第115話 唯一の先輩、唯一の後輩
次の日。
俺は普段通り学校に行き、授業を受ける。
でも俺は頭の中は男会の事でいっぱいになっていて、授業の内容なんて全然頭に入ってこなかった。
それは昼休みになってもその感情は続き、大好きな雫達と一緒にいるのにこんなにも心が曇っている事なんて初めてだった……
雫と葵と夜依には何とかして気付かれないように努力するけど…顔に出やすい俺に隠しきれるだろうか……
そんな不安が心に溜まっている時、ある人物が俺のところに来た。
「優馬。久しぶりに一緒に昼飯を食べないか?男2人きりでな。」
それは優馬の唯一の男の先輩、尊敬している先輩の大地先輩だった。
右手には弁当箱を持っていて俺の事を昼ご飯に誘ってくれたようだ。
でも今俺は雫、葵、夜依の3人と一緒に昼ご飯を食べている。この3人と一緒に昼ご飯を食べる事は今日の朝からの約束で俺にはその約束を破れなかった。
「えっと……すいま──」
俺がすぐに断ろうと思い、断りの一言を言おうとした時、
「行ってきたらいいんじゃない?」
夜依が俺の言葉を遮るように言った。
「……私も夜依と同じ考えよ。」
「わ、私もです!!」
雫も葵も夜依につられて言い出した。
「え!?で、でもなんで?今日の昼ご飯は皆で食べるって朝から約束してたじゃん。」
なんで3人がここまで俺を行かせようとしてくるのかが分からなかった。普通逆じゃないの?
「……じゃあ聞くけど、今日から優馬は何かに悩んでいるようだけど何があったか私に話せるの?」
う、やっぱり俺が悩んでいることがバレていたようだ。
「っ……言えないよ。ごめん。」
俺はこれ以上皆に………特にこの3人には絶対に心配をかけたくないんだ。だから…男会の事は言えなかった。
「……私達に言えなくても、先輩には優馬が悩んいることを話せるんじゃないの?」
「う、……うん。そうだね。」
大地先輩も多分俺と同じ事を話したくて、昼ご飯に誘ってくれたと思うし。
「……じゃあ、行ってきたら?」
「だけど……」
「私達の事は別に気にしなくていいわ。」
「はい!!優馬君の不安そうな顔を見ているとこっちまで不安になってきちゃいますし、先輩に話して優馬君が元気になってくれるのだったらぜひ行ってきてください!!」
3人とも俺の事を心配をしてくれていたようだ。
こんなにも思っていてくれるんだなんて俺は幸せ者だなと、しみじみ感じた。
「……それに、たまには3人で話してみたいと思うし。」
「そうね。確かにいい機会ね。」
「はい!!」
今更気付いたけど、雫と夜依は昨日までのキリキリとした関係はいつの間にか無くなっていて普通の友達に戻っていた。なぜかは知らないけど俺の気にしていた問題が解決していたから別にいいか。
葵も2人とは仲が良さそうなので婚約者たちの関係問題はもう気にしないで良さそうだな。
「わかったよ。そんなに言うのなら行ってくるよ。」
俺は行くことにし、大地先輩の後に続いた。
☆☆☆
「お前にはいい婚約者ができたんだな。羨ましいよ…」
大地先輩と移動している時に、愚痴のような感覚で言われた。
「はは、自慢の婚約者達なんでね。」
それが嬉しくて、ついつい顔がにやけて自慢してしまう俺。一瞬だけ男会の事を忘れられて心が楽になったような気がした。
「僕もいつか………椎奈先輩と──」
「友達以上の関係になれるといいですね。」
「ぐっ、僕の心の中を代弁するなっ!」
「ははは!勿論俺は協力しますからね。」
そんな男らしい会話をしながら俺と大地先輩は屋上に向かうのだった。
☆☆☆
俺と大地先輩は屋上に着くと昼ご飯の弁当を食べ始めた。
そういえば大地先輩と屋上で昼ご飯を食べるのは久しぶりだし、この屋上に来るのも久しぶりでなんだか懐かしく感じる。
「それで、優馬のその様子を見るとお前にもこれが届いたんだな。」
そう言って大地先輩は俺が持っている招待状と同じものを懐から取り出した。
「そ、それは!?」
「やっぱりそうか……僕にも同じものが届いたんだ。」
俺の反応で大地先輩は俺が男会に招待されたことを理解すると、続けて聞いてきた。
「それで優馬は行くのか?」
「………………はい。俺は行くつもりです。」
「僕は……どうしようか迷っているんだ。前の男会では富田十蔵のせいで散々だったからね。だけど、優馬が行くんだったら僕も行こうかな。知っているやつがいるだけで落ち着くし。なるべく参加しなくちゃならないものだからな。」
「俺も大地先輩がいると心強いです。」
本当に心強い。だって、唯一の味方であるかもしれないんだし……
「じゃあ、その用意を僕の分とついでに優馬の分もしておくよ。」
「え?自分の準備は自分でしますよ。」
なんと、大地先輩は俺の準備までしてくれると言うのだ。
「大丈夫大丈夫。初めての男会では第一印象がとてつもなく大切だ。第一印象が今後の男会での立場に直結する可能性があるからね。前に失敗した僕のように優馬にはなって欲しくないから、僕が持ち得る全ての力を使って優馬を引き立てる準備をするよ。」
「そ、そこまで言うんでしたら任せますよ……」
大地先輩はいつにもなく気合いが入っていた。
そのぐらい第一印象というものは大切なのだろう。
まぁ、いつもかすみさんに頼っている俺は今回もかすみさんだけに頼ろうとしていた。だけど、かすみさんは多忙な人だ。いつもいつも頼りすぎている俺はたまには負担をかけたくないと思った。
「あ、そうだ。お金の方とかは後で言ってください。ちゃんと払いますんで。」
後、俺ができることはその料金とお礼ぐらいだ。
せめてそのぐらいはさせて欲しい。
「いいよいいよ。あんまりその事は気にすんなって。」
「いや、でも悪いですよ。」
大地先輩の気合いの入りようから察するにかなりのお金がかかると思う。それを全部大地先輩に負担させるのは後輩として悪い。
「たまには先輩をさせてくれよ。優馬は僕の唯一の後輩なんだから。」
「大地先輩っ……」
今まで何度も感じていたけど、この人が先輩で本当に良かったと思った。まさに俺が思い描く理想の先輩だった。
だったら、俺は行動で恩返ししないとなと思った。
(特に恋愛の方で……)
「じゃあ用意をするから男会の当日の朝に僕の家に来てくれ。」
「分かりました…あ、でも俺、大地先輩の家の場所、知らないですよね。」
「あぁ、そうだったな。じゃあ今日、優馬は用事はあるか?」
「まぁ、部活があるけど……休みますよ。」
「分かった。なら今日の放課後、僕の家に案内するよ。」
という事で今日の放課後、急遽大地先輩の家に行くことになった。
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