第114話 招待状
優馬がいなくなり、2人っきりになった雫と夜依。
しばらく無言で見つめ合う2人だったが、
「これで優馬はいなくなったわ。勝負よ雫。」
と、先に夜依が口を開き雫に話かけた。
「……望むところよ夜依、この勝負はあなたより長く優馬といる私が有利だということを忘れないでね。」
雫の軽い挑発を夜依は軽く流すと、
「私はもう優馬と一緒に住んでいるのよ。真剣な時から油断している時まで様々な表情をこの目でずっと見ていられるのよ!いくら長くいる時間が私より長いと言っても家の中の優馬を知らない雫には負けないっ!」
2人は顔近づけ合い、睨み合う。
「「(……)どっちが優馬のいい写真を持っているのか勝負、開始よ!!」」
そう!!2人は別に仲が悪かったのではない。普段はただの友達として色々と話し合ったりする仲だ。ただ、どっちがどのぐらい優馬の事が大好きか互いに知りたかったのである。だから雫から勝負の提案をし夜依が了承した事で、今に至るわけだ。
最近はその勝負の日が近づき、緊張と興奮を2人とも抑えていて終始不機嫌で顔も合わせられなかったのだ。2人とも仲が悪そうに見えたのはそのためだ。優馬は勝手に勘違いをしていたのだ。
2人は自分のスマホを取り出し、同時に操作を開始する。雫は薄水色のスマホ、夜依は黒いスマホを巧みに扱う。
数秒後、
「……まずは私からね。」
そう言って雫は写真を表示させた画面を夜依に見せた。
「っっ!!」
それを見て夜依はうっかり声を漏らす。
その画面には優馬が家の庭で楽しく、そして真剣にサッカーボールを蹴っている写真だった。
この写真は少し前の写真で夜依がまだ住んでいない時だったため、夜依は持っていないと確信を着いた写真だった。
「いい写真ね雫。」
夜依も満足気だ。
「だけどこれならどう?」
次は夜依のターンだ。夜依は雫に写真を見せた。
「……!?」
その画面には優馬が勉強中に寝落ちしている写真だった。
気持ちよさそうに寝ている優馬を雫は見て口が緩みそうになるのを抑える。
「……やるね。」
雫は素直に褒めた。雫は優馬が寝ている写真などは持っていなかったので普通に欲しいと思ってしまった。
それを聞いて夜依は勝負が決まった表情をしたが─
「……まだまだ勝負はこれから。」
雫には切り札があるのだ。
これはなるべく最後に取っておきたかったが夜依にぎゃふんと言わせるにはいいタイミングだと思った。
「……これよ!」
雫は、切り札を夜依に見せた。
「こ、これはッ!!!???」
それは風呂上がりの優馬だった。
上半身裸で、タオルを首からぶら下げている。下半身は一応ズボンを履いてはいるが優馬の上半身は丸見えだ。優馬の体は細マッチョで、よく鍛えられている。風呂上がりの湯気もいい味を出していて夜依はその写真に釘付けになった。
「ぐっ……セクシーすぎる……カッコよすぎっ………」
ついつい普段夜依が、絶対に言わない言葉も言わせるほどだった。
「で、でもなんで?一緒に住んでいない雫がこんな写真持っているはずがない!」
「……そうね。この写真は茉優から特別に貰ったものだからね。」
「ま、茉優……ちゃんね……」
夜依はまだ茉優とろくに話せていないし、優馬の婚約者としても認められていない。だが、雫は既に認められていて、慕われてもいる。
そして、今回は長年一緒に暮らしている茉優ではないと、撮ることが出来ない激レアな写真だった。
「っっ……」
夜依は歯を食いしばる。
なぜなら雫の出した激レア優馬に対抗する事が出来るほどの激レア優馬をまだ夜依は持っていないからである。
「今回は………私の負けね。」
夜依は悔しがりながら言った。
「……別にこの勝負に勝ち負けは無い。だって、夜依がどれほど優馬の事が好きなのかが分かったしね。」
「確かに考えてみればそうかもね。私もどれぐらい雫が優馬の事を好きかわかった気がしたわ。」
雫は手を夜依に差し出した。
「……これからよろしくね夜依。」
「こちらこそよろしくお願いするわ雫。」
夜依は雫の差し出した手を握り返す。
「……後で葵の所にも行かないとね。」
「そうね。葵とも1度ゆっくり話してみたいものね。」
2人は後で葵に会いにいく約束をすると、再びスマホを握りしめる。
「なら見せ合いっこしない?」
「……いい考えね。」
さっきから2人が互いに見せあった優馬写真で興奮した2人はもっと色々な優馬を見たかった。
2人は互いに肩を寄せ合い優馬写真を見せ合う。
「こんなのはどう?“優馬が野良猫を見て微笑んでいるけど、野良猫は威嚇している写真”」
「……ふふ、面白いね。」
笑いを漏らす雫。
「……なら私はこれ。“外で暑そうにアイスを食べる優馬だけど、想像以上にアイスが溶けるのが早くて焦って食べている写真”」
「ふっ、それも充分面白いわよ。」
夜依は口を抑えながら笑う。
今の2人はさっきまでのピリピリとした空気などではなく、純粋な友達のようなものだった。
2人は時間も忘れるほど楽しく優馬写真を見せ合いっこし、写真を共有した。そして、2人は家に帰った時にこっぴどく怒られたのだった。
(雫は親に。)(夜依は優馬に。)
☆☆☆
夜依が帰ってくる数時間前。
「優くん。よく分からないけど優くん宛に何か届いてたよ。」
かすみさんと帰って来た俺は玄関先で待っていたお母さんに真っ白な封筒を貰った。宛先を見ると“男会”と書かれていた。
俺は今まで緩んでいた気を一気に引き締めた。
なぜなら男会とはあの
突然真剣な表情になった優馬を見てお母さんは驚く。
「優くん宛だったから宛先とかは見ないようにしたんだけど……なにか変な所からだったの?」
「ん?い、いや違うよ。友達からの手紙だったから驚いちゃってさ。」
俺はお母さんが心配そうにしているのに気づき慌てて嘘をつき、苦笑いをする俺。
「じゃあ俺は部屋で着替えてくるよ。」
この封筒の内容が早く知りたかった俺は2人にそう言って足早に自分の部屋に行った。
自分の部屋に入り、封筒の中身を見る。
封筒の中には1枚の高価な紙が入っていてそれを見ると“招待状”と達筆で書かれていた。
その下の方に日付と時間が書かれ、裏を見ると手紙のようになっていた。
俺は手紙を読んでみる。
“やぁ!神楽坂 優馬くん。ボクは男会を取り締まるいわば、男会の親玉だ。君の事は富田十蔵の事で色々と調べさせてもらったんだけどね。君は素晴らしい人物だということがわかった。だから男会に特別に招待する事にしたよ。そこで話をしようじゃないか。一応男会の会議もその日にあるからそこにも参加してもらいたい。君は忙しいと思うけど必ず来てくれるとボクは信じているよ。ではまた会おう!”
と書かれていた。
俺は正直迷った。行くべきか行かないべきか。だけど、この手紙には俺の事を調べたと書いてある。という事は俺の家、家族、学校、そして婚約者まで調べられているはずだ。それで、もし行かなくて男会の親玉に怒りを買ってしまったら………想像するだけで恐ろしいと思った。
「初めから俺には行くという選択肢しかないのか…………はぁ…」
ため息をしつつ、こういう選択肢が1つしかない招待状を送ってくるやり方がどことなく豚野郎に似ている気がすると思った。
もしかして……男会には豚野郎みたいなやつしかいないのでは……?と不安に駆られる。あんなクソみたいな性格の豚野郎がかなり偉い地位につけていたことから考えるとそれもありえそうだった。
「という事は……俺が男会に行ったら……フルボッコかな……」
豚野郎を逮捕に追い込んだ張本人であり、女性を普通に扱う俺は他の男達の目につくだろう。
そんな俺を男会に招待してフルボッコ……そんな未来が容易に想像できた。
「でも……行くしかないしな……」
俺は自分の部屋の壁にもたれかかりながらもう一度ため息をついた。
この事は皆には内緒にしておこう。
これ以上迷惑は掛けられないし、自分でまいた種だ。ちゃんと自分で解決しなければならない。
俺の覚悟は出来ていた。
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