第137話 茉優の最近の悩み
優馬の妹である神楽坂家 茉優には最近できたある大きな悩みがある……
「オーイ茉優。次、移動教室なんだろ?オレと一緒に行こーぜ。」
少し声の低い金髪の男に茉優は声を掛けられる。
その男はピリピリとした威圧感を常に放っている茉優に気にすることもせずに普通に話しかけて来る。
「はぁ……」
茉優はその金髪にも絶対に聞こえるような大きなため息をつく。だけど、決してその方向に振り向くつもりは無い。完全に無視の姿勢だ。
この金髪が最近の茉優を悩ませる元凶である。
茉優は既に普通では考えられない態度をその金髪にするが、その金髪は全く気にする様子は見られない。むしろ喜んでいる……のか?茉優には意味が分からなかった。
どうしてこうなってしまったんだろう?
茉優自身、どうしてコイツに好かれているかさっぱりわからなかった。
☆☆☆
この金髪がこの中学校に来た話は数日前に遡る。
“何コイツ?バカなの?”
茉優が最初に感じた、この金髪の第一印象はそうだった。
平日の通常授業の日。
茉優はいつも通り、若干ピリピリしながら勉学に勤しんでいた。お兄ちゃんと同じ学校に行くために努力は惜しまない。自分には絶対に妥協しない。その覚悟で頑張る。
クラスの人や担任、お母さんからはたまには休息も必要だよ?と言わてはいるが茉優は軽く受け流している。今の茉優には休息などしている暇など無いのだ。
もし、それで高校受験に失敗でもしたら一生悔やんでも悔やまれないからだ。もしかしたら、精神を病んでしまうかもしれない。茉優自身、心の内で確信があった。
さらに、最近のニュースでやっていたが今回の入試、特に茉優の希望高校。すなわち優馬のいる月ノ光高校の予想倍率はえげつない事になっている……らしい。
月ノ光高校には珍しい男がなんと2人もいて、更に今では男会の件で一躍有名人となったお兄ちゃんがいる。そのため全国から選りすぐりの秀才や天才の女達がお兄ちゃんに近付こうと集結しようとする。そのため、倍率がえげつない事になっているのだ。
茉優もその情報を聞いた時焦った。凡人の自分ではこのままだと高校受験に失敗し、落ちてしまうかもしれないと。
高校受験まで、残り約半年を切った。それまで茉優はがむしゃらに突き進む覚悟のつもりだ。半年なんてほぼ一瞬で過ぎ去る。今こそが踏ん張りどころなのだ。
それに、茉優の今の実力では入試に成功する確率がおおよそ70%程だろう。茉優はそれを100%にするべく頑張っているのだ。他の高校じゃダメなのだ。お兄ちゃんのいる高校じゃ無ければ……絶対に……
茉優は華の中学生活を切り捨て、友達との交友も切り捨て、生徒会長としての仕事も疎かになってきているかもしれない。
──そんな時だった。コイツは突然現れた。
担任の先生が転校生が来るから紹介すると言った直後、勢いよく扉は開かれた。その音はかなりうるさく、扉が壊れてしまうのでは?と思ってしまう程だった。
そして、堂々と勇ましい姿で部屋に入って来たのは金髪の……男。
クラスの全員はその姿を見て目を点にし、呆気に取られた。
まさか、転校生が男だとは思わなかったためだ。茉優も、もちろん驚いた……が、すぐに冷静さを取り戻した。なぜなら、お兄ちゃんとその金髪を比べてたら、圧倒的にその金髪は顔も、佇まいも、その全てがお兄ちゃんの格下だったからだ。
その金髪は何も言わず、目で何かを探しているのか?クラスを見渡す。
──あ、金髪と目が合った。それもしっかりと。
ニヤリと金髪は茉優を見て笑うと少し小走りで茉優の目の前まで来る。
「え……?」
なに?
「オウ!久しぶりだな神楽坂 茉優!オレの事……覚えてるよな?逆に今まで忘れられなかったよな?」
こんな金髪見た事ないし!誰よっ!?
それに、やたら光っている宝石?を身に付けていてやたら眩しいし、口調も荒い。それに、お兄ちゃんほどカッコイイとは言えない。
ハッキリ言って茉優のタイプは黒髪でスマートで優しい性格…………言わゆるお兄ちゃんなので、この金髪なんて眼中に無かった。
そのため興味すら分かない。
「は?誰?人違いです。」
茉優は日頃のストレスでピリピリしていたが、学校ではなんとか我慢して生徒会長という皮を被っていたのだが、それが一瞬で剥がれ落ち本音が口から出てしまった。
茉優は慌てて両手で口を塞いだが、もう遅かった。
口から出てしまった声はこの金髪含め、クラス全員の耳に入ってしまった。
一瞬にしてクラスは凍りつく。
生徒会長の暴言というのもあるが、そんな事よりも男に対して女の茉優がそんな態度を取って良いのかという恐怖のためだ。
もちろん、これは絶対にダメだと茉優にも分かっている。お兄ちゃんにもこんな態度絶対にしない。だけど、この金髪には何故か強く言ってしまった。
茉優は焦り、身構える。いつ腕が飛んで来ても防御ぐらいは出来るようにとだ。
だが──
「くくっ、ははっ。このオレの事を忘れてるのかよ!?お前やっぱり面白いな!男のルールを破ってここに来てよかったぜ!」
茉優はこの金髪がブチギレすると予想した。だけど、コイツは全く気にする様子もなく、ただただ笑った。
何コイツ?バカなの?
茉優はかなり困惑する。
クラスの人達もそうだ。
「あの──」
茉優はすぐに冷静さを取り戻し、中学校の生徒会長という皮を被り直す。そして、すぐに謝ろうと声を掛けようとするが───
「───はいはい、まだ、自己紹介もしてないですよね金城くん?そろそろ授業も始まるので、自己紹介をお願いします。」
痺れを切らした担任の先生が茉優の言葉を遮り、声を発した。
「ちっ、ヘイヘイ、分かりましたよ。」
なんだコイツ?私に話しかけてきた時は無邪気な子供のように楽しそうだったけど、先生と話している時は冷めた表情で興味が無いのか元気がまるで感じられない。
それに、茉優の声を遮られた事にイラついたのか舌打ちもした。
何度でも言える。なんなんだコイツは?
「オレの名前は金城 煌輝だぜ。よろしく頼むぜ。」
金髪は茉優の目の前で短い自己紹介をした。
「そして、俺がここに来た最大の目的はお前だッ、神楽坂 茉優!」
そして、金城 煌輝は最後にそう付け足し、茉優のことを指さす。
「は?」
また、茉優の本音が漏れる。
コイツ?この中学校に来た理由は私?意味がわからない。あ、そうか!分かった。本当は私じゃなくて、私のお兄ちゃんと関係を持つ為に私と接触してきたのか?
それなら有り得るかもしれない。いや、絶対にそうだ!
「それでだ!神楽坂 茉優、いや、茉優!お前、俺の物にならないか?」
「ふぇっ!?」
一瞬にして茉優の頭の中の考えがどこかに飛んで行く。
突然の告白?のようなものに茉優はどのように答えるのかとクラスの全員が固唾を飲んで見守る。もちろん、答えはYesだろうと煌輝含めクラスの全員が思っただろう。
だけど───
「え……嫌ですけど。だって、私には心に決めた人がいるので!」
茉優は、はっきりと断った。
一切煌輝の事は考えていない。反射で反応し、即答した。
再び凍りつく教室。いや、絶対零度なのか?と思うほどの空気だ。その空気感にビビるクラスの人達。
「は……はっ、流石だな。その固く閉ざされた城壁を一点突破して一気に陥落させてやるから今に見てろよ!」
少し動揺したが直ぐに気を取り直したのか、大きな声で、例えの意味がよく分からない事を宣言する金髪。再び反応に困る茉優。
「まず……座ったら?そろそろ授業始まります……けど?」
なので、1回落ち着かせる事にした。
「オウ!オレの席は空いている席……つまり、隣だな!」
「え!?私の隣って、確か……」
茉優の席は1番後ろの窓側の2番目の席だ。
茉優の隣にはもちろんクラスメイトが座っているはずだ。
あ…あれ!?
さっきまでいなかったクラスメイトがいない。
そして、今まで空いていた席に移動していた。
「へへ!席交換してくないって話したら快く交換してくれたぜ!」
八重歯を出して笑う金髪。
その無邪気な姿は昔のお兄ちゃんと少しだけ、ほんの僅かだけ……重なるような気がした。
少しだけ心が引き寄せられる気がしたが、すぐに心を正し、前を向く。
「そうですか。それは良かったですね。」
コイツに構うと、後々大変な事になりそうだ。そう素早く判断した茉優は金髪には必要最低限な対応しかしない事にし、極力無視をする事に決めた。
ずっと無視し続ければそのうち金髪も自分に飽きるだろう。今はそんな甘い考えの茉優だった。
だけど……この金髪相当我慢強く、茉優をこれから悩ませ続ける元凶となる事に、まだ初日の茉優は気付かなかった。
☆☆☆
ここ数日。本当に金髪に付きまとわれてハッキリ言ってウザイ。でも、男だからという理由で茉優は何も言わない。ただ、無視をするだけだ。でもそろそろ限界かもしれない。
それに、金髪と茉優の悪い噂が広がっても来ている。初めに金髪にあんな態度を取ってしまったからだろう。
そのため今の生徒会長という名声や地位も少しだけ危ういかもしれない。出来るだけ悪い噂が広まるのは茉優自身阻止したいところだけど、それで自分の僅かな時間を消費するのは嫌だ。それに、そろそろ生徒会長という大役も終わる頃だ。地位なんてもう勉強さえ阻害されなければ問題は無いはず……だろう。
この金髪の事を、お兄ちゃんに相談してなんとかしてもらおうと思ったけど最近お兄ちゃんはすごく忙しそうだし……妹である私が迷惑を掛けるべきでは無い。それに、まだという事だけかもしれないけど茉優自身の被害も今の所出ていない。だから、被害が出れば相談すれば良いだろうと考えている。
大体時間の空いているお母さんに相談しようかなとも思った。だけど……相談してもしょうが無いと思ったのでやめておいた。
はぁ……まず、しばらくは様子を見つつ勉学に励もうと思う。だけど、どうして金髪は自分を狙っているのだろか?私って何か……したっけ?と前々からずっと考えていたけれど金髪と繋がるような事はしていないと思う。じゃあ、どうして?と考えれな考えるほど疑問は深まるばかりで答えは出ない。
直接金髪にも聞きたくないし……
はぁ、どうしようか。
どうすればこの悩みが早急に解決できるだろうか?
最近、茉優の頭の中でその解決法を模索する事が多くなった気がするな。
金髪の影響が、次のテストに響かないといいけど……
茉優は毎回喋りかけてくる煌輝の事を普通にガン無視しながら、そっとため息をつくのだった。
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