第118話 新たな男出現?
俺は公衆トイレで予め用意していた女装セットに素早く着替えると外に出た。
服は前に女装で使っていた物で捨てないで取っておいて良かった。
俺の事にやたらと敏感な女の子達には俺が女装していたとしても俺が普段身につけているものでバレる気がしたので物陰に普段付けている荷物を隠しておいた。特にカバンとかだね。
それと一応のためマスクも付けておいた。サングラスもしたかったんだけど流石に目立つかも…と思いやめた。
ふぅ、まだ女装には慣れないしそれなりに恥ずかしいけど大地先輩のためだ、俺は勇気を振り絞り1人でデパートに向かった。
道中は学生とすれ違ったりもしたけどバレることは無かった。1回1回すれ違う度にドキドキしちゃうのはしょうがない事だ。
ん?あれ……って……もしかして……………葵!?
なんと俺の前から葵が歩いてきたのだ。あれ?でも、葵の家ってこっち側だったかな。葵の家には行ったことは無いけど、どこら辺にあるのかは聞いている。でも、葵の家とは全くの正反対のこの場所で葵に会ったことで俺は驚いた。
でも、そんな事よりも葵とすれ違うってことか……!?俺は多めの冷や汗をかく。
お、落ち着け俺。俺は今女装をしているんだぞ。それにマクスもつけて顔も隠している。さらに俺の荷物のほとんどは置いてきている。俺がバレる可能性は圧倒的に低いはずなんだ。
大丈夫だ、落ち着け。今ここで冷静さを欠いたら葵にバレるんだぞ。
俺はバレるなと願いながら自然さを心がけ、葵とすれ違う。
「あれ?優馬君じゃないですか。そんな格好で何をしてるんですか?」
あ、あっれぇー?即バレでしたんだけど……
「わ、わたし、ゆうまっていうひと、のなまえ、しらない、わよ?」
裏声を使い、焦りながら言った。そのためカタコトになってしまった。
「いやいや、今更遅いですからね。その反応で確信しましたから。やっぱり優馬君なんですね?」
ちょっと、とぼけたけどやっぱり無理だったっぽい。
「えっと……なんでわかったのかな?絶対にバレないと思ってたのに。」
「いくら見た目が変わっていたとしても私の心に決めた大好きな人を見間違えるはずがありませんよ!!」
葵はキッパリと自信を持って言った。
それを聞き、葵……好きだ。と思い、無性に撫で回してあげたいと思ったのは俺だけの秘密だ。
「それで、どうして女装なんてしてるんですか?」
「う、うーんと、ちょっと買い物でデパートに行きたくてね。」
「そ、そうだったんですか。確かに優馬君1人で買い物に行くのには女装して行くのが最適ですもんね。」
「そうだね。………それで、葵は学校帰りかい?」
「いえ、今日は怪我の定期検査のために病院まで行ってたんです!!」
「あぁ、そっか。」
怪我とは林間学校の時のやつだね……
「あのー優馬君!!ご迷惑でなければ、私も一緒に行ってもいいですか?」
「え?いいけど、いいの?用事とか大丈夫?」
葵の発言に少し驚いたけど、別に変なものを買うわけじゃないし。そんな事よりも葵と一緒にデパートに行くっていうことは……つまり葵と初デートって事になるんじゃないのかな?
「はい、もう定期検査も終わったので大丈夫です。それに優馬君と一緒にいたいですからね。
じゃあ行きましょうか!!」
俺と一緒に行けるのがすごく嬉しいのか、いつにも増して葵は笑顔だった。その笑顔を見ると俺もついつい笑顔になってしまう。まぁ、マスクで見られはしないんだけどね。
外から見るとちょっと仲が良すぎる友達のような感じでちょっと変な気持ちになったけど……俺と葵はデパートに向かったのだった。
☆☆☆
葵との急遽始まった初デート。
久しぶりに2人っきりで話しながら、デパートについた俺と葵は、俺の欲しかった大地先輩へのプレゼントを買いに骨董品店に向かった。
デパートには夕方でほとんどの学校が終わっているためいつもより人は多めだ。
だけど俺は葵といるおかげか男としてはバレてないっぽいけど……なんだろう若干の視線を感じるのは気の所為だろうか……
俺の女装ってやっぱりおかしいのかな?
まぁ、いいや。早く目的の物を買って葵とのデートを楽しまないとな。
自分の女装はやっぱり封印しようかなと思う中、俺と葵は骨董品店の近くまで来た。でも、何故か骨董品店前には結構大きめの人混みができている。
なんで?と疑問に思ったけど、どんどんどんどん人は集まって来て人混みになるから全然店に入れる気がしない。
「どうかしたんですかね?」
葵もこの人混みが、どうしてできたのか分からないらしい。
「有名人とかが来てるんじゃないのかな?」
まぁ、俺はほぼほぼテレビとかは見ないから有名人とかはさっぱり分からないんだけどね。
「でも、店の前でこんな人混みを作られると店の迷惑だろうし、そんな事よりも俺の買い物できないね。」
俺は、はぁとため息をついた。
「まぁ、いっか。」
さすがに店の中までは人混みは無いはずなのでまずは店の中に何とかして入ろうと考えた俺はいい方法を思いついた。
「葵、俺から離れないでね。」
俺は小さな声でそう言うと俺は葵の手をいきなり握り歩を進める。右手で葵の手を握り、左手で人混みを掻き分ける。
そう、俺の方法とは力技で人混みを突破するというシンプルなものだった。
「はわわ……!!」
葵は顔をほんのりと赤くさせながら俺に引っ張られて行った。
俺が人混みを掻き分けている中、俺は周りの女の子達の話し声を小耳に挟んだ。
「この人混みの中心に、あの男がいるのよ!」と。
………男!?
そう聞いて俺は掻き分けるのをやめ、立ち止まった。だが、俺が結構な力技で人混みを掻き分けて作ってしまった人の流れが一周して戻ってきたのか、俺と葵の事を押し出すようにして人混みの中心にどんどんどんどん押されて行った。
「うっ、」
危ない危ない。さすがにここでいつもの声で喋ったら女装していたとしても怪しまれるところだった。
だから前々からひたすら練習していた裏声で何とかすることにした。イメージは妹の茉優の声だ。
って、そんな事よりもやばい。中心に男がいる……かもしれないという事は中心に出ることだけは非常にまずい。
俺は必死に人混みの外に出ようと努力をしたが1度自分で作り出してしまった人の流れは簡単には変えられず、俺と葵は人混みの中心に押し出される結果となった。
人混みはある1人の人間を中心にぽっかりと場所が空いており、中心にいたのはやはり女の子達が話していた男だった。
男は煌めく金髪で、耳には金色で大きめのピアス、首にはジャラジャラと金属音が鳴る派手な純白製の鎖のネックレス、両手にはゴツゴツの金色の指輪を付けていた。服もいかにも高級そうな服で、簡単な言葉で言うとチャラ男という感じだ。顔をチラッと見ると中々の美形だった。
「オイオイ、全然ダメじゃねぇかよ!ふざけんなよ!」
と、俺と葵が丁度押し出された時、ガタイのいい黒スーツのSPみたいな人に向けて声を荒あげているところだった。
何?と思ったけど男会を前日にあまり新たな男と関わりたく無いと思った俺は目立たないようにして再び人混みを掻き分けようやく骨董品店に入店する事ができた。
あの金髪の男には多分だけど姿を見られていないと思うので大丈夫だ。
「ふぅ、」
少し焦ったけど何とか店には入店できた、これで大地先輩へのプレゼントが選べるな。と安堵の息を吐いた。
早速俺はプレゼント選びを開始した。
☆☆☆
骨董品店はあまり大きくはないがそれでも商品の種類は多く、所狭しと商品が陳列されていた。
んーと、これもいいな。
俺はコップが大量に並んでいるコーナーにいて色々と見比べて吟味をする。
「オイ!」
コップと言っても様々な種類があるんだな~
ガラス製のスタンダードな物やワインを飲む用の物、ジョッキが着いたもの。
「そこの女!聞いてんのか?オレがせっかく話しかけてやってるんだぜ?」
お、この柄大先輩が好きそうなレトロ感がするな。
俺はコップを手に取り眺めてみる。
中々味があるって言うのかな?
「オイッ!!!!いい加減にしろよ!」
なんかうるさいな。こんな公共施設の真っ只中で叫ぶなんてどんな教育を受けてるんだよ!
若干イライラしながらコップの底に貼ってある値段を確認する。
値段は……お、お手頃だ!
俺の手持ちで余裕で買えるし、どうしよう何個か買っておこうかな?自分用でもいいし、他の誰かにも渡そうかなと思った。
そうだ!大地先輩の情報を教えてくれた、空先輩の分も買っておこう。
そんな俺がプレゼント選びに夢中になっている中、隣にいた葵が真っ青な顔で俺の事を呼んでいる事に気が付いた。
勿論俺は今、神楽坂 茉優という設定になってるので葵も俺の事は“茉優ちゃん”と呼ぶ。予めそういう設定だと言っておいた。
「ゆ、あ、茉優ちゃん。茉優ちゃんっ!!」
「ん?どうかしたの葵?」
俺は頑張って裏声で喋る。
葵の方を見ると葵は必死に後ろ後ろと目で合図を送ってきていた。
?となりながら俺は後ろを振り向いた。
「えッ!?」
なんと目の前にはさっきいた金髪の男がブチ切れた状態で立っていたのだ。
その男が鋭い目で俺の方を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます