怖”が強いのだろう。
「あぁ……ごめん。僕は先輩なのに、みっともない所見せたね。」
「いえ、そんな。誰にでも苦手な物はありますよ。」
俺だって、暗い所とか水の中とか数え切れないぐらいあるし……
「──優馬……少しいいか?」
そんな中、空先輩から名前を呼ばれた。
「はい……いいですけど?」
「まず、場所を変えるぞ。」
「あ、はい。了解です。」
イラつく空先輩から声を掛けられ、ビクつく俺。
オドオドとしながら立ち上がり、空先輩と一緒に場所を移すのだった。
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