第103話 19番
夜依は痛みとともに目覚めた。
「ぐっ……」
まだ富田十蔵に殴られたみぞおちの所が酷く痛む。
どうやらかなり長い間意識を失っていたらしい。
「あれ?起きちゃったのかい?」
富田十蔵が夜依が目覚めたのに気付いたようだ。愉快な声で話しかけてきた。
そうだ……書類は!?
富田十蔵の部屋で発見した証拠を探す。確かポケットに押し込んでいたはず……
入れたポケットを漁ってみると紙はグシャグシャだったけどあることを確認した。
夜依は痛みを堪えながら起き上がり、富田十蔵の方を見る。
「ひっ………!!」
夜依はそれを見た瞬間に悲鳴をあげた。
なぜなら富田十蔵が19番さんの事をただひたすらに、まるで物のように扱っているからだ。
水が跳ねるような音と共に富田十蔵は腰を動かし、19番さんはその衝撃で震える。
19番さんはもう何も言わない。
顔も原型がないほど殴られ、血まみれ。それに前までこの地下にいてお仕置をされていた妻達のように拷問された傷もあった。
夜依は19番さんの事を呼ぶ。
「19番さんっ!!」
だけど19番さんは答えない。
「もう無駄だよ。コイツはボクが質問したことに一切答えなかった。どんなに拷問をしようとも決っしてね。だから………壊したんだよ。」
富田十蔵は悔しそうに言った。
☆☆☆
19番は夜依よりも数時間早く意識を取り戻す。
「ッ……」
…血の味がする。
意識を取り戻して初めに思ったことがそれだった。
「起きたか19番?」
「じゅう……ぞぅ…………」
口が上手く動かない。それに体も。なぜ?
…あぁ、そうか。
19番は気がついた。
顔面がもう原型がないほどボコボコにされているという事に……歯は折れ、口周りも酷く腫れている。喉も潰されていて声もかすれかすれのガラガラ声しか出ない。痛みなどは限界を超えてもう何も感じないし体も言う事を聞かない。
目もうっすらとしか見えず地下のような薄暗い所ではもうほとんど見えていないのに等しい。
それなのに両手両足が枷で繋がれている。
もう逃げる体力すら残っていないのに……
そういえば…や、夜依さん……は……無事?
この家で唯一まともに喋った仲間とも呼べる人を19番は探した。薄れ行く霞んだ目で必死に……夜依の事を探す。
あ……いた。
夜依は少し離れた所で寝かされている。足には枷がついているがまだ何もされている様子はない。
自分の心配よりも19番は夜依の心配をしていた。
夜依さんがもし汚されてしまったら……神楽坂様に顔向け出来ないですからね……
それに夜依さんが持つ証拠は必ず必要になってくる。
この男はもう私と夜依さんの会話で神楽坂様がこの家に突入してくる事を知っている。あの男なら神楽坂様は警察を味方に着けてくるかもしれないと仮定するだろう。
まだもう少しだけ場所の特定に時間がかかるかもしれないが、そんな情報を知っているのに証拠をそこまで残しておくほどこの男はバカではないだろう。
既に証拠隠滅の為に動き出しているかもしれない。
神楽坂様には悪い事をした。
助けてくれと頼んだのに……自分のせいで神楽坂様に迷惑をかけてしまうことになるのだから。
神楽座様が考えていた作戦などが筒抜けになってしまったのだから……
「お前は何かボクを陥れるために行動した。一体ボクの部屋で何をしていた?言え。」
富田十蔵は19番に尋問をした。
「……あな…たなんかに教えるわけ……ない。」
小さな声で答えた。
「こ、この下等生物がっ!!」
その言葉を聞き、富田十蔵は怒り狂い拳を振り上げ19番に振り下ろす。
───ボガッ
鈍い音がするがもう痛みなんて感じないからどうでもいい。
「言え!言わないともっと痛みつけるぞ!」
「や………やってみたらいいじゃない……私は……私は絶対に───かはっ。」
19番は血反吐を吐いた。
もう、体が崩れていく様な変な感覚もある。
そうか………私はもう………
だけ………ど
「絶対に……言わないっ!!」
19番は気力を振り絞って大きな声で言った。
そう言った直後……少し前の記憶がフラッシュバックする。
あの時だ──初めてまともな男性と会った日だ。
私は神楽坂様に会うまで人生が終わっていると思っていた。………だけどあの人はこれまで相手をしてきた男とは全く違い、まるで転生したかのように常識が通じない男だった。
初めは頭のおかしい人なのかな、なんて……思っていた。だけどそれは大きな勘違いだった。
神楽坂様こそが相応しい男だった。
救うと言ってくれた時……もう私は既に救われていたんだ。これまで欠けてボロボロだった自分の心が修復されたんだ。
ありがとう……
「これは最後の言葉になるぞ!」
「は…………やれるもの……なら………やってみると………いい。」
「こ、こ、この野郎っ!!」
富田十蔵は非常に短気だ。それを利用した。このぐらい怒らせれば夜依なんかそっち抜けでしばらくは私の事を攻撃し続けるだろう。
19番の考えた作戦は成功。富田十蔵は夜依そっちのけで19番を攻撃した。
自分の行いはただの時間稼ぎにしかならない。
まだ夜依さんが連れていかれて数日しか経ってない。それなのに……神楽坂様かもうこの場所を特定して救いに来てくれるとは限らない。来てくれない可能性の方が圧倒的に高い。だけど……少しでも自分がやれる事をやっておこうと思った。
19番は最後に……命の灯火が消える直前に………夜依の方を見てうっすらと笑った。
「後は………頼み……ます。私の分まで………幸せに……なって下さい………ね。」
そう言い19番は………消えゆく意識に身を委ねた。
☆☆☆
19番さんは夜依の持つ証拠を守った。
どんな苦痛も耐えて決して夜依のもつ証拠を吐いたりはしなかった。19番は………夜依に託したのだ。
「どうして……どうしてこんな……酷い事を……」
夜依は泣きながら言う。
「どうして?お仕置だからだよ。妻なの夫の事を危険に晒そうとした。お仕置されるのは必然なのさ。ブヒヒ。こいつの次は25番、キミだからね。楽しみにしておくんだね。」
豚のように嘲笑いながら、発情期の犬のように富田十蔵は腰を動かす。
19番さんは服を破られ、全身裸の状態。だけど全身が強く殴打されていて白い、普通の皮膚は一切無かった。
に、逃げなきゃ。本能でそれを感じた夜依は怯え、震える体を無理やり正し逃げようとする。
───ガシャッッ
金属音が地下に響く。
夜依は今気付いた。自分の足に足枷が付けられてあることに。足に付けられていた足枷が夜依の逃げるのを阻止する。
だけど、そんなのお構い無しに夜依は足枷を取ろうと必死に足枷を引っ張る。
「そんなことしても無駄だよ。」
富田十蔵は言った。
「ふぅ……こいつも、もう飽きたな……じゃあ25番の方にするか!」
富田十蔵は19番さんを投げ捨てる。
19番さんは地面に当たって転がるが受け身も取らないし、何もしない。
「んー、この場所はもう嫌だな。初体験を貰うんだかもっと相応しい場所じゃないとね。」
そう言って富田十蔵は鍵を取り出し夜依の足枷を解いた。
夜依は足枷が外された瞬間に富田十蔵から距離を取り、19番さんの元に駆け寄る。
「19番さんっ!起きて、起きて下さい。お願い………」
夜依は19番のことを必至に揺すぶり、大声で呼ぶ。
だけど19番さんは答えない。それに体がもう冷たく……
「じゃあ……行くよ。」
富田十蔵は夜依の腕を掴み、引きずる。
「19番さんっ!!19番さんっ!!待って……」
夜依は掴まれていない手を全力で伸ばして19番さんを掴もうとするが………掴めなかった。
19番さんがどんどん遠のいていき、やがて見えなくなった。
☆☆☆
「やっぱりここだと盛り上がるね。」
夜依の事を寝室まで引きずり、寝室まで連れてくると富田十蔵は夜依の事をベットに放り投げた。
ワンバウンドでふかふかなベットに着地した夜依に富田十蔵はダイブしてくる。
「きゃっ!」
夜依は悲鳴をあげる。
富田十蔵は既に裸で夜依に馬乗りになっているからだ。
お、重い………
夜依は肉に埋もれる。富田十蔵の肉は汗臭いし、重いし、汚らわしかった。
ベットがふかふかなおかげで何とかなっているが富田十蔵の体重は夜依にかなり圧迫をかけている。
息がしづらかった。
「ここでたっぷりと濃厚な時間楽しもうじゃないか!このボクに初体験を奪われるんだ、生涯の自慢にするといい。なんせ初体験を迎えられずに死んでいく女共は星の数ほどいるのだからね。ブヒヒ、ブヒヒッ!!!」
「いや、いやっ。助けて!!優馬ーッ!!」
夜依の悲鳴など全く気にせず富田十蔵は夜依のメイド服の胸元を躊躇なく破く。
メイド服は元から簡単に破けたり脱げる代物なので夜依の真っ白な肌が顕になる。
「ブヒヒ、キミはどんな味なのかな、昔から絶対に絶品だと思ってたんだよね。しっかりボクの証を体に刻んであげるからね。」
富田十蔵は舌なめずりをする。
夜依はせり上がる富田十蔵のブツを見ないように目を背けた。
「後で番号刺青もしっかりと背中にいれて完全にボクのものにしてやるよ。じゃあ………早速いただいまーすッ!!」
富田十蔵の気持ち悪く、火照った顔が徐々に自分の顔に近付いてくる。両手を肉で塞がれていて抵抗が出来ない。顔も富田十蔵の両手でしっかりと固定された。もう……諦めるしかない……の?
夜依は涙を流しながら諦め目を瞑る。
ごめん……優馬……………私は…………こんな男に………夜依は心の中で優馬に謝った。
───バンッ!!!!
勢いよく寝室のトビラが開いた。
「はぁ、はぁ、待ちやがれッ!!!」
息を切らした誰かが寝室に入ってきた。……いやこの声は聞き覚えのあるものだった。
それと同時に富田十蔵は蹴られたのか、吹っ飛ばされる。
「ブヒッーぃぃぃぃ。」
本気で蹴られたのかサッカーボールのように吹っ飛んだ富田十蔵は近くの家具に激突し豚のような悲鳴を上げながら転げ回る。
「はぁ、はぁ、はぁ……ギリギリ…セーフ…だよね。」
息を切らしながら彼は言う。
「ゆ……優馬……………」
夜依は感動で涙が止まらなかった。
「お待たせ夜依、救いに来たよ。」
優馬は夜依に手を差し出し笑顔で言った。
こんなに……早く。まだ、2日しか経っていないのに……優馬が救いに来てくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます