第135話 女王様!?


次の日の朝。

今日は休日で、夜依は部活で出掛け雫はまだ睡眠中。葵は鶴乃と遊んでいる。

そんな中俺は家の庭で藤森さんと2人っきりでいる。


「どうして昨日はどこにもいなかったの?昨日に限ってかなり大変だったんだよ?」


俺はまぁまぁ強めの愚痴を藤森さんに言う。

藤森さん達6人の護衛は昨日、霧雨の降る日に誰もいなかった。いつもだったら、最低2人は外にいて俺の事を護衛してくれているはずなのに…だ。


今回は雫達3人がいてくれたから、鶴乃の事は何とかなったけど、もし3人がいなかったらと思うと相当な危機的状況だったのだ。


まぁ、もうそれは過去の事で変えられない未来だ。

だけど一応、そういう事もしっかりとチェックしてくれと現男会副代表の皇さんに言われている身の俺は、しょうがなく事情を護衛6人の代表者である藤森さんに聞く。


「優馬くん……報告は聞きました。確かにあの時、私達の誰もここにはいませんでした。でもそれには大きな理由があったのです。」


藤森さんは顔を真っ青にして言う。別に俺から怒られるのは我慢するのは耐えられるし、構わないだろうけど、それよりも俺がこの事を国に報告して今の立場から退けられることに恐怖しているのだろう。


俺の護衛という仕事は、藤森さん達特別男護衛官にとって今の所1番人気な仕事らしく、その競争を何とか勝利し勝ち取った最高の地位だと前に藤森さん達から聞いた。


「理由?」


ちゃんとした理由で無ければ俺は、国に報告して怒ろうと思う。ここは妥協してはダメだと言う事は分かっている。たまには俺も心を鬼にしなければならないのだ。


「それは……」


一呼吸置き、藤森さんは答えた。


「ある大物の対処に私達が借り出されていました。」

「大物の対処?」


それって、俺の護衛の任務を放り出してまで借り出される事なのか?それとも、適当な理由付けで俺を騙そうとしているのか?


「で?俺よりも、その大物を選んだんだね。」


今の理由を聞けばそうなる。


「うっ、すみません。でもまさか、優馬くんがあんな雨の中に1人で出掛けるというのは完全に予想外の出来事で……」

「あ……ぐっ……それは……まぁ、すいません。」


まぁ、非があるのは藤森さん達だけど、俺も多少は悪いな。


「ですけど、その大物と優馬くんはどうやら関係があるらしいんです。だから、その情報を持つ私達が借り出されたのです。」


そう、藤森さんは付け足した。


「一応聞くけど、その大物ってなんなの?」


俺って、別に偉い人と知り合いでもないし、芸能人とか全く知らないしな。


「大物は……ある一国の女王様です。」


……?…………?


「もう一度お願いしていいですか?」

「はい、その大物はある一国の女王様です!」


……?………はっ!?


聞き直してようやく理解出来た俺。


「女王?何それ?それと俺に何の関係があるの?」


1番初めに浮かんだ疑問を藤森さんに問い掛ける。


「優馬くんはあのテレビ放送でネットに顔を晒してしまったので。ほぼ全世界の人間に顔が知られていると考えていいんですよ。」

「まぁ、そうだね。俺は覚悟の上だったからね。後悔なんてしないよ。……続けて。」

「はい、それで……ある一国の女王様が優馬くんに一目惚れしたらしく……」


はぁ……

俺は心の中で大きめのため息をつく。


「そうですか……」


俺は淡々に返す。だって言い方が悪いけど、男に一目惚れなんてこの世界ではざらにある事だろう。それがその女王様にも、例外ではないということだろう。


「ですが、ここからが問題なんです。その女王様は一度決めたことは最後までやり通すというわがままな性格のようで、昨日急遽来日されたのです。」

「へぇー、そうなんだ。」


俺は他人事のように話を聞く。

その時は藤森さんを怒ろうと考えていたためだろうか、興味があまり湧かなかった。


「そして、すぐにでも優馬くんに会わせろと言ってきたんです。流石にそれは無理なので、せめて周りの事情を知っている私達が借り出され対応したと言うことです。もちろん、これは極秘な事で、もしかしたら国際問題に発展する可能性のあるとても重要な事だったんです。その国の女王様には後日連絡するという事で納得してもらい、帰国してもらいましたが厳重注意なんです。」

「だから、家にはいなかったと……ふーん。分かったよ。今回は俺も少し悪いから、別に国に報告とかはしないけど、今度は気を付けてね。君たちがいるから安心して俺達はこの家に住めているんだから。」

「はい……重々承知致しました。今後ともよろしく願いします。」


そう言って藤森さんは頭を下げた。


「あ!そうでした。優馬くんの個人情報はほとんど漏らしていませんし、国にも情報漏えいはしていないと豪語しています。それに、この国に立ち入るためには特殊な手続きをしなければなりません。そのため、この国に立ち入ることはしばらくは出来ないはずです。」


最後にそう付け足した藤森さん。


じゃあ、しばらくはその女王様?のことは覚えて置かなくていいと言うわけだね。


「分かった。じゃあ、またその女王様?が何かしてきたらすぐに連絡をお願いするよ。」

「はい、任されました。」


そう、話をし藤森さんは護衛の仕事に戻って行った。


☆☆☆


俺は自室に篭もり、課題をする。

ただ、簡単なのですぐに終わる作業でしかないけど。


───ポロンッ!


俺のスマホの着信音が鳴った。


「お?」


俺はすこし、驚きの声をあげる。


俺は沢山の女の子と連絡先を交換していてスマホには大勢の連絡先が入っていて、毎日ものすごい量のメールが送られてくる。

でも、流石にそれを毎日返信するなんて不可能なので、雫に通知OFFという設定の仕方を教えてもらった。ついでに親しい人の着信音も分かりやすいように色々と変えてもらった。こうすれば、重要な連絡も分かりやすい。


そして、今来たこの着信音は新規の人がメールを送ってきた用の着信音だった。


たまーに、こういうのがあるんだよな。

まぁ大体無視か、即削除だけどね。


どこで、俺の情報を知ったか分からないけどそういうのをする人は危ない事しかしないと、相場は決まっている。


それに、ネットでは顔が見れないから相手がどうゆう心理なのかが一切分からない。だから怖いのだ。俺はネットでは顔見知りなどの知っている人じゃないと絶対に信用しないことにしている。


まぁそんなこんなでメールはそこまで好まない俺だけど、


「暇だし……見てみるか。」


たまたま、暇だったのでその新規の人を見てみる事にした。


コトダマを開くと、新規の人のアイコンがTOPに来ていた。

アイコンはなんだろう……旗……あ、国旗か。でも、見た事ないな。


新規の人のアイコンは俺が見た事もないような独特な国旗だった。結構カラフルだし、至る所に星が鏤められている。なんだか、面白そうと思い。早速、タッチして画面を開く。


お、早速メールが送られてきてるな。


“初めまして、わたくしCharlotteシャーロットIdyllshireイディルシャイヤ、イディルシャイヤ王国の現女王です。気軽にシャロとcallしくださいね。”


そう、初めの挨拶が送られて来ていた。


「………………えっ、えぇっ!!」


俺は、自分の部屋で無意識に驚いてしまう。

えっと、さっき藤森さんと話していた人?え?でもなんで?藤森さん俺の情報を一切漏らしていないって言ってたしな。


まさか嘘か?いや、でも……あまりにも辻褄が合うし。


即削除か、話をするかで迷う俺。


てか、そもそもイディルシャイヤ王国って何?

確かそんな国なかったと思うけど……もしかして俺の単純な勉強不足か、それとも転生する前の世界には存在しなかった俺にとっての未知の国か?


色々と頭の中で疑問が浮かび、“!?”と送るとすぐに既読が付き、返信が来た。


“Surpriseするのも仕方が無いです。コレは私のわがままなんですから……

それと、昨日はごめんなさいと国の皆さんに伝えて置いてくださりませんか。”


なんか、やっぱりこの人本物の……女王様なのか!?

こんなに情報を知ってるっていうことは本人しか有り得ないなと思う。


でも、なんだろう……ただ、わがままな女王様っていう訳でもないんだな。文字からそれが分かった気がした。


“了解です!伝えておきます。”

“Thank you!感謝します。”


言葉と共に、何かはわからないけどらキャラ物のスタンプが送られてきた。


“それにしても……本物だったんですね。”

“Yes!だから、言ってるじゃないですか!!”


信じていなかった事に少し、女王様は不機嫌なようだ。


“すいません、あまりにも日本語が上手で、外国人になりすますのが下手くそな日本人だと思ってました。”


そう考えると、所々英語の部分があるけど、すごく日本語が上手だと思う。


“私、very、very頑張りましたからね!”


俺も多少だけど英語は話せるはずだと思う。恐らく日常会話程度だろうけど。


“じゃあ、俺も英語で返信した方がいいですか?”


その質問に、高速で返信が来る。


“No problem!大丈夫です!

それで、唐突ですが……私とぜひ、friendになってくれませんか?”


んーっと。本当に唐突だな。なんか、藤森さんの言っていた性格から想像した俺の女王様像にどんどん重なっていくようだった。


“フレンド?友達?俺と…………ですか?”

“Yes、Yes!私はあなたとbest friendになりたいんです!”


そう言われ俺はスマホ画面からそっと目を逸らす。

friend……友達……か。

俺は、一目惚れで自分はわがままだと言う女王様にはもっとすごい内容の事を言われそうだと思ったので、思ったより平凡なことで逆に驚いてしまったのだ。


“いいですよ!”


俺はすぐに返す。断る必要性が無いからな。


“Really!? Thank youで、ございます!”


ん?興奮しているのか、意味は伝わるけど言葉はごちゃごちゃになってる。文字ではあまり実感が湧かないけど、すごく嬉しがってるのかな?


“そうだ!俺の名前、教えていなかった……ですよね?”

“Yes、ぜひ、Please tell me!”

“分かりました。俺の名前はyuma kagurazakaです。よろしくお願いします。”


名前は分かりやすいよに、英語で伝えた。


“OK!very good name!わかりました、ユーマ。これからよろしくお願いしますね。最後に……日本語合ってますか?とても日本語difficultで……私、心配なんです。”

“はい。完璧です、シャロさん。すごい!”

“Thank you!ユーマ。ユーマのためにOne weekほど女王のjobをstopさせて、勉強に費やした甲斐がありました。”


おぉ、1週間で日本語をほぼほぼマスター……かよ。

それってかなり天才なんじゃないの?

俺には絶対に無理な事だけど。


“これからも、いつでもユーマが好きな時でOKなので、メールでやり取りしていきませんか?”


シャロさんがイディルシャイヤ王国の女王様という事は確実だ。まぁ、そんなこと関係なく、何となく彼女とは馬が合いそうな気がした。

まぁ、直感だけど。


“もちろんです。シャロさんからも積極的にメールをして下さって構いませんので沢山話をしませんか?”


シャロさんのイディルシャイヤ王国という国の特色とか生活様式、場所、宗教、名物、食事とか色々と知りたいし、現女王様の仕事のノウハウとかを男会代表で活かせそうだしぜひ聞いておきたい。


“off course!”


文字からも嬉しさが伝わってくる。


“それと、ユーマ!敬語はNoですよ。私とあなたはsame yearで、今はただのfriendなんですから!”

“わ、わかったよ…………シャロ。”


今まで、シャロ……のことは歳上だと思ってたし、女王様という立場にいる人に向かって、敬語も使わずに話しかける事なんて俺には出来る訳が無かった。


だけど、その本人から同年齢で、敬語は不要だと言われたので、しょうがなく敬語は取り払って普通に話そう。これはしょうがなくだ。


“Perfect!敬語が無くなると一気に距離感がnearになりますね!”

“はは、そうだね。”


それから、イディルシャイヤ王国の女王のシャルロット=イディルシャイヤ、通称シャロとの数分間のメールのやり取りを夜の日課にする事にした俺。


シャロとのやり取りは案外楽しくて、それが毎日の楽しみにへと変化していく……かな。

でもいつか、彼女と会って2人っきりで話をしてみたいなと思った。


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