第131話 親御さんに挨拶~葵編~
雫のお母さんに挨拶をした次の日。
今日は葵のお母さんが来る日だ。
今日は休日で、葵以外の雫と夜依はここに住んでいるのでもちろんいる。だけど2人には自分の部屋にいてもらっている。
さっき連絡を貰って今日の午前中に葵と葵のお母さん、そしてさらに葵の妹が来るらしい。
俺はその連絡で初めて葵に妹がいたことを知ったんだけど…
あ、だったら……と思い俺はスマホで連絡をとった。
これから関係がずっと続くはずだと思うし、1回会っておいた方がいいかなと思ったからだ。
☆☆☆
「失礼します…!」
「ひ、失礼します!!!」
葵、葵のお母さん、葵の妹は俺の待つリビングに入ってきた。
2人とも、葵と同じ緑色の髪と目で、少し弱気な雰囲気を漂わせオドオドしている。見た目も似ているのに性格まで似てるのかこの親子は……!?
雫の方は性格がまるで違かったのにな。
「ほ、本物だよ、お母さんテレビに映ってた人だよ!!!」
「そ、そうね。
2人はコソコソと言う。
「でも、男の人って荒れ狂う獣って言われてるんだよね?最近私の学校でも少しだけ噂になってるもん。危険じゃないの?」
「そ、そうなの!?」
葵のお母さんと妹は2人で手を取りながら、まるで小動物のように俺の事を見つつ、震えながら言う。
えっと……俺は荒れ狂う獣なんかじゃないんですけど……
なに…そんな変な噂が中学校には流れてるの?
茉優のとこにも流れてないといいけど……
だって、そんな噂が流れていたら茉優が黙っていないはずだと思うし、そんな事でトラブルを起こして茉優の将来に傷を付けたくないのだ。
そういうのは次の臨時の男会とかで会議し、国に報告して払拭して行こうと思う。
「大丈夫だよお母さん、青葉。優馬君はそんな怖い人じゃないから!!」
葵がフォローし2人のことを落ち着かせる。
「えっと……まずは座りましょうか…?」
さっきから立ちっぱなしで俺の話が全然進められなかったからそらそろ座って話したかった。
「そうだね優馬君の言う通りだから2人も座って!!」
葵の言葉に2人は無言で頷き、座った。
葵は俺の隣で、残りの2人の座った場所は俺からなるべく離れた所でここまでビクビクされるとなんだか悲しくなって来るな。
「早速話を始めさせて頂きますね。」
──ビクッ
2人は俺の声で驚く。
まさかここまで男に耐性がないとはね…当たり前って言えばそうなんだけどね。
でもここまで来てもらったんだ。話はちゃんとして了承してもらわないといけない。
「単刀直入に言います。俺に葵をくれないでしょうか?」
シンプルに分かりやすく言った。
顔には出てないけど内心ドキッドキッで冷や汗が止まんないけど。本当だったら本題に入るのはもっと、ちゃんとしてからにしたいけど今はすぐに本題に入った方がいいと判断した。
「はぅえっ…!」
「ふうっ!!!」
俺の言葉を聞いて頭を抱えながら葵に詰め寄る2人。
「葵、もしかしてあなた彼の弱みでも握っているの?それとも握られているの?」
「握ってないし、握られてもないよ!!」
「そうだよお姉ちゃん。お姉ちゃんがこんなカッコイイ人と結婚なんてありえないよ!!!」
「それは…まぁ、色々、あったの!!」
2人の質問にすぐに答える葵は大変そうだ。
俺は完全に蚊帳の外かな。
それに、こういうのって予め前日とかに話し合ってくるもんじゃないのかな?葵はちゃんと2人に話したと思うし、今日この瞬間まで2人は嘘だと思ってたのかな。
「ほら、早く言って!!」
葵に急かされ2人は覚悟を決めたのか散々怖がっていた俺に近付き俺の事を見る2人。
「そ、そ、その…葵の事をよ、よ、よろしくお願い
します。この子は不器用で、不運体質で、臆病で、気が小さくて、勉強も運動神経も並でいい所なんてほとんど無いと思いますけど……ちゃんといい所もあって、人間として大切な他人の気持ちに共感できたりだとか自分の気持ちをちゃんと伝えられる事だとか……沢山あるので。どうか葵の事を幸せにしてあげてくださいね…!」
「わ、私からもあの運の悪いお姉ちゃんの事よろしく…お、お願いします!!!」
「お母さん。青葉。私はもう不運体質や運が悪いなんて思わないよ。だって優馬君に会えたこと自体がものすごい幸運なんだから。だから安心して、私は変わったから!!」
葵は一切躊躇うことなく堂々と言った。
「葵、変わったのね。…!」
「うん…全部優馬君のおかげだよ。」
「そっか……そうなんだ。あの葵が……」
葵のお母さんは葵の言葉を聞いて満足したのか今まで怖ばっていた表情が少しだけ緩み昔を懐かしむような笑みを浮かべた。
「優馬さん…!」
今度は真剣に真面目にそして素直に俺の事を見据える葵のお母さん。
「は、はい。」
俺も喝を入れ応える。
「葵の事、これからよろしくお願いします。この子はすごい幸運の持ち主でこれからもその幸運が続くようにいっぱいいっぱい幸せにしてあげて下さいね…!」
葵のお母さんはさっきの言っていた言葉を否定するように言った。
「分かりました。この俺に任せてください。」
俺は葵のお母さんの期待に応えられるように頑張って幸せにしないとな。
☆☆☆
「それで……ずっと気になってたんですけど質問いいですか?」
葵の妹の青葉が俺に聞きたい事があるらしい。
「いいよ。」
婚約の許可を貰ったのでもう俺の義理の妹という事になる青葉からの初の質問だ、義兄としてちゃんと答えないとな。
「えっとですね…優馬…さん?御兄さん?君?」
っと…その前に俺の呼び方に困る青葉。
「呼び方は俺が呼ばれて分かればなんでもいいよ。」
そうだ!雫達の俺の呼び方はもう定着しつつあるけど、あだ名とか付けてもらいたいな。
例えば鈴木 和也だったらカズとか、カズっちとかだったね。
前はそう呼ばれていたので、ここでもそういうのをしてもいいなと思う。逆に俺も皆にあだ名を付けてみたいし。今度この家の生活にも落ち着いてきたら提案してみようと思った。
「そ、そうですか。じゃあ御兄さんは一人っ子なんですか?」
御兄さん…か。なんだか、むず痒いな。
「じゃあ俺も青葉って呼ぶけど、いいかな?」
「いい…です。せびですよ!!!」
顔をぽっと赤くさせ答える青葉。
「分かった。それで青葉の質問に答えるけど俺は妹がいるから一人っ子ではないよ。」
「やっぱり…その人って、もしかして神楽坂 茉──」
青葉が何か確信したようで何か言いかけた時、
「───お兄ちゃんっー!」
血の繋がった本当の妹である茉優が勢いよくリビングに入って来た。
「え…!?!?」
「え!?」
「ええっ!?」
突然の茉優の登場に俺以外の全員が驚く。
あれ、登場したばかりの茉優まで驚いているんだけど…これはどういう事だ?
茉優は俺では無く青葉と顔を合わせていた。
俺はその表情を見るに2人とも顔見知りのような感じだった。
そして数秒後に、え…なんで?という顔をして俺を見て状況の説明を求めてくる茉優。
「えっとね。今日茉優を呼んだのは葵の妹の青葉が中学生って聞いたから、妹同士すぐに仲良くなって欲しいなって思って茉優を呼んだんだ。」
俺は茉優を呼んだ経緯を説明する。
「お兄ちゃん…あの電話は嘘だったの?」
「いや、2人きりで出掛けようって言うのは本当だけど別に今日じゃないよ。茉優はこうでもしないと来てくれないだろう?」
葵達が来る数十分前に茉優に電話をしてこう伝えたのだ、“2人きりで出掛けないか”と。
「うぅ。騙された。…酷いようお兄ちゃん。」
悲しそうな表情をする茉優。
だけどそれ以上に青葉の表情は驚愕の表情を崩さない。
「その…茉優…生徒会長…ですよね?」
青葉がようやく落ち着いたのか茉優に話しかけて来る。
「そうですよ。神崎さん。お久しぶりですね。」
切り替えの早い茉優。俺用ではない少し冷酷な声で言う。どうやら2人は顔見知りのようで間違いないようだ。
「もしかして2人は同じ中学校なのかな?」
「そうだよお兄ちゃん。」
あらあら、更に切り替えの早い茉優さん。
ちょっとすごいと思う。
「はい、御兄さん!!!」
青葉も茉優に続いて言う。
青葉はどことなく嬉しそうだ。茉優に会えて嬉しいのかな?
「“御兄さん”?どういうことかな、お兄ちゃん。」
更に更に切り替えの早い茉優さん。ドスの効いた声で俺に聞いてくる。茉優の後ろには般若の亡霊みたいなものが見えてかなり恐ろしいんだが……
「あ。あぁ。別にいいんじゃないかな?これから義理の妹になる事なんだし?」
「ふーん。」
茉優は俺が御兄さんと呼ばれる事を許可していることに全く納得いっていないようだ。
「じゃあ、私勉強があるから帰るね。」
「あ、うん。邪魔して悪いね。」
どうやら仲良くなるという俺の思惑は失敗のようだ。だけど、妹同士の顔合わせは出来た。これから少しずつ仲良くなっていってほしい。
「──ちょっと待って下さい茉優さん。」
だけど、忙しそうな茉優を青葉は止めた。
「なんですか青葉さん?」
若干イラついていたのかいつもより反応が強めの茉優。
そのイラつきが向けられている対象でも無いのに少しだけ俺はビビってしまう。まぁ、ビビりだと思われたくないから頑張って顔に出さないようにはしているけどね…
「その、私の事知ってくれていたんですね!!!」
だけど青葉は全く気にしている様子は無い。
明るい声で茉優に聞く。
「生徒会長として同じ中学校の生徒を覚えるのは当たり前です。それに、青葉さんは国語のテストで常に1位を取り続けている秀才で、私が1度も国語で勝てたことの無い人なんですから。尚更です。青葉さんの事は忘れた事はありませんよ。」
「いやいや、私なんて国語だけですよ。そのほかの教科は本当に微妙なんですから。」
「そんな事はないです。一教科でも武器になりうるのだったらそれは素晴らしい事ですから。」
「っっ!!!」
茉優の言葉に感銘を受けた青葉。
「それでは私は勉強があるので帰りますね。お兄ちゃん、2人きりで出掛けること私は忘れないからね。」
「お、おう。分かったよ。」
2人きりで出掛けることを改めて念押しされ、茉優は再び帰ろうとする。
「あの、茉優さん。わ、私も一緒に帰っていいですか?まだお話したい事、いっぱいあるんです!!!」
どうしたどうした!青葉がかなり積極的なんだけど。今日会ったばかりで青葉の性格の全ては理解している訳では無いけど、こういう自分からグイグイと行くというのは青葉にとってかなり珍しい方なんじゃないのかな?
「別に構いませんけど…」
茉優も特に嫌そうでは無く、普通に了承した。
「じゃあ行きましょうか。お母さん、私歩いて帰るから先に帰ってていいからね。」
そう青葉は葵のお母さんに伝えて2人はリビングを出て行った。
「え……っと。」
取り残された俺と葵と葵のお母さん。
「2人って知り合いで仲が良かったんだね。」
「そ、そうですね…知らなかったです。でも、青葉のあの積極的な態度…初めて見ました。前に青葉は憧れてる人がいるって言ってたんですけど、もしかしたら茉優さんだったのかもしれませんね。」
「ははは、同じ中学の同級生だったらあり得るかもね。それで義姉妹になれたのだったら運命だよね。」
「そうですね!!」
俺と葵は茉優と青葉の話や雑談をしながら少しの時間を過ごした。
「そうだ、近日中にでも葵に婚約者の証をプレゼントしたいんだ。休日のどっちか予定を空けておいてくれないかな?」
「はいっ、もちろんです!!」
葵はものすごく嬉しそうに返事をし、よほど嬉しかったのか俺に抱きついてくる。
「はひゅぅぅっ…!」
それを目の前で見ている葵のお母さんは遂に頭がキャパオーバーしたのか顔を真っ赤にし、頭から湯気を放ちながら気絶してしまった。
「お、お母さん!?しっかりしてよ!!」
そんな感じで、葵の家族への挨拶は終了した。
結果は雫と一緒でOKで、この家に今日から葵が住む事も後から許可を取りOKだった。
これでこの新居に雫と葵が正式に住むことが出来る。緊張の2日間だったけど、何とか乗り越えた俺は安堵の溜息を零した。
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