第147話 生徒会と月光祭実行委員会
次の日の放課後、学校にて──
まだ特別休学で訛った感覚は戻らないけど、楽しく学校生活を送っていた俺。
溜まっていたテストも全て終わり、ようやく通常授業に戻れたけど授業の内容が進みすぎているため正直ついて行くだけでしんどい。いくら知識があったとしても難しいのだ。
頑張ってついて行ってるけど後で雫や夜依に勉強を教えて貰うのがいいかもしれないな。
そんな今日の反省をしている中、俺の苦手な人が唐突に教室に現れる。
「──おい!神楽坂 優馬!」
俺はその声で誰かか一瞬で分かり席を飛び立ち、臨戦態勢をとる。
……何故なら、現れたのはあの“空先輩”だったためだ。空先輩は声をやや荒らげ、珍しく1年教室の俺の元まで乗り込んで来た。
「特別休学が終わったらすぐに、私の元に来いと大地を通して連絡しておいたよなぁ!?」
空先輩は相当ご立腹の様子で、まるでヤンキーのようにガンを飛ばしてくる。
あ、今気付いたけど、後ろには椎名先輩がひょっこりといる事を確認した。
「あ……そう言えばそうだったっけ……」
昨日は春香の事で、頼みに行ってたりして色々とあったからその事をすっかりと忘れていた。
「す、すいませんっ!」
とにかく謝る。
「まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。まずは早く生徒会室に来い。時間が無いからな!」
俺は空先輩から首根っこを掴まれる。
更に後ろから椎名先輩にも手を取られ、もう完全に逃げられない状態である。
でも、あれ?空先輩の事だからまだ何かあるものだと思っていたけど、今回はお咎め無し……なのか?
俺としては嬉しいことだから、いいんだけど。
「優馬君も知ってると思うけどぉ、月光祭の準備でね。生徒会は今大変なのよぉ。」
椎名先輩みたいなほのぼのとした人が言うと、あまり現実味は無い。だけど、前に夜依がそんな事を愚痴っていたので、椎名先輩が言っていることは本当なのだろう。
「あの……それで、俺はこれからどこに連れていかれるんでしょうか?」
「どこって今言っただろ、生徒会室だって。」
呆れた表情で、空先輩が言う。
「じゃあ、行くぞ。とにかく時間が惜しい。月光祭実行委員会、“実行委員長”として優馬には身を粉にして働いてもらわなければならないからな!」
「…………………………………………ファッ!?」
俺は今、空先輩が言った言葉に違和感を覚えつい反応してしまう。
「そ、そ、空先輩!?今なんて……おっしゃいましたか?」
「んー?“優馬には働いてもらわなければな!”…か?」
「ち、違いますよ。もっと前の言葉です。」
「んー?“月光祭実行委員、“実行委員長” ”…のところか?」
空先輩はいかにもドSっぽくニヤける。
それを見て、俺は気付いた、“やられた”…と。
「間違いじゃあ、ないですよね……?」
一応聞く。どうせ、俺の聞き間違いじゃないと思うけど。
「あったり前じゃないか!男会、現会長である優馬なら月ノ光高校のビッグイベントである月光祭の実行委員長を任せられると思ってな。
自信満々に言い切った空先輩。やっぱり事の元凶はこの人のようだった。
「何やってんすか……それに、男会は全く関係ないでしょう……」
俺は男会、会長と言う立場に就任している身だけど、それはハッキリ言って名だけの存在だ。仕事は勿論しているつもりだけど、経験が圧倒的に足りないし、まだ若い。それに男会の全てを把握していないし、システムも不明だ。なので、今は副会長である皇さんにほとんど任せ切ってしまっている。
それに、俺は大勢の前で喋ったりするのがどうしても苦手だ。そんな俺が月光祭実行委員会、実行委員長なんて大役を担えるわけが無い。
俺には苦が重すぎるのだ。
そんな俺に実行委員長なんて務まるだろうか?
=無理だろう!?
なるほどな、だからご立腹だった空先輩の機嫌がすぐに治ったのか……あのドSである空先輩が何にも無しで終わるわけが無い。そんなの分かっていたはずなのにな。
その報いがこれか……まぁなんとも言えないな。
それは、決して悪意が全ての訳が無いからだ。きっと、1割でも2割でも俺の事を信用してくれているのだ。そうだ。そうに違いないや!
「それにな、これはお前のためでもあるんだぞ。この経験を活かせば男会でもっと頑張れるはずだからな!」
わざとらしく説明する、理不尽な先輩。
「はぁ……まぁ、任命されたのならば、やれるだけの事はやって見ますけど、実際問題やってみないと分からないし、どうなっても知りませんからね。」
保険は一応掛けておく。それぐらいの事はさせてもらう。後輩の特権だ。
「了解だ!推薦したのも私だ。それぐらいの責任は負うさ。
──だが、生徒会長直々の推薦と言う事を忘れるなよ?もし、優馬が私の顔に泥を塗るような真似をしたらどうなるかも、勿論分かっているはずよね?」
ずいっと小さな声で言われる。その表情を見るに目がガチであることが分かる。
俺はちゃんとしようと気持ちを強く入れ直した。
もう、罰ゲームは嫌だしな……
「は、はい……」
俺は力無く答えるのであった。
☆☆☆
生徒会室に移動した俺と空先輩と椎名先輩。
同じクラスで同じ生徒会に着く夜依は一足先に来ていたようで手馴れた動作で月光祭の準備を黙々としていた。
生徒会室には生徒会の人達と月光祭実行委員の人達が集結していて、いつもは広いと感じる生徒会室もこの時だけは酷く狭く感じた。
「その……それで、俺は月光祭実行委員長として何をすればいいんです?」
生徒会長で、ここのまとめ役だと思われる空先輩に尋ねようとしたが、空先輩は俺を連れて来てすぐに生徒会長の席に鎮座し、片手に月光祭の書類、もう一つの手に生徒会の書類を持ち2つの仕事を同時進行で進めていた。それは人間業とは思えないほどスピーディで効率的。これが仕事ができる人の極みと言うやつだ。
なので仕事を中断させずらく、しょうがなく第2のまとめ役だと思われる生徒会副会長の椎名先輩に尋ねた。
椎名先輩は生徒会や月光祭の書類にはほとんど手は付けず、空先輩の身の回りのサポートだったり他の生徒会や月光祭実行委員のサポートに回っていた。更に、集中力を持続させるために、適度に小休憩を挟んだり、飲み物を出したり、以外に大変そうだ。でも、その姿は正しくザ・裏方である。
そして、今は丁度そのサポートが一段落したようで空先輩の隣に疲れた表情で椎名先輩は座っていた。
俺の質問には、数秒の間を開けたあと答えてくれた。
「うん?優馬君はねぇ。確か、月光祭実行委員長として学校中の壁や近所に宣伝ポスターを貼ったり、先生達に予算の増額を頼んだり、資材の注文を頼んだり、全校生徒の前で月光祭の詳細を説明したり、来客を多く望めるように姉妹校に行って声がけをしてもらったりとか、公の場で活動してもらう事が多いよぉ。」
やはり椎名先輩が言うとなんでもほのぼのとなってしまい、“楽”かなと錯覚させてしまう。それが先輩のいい所でもあるが悪い所でもある。
なので、よくよく考えてみると俺が大変な事に気付く。
「そ、それはエグいですね。それに、姉妹校……ですか?」
月ノ光高校に姉妹校があるなんて知らなかった。
そこに──俺が行くのか?えっと……普通に嫌な予感がする。それに、これから月光祭まで多忙な日々が続き疲弊していくと思うと憂鬱になる。
「お、そうだった。優馬、お前に予定表を渡しておくぞ、私が細かく作っておいたからしばらくはそれを見て動いてくれ。」
空先輩が作業をしながら1枚の手書きのプリントを取り出し、貰う。
そのプリントは明日~月光祭最終日までの、俺の仕事が事細かに書かれていて、マジでエグいと実感出来た。
えっと……休みの日も、活動しなきゃならないの?
俺が青い顔になっているの事に気付いたのか、空先輩は言葉を付け足す。
「大丈夫だぞ。お前一人でこれを出来るとは思っていない。ちゃんとサポートは付けるぞ。サポートにはお前の婚約者と大地を付けるからな。」
その空先輩の言葉を待っていたのか、
「──という訳でよろしくね、ゆぅ。」
夜依が皆の前だからか少しだけ恥ずかしそうに言って来る。
生徒会の皆も月光祭実行委員の人達もそうだけど、この学校の女の子達は夜依が俺の婚約者になった事が未だに信じられないらしく、驚愕の表情を浮かべられる事が非常に多い。
だから、普通に夜依と話しているだけでも興味の視線が夜依の事を襲ってしまうのだ。こればっかりは夜依に慣れて貰うしかない。
まぁ、普通はそうだよね。ここ数ヶ月前までは俺と夜依の仲は最悪だったっていうのがこの学校での共通認識だった訳だし……
「まぁ、頑張れ、月ノ光高校の“広告塔”様!」
空先輩がそう煽るように鼓舞してくるが、だいたい俺の役割は“広告塔”で合っているので何も言い返せなかった。それに、言い返す体力もこれからは温存しておいた方がいいと思った。
そんなこんなで俺は生徒会にようやく復帰し、月光祭実行委員長となったのだった。
予定表には、明日から早速に大きな仕事があると書かれている。その詳細を見ると今からでも胃が痛くなって来るけど、せっかく任された大役だ。
完璧にこなして空先輩をギャフンと言わせてやりたいので、頑張らないとな。
そう決意した俺であった。
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