第123話 男会開始ッ!
俺は皇さんに呼ばれ、会場に足を踏み入れる。
もちろん俺は仮面などの顔を隠すものは身に付けていない。
会場はやたらと明るく、今まで暗い所にいた俺は目がチカチカし目を細めた。
数秒経ち、目が慣れ改めて場を確認すると仮面を着けた男達が全員俺を見ていて、更に大きな固定カメラが俺の事を捉え撮影していた。
完全に俺は注目の的だ。
「神楽坂 優馬は、中央へ移動したまえ。」
って本名っ。
いきなり本名を大声で呼ばれ、顔、本名まで全国放送された俺は渋々中央へ移動した。俺が今立っている場所はまるで裁判所の被告人とかが立つような所だ。
ここに立つとなんだか悪い人みたいな印象になるけど別に俺は何も悪いことをしていないという自負があるので堂々と正面を見つめ立つ。
お、皇さん見っけ。
俺は正面の裁判官が座っているような所の端っこに、肩身が狭そうにして座っている皇さんを見つけた。あれ……でも、あの人って一応男会代表なんだよな?という疑問を持ってしまう感じだった。
「それでは、今から神楽坂 優馬を公に裁く、男会を始める!」
声は中年の男のものだろう。真ん中に偉そうに座るそいつが大声で会を始めた。しかも、今回の男会の内容まで堂々と言いやがった。
こいつは新しく富田十蔵の代わりに副代表となった富田十蔵側の現親玉である男らしい。
「神楽坂 優馬、貴様は男会副代表兼我ら男の絶対的指導者などで、男会の大切な支柱だった元副代表の家に勝手に乗り込み、暴行し警察に逮捕させた。という史上最悪な極悪男だ。更に男と女は平等だと豪語する愚か者でもある。」
え……っと、何勝手に俺の事を史上最悪な男だって判断してるんだ?……言いたいけど富田十蔵は逮捕されたんだからな?
それに、愚か者って……俺にとっては普通の事と思っているのでなんとも言えない。
「何か反論したいことはあるか?」
「反論ってあたり──」
俺は若干キレながらその全てを反論してやろうと思い、言葉を言いかけていた時。
「ふざけんじゃねぇぞ!」
「あの副代表を!?あんなに、頼れる人をッ!?」
「おい、神楽坂!お前ふざけてんじゃねぇぞ!!!」
後ろにいる富田十蔵側の男達だろう、全力で俺の事を罵倒してくる。
別に罵倒如き屁でもないけど。そのうるさい声のせいで俺の声は掻き消され無くなる。何度叫んでも俺の声は尽く掻き消された。
「反論は無いな。」
そして、俺は反論する時間すら与えらず、反論の時間は締め切られた。俺は改めて思う。圧倒的、数の暴力であると。
「更に貴様はたった1人の女のために副代表を潰した、と報告書に書いてあるがそれは真実か?」
副代表は冗談みたいに聞いてくる。
「ええ。そうですけど。なんか文句あるんですか?」
俺の発言を聞いて、何故か副代表は吹いたのか、仮面越しから口元を押さえる動作をした。
「くくっ……貴様は頭がおかしいのでは無いか?」
その発言に俺は?を浮かべたが……後ろから微かに失笑が聞こえた 。
俺は振り返り見てみると笑いを堪えている奴が大勢……というかほぼ全ての富田十蔵側の男は俺に対し笑っているようだった。
何なんだ……こいつら。
「たった1人の女の為に人生を潰すなんてなんて勿体ない男だ。」
は?勿体ない?なんで?
「おい───」
「くくくっ、もう無理だ。」
「ハハハッ!滑稽。」
「ははっ馬鹿だなぁ!」
俺は声を出そうとしたがついに吹き出してしまった富田十蔵側の男達の笑い声で俺の声はまた掻き消された。
完全に相手のペースだ。俺も声を出して反論したいが、俺が声を出したとしても声を掻き消される。多分そう言う作戦なのだろう。
何か、何か無いのか!
「ならば、判決を下す。貴様は死刑を宣告する。貴様にはあの地獄と呼ばれ恐れられる、極悪で凶暴な女しかいない収容所に強制的に送られる。そこで肉体的、精神的に壊されるといい。そして、ついでに貴様の婚約者達、家族、その他貴様にこれまで関わった全ての女を男会の手によって潰す。それが元副代表を潰した貴様の罪だ。」
「賛成だ!」と、後ろで1人の男がそう言うと富田十蔵側の男達は次々と賛同し始める。
もう、決着がついたと確信したのか現副代表は、仮面で顔は見えないけど確かにニヤリと笑っているのが分かった。
俺は遂に怒りの限界を迎え、ガチの大声で怒鳴ろうと決意した時────
「──お前ら本当にいい加減にしろよッ!」
俺よりも早く怒鳴った人がいた。
富田十蔵側の男じゃない。場所的にそうだった。その大声が会場全体に響き渡り、今までゲラゲラと笑っていた富田十蔵側の男達は突然のことに黙り、一瞬だけ静寂が場を支配する。
俺は急いで、その声のした方向に振り向く。
そこには……仮面をつけていても分かるほど興奮状態の男が立っていて、その人が俺の代わりに言ってくれたのだ。
俺はその人の事を知っていた。
それは俺の憧れで一生尊敬し、支えたいと思えて、ものすごく頼れるカッコイイ先輩の大地先輩だった。
「さっきから聞いてれば優馬の意見すら聞かず、自分達の主張を数の暴力で無理やり通す。本当にくだらないな。」
大地先輩の言葉は誰しもが固唾を飲んで聞いている。今まで散々喚いていた富田十蔵側の男達もだ。
「それに、優馬が何をしたって言うんだ。優馬はただ好きな人を救っただけなんだぞ!」
「たかだか女1人のために、男会にケンカを売ったって言うのか?」
流石に何か言わないとマズいと思ったのか副代表が率先して言った。
「それがどうしたんだ。どんな困難があろうとも決して折れず、自分の信念を曲げない。好きな人の為ならば、どんな逆境にだって進んで行ける。僕からしてみれば最高にカッコイイやつだと思うけどね。」
大地先輩はそれをズバッと切り捨てた。
俺はそれを聞いて胸がいっぱいになった。
「もう、充分話しただろ?だったらこっちのターンにさせてもらうよ。さぁ、優馬。後は任せたよ。」
大地先輩はそう言って席に着いた。
「分かりました。任せて下さい。」
大地先輩は俺が話す機会を作ってくれた。
心の中で多大な感謝をしつつ、俺は呼吸を繰り返して神経を研ぎ澄ませる。
「じゃあ、話しますね。」
俺は一息ついて話し始めた。
「まず、聞きたいんですけど、なんであなた達は富田十蔵側にいるんですか?何であんな男の事を信用する?ただの老いぼれ性欲モンスターじゃないか。」
若干口が悪い俺だけど今はそんな事を気にしている暇なんて無い。
「それに、言っとくけど、富田十蔵は逮捕されたんだぞ?あいつは様々な悪事をして、経済に、国に、そして女性に多大な迷惑を掛けた張本人なんだぞ?その事をお前達は知っているのか?」
「はっ!それがどうした。貴様には分からんだろうが我らは高貴で、特別な存在の男なのだぞ?立場の低いもの達を無下に扱って何が悪い?経済を変えて何が悪い?国を私物化して何が悪い?我らは全て許されるのだ!」
なんだよ……開き直りやがって。こいつらもやっぱり富田十蔵と同じ考え方のようでその考えを変える気はまるっきり無いようだ。
「そんな子供みたいにわがままで、強欲な考えなんですね。」
俺はため息混じりで返す。
「なんだと貴様ァ!」
副代表は今にも俺に殴りかかりそうになっていた。それに、後ろからもかなりの殺気を感じる。
だけど、俺は決して怖気づかない。
さぁ、俺は俺の主張を言うだけだ。
「──き、緊急事態です!」
警察の人だろう。かなり慌てた様子で会場に駆け込んで来た。
突然女が会場に駆け込んできたため、一旦男会は中断された。
「ど、どうした?今は神聖な男会の最中だぞ!女の部外者は引っ込んでろ、クソが!」
暴言を混ぜながら、怒る副代表。
「それで、説明をお願いしますよ。」
そんな事を梅雨知らず、男会代表である皇さんが落ち着いて状況説明を警察の人に促した。
「はい。現在この国会議事堂を取り囲むようにして大勢の女による抗議のデモが発生しています。恐らく現在放送されてるLIVE放送が原因だと思われます。」
「な、なにぃー。ところで抗議デモの内容は分かるのかい?」
若干の棒読みが強い返事で皇さんは答える。
「は、はい……要約して説明しますと、『男は女の事をなんだと思っているんだ!』、『女は男の道具なんかじゃない!』、『神楽坂 優馬さんの言っていることは全て正しい!間違っているのは…副代表側のほうだ!』など…です。」
副代表がいる前で言うんだから警察の人も可哀想だ。強い眼力で副代表に睨まれているのだから。
「ふざけるなよ!女どもの意見なんて聞いてないんだよ!警察を総動員させてデモを解散させろ!そして今すぐ、この放送を止めろッ!」
副代表はついに激高し、席を立ちカメラを止めようとするが……その前に皇さんに止められた。
「待ってくださいよ副代表。」
「なんだ!いくら、男会代表であったとしても。まだ若造である事には変わらないんだぞ!年長者を止める権限なんて無いはずだぞ。」
完全に男会代表と副代表の立場が逆の様に見えるが、皇さんは全く気にしていないみたいですぐに言葉を返す。
「いえ、別に僕の持つ権限で止めているわけじゃないですよ。ただ、無理やりこの放送を止めてしまったら納得出来ていない女達はここに突入してくるかもしれないんですよ?それに、男会の評価も確実に下がります。そうなったら元副代表に顔向けできないですよね?だから、今は落ち着いてこの会の決着をちゃんと付けさせないと行けないんですよ。だから席に戻って下さいよ副代表。テレビ放送を提案したのは副代表達なんですからね。その事しっかりと頭に置いておいてください。」
「ちっ、若造が……」
まだ、怒りが収まらない副代表は大きな舌打ちをしながらも、渋々席に戻った。
「じゃあ男会を再開しましょう。警察のあなたは戻ってちゃんと国会議事堂を警備して下さいね。」
そう、皇さんは警察の人に言い、中断されていた男会は再び再開された。
☆☆☆
「話を戻しますけど、富田十蔵側にいる人達は考えを改める事は無いんですね?今ならまだ間に合いますよ。」
「若造が調子に乗るなよ!我らの考えは変わらないッ!男が上で女は下の下の下だ。男と女が平等なんて考えられるわけがないだろう!」
後ろにいる男達も考えを変える事はしなかった様だ。本当に残念だ。だけど、もう容赦しないからな。今更、変えるなんて戯言を言っても決して認めないからな。
「そうですか……じゃあもういいです。」
俺は強く強く副代表の事を睨むと、口を開いた。
「あなたが、もし富田十蔵の女だったらどうしますか?」
「は?何を言っているんだ?」
俺の突拍子のない質問に副代表は首を傾げた。
「富田十蔵は本当に極悪のような男で、逃げ道を無くし、心を砕き、肉体も壊す。それで、被害にあった女性は多くいます。亡くなった人もいます。今も苦しんでいる人もいます。」
「は?貴様は何が言いたのだ?」
「分からないですか副代表?じゃあ、もう一度聞きます。もしあなたが富田十蔵の女ならこの苦痛に耐えられますか?地獄のような環境で、なんの見返りもなく、道具のように使われて死んで行きたいですか?」
「そんなの嫌に決まってるだろうが!」
「それをあなた達が認めていた元副代表は普通の事としてやっていたんですよ。」
「そ、そんなの貴様が勝手に作った戯言だ!嘘を言うな!」
「は?だったら、その仮面を取って素顔を晒して言えばいいじゃないか!誠意を見せてくれれば俺も信用するかもしれないですよ。まぁ、その仮面を取って素顔を全国に放送されても構わないという強い覚悟があれば、ですけどね。」
俺の挑発に苛立ちを隠せない副代表だったが、仮面を取る覚悟などあるはずがなかった。
「くっ……」
副代表はたじろぐ。
今がチャンスだ!と確信した俺は決めにかかる。
「お前らのような富田十蔵のような考え方しか出来ないようなやつが上に立って男を率いるなんてとんでもない。ふざけるな。だから男会はダメなんだ!
そんな奴は男会を出て行けッ!!!」
俺は大声でなんの迷いも無く、言ってやった。
「ふ、ふ、ふざけるなァァ。あまり調子に乗るなよ若造がァァ!!!!!」
論破され、何も言い返せない副代表は顔を真っ赤にして席から飛び出してきた。
年長者とは思えないほどの素早い動きで俺に近づくと胸ぐらを捕まれる。
俺は何も抵抗しない。というか……怪我の影響でいつもの半分くらいしか力が出ないから振り解けない。
あれ……俺、追い詰められてね?結構やばくね?
胸ぐらを掴まれてようやく気づいた俺は冷や汗が大量に出る。
「今すぐその言葉を撤回しろ。貴様の今言っていることは全部作り話だったと。」
副代表は俺にだけ聞こえる声で言ったが…
「嫌です。」
俺はすぐに否定した。俺の言っている事は全て正しいからだ。
それを聞いて副代表は拳を作り、振り上げる。
「なら、体に教え込むしかないようだな。」
1発ぐらい殴られる覚悟だったけど……どうやら実際に殴られるみたいだ。
追い詰められるとすぐに暴力に走る。富田 十蔵側ならではなんじゃないだろうか。
だけど…その前に、さっき皇さんから受け取った物を試してみようと思う。
俺は急いでスーツの胸ポケットから皇さんに貰った黒塗りの箱を取り出し、開けた。黒塗りの箱は一体型のスイッチになっていて、俺はそのスイッチを素早く押した。
カチッ───
スイッチの音と共に、部屋が急に暗くなりスクリーンが上から降りてきた。
「な、なんだ!?」
今にも俺の事を殴りそうだった副代表は突然のことに動揺し手を収めた。
そしてプロジェクターから映像がスクリーンに向けて映された。
その映像は……なんだろう……監視カメラからの映像なのか結構荒い。
ん……こいつって。も、もしかして…
俺はどうして皇さんが俺にこの箱を渡したのかずっと疑問に思っていた。だけど、その謎が解けた気がした。
その荒い映像にはガリガリに痩せこけて、髪も白髪、それに全身がボロボロだ。
富田十蔵は前とかなり見た目が変わっていたが、たしかにこいつは富田十蔵本人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます