第148話 姉妹校へ行く!


次の日の休日。


今日は、月光祭を更に盛り上げるため姉妹校に行きPRをする。という……いきなりの大きな仕事がある。


今日、姉妹校に行くメンバーは俺と夜依。更に大地先輩、椎名先輩だ。


貴重な“男”という存在を使い最大限月光祭をPRする作戦!……との事だ。

この、姉妹校との連絡を事前に取り合ってくれた空先輩が最高戦力(男2人)を導入しPRをしに行くのだ。失敗は勿論許されない。


もし失敗して空先輩の顔に泥を塗ってしまったら……という最悪の事態に陥ってしまった場合、考えただけでも鳥肌が止まらない。

なので俺は、気合いを入れてPRに備えるのであった。


──月ノ光高校の姉妹校。それは日ノ元高校という。


その高校の場所は、月ノ光高校からは少しだけ距離がある。そのため、専用のタクシーで俺達は向かっていた。


「ふぅ……」


俺は車内で深く深呼吸をする。


「どうしたんだい、優馬。」


それを見て、大地先輩が気を使ってくれた。


「いえ、少しだけ…いや普通に緊張していて……」


他校に行くのは生まれて初めての経験だ。更に今回は月光祭実行委員長という月ノ光高校の看板を背負って来ている。その絶大なプレッシャーは計り知れないものだ。


「大丈夫だよ、優馬ならね。僕が言うんだ、自信を持ちなよ。」

「はい、ありがとうございます。」


俺は大地先輩にお礼を言い、再び深呼吸し前だけを見つめ、視野を狭めることで集中する。


「それにね、僕の方が多分優馬より緊張しているんだ……」


と、大地先輩は言う。


俺は1回集中を解き、大地先輩をよく見ると小刻みに貧乏ゆすりをしていることが分かった。それに顔色が若干悪く、口元が少しだけ青白くなっていた。


うん……俺よりも緊張してるじゃん。

大地先輩は特に役割という役割は無いんだけどな…


「あの……大丈夫ですか?」

「あ……うん。」


大地先輩は微妙そうに答える。


「大丈夫だよ、大地くん!あの人・・・と会っても、ずっと私が着いているから。」


椎名先輩が大地先輩の背中をスリスリと優しく撫でながら緊張を解す。

大地先輩は声を出さないけど、顔がやや赤くなっているのが分かったし、嫌がりもしなかった。


……うーん。大地先輩と椎名先輩は、傍から見れば完全に俺と夜依みたいな婚約関係に見えるんだけどな。


だけど、2人はただの先輩と後輩という関係。それから発展は一切していない。大地先輩が椎名先輩の事を“好き”という事は前々から知ってはいるんだけど、椎名先輩が大地先輩の事をどう思っているのかは分からない。


でも、グダグダで関係を一変させることが出来なければ、先輩達は生徒会が終了し、高校を卒業してしまう。


高校を卒業してしまったら、会う回数が極端に減ってしまう。そこから、関係を一変させることは今よりも更に難しくなる。


早急に大地先輩と椎名先輩の恋路を進める必要があると心の中にメモしておく。


っとぉ!?

隣にいる夜依が何も言わずに俺の手を握ってきた。俺はびっくりして夜依を見ると、若干顔が赤面していて、口元が緩んでいる。

多分、大地先輩と椎名先輩のイチャイチャを見て我慢しきれなくなったのだろう。


相変わらず……可愛いなぁ。


俺も夜依と同じことを思っていたため、夜依の手を優しく握り返し笑顔で夜依の方を見る。


夜依は更に顔を赤くさせ、そっぽを向いてしまうが握っている手は決して離そうとはしなかった。

素直じゃないけど、“愛”は十分すぎるほど伝わるから嬉しい。


そんな、タクシーの車内はあっま甘な空間で支配されていた訳だ。…………俺達はすごく居心地が良かった。だけど、タクシーの運転をしてくれていた運転手さんはかなり気まずそうにしていたのがすごく申し訳なかった。

後で謝っておくとしよう。


☆☆☆


日ノ元高校に到着した。


俺は予めこの高校の事を少しだけ調べて来たけど、この日ノ元高校は相当なお嬢様学校のようで全国から選りすぐりのお金持ちの子が多く通う高校だそうだ。


月ノ光高校は男目当てで倍率がやたらと高いが、この日ノ元高校は全国からお嬢様が入学するので倍率もそれなりに高い。


その中でこの高校に入学しているという事はお嬢様の中のお嬢様なのだ!


お嬢様達の中には現国会議員の娘だったり、大手企業の社長令嬢、大投資家の娘だったり、大女優の一人娘だったり、トップスターの娘だったり……そういうのがわんさかといるらしい。噂だと、天皇の娘もいるとかなんとか……


「あっーれぇ、休日なのに思ったより人がいっぱいいるねぇ。」


椎名先輩が車越しに呟く。


俺も車から外を見てみる。一応この車の窓はマジックミラー仕様になっていて俺側から外が見えても相手側から見られる事はない。なので、安心して外を眺められる。


外を見ると、可憐な花が咲き誇る庭園に美しく気品さが醸し出される女の人が多くいた。


やはりここは……お嬢様学校なんだなと思う。


それに、真っ黒な制服が中心の月ノ光高校の制服は俺も大好きですっごく可愛いんだけど、それとは逆の真っ白で清潔感のある日ノ元高校の制服は明るい印象を沢山与えてくれる。


そこまで見とれていると夜依に怒られそうなのでやめたけど、それぐらい引き込まれる何かはあった。


俺達は日ノ元高校の駐車場に車を停めてもらい、車から降りた。


「よし……じゃあ行きますか!」

「「「おー!!!」」」


俺の掛け声に皆が手を挙げて答えて、俺達は進んだのだった。


☆☆☆


なるべく、騒ぎを起こさないように職員用玄関から中に入る俺達。だが……それでも数人には俺や大地先輩の姿は見られる。


「───えっ!?」

「───あれって……あ、あのテレビの!?」

「───嘘でしょう?」


まるで、幻術にもかかっているような驚き方をされるけどそういうものはとっくに慣れているので軽く会釈をして先に進む。


やはり、俺とかは大々的に世間に顔を晒してしまっているので、興奮度がえげつない。後ろにいる大地先輩が気づかれないほどに……視線が集まってしまう。


先頭は俺と夜依。その後ろに椎名先輩。その更に後ろに隠れるようにして着いてくる大地先輩がいる。


大地先輩は前々から思うけど、女の人が苦手である。昔……何かあったらしいけど、詳しく俺は知らない。

まだ聞辛いけど、いつか……大地先輩の気が向いたらでいいので聞かせてもらいたいと思っている。


日ノ元高校の校舎に入り、すぐに待っていてくれたのか仁王立ちで待ち構える人がいた。


その人はパープル色の縦ロールの髪型で、正しくお嬢様っ!という感じの人だ。顔もすごく整っており歳上のオーラを満々と醸し出していた。


「あ、来た来た。本当に来た。

あなたが……えっと、神楽坂くん?それに、月ノ光高校の月光祭実行委員会の皆さんですね?」


その人はすぐに声を掛けてきた。男である俺と、月ノ光高校の制服を見て判断したのだろう。


「はい、そうです。今日は月光祭をより良いものにする為に、日ノ元高校の皆さんに月光祭についてPRをしに来ました。」


恐らく先輩だと思うし、初対面の人なので口調を丁寧に相手を敬うように言った。あくまでも俺達は招待されている身。相手よりも下の位置に着く。


「ぉぉ!?」


その女性は俺の反応に驚く。


やはり、俺のこういう雰囲気に初対面の女の人は必ず驚く。やっぱり。この世界っておかしいんだな。

──この世界の男のほとんどが社会的にも人間的にも終わっているのだ。


「えっと、俺は……」

「──あっれぇ?もしかして、すももちゃんじゃない?」

「えっ?椎名?」


椎名先輩が突然その人に声を掛ける。椎名先輩は珍しく興奮気味だ。


そのせいで俺の自己紹介が途中で終わってしまったけど……


どうやら2人は知り合いだったらしく、仲良さげに話し合っている。


そのため、放ったらかしにされてしまった俺。

しばらく2人の会話を聞き様子を伺う事にした。


「って、いつまでもここで立ち話もなんですので、日ノ元高校の生徒会室に案内しますね。多分皆も待っているので。」


数分待ち、ようやく椎名先輩と李さん?という人との話が一段落すると、その李さんと言う人に俺達は生徒会室へと案内された。


生徒会室へ案内される中、椎名先輩とその李さんと言う人はずっと仲良く話し合っていた。その話の内容は思い出話が多く全く話に入っていけなかった。


関係は知らないけど2人は相当な仲と言えた。


2人の話に全く着いていけず置いてけぼりの俺、それに夜依と大地先輩。なので俺達は初めて来たこの日ノ元高校の校舎を歩きながら見て堪能するのであった。それしかする事が無かったのだ。


☆☆☆


日ノ元高校の生徒会室は月ノ光高校の造りと余り変わらず、コンパクトだが高級感のある家具が多く置かれていていた。


この身が引き締まる感じ……どこの生徒会室でもこういうのは変わらないようだ。


生徒会室には多くの人達がいた。恐らく、生徒会の人かな?でも、少し多い気がするけど。


俺や大地先輩が生徒会室に入室すると大きな歓声が上がり、興奮する女の子が多くいた。


まぁ、女の子達からしてみればトップスターが目の前に現れたみたいな感覚というやつなのかな?

女の子達は興奮が収まりきらないようで、中々静まらない。


「──はい!1回静かにッ!」


だけど、それを大声で李さんが静止した。今の李さんは、さっきまで楽しく椎名先輩と話していた顔ではなく生徒会としての引き締まった凛々しい顔だった。


その威圧感で、興奮し騒いでいた女の子達が黙った。

──静まり返る生徒会室、そんな中この部屋で1番視線を集めてある李さんが俺達に1歩前へ近付いた。


「改めて、皆の前で自己紹介をしますね。私は、音崎 李と言います。日ノ元高校の生徒会長をやっています。今日は月ノ光高校の生徒会長から連絡を受けて招待しました。狭いですが、ここに揃っているのは生徒会のメンバーと各委員会の委員長ですのでPRの内容を全生徒へすぐに伝達出来るはずです。なので、今日のPRぜひ頑張って下さいね。」


李さんは長文を言い切りった。最後に笑顔を添える当たり……オンオフの差が激しい気がする。


優しい普段の李さん、生徒会長で厳しい李さん……


「では、そちらの自己紹介をお願いしますね。」


李さん……もしかして腹黒じゃね?と、思っていたら次は俺達に話を振られた。

なので、


「はい。」


代表して返事をし、俺が自己紹介をしたついでに夜依達の事も説明した。


一通り自己紹介も済み、少しだけ雑談を挟んだ後、本題に入る。


「──ではそろそろ、月光祭のPRをして貰おうかな。」

「はい、分かりました。では、PRを始めますね。

月光祭とは、まず────」


俺は月光祭のPRを開始した。月光祭がどういうもので何が大切なのか、なんの狙いがあるのかなど、月光祭実行委員長として精一杯頑張った。

サポートの夜依も椎名先輩も大地先輩も協力し全員で乗り切ったPRだった。


PRを聞き終わった後、怒涛の質問攻めを食らった。

当たり前だ、PRをしに行くというのは初めての試みだったそうだからだ。

俺達は1つずつ質問に答えて行った……


──


一応、今日の予定は終了した。

精神的に疲れた俺は早めに帰りたかったけど、椎名先輩はまだ李さんと話してるし、夜依も仲良くなったのか複数人に囲まれて話している。大地先輩は近づくなオーラを全開で放出し生徒会室の隅っこにいる。


俺は………うん。この場にいる日ノ元高校の生徒の殆どに囲まれている。


もうしばらく……帰るのは後になりそうだな。

そう思った俺であった。


☆☆☆


ようやく、女の子達から解放され生徒会室を出た俺達。生徒会長である李さんが玄関まで付き添ってくれた。


「その……気になったんですけど、椎名先輩と李さんの関係ってどういう感じなんですか?」


俺は、丁度いいと思い椎名先輩と李さんに関係を聞いてみた。


「あ、そういえば言ってなかったね?私と椎名それに、空わね。小学校からの親友なのよ。」

「うんうん……しんゆーしんゆー!」


と、椎名先輩が李さんに抱きつきながら言うのだから、この2人……それに、空先輩と“親友”というのは本当なのだろう。


「じゃあさ、神楽坂くんが気になった事を私に聞いたんだから、私も気になった事を1つ神楽坂くんに聞いてもいいよね?」

「は、はい。是非是非。なんでも聞いて下さい。」


俺は了承する。


「じゃあ聞くね。…………えっとね、今の月ノ光高校の生徒会長って“空”がやってるの?」

「え……っ。」


李さんの気になった事というのはおかしなものだった。


「はい、そうですけど。」


俺はすぐに答える。なんでも……と言ったからすごい事を聞かれそうかと思ったけど、李さんは俺にとって当たり前の事を聞いて来た。


「大丈夫なの?運営とかちゃんとしてる?仕事とかも溜まってないの?」


なんで、そんなに李さんは焦っているのだろうか?


「えっと……大丈夫だと思いますけど?」


まぁ、性格がドSという最悪な欠点があるけど……それ以外の事は完璧と言ってもいい。仕事も殆ど1人でこなしてしまうし……

男で無い女の子達からは慕われている存在だし人望も厚い。先生達からの評価も相当高い。

正しく、俺の知る中で1番の生徒会長と言える。


「そう……なら。いいんだけど。まさか……空が生徒会長か……随分変わったねぇ……」


李さんは空先輩の事を思い出しているのか、懐かしそうに言う。

だけど、言っている事が俺には“?”しか浮かばない。


「え……っと?空先輩って昔からあんな感じじゃないんですか?」


俺は空先輩の事を思い浮かべる。

あの、ドSな空先輩の事を……


「全然違うよ!私からしたら生徒会長をやっていること自体が意外で、もはや別人と疑っちゃうくらいなんだよ。

昨日、連絡を久しぶりに空から貰ったんだけど、今は生徒会長をやってるだなんて、信じられなかったんだから。でも、神楽坂くんがそう言うのだがら本当なのね。

……はぁ、中学生の頃のあの空はどこに行っちゃったんだろう……」


へ……?

李さんの話を聞くに……空先輩は昔からああいう性格じゃ無かったという事なのか?あのドSは根っからのものだったと思ったけど?

じゃあ、今の空先輩は一体なんなんだ?


李さんの話を聞いて俺はすぐに椎名先輩と大地先輩を見る。この2人がずっと空先輩の傍に居続けた訳だし、何か知っていると思ったからだ。

だけど、その2人は何も言わずただただ下を見ていた。そして負のオーラを纏っている。


それを見て俺は聞くのをすぐに辞めた。だって、何か壮大な事情がある……と分かったからだ。


☆☆☆


日ノ元高校のある一室。

そこに一人の女がパイプ椅子に座っていた。


口には棒のついたアメを咥え、片手で器用にスマホをいじくっている。

その女は日ノ元高校の制服を着ているが相当着崩していて、胸元がはだけ、今にも見えそうなくらいだった。


どう考えても清楚正しいお嬢様学校である日ノ元高校の生徒……という感じではない。むしろ、ヤンキー高のスケバンという感じだ。


──テレンッッ


携帯が鳴る。校内に配置している“駒”からの連絡だ。すぐに女はそれを見ると……


「ふむふむ……彼がここに来てるんだァ。それにあの“王”もいるんだぁ。」


そう女は呟くとニヤリと微笑み、ゆっくりと立ち上がるのであった。


──その女の携帯にはある1枚の写真が送られて来ていた。その写真には隠し撮りされた大地と優馬が写っていた。

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