第104話 突入


俺はすぐにかすみさんに連絡をした。


かすみさんは電話に出ると、事細かに凪さんが導き出した場所を説明してくれた。


場所は俺の家からだと1時間ほどでつく場所だった。走るともう少しかかるかな。


俺はすぐに突入するつもりだ。

だけどそれを読まれたのか、かすみさんに止められた。


いくら男の特権で突入出来ると言ってもあの豚野郎の所には警備もいて危険だろうし、一応国に連絡しておいた方がいいらしい。そうしなければ後々大変なことになるからだそうだ。


豚野郎は男会という大人の男だけで構成された男による男のための特別な役職に現在ついていて、豚野郎は長年そこの上の方の階級らしく、そのせいで国も警察も豚野郎に手出しがしにくかったそうだ。いくら男の俺でも豚野郎に手を出すのだったら国に連絡しておいた方がいいとの事だった。


かすみさんが教えてくれた。


俺は警察の河野さんに連絡し、かすみさんは国に連絡をした。


俺はすぐにでも助けに行きたい気持ちを強く堪え待った。後先考えず行動するのは得策ではないと分かっているからだ。


だけど………だけどッ!!!


俺は悔しい気持ちでいっぱいになり下唇を強く噛んだ。口からは血が出たけどその時はあまり気にならなかった。


今気になるのは夜依のこと、豚野郎の妻達のことだ。現在進行形で夜依や妻達が危ない状況に陥っているかもしれない。そう想像すると胸が苦しくなる。体が無意識に走り出してしまいそうになる。


河野さんは今動ける警察官を呼んでくれると言ってくれた。俺は豚野郎の家の情報を伝えた。そしてもう一度連絡をしたら豚野郎の家に集合と伝えた。


よし、警察の方は終わったけど国の方はどうだろう?連絡終わったかな?


ここからだ。ここから時間がかかった。

男関係の話だと国のかなりお偉い方じゃないと対応や判断などができない決まりらしく、そのお偉い方も今大事な会議中とかなんとかでなかなか取り次いで貰えなかった。


そこにイラつきを覚えるがしょうがなく耐えた。いくら言っても会議が終わるまで待てと言われたからだ。


でもそこからが杜撰だった。


お偉い方に電話が繋がったのだが富田十蔵に関係する事と話した途端、自分よりもっと上の人に話をして下さいなどと言われたのだ。また待つことになったのだ。


結局お偉い方の更にお偉い方に電話が繋がったのは初めの電話から数時間経った夜だった。


一体何時間待たせるつもりなんだよ……


その時にはもうかすみさんも家に帰ってきていて2人で待っているという状態だった。


場所は分かっているのに……今すぐに救出に向かいたいのに……それが出来ないという事に俺は怒りを抑えきれなかった。全ての元凶は豚野郎だけど、国にも怒りを覚えた。


国のお偉い方にもう一度1から豚野郎の事を説明した。お偉い方はすぐに許可を出してくれ。突入許可の書類を発行してくれた。

これで夜依を救うための準備は全て完了した。後は助けるだけだ。


俺はすぐに警察に再び連絡し、豚野郎の家にかすみさんの運転する車で向かった。


☆☆☆


深夜……


俺とかすみさん、それと警察の人達と共に富田十蔵の家の近くまで来た。


警察の人達は全部で10数人ほど。その中には河野さんもいる。深夜だったので少ししか警察官を集めることが出来なかったと河野さんが謝ってきたけど、俺からして見れば警察の人がいるだけで心強い。


俺のここでの役割は特に無い。本当は警察にすべて任せておけばいいのだ。だけど警察だけではいくら男の特権の書類を見せたとしてもあまり効果は薄いと思う。だけど男の俺が直接その場にいれば効果は絶大だ。という理由で俺は富田十蔵宅突入作戦に無理言って参加した。(まぁ元から参加するつもりだったけど。)


豚野郎の家はバカみたいにデカい。部屋数も尋常ではないのだろう。これは探すのに一苦労しそうだ。


俺の装備は防弾チョッキと前にかすみさんから渡されてずっと持っているスタンガンだ。

防弾チョッキは警察の人に着なけれは連れて行くことは出来ないと強く言われたので渋々着たものだ。

防弾チョッキは少し重くて動きにくいけどしょうがない。その分安全性が高まるのだから。


この突撃作戦はとにかく速さが重要だ。証拠隠滅を防ぐためすぐに突入、そして証拠の確保。そして豚野郎の逮捕、妻達の救出が今回の内容だ。


警察の人はとにかく証拠の確保に動くだろう。


だけど俺からして見れば証拠なんて後回しだ。とにかく俺は夜依を救う。ただそれだけだ。


俺を先頭に隣にかすみさんと河野さん。後ろに残りの警察の人達という陣形で豚野郎の家の門まで来た。


「ちょっと!何者だ?こんな真夜中に何の用だ!」


ここの警備の人が門から出てきて数人向かってくる。手には拳銃や警棒などの武器を持っていた。男のいる家の装備では当たり前らしいけどすごく物騒だ。防弾チョッキ着ておいて良かったと思った。


「俺は…神楽坂 優馬と言います。男です。あなた達は富田十蔵の妻ですか?」


俺は少しだけビビりながらも聞こえるような声で聞いた。ここの警備の人たちは全員富田十蔵の妻だ。目も死んでいたし、19番さんが教えてくれた情報にあったからだ。


もちろん突入許可の書類も見せた。


「お、お、男!?」


俺の顔を見て警備の妻達は驚く。


「あなた達は散々富田十蔵に弄ばれ、辱めを受けた。だけどもうそんなことをしなくていい。今日、富田十蔵の呪縛から解き放ちます。だからそこをどいて下さい。」


俺は頼んだ。富田十蔵の呪縛はもちろんこの人達にも効いているだろう。この人達も救う対象だ。


「……………」

「……………」


警備の妻達は顔を見合わせ無言で会話を終了させた。


「神楽坂様………お願いします。………頼みます。」


警備の妻達は武器を捨て、頭を下げて頼んできた。


「分かりました。あなた達は警察の人に保護されて下さい。」


後は警察の人に頼んだ。


もうこれで警備はいない。後は家に突入するだけだ。


まず第1関門を突破した。


☆☆☆


家には鍵が掛かっていたが警察の人にはピッキングを行える人がいた。鍵なんて掛けても無意味だ。


素早くピッキングを成功させ家に入り夜依の事を探す。だけどこの家もやたらとデカいそれに暗い。電気をつけると豚野郎に気づかれる可能性があるから極力付けない。足音も立てないように静かに行動するようにする。


部屋の数はやはり尋常ではない。なので少し危険ではあるがかすみさんとは別れ、別々に探す事にした。


警察の人とも別れて探した。俺に着いてくると言ってくれた人もいたけど俺は断った。なぜなら2人で探した方が俺の危険性は少ない。だけど2人で固まっていたら探す範囲が狭まるからだ。それに俺にも多少の護身術ぐらいは出来る。


そういう事で1人で行動になった。

幾度もなく部屋を開け確認するが1人も見当たらない。それに鍵が掛かっていて開けられない部屋もいくつかあった。


俺は焦る。

せっかくここまで来たのにどうしてだ?もしかしてだけど豚野郎は俺が突入してくる事を知っていて逃げたのか?と思ってしまった。


いや、そんな訳ない。考えすぎるな俺!!夜依や19番さんが俺の事を言うはずがないんだ。


「あのーあなたは誰ですか?」


俺が1人であたふたしていると後ろから声をかけられた。


「っ!?」


俺は瞬時に距離を取り、話しかけて来た相手を確認する。


その人は幼い体型で歳は俺より低いと思う。可愛らしい見た目だけどこの子も富田十蔵の妻だ。目が死んでいることで確認した。

この人はどうしてか分からないけど際どいメイド服を着ていた。豚野郎の趣味なのか?悪趣味だな。

風呂上がりなのかこの人は髪が濡れていて、体からは湯気が出ている。こんな夜遅くにどうしてだろう?


「お、俺は神楽坂 優馬。男です。あなた達を救いに来ました。」

「男?ほ、本当?救いに来てくれた……んですか?そんなわけないですよね?」


まだよく分かっていないのか疑心暗鬼のようだ。


「それで………夜依を知らないですか?」

「夜依と言う人は知らないです。あ、もしかして新しく来た25番さんの事ですか?」


25番………でも新しく来た妻という事は夜依で間違いないだろう。


「多分そうです。それで今どこにいるんですか?」


俺は急かすように聞いた。


「えっと、さっき十蔵様に引きずられて行ったのを見ました。あれは多分25番さんだったと思いますけど……」


男の俺に戸惑いながらその人は答えてくれた。


「は?」


引きずられて?どういう事だ?


「恐らくお仕置じゃないですか。だから私も出て行けと言われたんですけどね。」


この人は無表情で答えた。もう豚野郎の呪縛にかかってしまうと自分のこと以外どうでも良くなるのだろうか?


「お仕置!?」


俺は豚野郎が行うお仕置がどれほど危険な事かを知っている。19番さんから細かく教えられているからだ。まだ夜依と豚野郎が部屋に入ってから少ししか経っていないらしい。


「今どこにいるの?教えてくれッ!!」

「わ、わかりましたよ。」


夜依の居場所を細かく聞いた。道に迷わないようにするためだ。


「情報ありがとう。あなたは警察の人に保護してもらってください。」

「え?保護?」


まだ現状に気付いていないようだけど後は警察の人に任せよう。俺はお礼をして目的の場所まで走った。


☆☆☆


俺は豚野郎の寝室に勢いよく入った。


そこには夜依がいて、夜依に唇を押し付けようとしている豚野郎がいた。


夜依は目を瞑り、服が破られている。


俺はそれを見た瞬間に怒りが最頂点に登る。


「はぁ、はぁ、待ちやがれッ!!!」


息を切らしながら大声で叫び、飛び蹴りを食らわせてやった。


豚野郎は豚みたいな気持ち悪い声を上げながら吹っ飛んだ。


「ゆ……優馬……………」


夜依が俺の事に気が付いて泣いている。


「お待たせ夜依、救いに来たよ。」


俺は笑顔で言った。

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