第138話 どうしてこうなったんだっけ?
どうしてこうなったんだっけ?
優馬は林間学校に着た水着を着て、温かいお風呂にゆっくりと浸かる。
だけど、落ち着きがない。視線は常に上に向けているし、大きいお風呂の隅でなるべく動かないようにする。
顔には絶対に出さないように心では必死に我慢しているが、その我慢も理性もいつまで持つだろうか。
───なぜなら、俺の目の前には水着を着た雫、葵、夜依。そして、隣にはスクール水着を着た鶴乃がいるからだ。
☆☆☆
遡ること、30分程前───
鶴乃を病院に連れて行ってから数日後の平日の夜。
俺は1人、リビングで男会の書類作るために慣れないパソコン技術をフルに活用して奮闘していた。
もう、パソコンに向かってから2時間は経つだろうか。この書類は国のお偉い方が見る大切なものだ。1度、皇さんの検閲も入るけど、それなりの物を制作しなければならない。
ハッキリ言って高校生の俺には難しいし責任重大だ。これで俺が有能か無能かハッキリと判断されるだろうし、新しい男会の飾り物の無能代表なんて絶対に言わせない。
その強い覚悟を持ってテンポよく書類を制作する。
内容は、前回の男会の時に制作し送った国に男会が要求するリストの承認、不承認のチェックとその不承認の再提案などだ。
高校1年生にはかなり難しい内容だけど頑張って制作する。
だけどあいにく、こういう物をつくるのは案外得意だったりする。転生する前も、部活のPRを制作したのを思い出す俺。懐かしさを感じる。
作業は順調。皇さんに、提出する期日まで余裕を持って完成しそうだ。
「ふぅ……」
俺は手元に置いてある茶色のコップを取り、口をつけ飲む。
これはさっき夜依が入れてくれたコーヒーだ。
コーヒーは前までは苦くて嫌いだったけど、大人になったのかな……今では美味しいと感じるようになって来た。まぁ、多少は砂糖を入れてるけど。
よし……カフェインも十分に体に摂取した事だし、残りも頑張るか!!
「───ねぇ、パパ!」
「ん?どうしたの鶴乃?」
いつの間にかリビングに入ってきたのだろうか?パソコンに集中していたため、後ろにいる鶴乃に声を掛けられるまで気が付かなかった。
俺は振り返る。
「ぶっ───」
俺は鶴乃の姿を見てコーヒーを少しだけ吐き出してしまう。
「な、な……!?なんて格好してるんだっ?」
鶴乃はなんと、スクール水着を着用していた。
名前の所にはしっかりと、“鶴乃”と書かれている。
「えへへ、しず姉が……かってきてくれたもののなかに……これがはいってたの!」
そ、それで着てみたから、俺に見せに来たのか。
ありがとう……って、違う違うッ!
自分の緩んだ理性に喝入れ、冷静になる。
「うん、似合ってると思う……けど、そういうのは男の人に見せちゃいけないものだよ。」
「え、だって、やよ姉が鶴乃の……みずぎすがたをみたらぜったいに……よろこぶって……いわれたから……」
鶴乃は残念そうに言う。
「あぁ……そうなんだ!」
夜依め!覚えておけよ。
くっ……ありがとう……後で沢山褒めておこう。
「どう、ゆぅ?よく似合ってるでしょ?」
裏で隠れて様子を見ていた夜依がニヤつきながら声をかけてきた。
なんだかんだで、夜依も鶴乃をめっちゃ溺愛してる。いつものクールな感じも鶴乃の前では若干崩れる。
「でも、なんで水着?」
時期的にはもう水着なんて着ないし……単純に着てみただけなのかな?
「まぁ、そうね。しずのんが買ってきた物を整理してたらたまたまそれを見つけてね。試着してみたのよ。」
俺の予想は当たっていたようだ。
「でも、もう寒い時期なんだし風邪引く前に服を着なよ。」
まだまだ幼い鶴乃は風邪に弱いかもしれない。そう思った俺は一応注意は言っておく。
まぁ、しっかりしてる夜依なら当然分かってるはずだけど。
「だけど、鶴乃……これでおふろ……はいりたい!」
「あぁ、いいんじゃないの?ここの、お風呂中々大っきいし鶴乃ぐらいだったら泳げて楽しいだろうし。」
まぁ、その泳いで無邪気に遊んでいる姿を見ることが出来ないと言うのは少しだけ惜しいけど。
そう提案すると夜依は、
「ゆぅが言うのだったらいいと思うけど、じゃあ私も今年着なかった水着を着て一緒に入ろうかな?」
そう言っていた。
そう言えば今年の夏。特に夏休み。
俺は夜依の件があって大怪我を負っており、夏の重大イベントである海又はプールに皆で行くという事をしていなかった。
あの時は死ぬほど悔しかったのを覚えている。
それで夜依が言っている水着は今年の夏に買っていたもので来年、優馬と行くかもしれないという事で用意していた物らしい。
「じゃあ、残りの2人も誘ってみたら?」
「ええ、そうするわ。2人も水着を着ておきたいと思うし。」
夜依が言っていることから察するに雫と葵も水着を買っているようだ。
く……1度でいいから3人の水着姿を目に焼き付けておきたい。だけど、それは次の夏までお預けかな。我慢するのは得意だ。その時期が来るまで待つ事にしよう。
「じゃあ、俺は引き続き仕事をするから女子4人で楽しんで来てね。」
俺はそう言って再びパソコンに集中しようとする。
だけど───
「パパも……鶴乃たちといっしょに……おふろはいろ!」
鶴乃が爆弾発言をした。
な……なんつう提案だッ鶴乃!?
鶴乃は、全く疑問を持たずに言ったけど、その場にいた俺と夜依はかなり動揺する。
「えっ……とね。まぁ、俺と鶴乃の2人だけだったらいいかも……だけど。流石に夜依達もいるとなるとね。異性でしかも年頃だし、色々と気になる所もあるんだよ。」
「???」
まだまだお子ちゃまの鶴乃にはよく分からないようだ。
「なんで?やよ姉がいってたんけど……パパはしず姉たちと……こんやくしゃ?なんでしょ?こんやくしゃは……いっしょになかよく、くらすものなんでしょ?だったらべつに……きにしないんじゃないの?」
「うぐっ……」
まだ、覚えたての婚約者という言葉を使ってくる鶴乃。流石成長期。覚えが早いな。
「だ、だけどね鶴乃。勿論、俺と雫、葵、夜依は婚約者だよ。鶴乃の言ってる事もあながち間違いでもない。だけどね、まだ早いんだよ。こういうのはね。ちゃんと責任の持てる大人になってからなんだよ。」
「鶴乃……よくわかんない。」
鶴乃には難しすぎたかな?
「ま、いいから……みんなでいっしょに……おふろにはいるの!」
言葉で鶴乃を止める事はどうやら不可能のようだ。
俺は鶴乃に腕を引っ張られ作業を中断せざるを得なかった。
「「……………」」
俺は夜依と目を合わせ、何とかしてくれと頼む。口に出すと鶴乃が気付く可能性があったからアイコンタクトのみでだ。俺と夜依の仲ならば言葉は伝わる。俺はしっかり者である夜依を信じた。
だけど、夜依は何を思ったのか──
「しょうが無いわね。そこまでゆぅが私達と一緒に入りたいのだったら、私も覚悟を決めるわ。」
「え!?」
いいの?って………いやいや、違うんだよ!覚悟とか決めなくていいから。
夜依は変な勘違いをしてしまったようだ。
俺はすぐに訂正しようかと思った……だけど……
変な理性が発動して声が出せなかった。
何をやってるんだ俺は……全く。これだから……童帝野郎は……困っちゃうな。
俺は自分で自分を罵りながら、鶴乃に引っ張られて行くのであった。
☆☆☆
そんなこんなで、色々とやばい状況にいる俺。
まだ、3人は風呂場に来ていないけど、そろそろ来そうな予感だ。
「あははっ!楽しいの!」
俺の不安を他所に鶴乃はすごく楽しそうに大きいお風呂の中で泳ぐ。鶴乃はこんなちっちゃい子なのに水も怖くなさそうだ。しかも普通に泳げてる……!?
もしかしてだけど鶴乃には水泳の才能あるのかな?
我が子当然の鶴乃の才能に気付けてなんだか嬉しくなってくる俺。
だけど後に、泳げない俺はその鶴乃の才能に嫉妬しそうな気がする。今から鶴乃の未来が楽しみで仕方がない。
元から着替え終わっていた鶴乃と比較的着替えるのが楽な俺は鶴乃と先に2人っきりでお風呂に入っていた。
夜依が準備をすると言って部屋から出て行って約10分は経っただろうか?湯船に浸かったのは5分程だけど、湯船が熱いのかもうそろそろ上がりたくなりそうだ。
「パパ、見て見て!鶴乃、こんな泳ぎ方も出来るんだよ!」
「おぉっ!?すげぇ。」
鶴乃はさっきまでクロールしかしていなかったのにバタフライをしてる。めっちゃお湯が跳ねてるけど、バタフライおろか、クロールさえ出来ない俺にとって鶴乃の才能は賞賛に値するものだった。
ついつい興奮してしまう。
「鶴乃……それ、俺にも少しだけ教えてくれないか?」
「鶴乃がパパに……?いいよ!」
高校1年生が小学生低学年に教えを乞うというこの場面、第3者側から見るとおかしな光景だろうな。
その時だった───
「お、お邪魔しますね、鶴乃、ゆぅーくん。」
そう風呂場のドアの方から葵の声が聞こえる。
俺はすぐに気を引き締める。
そして、大量の湯気が立ち上る風呂場に3人の人影が映る。
「おそいの!」
「ごめんごめん。心の準備に少しだけ時間が掛かっちゃってね。」
シルエットで真ん中に葵。その後ろに隠れるようにして雫と夜依がいる事が分かる。
俺は3人が近づいてくるのを察知し、目を伏せる。
ちゃぽん──と、3人が湯船に入るのを音で確認する。
「……どうしたの?別に目を開けていいのよ?普通、私達が目を閉じるものなのだけど。」
雫の声が若干震えているのが分かる。雫も俺と同じように謎の緊張をしているのかな?
「う、うん。分かったよ。」
俺は少しずつ目を開ける。
「……………っっ。」
俺の眼の前には天国があった。
雫は紺色のビキニ。細く引き締まった雫の体にベストマッチしている。さらに、雫は水色の髪を後でゴムでまとめ、珍しい姿を晒してくれている。
葵は、うん……堪らん。葵は大っきい胸がとても強調されるような緑色のビキニを着ていて視線が胸元で固定されるような謎の力が発生する。
夜依は美しく透き通ったスリムなボディを若干、布生地が少ない黒色のビキニで合わせており、かなり男心をくすぐられる。
少ししか見ていないけど相当やばい。色々な部分がッ……それに、この光景は男子高校生には刺激が強すぎる。
俺はすぐに、視線を逸らしてしまう。
これ以上見たら理性が爆発するか、頭がショートしてしまいそうだったからだ。
「どうしたんですかゆぅーくん?もしかして似合ってなかったんですか?」
葵が残念そうに聞いてくる。
「そ、そ、そ、そんな訳無いだろ!もちろん皆すごく可愛いよ。本当に本当でだ。」
理性がコントロール出来れば、ずっと眺めてられる程だッ!
それを聞いて安心したのか、「……よかった」と言う声が聞こえた。多分雫かな?
葵は鶴乃の近くに座り、雫はその中間に座る。
「隣……失礼するわ。」
そう言って俺の許可も無しに隣に座ってくる夜依。
そして、耳元でそっと囁いてくる。
「この水着はね、ゆぅの為だけにしずのんもアオも一生懸命考えて買ったのよ。……もちろん私もね。」
「ぐぐ……っ。」
夜依の言葉で心臓の鼓動がもうおかしいぐらい高まる俺。
「だからね。ちゃんと見て、堪能して。それじゃなきゃ覚悟を全員で決めてきた意味が無いもの。それに、鶴乃も言っていたでしょ。私達は婚約者なのよ?そういう事はまだしないと思うけど、水着ぐらいだったら普通に見るんじゃないの?だからいつも通りにして。」
で、でもな……こんなパラダイスで“いつも通り”なんて俺には出来ないぞ。
「あお姉!あたまあらって!」
「あぁ……はいはい、お任せ下さい。綺麗にしてあげますからね!!」
鶴乃が4人の空気感をぶち壊すように言った。
だけど、静まった空気感が和らいだのでナイスだ鶴乃。
「……あ、そうだ!ゆーま。私もお背中お流ししましょうか?」
「え?」
雫は鶴乃が葵に体を洗ってもらっているのを見て何も思ったのかそんな頭のおかしい提案をしてきた。
雫の表情は完全に緊張が抜けて恥じらいも無さそうだ。
「ちょ、それは……おま……無理じゃない……のかな?」
それを聞いて露骨に動揺する俺。くぅ……かっこ悪いな。
「いいなぁ!鶴乃もパパのお背中お流しする!」
「わ、私もやりたいです!!」
「勿論、私もよ!」
「鶴乃も、鶴乃もなの!」
そんなにやる気がある4人を今更断る事も出来ないので渋々了承する事にした。
俺は風呂場にある小さめの椅子に腰掛け、待つ。
「じゃあ、最初は私から。」
ジャンケンで順番を決め、最初に背中を流してくれるのは黒ビキニの夜依だ。そっと夜依は近付き囁いてくる。
「じゃあ、始めますよ
夜依のテンションは何かおかしくなっているのか、変なテンションで夜依のターンが始まった。
「や、夜依!?」
夜依は始めに優しく背中を撫で、それからボディシャンプーでゴシゴシと俺の体を洗い始めた。
夜依らしく、効率よく洗ってくれる。
「あ、ちょちょ、夜依……さん。」
背中を触られてくすぐったい。
「動かないで、ゆぅ。」
そう言って体をかなりくっ付けて動きを制限してくる夜依。……胸が……当たってる気がする。
背中が幸せ。
くっ………うぅ。
そこから何も動くことが出来ず、夜依に言って密着をやめるのもなんだか勿体ないし、しっかりと背中を流してもらった。
夜依の密着ってワザとかな?いや、そんな訳ないよな。
「はぁはぁ……中々、精神がやられるな。」
独り言を呟いた俺。やっと終わった夜依のターン。
素晴らしい時間だったけど……ちょっとね。ヤバかった。
「……もう、背中を流されちゃったし……私は頭でも洗ってあげようかしら。」
すぐに次のターンが回ってくる。
今度は雫のようだ。
「あ。うん。よろしく。」
雫は緊張しているのか、あまり喋らず俺の頭を丁寧に洗ってくれる。その手際は素晴らしくツボを刺激しているのか大変気持ちの良いものだった。
「うん……すごく、気持ちいいよ雫。」
「……ちょっと、言い方が気持ち悪いわね。」
あはは……そうだね。こんな状況だと余計にね。
ただの変態オヤジみたいだもんな。
「………………どう?」
「ん?」
「……物足りないかしら?私も夜依みたいに何かやった方がいい?」
なんだろう……雫が何か言ってる。だけど、雫が俺の頭を擦る音とシャンプーが泡立つ音、鶴乃達の話し声、それにお風呂場の篭った空間が影響して雫の小さな声が聞き取りづらかった。
「う……うん?」
よく分からなかったけど、多分、指の力の加減はどうか?って聞いてきたのかな?
取り敢えず“うん”と言っておいた。
「……分かった。」
その返事はたまたま聞こえた。
ん……?何が分かったんだろう。
「うっ、」
な、なんだ?首に何か柔らかくて温かい物が当たってる。ん……?もしかして、これって………………
「……どうかな。私は葵みたいに大きくは無いんだけどね。」
やっぱりぃッ!!!
雫は何を思ったのか……俺の首辺りに自分の胸を押し付けながら頭を洗っている。
さっきまで普通で堪能していたのに、急に興奮が俺を襲ってくる。
ッッ……!あ、ヤバっ!
首辺りが幸せ。
雫が胸を当てたのはほんの数秒で、満喫する暇もなく終わった。
「……お、終わりっ。」
「あ……うん。」
頭が洗い終わった後は、雫が少女のように顔を赤面させていた事を俺は一生忘れないだろう。
最後は葵と鶴乃のターンだ。
「もう……やる事大体無くなってしまいましたね。」
「じゃあ、鶴乃たちは……なにするの、あお姉?」
「んーと、じゃあ背中、頭ときたら、最後はお腹ですかね?」
「うーん、お腹は自分で洗えるからいいよ。じゃあ、両腕をお願いしようかな。」
なんとか、お腹は回避した。
流石に理性の限界が近い俺。なるべく興奮しない場所を洗ってもらう事にした。
「じゃあ……鶴乃はこっちを……きれいにするの!」
「分かりました。じゃあ、私は右手ですね。」
鶴乃は左手、葵は右手を持つ。
2人共、ぎこちない様子だけど丁寧に綺麗にする、という意欲はひしひしと伝わってくる。
それに、腕は背中とか頭に比べてよく触らている部位なのでそこまで抵抗は無い。
そのため、今までで1番満喫できると言ってもいい。
「ゆぅーくんって、筋肉すごいんですね?カッコイイです!!」
「あ……ありがとう。」
筋肉を褒められたのは案外初めてだったりする。
すごく嬉しかった。
男=筋肉と考える俺。そして筋肉=カッコ良さに繋がると俺は信じている。
「ふぅ……できたの!」
「私も綺麗に出来ました!!」
両腕で少しだけ綺麗差の違いはあるものの2人共すごく頑張って洗ってくれた。それだけで俺は嬉しい。
「おぉ、ありがとう2人共。」
俺は2人を褒める。
「やったー。パパにほめられたの!」
いつもの感じだったのか、鶴乃は嬉しくなって俺にぎゅっと抱き着いてくる。
「くっ……っっ!??!?」
それに、ものすごく驚く俺。鶴乃はスクール水着で布と肌の隙間がほとんどないため、体温がストレートに感じられる。それに、雫と夜依のせいで高まった事もありいつにもなく反応してしまう俺。
それに、鶴乃が抱き着いてきた勢いを俺は完全に殺し切れていなく、しかも床は濡れていて滑りやすい。様々な要因が重なって俺は体勢を崩した。
「うおっ!」
「ゆぅーくん!?」
─────ずてーんっ!!
何とも情けない音で俺はすっ転んだ。しかも盛大に。抱き着いていた鶴乃は俺が咄嗟に守ったけど、その分背中を守れず、背中と床がクリーンヒットしてジリジリと痛い。
「いっててて……」
「くぅ……痛たた……!!」
「パパ!あお姉!……だいじょうぶ?」
あ、もしかして葵も巻き込んでしまったのか。
大丈夫か?と思い俺は起き上がろうとすると──
「───ひゃっいっっ……」
喘ぎ声のようなものが聞こえた。それに、なんだ?床に手をついてるはずなのに……感触がポカポカと温かいし、柔らかい?しかも、新品で高級なベットのように沈む。そして後から元の形に戻ろうと俺の手を押し返してくる。
俺はなんだろうと、その感触がする右手を見てみた。
「────oh……マジ……すか?」
そこには幸せがあった。
俺の右手は葵の胸を触っていた。しかも水着の上からでは無く水着の中に手が入り込んでしまっている状態だった。
どんな状況ッ!?自分でもよく意味がわからない。
「ゆぅーくん?」
葵が完全にそっちの目で見つめてくる。吐息は激しく、胸から葵の心臓の鼓動が伝わってくる。
「ちょ、違うこれは事故なんだっ!?」
俺は慌てて誤解を解こうと、その元凶である右手を抜こうと試みるが……
「ぁぁんっ……!」
葵の喘ぎ声でまともに動かすことも出来ない。
ちょっと1回黙って欲しいよ、葵さん。
じゃないと、お風呂に浸かってる雫と夜依が中々のヤバイ形相でこちらを見てるからさ!!!
それに……俺の理性がそろそろキャパオーバーしそうだ。
「ちょ……動かさないで、ゆぅーくん。ダメーっ!」
「いやいや、動かさないと手抜けないから!それと、ちょっと、その声やめてくれぇー!!!」
それから、何とかして手を抜き事故だと説明した俺。雫と夜依は結構不機嫌で、葵は惚けた目をしていた。鶴乃はよく分かっていないようだった。
だけど、ようやくお風呂は終了した。
はぁ……はぁ……はぁ。
皆今日は何だったんだ?積極的すぎる。
そのせいでしばらく、皆のことを直視できないかもしれないんだけど……
☆☆☆
その日の夜中。
優馬が寝静まった頃を見計らい葵の部屋に集まった雫と夜依。その部屋の主である葵も勿論部屋にいる。
鶴乃はお風呂でかなり疲れたのか葵のベッドで爆睡している。これなら、大声を出さない限り起きる事は無いだろう。
「はい質問。」
「なんですか夜さん。」
部屋に入ってすぐ夜依が葵に質問する。
「あの時、どうだった?」
「どうだった……と言いますと?」
「……今日のお風呂の時にゆーまの手がアオの胸に入った時の事よ!」
すかさず雫が言葉を付け足す。
「あ……ぁぁ。」
葵はそれを聞き、思い出したのか顔をぽっと赤くさせ、呼吸が少しだけ荒くなる。
「で、どんな気分だったの?」
あくまで3人はピュアだ。そのため、そういう知識にはあまりにも無頓着である。まだ優馬の妹である茉優の方がその知識は詳しい筈だ。
だけど、優馬と一緒に暮らすようになってきてから、そういう知識も念の為蓄えて置いた方がいいと前々から3人は思っていた。
それで今日。3人で話し合い、覚悟を決めた。全員が羞恥を堪え優馬にアピールした。だけど、葵は事故ではあるが、かなりすごいことをして貰っていた。雫と夜依はその時の気持ち、感覚を知りたかったのだ。
その時、どんな気分になるのか。どのぐらい感情は高まるのか……そういう知識は聞いておいた方が実際に優馬とそういう事をする時に有利になるだろうと考えている。
「えっと……ですね。あの時は……嬉しさと、恥ずかしさ、それと変なやらしい感じと表現すればいいんですかね……その多くの感情が混ざりあったような感じでした。」
「へぇ……」
「……なるほどね。」
夜依と雫は葵の言葉を1字1句聞き逃さんと真剣に聞く。
「それにですね……自分でもどうしようもないくらい。……女としての理性が抑えきれなくなってしまいそうでした。」
だから……あんな、アオらしからぬ、喘ぎ声を出したんだ……と1人で納得した雫。
「だから、日頃から理性をコントロールする練習をしないといけないかも知れません。勿論、ゆぅーくんを使って!!」
「……という事はつまり、これからもっともっとゆーまと密着した方がいいってこと?」
雫は少しだけ嬉しそうに話す。本人はその気持ちを隠しているように見えるがそれでも、嬉しさの感情が滲み出ている。
「そうですね!!」
葵は感情が隠そうともせずに満面の笑みで言う。
「分かったわ。じゃあ、もっともっとゆぅにグイグイアピールして行けばいいのね。」
夜依も相当やる気に満ち溢れている。
その次の日から、彼女達3人は優馬に怒涛の密着、誘惑を開始する。それは今までよりも熱く、気合いの入ったものだった。
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