第117話 夜依の提案
家に帰った俺は自分でも男会について調べようと思い、独自で調べてみた。だけどインターネットにはそもそも男関係の情報がほとんどないので調べようがなかった。
どうやら国が徹底して男のプライバシーを保護しているようだ。
「はぁ、やっぱり1度男会に行かないと分からないのか……」
俺はため息をつきながらスマホを置く。
「どうしたの優馬?」
お風呂上がりのホカホカに体を火照らせた夜依が俺の部屋に入って来て言った。
「いや、別に。何でもないよ。」
夜依はかなりの頻度で俺の部屋に来るのでもう慣れっこだ。なぜか毎回お風呂上がりなのが気になるけど……
「そう?ならいいけど………相談事があったら言ってよ。私は優馬の役に立ちたいんだからね。」
「うん。ありがとう。」
俺は夜依の頭を撫でる。
「……………」
夜依は無言で撫でられる。無言だけど俺の前から動こうとしない事から嫌ではないはずだと俺は思っている。
ごめんな…夜依。
夜依を騙すことになるけど、それでも俺は言えなかった。
「そうそう、優馬知ってる?近頃、国からの特別な放送があるらしいって。」
「へぇ…何それ?」
国からの特別な放送?なんだそれ。
「優馬なら何か知ってそうだったけど違うのね…私も初めて見る内容だと思うから気になったの。」
「ふーん。そんなのあるんだ。俺はテレビとかあんまり見ないからな~。でも国からの放送だからどうせ今後の政治の方針とかの硬い話で俺達にはつまらない内容だと思うよ。」
「それもそうね。」
夜依も納得したようだ。
「でね、優馬。提案なんだけど……」
「提案?」
夜依が俺に提案なんて珍しい。だけど、夜依の様子を見るとなんだか言いづらそうだ。だから俺の部屋で話を進めているのか?
「その………………別居する気は無い?」
「え!?」
その提案に俺は声を出して驚いた。
別居?別居って、家族と別々の住居に住む事だよね?どうしてそんな事を夜依が提案したんだ!?
「一応理由を聞いてもいいかな?」
俺はいくら考えても理由がわからなかったので夜依に聞いてみた。
「私は別に何不自由もしていないし、優馬とも一緒にいれて幸せよ。」
「じゃあ──」
「──だけど一緒に暮らしていない雫と葵の2人にに私だけ幸せで悪いと思ったのよ。でもこの家に雫と葵も住むと提案したらお義母様や茉優ちゃんにまた迷惑をかけるんじゃないかなと思ったのよ。」
だから別居……か。
夜依の提案をしっかりと聞いて俺は真剣に考えてみた。
夜依の提案は考えてみればそうだ。
確かに今は夜依と一緒に住んでいるけど、雫と葵は?という話になってしまう。
2人は特に何も言わないけど正直夜依の事は羨ましいと思っているはずだろう。その事を考えていなかった俺はずっとこのままがいいだなんて思っていた。そんなの間違っている。
「でも、別居って言ったってどこへ?費用は?それに男の俺が住む場所を変えるのは色々と面倒だと思うよ。国に報告とかで……」
考えれば考えるほど問題が山ほど出てくる。
「………」
それに夜依は無言で聞いていた。
「それに、俺の別居をお母さんと茉優とかすみさんが認めてくれるはずがないよ。」
お母さんと茉優それにかすみさんとは俺も離れたくないし、この3人も俺と同意見のはずだ。
「でも……」
「俺は皆の事が大好きなんだ。誰かと離れるなんてよっぽどの理由がない限り嫌だな。」
「うっ……そうね。だけど一緒に住んでいない雫と葵の事もしっかりと考えてあげてね。」
「うん。分かったよ夜依。」
お母さんに俺から提案してみようと思う。でもその前に雫と葵に許可を取って親御さんに挨拶に行かないとな。
それにしても、夜依は前と比べて随分性格が一変していて優しく相手想いになった気がする。これが夜依の素なのかな?でも、嬉しい事だ。
「夜依もあの二人のことを考えてくれてありがとう。」
「いいえ。その事を私は優馬に知っておいて欲しくて。」
俺も夜依の意見を尊重して別居について考えてみる事にしようと思った。
☆☆☆
数日が経った。
明日が招待状に指定されていた男会の日だ。
その前日なんだけど……特に俺は何もしていない。ただ普通に過ごしていただけだ。けど大地先輩はとにかく忙しそうにしていた。
そんな俺のために頑張ってくれている大地先輩には何か感謝を伝えたくて、プレゼントを用意して大地先輩の家に行った時に渡そうと俺は考えた。
「うーんと。大地先輩って何か欲しいものとか無いのかな?」
大地先輩は家では家事を担当しているって言ってたから家庭で使える便利グッズとかの汎用性がある物とかの方がいいのかな?それとも無難に食べ物とかにした方がいいのかな?でも……俺はそういうのには疎いしな……
俺は正直迷った。大地先輩にどのようなプレゼントを渡せばいいのかと。
大地先輩は男だから聞ける相手も限られてくるし、そもそもこの世界の男の趣味ってなんなのかな?
俺は何を貰っても気持ちが籠っているだけで嬉しいからいいけど、多分大地先輩は違うだろうし……
あ、そうだ!大地先輩の事ならよく知っている相手がいるじゃないか!あまり自分から会いたいとは思わないけど…大地先輩のためだ。俺も頑張らなくてはならない。
そういう事で放課後、俺は生徒会室にやって来た。生徒会室に来るのはなんだかんだ久しぶりで少し緊張する。
2回軽くノックをして返事があったので生徒会室に入る。
「失礼します。」
生徒会室に入ると、忙しそうに作業をする空先輩と、パソコンをカタカタといじくる椎奈先輩がいた。
「お!優馬か?」
空先輩は顔を上げて俺の姿を確認するとまた作業に戻った。
「どうも、お久しぶりです空先輩。それにこんにちは椎奈先輩。」
俺は軽く2人に挨拶をした。
「今日は特に生徒会の仕事は無いぞ?もしかしてお前…1年のくせに仕事を貰いに来たのか!?」
「え、いや、違いますけど……」
「そうだな……私の思い違いだったな。優馬みたいに生徒会をサボっているやつが自分から仕事を貰いに来るわけが無いな。」
強めに言う空先輩。
「う……そうですね。すいません。」
理由はどうあれ無断でサボっていた事は確かだ。
俺には何も言い返せない。そんな立場なんかじゃない。
「まぁ、いいんじゃない。何か事情があるんだもんねぇ?」
部活の先輩でもある椎奈先輩は生徒会と部活を休みがちな俺にはなにか特別な事情があると察してくれていたらしい。
「はい…でも、できる限り参加したいとは思っているんですよ。」
「言葉だけならいくらでも言えるがやっぱり行動で示めさないとダメだからな。」
「はい、肝に銘じときます。」
次の生徒会には何があっても行こうと思った。
そんな事よりも、なんだか今日の空先輩はいつもの覇気がないような気がする。だってこの流れだと罰ゲームね!とか言い出しそうだなと予想していたのにそういう事は何も言ってこなかったからだ。それぐらい今は忙しいという事なのかな。
「それで、何か用?用があったからここに来たんだろう?」
「はい。実は……」
俺は軽く大地先輩の事を説明した。
だけど、男会の事は上手く省いた。大地先輩ももしかしたら空先輩には内緒にしているかもしれないと思ったからだ。
「なるほどな。いつも感謝してる大地にプレゼントを渡したいと。」
「ふーん。大地くんも、後輩のために頑張ってるんだねぇ。」
大地先輩の後輩思いな面に空先輩の隣で椎奈先輩は関心していた。
「だから大地が喜びそうなものを教えて欲しいということだな。」
「そうです。物でも食べ物でもなんでもいいです。なにか情報を教えて下さい。」
さすが生徒会長、俺が聞きたかったものを何となく察してくれた。
だから楽に話が進められた。
「私も大地の趣味とか好みはほとんど分からないな。だが、あいつはレトロな物が好きだぞ。家もレトロな物ばかりだからな。」
「なるほど……」
確かに大地先輩の家に行った時もおばあちゃんちにありそうなレトロな物が多かったのを記憶している。
「それと、大地は最近愛用していたレトロなコップを割っていてショックを受けてたぞ。だからプレゼントで渡すとしたらレトロな柄のコップなんてどうだ?」
「それ、すごい情報です!ありがとうございます空先輩。早速俺、買ってきます。」
俺はそう言って生徒会室を後にした。
明日プレゼントを渡したかった俺は急ぎめで、前に夜依とデートで行ったデパートに向かったのだった。
☆☆☆
「で~良かったの空ちゃん?」
「ん?何がー」
優馬が生徒会室を出ていった後、椎奈は空に話しかけていた。
「いつもの空ちゃんなら絶対に罰ゲーム!とかなんとか言ってその反応を楽しむはずなのに……今日はなんにもしないだなんてドSの空ちゃんらしからぬ行動だよ。」
それを聞き空はため息をつく。
「私は別にドSじゃないし、たまにはこういう日もあるの。さ、話してないでさっさと手を動かして。この案件の期日が迫ってるんだよ!」
「はいはい~」
空に怒られた椎奈は渋々作業を進める。
生徒会長とは恐ろしいほど多忙な人だ。なぜなら学校の問題、行事の事、先生の事、そして外部の事まで仕事になる。だが、この空と言う人間は生徒会を私物化し好き勝手にしている分、生徒会全体でやる仕事のほとんどを1人で片付ける中々の猛者だ。
「でも、いつも仕事を1人で片付けちゃう空ちゃんが私に手伝いを求めるなんて珍しいね~何か気がかりなことでもあったの?」
椎奈が軽く空に聞くと空は仕事をピタリと止めるが、再び仕事を再開させ「手を動かして。」と小さな声で言った。
そこで何かを察した椎奈は真剣な眼差しで言う。
「…………………………もしかしてだけど空ちゃんが気にしてる事って後少しで始まる体育祭のこと?」
椎奈の問に空は小さく頷く。
「大丈夫だよ。去年のあの件ならもう心配いらないはずだよ。それに大地くんには優馬くんという心強い人がいるんだから。それに私も陰ながら支えてるから。空ちゃんは安心して最後の体育祭を楽しんでね。前回ろくに楽しめなかった分ね。」
「うん。ありがとう椎奈。おかげで元気もらった。絶対、絶対に去年のような悲惨と呼ばれる体育祭になんてさせないんだから。」
空は弟の事を思いながら言うのだった。
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