第124話 男会決着ッ!
「な……なぜ、十蔵さんが……」
現副代表は驚愕の表情を隠せないでいた。
「おい、神楽坂。この映像どこで手に入れたッ!十蔵さんは、男会の全ての権力を使って捜索中だと言うのに…」
え……そうなの!?
俺は皇さんの事を見るが、軽く無視された……
「えーっと。」
「オイッ!答えろ神楽坂!」
俺が答えに迷っていると、副代表が再び胸ぐらを掴もうとして来るが何とか交わす。
「暴力反対!」
「暴力?これは、男会による男会のための鉄槌だ。」
はぁ、何たる暴挙だよ。
鉄槌とか、逆にコッチがしたいくらいなんだけど。
そんな、俺と副代表の乱闘に近いものが続く中、富田十蔵の映る映像はどんどん進む。
「えっと……全て…白状するよ。ボク…富田十蔵は本当のクソゲスの豚野郎さ。これまで妻にしてきた事の一部を体験したんだけど………本当に心身共に限界さ。こんなのを毎日連続で耐えてきていた妻達の事を思うと、彼が怒る理由が正しかったと今なら思えるよ。
罪滅ぼしではないけど、ボクがこれまでやって来た罪と男会での悪事を全て話すよ。
~~
最後に今更謝っても、もう手遅れだと思うけど。これまで迷惑をかけた全ての人に本当の本当の誠意を込めた謝罪だけはさせてくれ。」
富田十蔵はガラガラに枯れて老いぼれた声で、これまで自分が行ってきた悪事を事細かに説明し、男会のことも話した。最後には頭を床に強く強く擦り付け、摩擦で血が出てさえも止めずに、誠意を示しながら土下座をした。
な……
俺は富田十蔵らしからぬを言動に驚くがそれ以上に富田十蔵側の男達は驚いていた。
「そ、そんな十蔵さんが……」
「え…………間違っていたのか?」
「じゃあ、神楽坂が全て正しい…のか?」
富田十蔵側の男達に強い動揺が走る。
「い、今すぐこの映像を止めろ!」
と、俺に言うが……俺はスイッチを押しただけで、止め方は聞いていないし、例え聞いていたとしても従うつもりなんてさらさら無い。
更に富田十蔵の白状で、男会の富田十蔵側の男達がこれまで働いてきた悪事までも事の公となった。
もう、バカでも分かるほどに決着は着いている。
だが、副代表は今更撤回などは出来ない瀬戸際にいるので、諦める訳には行かない。
副代表は何とかしてこの映像を止めて弁解しようと考える。まだ、数の暴力で何とかなると信じているからだ。
「いや、無理ですよ。」
「我らは高貴な男会だぞ!我に続け男会の男達ッ、今こそ底力を見せつける時だ!」
「「「…………………っっ」」」
副代表はそう叫ぶが、富田十蔵側の男達は何も言わず、黙っている。
「どうした……なんで黙っている?まだ負けた訳じゃないぞ!我ら男会。こんな所で終わっていいはずかない。十蔵さんはもう終わってしまったが今度は我が代わりに率いて行く。だから、まだ折れるなッ!」
必死に、副代表は言うが……
「ふ、副代表……もう、決着は……」
富田十蔵側の男の1人が副代表に恐る恐る言う。
「ふざけるな。ま、まだだ。まだだぞ。」
副代表は富田十蔵側の男達に何度も何度も呼び掛ける。
「…………」
それを見ている俺には滑稽にしか見えないし、流石に往生際が悪いと思う……
それに、副代表の無様な姿が今も止まることなく放送され続けている事を忘れているのだろうか?
「はぁ、もういいですか?」
俺がそんな事を思っていると、痺れを切らしたのか皇さんが席を立ち副代表に言った。
ついでに富田十蔵の映る映像は止め、うす暗かった会場が明るくなった。
「な、なんだ若造?」
「もう、気付いてないのはお前だけだぞこの老害が!もう、決着は着いたんだよ。」
皇さんの言葉に副代表は苦痛の表情を浮かべる。
「ま、まさか十蔵さんの情報を我ら男会に言わず、神楽坂に提供したのも……貴様だったのか。」
「さー?どーでしょうかね。」
皇さんはすっとぼける。
「き、貴様ッ!!!」
「あー、でもこれだけは言わせて下さい。“さっさとお前達は隠居でもして、ここから消えてくれ。男会は、優馬が何とかやってくれるはずだからな!もう、昔の風潮に囚われている年長者は抜け、若い世代が男会を担っていく。言わば世代交代なんだよ”」
皇さんはキッパリと言い放った。口調はおちゃらけた感じなどではなく、男会代表として…だった。
「す、皇ぃぃぃぃぃぃぃ!」
「な、名前っ!」
副代表は皇さんの言葉に興奮して皇さんの名前を大声で言い放った。
そのため、男会代表の男の名前は皇という事が世間にバレてしまった。
「つ、連れてけ。」
皇さんは、焦って合図をした。
皇さんの合図に、前もって待機していたのだろう、男会を警備していた警察の人が何人も会場に突入してきた。そして、男会の富田十蔵側の男達は連行されて行った。
連行されて行った男達は抵抗せずに罪を受け入れていたが、最後の最後まで副代表は抵抗し喚き散らした。絶対に副代表は諦めなかった。その、強靭な信念だけは認めてあげるけど……どうすることも出来ないよね。
だって、その信念は間違っているのだから。
彼らはこれからどうなるのだろう…。皇さんが言っていた通り、隠居という名の追放になるのだろうか。
でも、あの中には富田十蔵と同じような事をしてきたやつも大勢いるだろう。その罪はしっかりと受け入れ、裁かれるべきであると俺は思う。だから、警察の人がしっかりとその男達の身の回りを調べあげ、罪を見つけ出して欲しい。
☆☆☆
「はぁー、スッキリした。これまで溜まってたアイツらに言いたい事が直接言えて今はすごく清々しい気分だよ。」
皇さんは仮面越しからでも分かるほどの満面の笑みだ。
副代表ら、富田十蔵側の男達が会場から強制退出されると同時にテレビ放送も一時中断となった。
俺と皇さんは作戦会議という事で一旦会場を退出している。
もう、俺はこれで男会を閉じても良かったと思うんだけどどうしても皇さんがそれを譲らなかった。
「へー、そうですか。で、あのー。聞きたい事があるんですけど……さっき皇さんが副代表に言っていたことで、一部気になる所があったんです……」
「ん?」
「なんで、副代表にこれからの男会は皇さん自身が率いて行くんじゃなくて、俺の名前を使ったんですか?」
「だって、ボクはこれまで男会代表だったのにも関わらず、副代表達の悪行を止められなかった責任がある。だからボクには、男会をこれから率いて行くつもりというか……その資格は無いんだよ。だから、ボクでは無くて優馬の名前を使ったのさ。」
「じゃ、じゃあ誰が次の男会代表をするんですか?」
皇さんじゃないとなると、恐らく俺の知らない人だろう。だけど皇さんは俺の予想とは全く違う人物の事を言った。
「ボクの目の前にいる。男会を変えるきっかけを作り、ボクが最も期待する男さ。」
「目の前……………って俺ですか!?」
皇さんは俺の事を男会代表にしようとしていたのだ。
「いや…だって、男会代表って色々と面倒くさいんだもの。」
「はは……はぁ。」
全く。これが冗談なら笑えないぞ。
「お、俺には苦重すぎますよ。」
「だけどやらないといけないぞ。だって、今更撤回なんてしにくいぞ。ボクがカメラの前で“優馬が”って言ったんだからね。」
「ぐっ……中々、酷いですね。」
俺はため息を静かに吐いた。
俺には元から男会代表の席に座らせるつもりだったのか!?
「でも、安心してくれ。年長者が抜けたとしても今の男会は優秀な人材が多く揃っていると思うぞ。ボクが優秀そうなやつは絶対に富田十蔵側には行かせなかったからな。」
自慢げに皇さんは話す。
「じゃ、じゃあ皇さんは副代表になってくれませんか?俺は今日男会に参加したばかりで男会の事を全然分からないんです。それに、今から俺がなる男会代表の役職を1度経験している皇さんのサポートが俺には必要なんです。俺が代表になるのは分かりました、だけど皇さんには代わりに副代表になってほしいんです?」
「えー、面倒くさい。仕事の方は少しの間見てあげる。引き継ぎもちゃんとやる。だから、ボクはやらないよ。」
即答で皇さんは言う。
くっ……なら。
「でも、皇さんの名前ってテレビ放送されましたよね?」
「あ、あぁ。そうだね。副代表め……要らぬ情報漏えいだった。」
と、皇さんは副代表が連行されて行った方向を睨む。
「あー、そうだ。俺が今から行う演説も、もしかしたら緊張とかで皇さんの事を何か言ってしまうかもしれないです~?」
俺はかなりの棒読み感で、弱いけどちょっとした無理を言ってみた。
「それは、ボクが副代表になれば…言わないのか?」
「えぇ。そうですね。」
どうやら皇さんは俺に情報を言われたく無いようだ。
「ちッ、その言葉……信じるからな。」
どうやら上手くいったみたいだ。若干皇さんは不機嫌だけど。
「優馬、最後にお前に言っておくけど、男の誰しもが考え無しのバカなんかじゃないんだぞ。たまには優馬や
皇さんは“ボク”の部分を強調して言った。
「あ……はは。分かりました。」
俺は今まで男は義務教育を自分の意思で受けることを決めるため、男全員が勉強しない道を選び、頭が悪いんじゃないかと勝手に決め付けているふしがあった。
今の皇さんの言葉は核心を着いた言葉で、“頭がいいからってあまり調子に乗るなよ!”と遠回しに言っているような気がした。
「はぁ……ボクの情報が言われたらこれからのボクの、のんびりまったり生活に支障をきたす訳だし…副代表になるって言ってもな……面倒臭いな。」
皇さんは気だるそうにするのであった。
☆☆☆
「えーっと、テレビをご視聴の皆さん。あ、新しく男会代表に就任した、神楽坂 優馬です。さっきまでの放送で、これまでの男の実態、考え方。そして男会の全てが浮き彫りとなりました。
今までの男会は何をしていたんだ?と言いたい人が大勢いると思いますが、男会代表の俺が責任を持って男会を変えて、国に貢献出来るようにして行きますので、もう少しだけ待って下さらないでしょうか。」
俺は再開した男会で、皇さんに渡された原稿を読み終える。だけど、俺の演説は原稿を読んでいるだけだと言うのにたどたどしい感じだった。
何故かと言うと、俺は元々人の前で演説なんて出来ないからだ。集中して、気合いが入っている時は別だけど……いつもの俺は人前だと緊張して口ごもってしまうタチだ。
っていうか……この原稿、予めこの時のために作られていたって事になるのかな?
本当ならありえないと思うけど、何故か皇さんならば予想してそうだと思えた。1回そう思ってしまうとそれが真実になってしまう。
皇さんはやはり、恐ろしい人だ。よくよく考えて見ると、今日の事のほとんどは皇さんが考えていた通りだったのかもしれない。
そして、俺は皇さんの手のひらで良いように踊らされていたという事か……一杯食わされたな、これは。
だけど、そのお返しみたいな事も出来たから別にいいけどね。
俺は心の中でそう思い、皇さんの信頼度がぐぐぐっと向上し、それと同じように恐怖度もぐぐぐっと向上したのであった。
☆☆☆
そんなこんなで俺の初の男会は、年長者の男達は男会を追放され、代表の皇さんが副代表になり、俺が男会代表という役職になる結果となった。
そして、男という存在がよりリアルに世間に知られるようになった。
まだ高校1年生の俺にはかなりの大役なのでこれからの事を思うと胃がキリキリとしてくるけど…まぁ、何とか精一杯、全力で努力してみようと思う。
俺の事をサポートしてくれる人は大勢いると思うし大丈夫だ!そう思うと心強い。
でも、これで富田十蔵との縁はやっと……やっと。完全に断ち切れたはずだ。富田十蔵の元妻達や婚約者の夜依もこの放送を見てきっと喜んでいるはずだろう。
この放送は連日ニュースで報道され、これまでの男の事、そして俺の事はほとんどの国民に知れ渡ってしまった。
そして、この放送がきっかけにして後に大きな問題が発生する事に俺はまだ気付くはずも無かった。
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