月光祭&神様&莉々菜 編
第143話 神様っ……!?
優馬は虚空の中、ぷかぷかと浮いている。
この空間は真っ白だと言う事しか俺には分からない。それに、全ての感覚が麻痺しているのか……何も出来ない。手を動かすことも、口を動かすことも。何もかもだ。
そんな空間にただただ俺は存在する。
……………なんで、俺はこんな所にいるんだろう?
ふと疑問に思う。
そう思ってからは、徐々に意識がはっきりとして来る。
確か俺は……部屋で寝ていたはずだ。
それなのに俺はここにいる……?
(やっほー!元気?)
──突然頭の中に女性の声が響く。
「あ……」
その声には聞き覚えがある。それに、どこか懐かしさも感じる。その声が頭に響いてから体に力が戻り、感覚が戻る。
(久しぶりだね!)
「ど、どうもです。……………………神様。」
そう……この人?は俺の事を転生させてくれた恩人で、この世界……幸せの世界で今俺が青春を送れているのもこの人?のおかげだ。
「その……それで、どうしたんですか?突然……
って……ええっ!?」
これまで神様とは転生した後も交流はあった。でも、それは声だけで目と目を見て話した事は1度も無かった。
でも、何故か今回は神様の姿が俺の目にはくっきりと見える。
真っ白の空間の中、目の前には純白の翼を羽ばたかせた天使がいた。その姿は光の加護のようなものに包まれていて、見とれてしまうほどの神々しさがあった。
黄金の髪、黄金の瞳。真っ白で健康的で美しい肌。
黄金比で整った顔立ち。“圧倒的美女”俺が最初に思った感想はそうだった。
「あはは……嬉しいこと思ってくれるね。」
今度は頭の中に声は響かない。
直接、声が聞こえた。その声は安らぎが感じられる。聞いていて気持ちが良い。
「そっか……心の声が聞こえるのか……」
俺はボソッと呟く。
「それで、今回は何か用なんですか?」
また、世間話……か?
まぁ、別にいいんだけどさ……
この神様は、ちょっと天然なのか、抜けている所が特徴だ。うん……俺のお母さんに近い。
なので、今回もそんな感じなのかなぁなんて思った。
「違うよ、和也君。今回はちょっと、特別な報告だよ。」
「和也君って……」
和也とは俺が転生する前の名前だ。
この名前を知っているのは本人であった俺と神様だけだ。
なので、まずその名前で呼ばれない俺は久しぶりにその名前で呼ばれて少しだけ驚く。
「今の俺は優馬ですよ。和也じゃない。」
わざと呼んだんだと思うけど一応訂正はして置く。
「まぁ、いいじゃない。呼ばれて君が分かればどんな呼び方でもいいんでしょ?」
「うっ……」
どうやら、俺の呼び名の定理を知っているようだった。なんで知ってるの?と思うけど、そこは聞かないでおこう。恐らく、神様なんだから上から見ているのだろう。
「まぁ……仕方が無い……ですけど。それで、特別な報告って何なんですか?」
早速本題に入った俺。
「そうだね………私は、和也君にすごく興味を持っているんだ。」
流れるように近付いて来た神様は俺の頬にそっと手を当てる。
それに、ドキッとする俺。
さっきかな頬が熱い……多分、頬が赤くなっているのだろう。
「あ……はい。それはまぁ、どうも。」
神様に興味を持たれるか……まぁ、嬉しいことじゃないのかな?
「私はね……ずっと、ずっと君だけを見て来たんだよ。でも、もう我慢出来なくなったんだ。もう見ているだけじゃ嫌なんだ。一緒に笑ってみたいんだ、一緒にご飯を食べてみたいんだ、一緒に幸せになってみたいんだ……
だからね、私は和也君のところに行くよ!」
「はい……!?」
唐突な神様の言葉に変な声を俺は出す。
意味をよく理解出来ず、頭の中がごちゃごちゃになる。
「じゃあ、また後で!すぐに会いに行くからね、和也君!」
そう神様の声を聞き終わった俺は、視界が徐々に薄まって行くのを感じ、数秒後意識を失った。
神様は最後まで笑っていた。
☆☆☆
俺は目を覚ます。
「うっ……なんだったんだ?」
やはり、俺の頭の中はごちゃごちゃになっていて、神様の最後の言葉が気になって仕方がない。
「はぁ……考えても仕方がないか……さぁ、起きなきゃな。」
俺は体を起こそうとするが──
あれ……?体が重くて、全然体が動かせないんだけど。どうしてだろう?
疑問に思う。そして自分の胸あたりの掛け布団がやけに盛り上がっている事に気付いた。
俺は掛け布団を勢いよくめくる。
「───えっ!!!???」
布団をめくると……そこには俺の新たな家族の鶴乃が俺のお腹の上で小さく可愛い寝息をたてていた。
「鶴乃?どうしてここに?」
たしか俺……鶴乃の寝顔を葵の部屋で見て、可愛いなと思いながら自分の部屋で寝たはずだ。
鶴乃がここにいるのは絶対におかしいはずなのだ。
じゃあどうしてここにいるんだろう?寝ぼけてたのかな?
まぁ、まずは鶴乃を起こすか。
鶴乃が起きてくれないと俺は身動きが取れないからな。
「鶴乃……起きて!」
俺は鶴乃を揺すぶる。
「ん…………パパぁ?おはよぉ。」
鶴乃がボソボソと言う。
「おはよう。」
鶴乃はまだ寝足りないようで、大きな欠伸をする。
それは、心を許している人間にしか見せない行為だ。
「鶴乃……まだねむいぃ。」
そう言って鶴乃は俺の体にグッと絡み付き、再び眠りに入ってしまった。今の鶴乃は本当に無邪気で可愛い。だから、ついわがままも聞いてしまいたくなる。
なんだか最近、俺には親心が本格的に芽生えてきた。いい事のはずなんだけど……うん。早くね?
あ……これって、もうしばらく鶴乃と寝る事になっちゃうやつだな。まぁ、別に俺はまだ特別休学の身で暇だからいいんだけどな。
そう思い、再び寝てしまった鶴乃を隣に移動させ一緒に眠り着いた俺だった。
後で、夜依に若干キレられながら起こされる俺と鶴乃だった。
☆☆☆
──午後。
俺は雫、夜依と共にリビングでくつろいでいた。
葵と鶴乃は鶴乃の体力回復のためのジョギングに行っている。
雫と夜依の2人は制服姿で、少し疲れている表情を見せていた。
どうしたんだろう?最近、学校から帰ってくるといつもこんな感じなのだ。
なので、聞いてみる事にした。
「それで、最近学校の方はどうなの?」
特別休学はあと5日で終わる。そして、久しぶりに学校に登校することが出来る俺はもう楽しみで待ち切れなくなっていた。
「……えっと、まぁまぁね。」
「そうね。」
素っ気なく2人は返答する。
「まぁ、強いて言うのなら月光祭かしら?」
「……うん。そうだね。準備とか色々大変だしね。」
「ん……“月光祭”って……なに?」
「……ゆーま、月光祭を知らないの?」
「うん。教えてくれ。」
「……ええ。分かった。」
俺は月光祭について雫と夜依から詳しく教えて貰った。
月光祭──それは月ノ光高校が独自にやっているビッグイベントで、3年に一度だけしか開かれることのない行事だそうだ。
その内容はほとんど文化祭と変わらないらしいのだけど、違う事があるとすればその期間が1週間もある事だそうだ。
その話を聞き、文化祭を特別休学で参加出来なかった俺にとっては夢のような話だった!
今から楽しみになった。
「でもね、ゆぅと私は生徒会の仕事があるのよ。」
「あ……そうなんだ。」
夜依に言われて、そういえば俺って生徒会に所属していることを思い出した。
あーあ、でも……生徒会かぁ。じゃあ夜依の言う通り大変になるだろうな。なんか、仕事を沢山空先輩から押し付けられそうな気がするしなぁ……
「ゆぅには学校に登校が出来るようになったらすぐにでも月光祭の準備を手伝って貰うから、覚悟しておくように。」
「う、うん。了解。」
一応、準備はしておこう。
「ところで……話は変わるけど、ゆぅが学校に行く事になると鶴乃が家で一人ぼっちになってしまうという問題があるわよね?」
「うん、そうだね。」
俺達は学生だ。昼は学校に行かなければならない。
そのため、小学校の転校手続きが終了していない鶴乃は家で一人ぼっちになってしまうという問題があった。
その事で俺達は家族会議を重ね、どうするか考えていた。
「それでね、その問題を解消する為にお手伝いさんを雇うという話で、解決案はまとまったわけだけど、その雇うお手伝いさんでいい人を見つけたのよ。」
夜依は鶴乃の事を考えてくれていたらしい。
すごくありがたい。
「それで、いい人って?」
俺は興味津々に聞く。
「実際には私も会ったことは無いのだけど、前に北桜家でお手伝いさんをやっていた信用出来る人の娘よ。この娘さんは男にも耐性があるらしいし、家事から雑務までも完璧にこなす中々の凄い人らしいわ。
それに、どこの誰だか知らない人よりはまだいいんじゃないのかしら?」
「へぇ……まぁ、そうだね。」
「……1回来て貰って少しの間家事を任せて、それを見て全員が認めたらいいんじゃないの?」
「うん……雫の言う通りだね。」
「分かったわ。じゃあ、早速連絡してみるわ。」
夜依は、早速行動に移した。
☆☆☆
2日後──
今日は夜依が呼んだお手伝いさんが来る。
俺、雫、葵、夜依、鶴乃の5人でリビングで待つ。
これから鶴乃と家の事を任せるのを決めるの大事な事なので、俺達は若干口数が少ない。
少しだけ緊張しているのだ。
お、どうやら来たみたいだ。
一体……どんな人が来るんだろう?俺達は期待と不安を抱えながら待つ。
そんな空気の中───
「神っ……降臨っ!」
「「「「「えっっ!?」」」」」
突然の掛け声と共に空気感をバキバキに打ち砕いて登場した彼女に俺を含めた5人は声を揃えて驚いてしまった。
でも──その中でも俺は特に驚いていた。
え……なんで……ど、どういう事だ!?
「なんでここにあなたがっ!?」
つい、立ち上がり声を出して叫んでしまった。
「あはは、よろしくね、
彼女は笑顔で笑う。
「え……や、やっぱり神様っ……!?」
そう──お手伝いさんとして家に現れたのは、あの神様だった。
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