第129話 突然始まった特別休学!
夜の早めの時間に雫と葵は帰り、夜依と2人で過ごした。だけど、別に何も無かったぞ!?今日は引越しで色々と疲れてたし、藤森さん達数人も護衛でいたからね。
新たな護衛の藤森さん達が来てから次の日……
3人は1回ここに集まってから学校に行き、俺は家に1人で残っている。
外には今日が護衛担当の榊原さんと近藤さんが護衛してくれているらしいという連絡を貰った。外を見ても人の気配はしないけど……たぶん気配を消す特殊な訓練を受けているからだろう。
それに……俺は左手に付けた黒い時計を見る。
俺には緊急事態の時にすぐに護衛の人達に連絡が取れるようにと、国が特別に制作した俺専用の時計を身に付けている。
この時計は一見ただの時計だが様々な機能がある。今言った緊急事態用のスイッチをはじめ、GPS機能、スマホと連動する機能、弱めのスタンガンが内蔵されている。さらに着け心地が最高で重さもほとんど無い。まさに万能時計だ。
壊れて使えなくなったけど、前にお母さんから貰った時計の上位互換のようなものだ。
純粋にフォルムもスマートで色合いも黒でカッコイイので俺のお気に入り決定だ。
だけどなぁ……突然始まった特別休学というのは実につまらないものだ。
この特別休学は俺が迷惑や心配を皆に掛けないようにするための学校側からの措置なんだけどさ。毎日出されるすぐに終わる少量の課題を軽くこなすと、後の時間が暇なんだよな。復習とか予習。鈍った体を鍛えたりするけど3人が帰ってくる時間にはまだ達しない。
なので、俺は余った時間で今日の予定を考える。
今日は雫の親御さんが家に来て、その……挨拶をする予定なのだ。その次の日は葵の親御さんとも…だ。
そのため朝から緊張と不安で心がいっぱいだった。
その緊張を少しでも和らげるために別のもので紛らしていたのだけど、緊張がどうしても勝ってしまうな。
ふぅ……そう、深呼吸をしながら俺は3人の帰宅を待った。
☆☆☆
その頃、妹の茉優は中学校で授業を受けていた。
茉優は現在中学3年生で二学期に入った今、そろそろ受験勉強を開始しなければならない時期になってきた。
茉優も目標の高校があるのでもちろん勉強に励む。
茉優は中学校では常に勉学では首位をキープし続け、厚い人望と信頼があって生徒会長もやり、さらに超がつくほどの強豪サッカー部のキャプテンとしてこの前は全国を取った。
そんな真の文武両道や天性の才という言葉が似合う茉優だが最近ではあの男会の放送で、茉優は優馬の実の妹だという事がばれ、その事が中学校中に広まってしまった。そのため今までもかなり忙しかった茉優は更に忙しくなった。(特に優馬の事で女子が色々と聞いてくるから。)
そして、男会代表である優馬の妹ならば絶対に弱みを見せてはいけないと思うようになった。なぜなら優馬の評判を自分のせいで落としたくないからだ。
茉優は優馬の事を万能で知的。どんな事も自分の想像を余裕で越えてくる偉大で大好きなお兄ちゃんと思っている。だが、その感情が重い重いプレッシャーになることによって茉優の身に纏うことになった。
今日も茉優は生徒会の仕事を難なくこなしながら、キャプテンとしてチームの事を頭の片隅で考えつつ、勉強も進める。
実際かなり忙しいがその忙しさを強く醸し出すことで人が近付きにくい雰囲気を作っていた。そうすれば気を使って人は近寄ってこない。
今は踏ん張りどころなのだ。のこりの半年と少し……誰にも邪魔されたくないのだ。あと少しで生徒会の仕事も終わり、部活も世代交代がある。そうなれば受験1本にのみ集中出来る。
だけどお兄ちゃんはもうあの家には住んでいない……
新居に引っ越してしまったからだ。
あの時はお母さんと一緒に空気を読んでそこには住まないと言ったけど……本当は毎日一緒にいたかった。毎日ご飯を作って上げたかった。
なんで……なんで私はお兄ちゃんの隣にいる事が出来ないんだろう。
つくづく思う…なんで私は妹なんだろうと。初めは神様に感謝までした。あのお兄ちゃんと引き合わせてくれたのだから。だけど、いつまで経っても妹は妹。立場は変わらない。どう足掻いても試しても気を引いても頑張っても、絶対に妹から昇格する事は出来ない。
茉優は無意識に持っていたシャーペンを強く握りしめる。シャーペンはピキピキッと悲鳴をあげ壊れそうだ。
周りの生徒は茉優から発せられる、負のオーラに恐怖する。
だけどね。お兄ちゃんと同じ高校に行く事が出来れば……その問題の少しは解決出来ると思う。
今の学力、立場のまま過ごせば確実にお兄ちゃんと同じ高校に進学できる。
そうすればこの……溢れてならないストレスも無くなるだろうか…
☆☆☆
茉優の中学校の校門前──
そこに1人の金髪の男が手提げのカバンを肩に掛けながら仁王立ちしていた。その男は茉優の中学校の男用の制服を身につけている。
「ここがオレのターゲットがいる中学校か……」
そう呟きながら、ニヤリと笑みをこぼしたその男は校舎に向かって颯爽と歩き始めた。
その表情はどこか嬉しそうに感じられる。
彼の名は金城 煌輝。男会前に女装した優馬を茉優の事だと勘違いで興味を持ち、意地で茉優の事を探し出し、まだ中学3年生であるのにも関わらず外に出て無理やりここに編入した男である。
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