第116話 大地先輩の家
放課後。
「よーし、じゃあ行くぞ優馬。」
「はい。」
俺と大地先輩は大地先輩の家に向かった。
今日は部活を休み、雫、夜依には先に帰っておいてくれと言っておいた。
これで安心して行く事が出来る。
大地先輩の家はここからそれなりに距離がある場所で、毎日電車で通っているらしい。
電車という事は……駅に行くということ。
駅なんて場所には大勢の女の子達がいる。そんな場所に俺と大地先輩なんて行ったら大パニックが起こるだろう。
それにこの時間帯はちょうど下校ラッシュの初めの方なので帰宅部や部活が休みの女の子達と激突してしまうんじゃないのか?
大地先輩について行き、駅に歩いて着いた俺は物陰から駅を見てみる。
う、うわぁ……思ったよりいるな……
駅は俺の想像以上にごった返していた。
そんな場所を女装も何もしないで通るなんて危険過ぎるぞ!?
「大地先輩……ここ通るんですか?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「ん?何を言ってるんだ優馬は?そんな訳ないだろ。」
俺の質問に大地先輩は当たり前の事を言った。
「で、ですよね。さすがに危ないですもんね。」
「危ないなんてもんじゃないよ。僕の信用出来る女性以外の女は大体危険生物なんだからな。僕があんな危険すぎる場所なんかに行ったら死んでしまうよ。」
大地先輩は真剣に言う。
そう言えば大地先輩って椎奈先輩や俺の婚約者など以外の信用出来る女の子を除く全ての女の子は苦手なんだったんだっけ。なんで苦手かは知らないけどね。
「じゃあどこから?」
「どこって男専用の隠し通路があるんだよ。まぁ、これはほとんど僕専用みたいなものなんだけどね。」
「専用?」
「そうだよ。だって、普通男は送迎が当たり前だからな。僕みたいに電車を利用する男なんてほとんどいないだろうし。」
大地先輩はそう言いながら、カバンから定期?みたいなものを取りだした。
「これが男専用隠し通路の鍵だ。これがないと男専用の駅には入れないから注意だ。じゃあ隠し通路に行くから着いてきてくれ。」
「わかりました。」
俺は大地先輩に着いて行き、駅の裏側まで来た。
「ここだよ。」
「え?ここって言われてもここはただのコンクリートの壁じゃないですか!?」
大地先輩が立ち止まったところはただのコンクリートの壁の目の前だったのだ。それに見るとコンクリートは至る所が欠けていてボロボロだった。
「まぁ、見とけって。」
大地先輩はそう言うと、さっき見せてくれた男専用隠し通路の鍵を取り出し、コンクリートの欠けている部分にその鍵をはめ込んだ。
ピッタリと鍵がはめ込まれるとまるで、魔法の壁のようにゴゴゴッと壁がスライドし通路がでてきた。
「なんか……凄いですね。」
「この仕組みはほぼ全ての駅にあるから優馬も使いたかったら事前に駅に連絡をして男専用隠し通路の鍵を手に入れて置くんだぞ。」
「わ、分かりました。」
なんかすごいものを教えてもらった気がした。
でもこれで俺も安心して電車を利用する事が出来るはずだ。
「じゃあ電車に乗るぞ。」
「はい。」
☆☆☆
俺と大地先輩が乗った電車の車両は1番最後尾の車両で男専用の車両らしい。
そのため車両間の移動口は完全に封鎖されていて窓ガラスにはマジックミラーが使われているそうだ。
しかもこの車両、普通の車両とはかなり違っていて、特大テレビや大きいソファなどすごくくつろげる個室のような造りですごいと思った。
「これに乗って毎日登校か~ちょっとありかもな。」
なんて、電車通学にちょっぴり憧れていると、
「でも僕はあの姉と一緒なんだよ。」
「あー、すいません。全然ありじゃないですね…」
俺はすぐに訂正した。
ドSの空先輩と一緒なのはさすがに辛いだろう。
それをほぼ毎日一緒に登校しなければならないんだろう……考えただけで末恐ろしい。
「まぁ、さすがに慣れたけどな。」
「はは……」
大地先輩は笑っているけど、俺は苦笑いしか出来なかった。
☆☆☆
電車ではまた男っぽいくだらない話をし楽しんだ。
3駅ほど移動し電車を降りた。
駅は男専用隠し通路を通り抜け外に出た。
他の女の子達にはバレることなく外に出ることが出来たのでこの男専用隠し通路がいかに有用なものか理解出来た。
「あと少しで家だよ。」
ここら辺は静かな住宅街で住みやすい場所だと分かる。
そして、そこから15分ほど大地先輩についていくと、やっと大地先輩の家に到着したようだった。
学校から駅まで約15分、電車で約30分そして、駅から大地先輩の家までまた15分か……なかなか遠いな。
「え………こ、ここですか!?」
俺は大地先輩の家を見て驚きの声を上げた。
だって、俺の目に写っているのは普通の民家だったからだ。しかもかなり古い方の家だ。
「えっと……本当にここですか!?」
「まぁ、男の僕がこんなに古い家に住んでいるっていうのはやっぱり驚くか……」
「当たり前じゃないですか!!!」
さすがに防犯設備が弱すぎる気がする。
こんなの誰でも侵入できてしまうんじゃないのか?
「こんな場所ハッキリ言って超危険じゃないんですか!?」
「んーとね。それが案外安全なんだよね。多分僕に男としての魅力が足りないってのもあると思うけど、ここに住み始めてから数年、1回も家に侵入されたり尾行されたりはしていないよ。」
男の魅力って、男である自体魅力じゃないの?というツッコミはやめておいた。多分だけど場所がいいんだと思う。大地先輩は大体同じ時間の電車に乗って帰っているはずだけど帰宅中に1度も人とすれ違うことは無かった。それに見られたとしてもこの家に住んでいることから見間違いだと勘違いしたのかもしれない。
それにしても1度はこういう狭くて落ち着く、のどかな場所に住んでみたいと思った。
「じゃあ入るよ。中は少し散らかってるけどそこら辺は気にしないでくれ。」
「了解です。」
俺の返事を聞いた後、大地先輩はガラガラと音が鳴るドアを開けた。
大地先輩の家の中に入るとなんかおばあちゃんちのような独特な懐かしい匂いがして、転生する前の鈴木和也だった頃の自分を思い出した。
「ここでは、僕と姉の2人暮らしさ。」
「2人暮しっ!?警備の人とかお手伝いさんとかはいないんですか?」
「そうだね……元々僕が女の人が苦手というのがあってね、だから信頼出来る姉としか生活が出来なかったんだよ。僕の親とは別居だしね。だから豪邸とか広い家に2人で住むのも掃除とか色々大変だからね。……という事でここに住んでいるんだ。家事全般は僕の仕事でお金関係、人間関係のことは姉の仕事だよ。」
へぇ……普通に自立していてすごいなと思った。
部屋にはちゃぶ台と座布団とテレビなど俺の家にあるものとは少し違うレトロな物が置かれていた。
「お茶を入れるから適当に座っておいてくれ。」
「は、はい。」
そう言われたのでちゃぶ台の前の座布団に腰を下ろした。
数分後、
「お待たせ。ウーロン茶だけど良かったか?」
「はい大丈夫です。」
なんかこういう生活に憧れるな…
家では何不自由ない暮らしを送る優馬だからこそ憧れるのだ。
「これで僕の家は分かっただろう。」
「はい。もう大丈夫です。」
「じゃあ男会の説明もやっておくよ。基礎知識は大切だからね。」
「そうですね。お願いします。」
俺はそう言ってウーロン茶を啜る。外は暑かったのでキンキンに冷えたウーロン茶は体に染み渡る。
そんなウーロン茶を楽しながら大地先輩の話を聞く。
「男会は知っての通り男のみで結成された国公認の組織だ。この男会にはこの国のほぼ全ての高校生以上の男が加入していて、1年に1回だけ集まって会を開くのが決まりなんだ。そしてあと数日で開かれるのが常会さ。」
大地先輩は茶のを啜り喉を潤す。
「そこで今後の男についてのあり方や、国に頼む事、そして愚痴を言い合い最終的に男会のトップが決断を下して国に報告するんだ。だけど、真剣な話し合いをするのは男会の偉い地位に着く男だけでその他の男はただの交流会みたいなものなんだよ。」
なるほど……んでもあれ?
「でも大地先輩は俺の準備をしてくれるって言ってますけど俺の第一印象を上げたら俺は男会の偉い地位に着くことになるかもしれないじゃないですか!?俺はあんまり男会に関わりたくないんですけど……」
「まぁ、そうだな。だけど、男会では偉い地位に着いていた方がいいぞ。男会という大きな後ろ盾が着いてくれるし、特別ボーナスもついてくるらしい。その他にも特権がいっぱいつくと聞いたぞ。」
話だけ聞くには夢のような物なのだろう……だけど……
「でも……俺はまだ男会を信用してないです。それにボーナスも別にいらないです。」
豚野郎の事もあって俺には全く信用出来なかった。
「そうだよな……だけど優馬が男会の偉い地位につくことが出来れば男会を中から変えていけるんじゃないかな?」
「う……」
確かに大地先輩の言うことも一理ある。
たとえ初めは男会の男達からフルボッコにされるかもしれない。だけど頑張れば……頑張って頑張って頑張れば。偉い地位につくことが出来るかもしれない。決して諦めなければ……
「僕は優馬を信じるよ。優馬なら男会を変えれるかもしれない。だって優馬にはよく分からないけど特別な何かを感じるからね。だから僕は優馬をついつい手助けしたくなるんだよ。」
「大地先輩っ……」
「なんか言ってて気恥しいな。」
ほっぺたを赤くする大地先輩。
「って、もうこんな時間か……優馬そろそろ帰った方がいいと思うぞ。」
突然大地先輩から言われた。
「え?なんでですか?」
俺はもっと大地先輩と話していたかった。
「そろそろ生徒会の仕事を終わらせた姉が帰ってくる時間だからだ。」
「あ、帰ります。今日はありがとうございました。」
「あはは、じゃあまたな。気をつけて帰れよ。」
俺は空先輩が帰ってくる前にそそくさと家に帰ったのであった。
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