第102話 頑張る力と勇気
朝、俺はいつも以上に早起きをして警察署に来ていた。
凪さんが夜依の居場所を特定するのはもう少し時間が必要らしいので俺が豚野郎の所に突入した時にスムーズに警察の人に動いて貰えるように今日はそのお願をしに来たのだ。
俺のスマホはかすみさんに預けているため俺は予備のスマホをもってきた。かすみさんは昨日の夜に凪さんの所に行ってからまだ帰って来ていない。凪さんに付きっきりで頑張ってくれているのだろう。
男の俺が来た事で一時的に警察署は騒然となったけど警察署に来ていた一般人も少なく、すぐに担当官的な人が出てきてくれた。
俺は大事な話があるので話を聞いてくれないかと言った。担当官の人はすぐに了承してくれて、誰もいない取り調べ室に案内された。俺はそこにあった椅子に座った。
こういう所って犯罪をおかした人が座るところじゃないのかな?と思ったけどここは完全防音で大事な話をする時には便利な場所らしい。
「今日担当させていただく河野です。よろしくお願いします。」
河野さんと言う警察官が担当してくれるらしい。
俺の目の前でビシッと敬礼をしてくれた。その敬礼はすごく様になっている。
「よろしくお願いします。」
俺は座りながらお辞儀をした。
河野さんはメイクなどは一切せずに髪をゴムで留めているだけのさっぱりとした見た目をしている。
その河野さんは持って来た書類を見て何かを確認しているようだ。
男の俺相手でもあんまり気にしていないようだ。
この人なら効率よく話が進められそうだ。担当官に選ばれた理由がわかった。
「それで、今日はどうして警察署までお越しになられたのですか?」
書類を確認し終わったのか河野さんは聞いてきた。
「今日はお願いをしに来ました………」
俺は富田十蔵のことを事細かに話し、今日か明日に富田十蔵の家を特定して突入すると説明した。もちろん夜依のことも、富田十蔵の悪行も全て言った。
それで、俺の突入後に警察の人には富田十蔵の逮捕と証拠の回収をしてもらいたいとも言った。
河野さんはメモを取りながらしっかりと聞いてくれた。
「富田十蔵ですか……御協力感謝します。前々からあの男には警察も調査をしていたのですが、男という事で警察も慎重に動かなければならなく、困り果てていた所だったんです。神楽坂さんが協力してくださるという事でしたので警察も動くことができます。」
警察も富田十蔵が最悪な豚野郎だったと知っていたらしい。富田十蔵の作った薬物は現在若者で大流行していて警察も日々不眠不休で働いているらしい。
全くほんと人騒がせでクソみたいな野郎だ。
富田十蔵の逮捕は前々から警察で計画されていたのだが、あの豚野郎は勘が鋭く逮捕前に見透かしたかのように引越しをするし、証拠も上手く隠滅してしまうらしい。それに男の特別な役職に現在着いているという事でなかなか強硬手段には及べなかったらしい。
なんとももどかしい状態だったそうだ。
「それで……薬物の症状ってなんなんですかね?」
精神が壊れかかっている妻達を強制的に制御するみたいな薬物と19番さんには聞いたけど一応副作用とか細かいところを聞いておいた方がいいと思った。薬物づけである豚野郎の妻達にも少しでも対応するためでもある。知っておいて損なんて無い。
「分かりました。薬物の症状について説明しますね。この薬物は最近出来た合成薬物でテンションの急激な向上、筋力の一時的な増強、覚醒状態に陥って短い間ですが恐怖心が一切無くなくなるなどの効果があります。しかも服用社の目的の達成のためにどんな手段も厭わない性格になります。ですが、薬物が切れた時の副作用はテンションの急激な低下、酷使しすぎた筋肉の崩壊、酷い怠さ、幻覚、幻聴、そして強い依存性があることです。」
薬物特有の副作用だ。
しっかりと………頭に入れておこう。
「その、治す方法とかって無いんですか?」
「ありません。1度服用したら最後。寿命が尽きるまでこの薬物には苦しめられます。」
「そうですか……」
じゃあもう……豚野郎の妻のほとんどは……
「くっ、」
俺は悔しくて下唇を噛んだ。
「えっと、神楽坂さんのこれまでの報告書に書いてあるのですが……これまで神楽坂さんを危険に晒したとして逮捕された毒牙 毒味、柏木 凛、佐竹 美結、山本 麻耶の4人は全員富田十蔵の広めた薬物を服用しているという記録があります。」
「へ?」
「知らなかったんですか?」
「はい……」
つまり………雫に手を出した毒牙 毒味も、葵に手を出したリン、ミユ、マヤの3人も……元凶はあの豚野郎のせい……と言う事なのか?
全然知らなかった。
俺は正直怖くなった。
じゃあ富田十蔵がいなければ……薬物が広まって……毒牙毒味もリンもミユもマヤに薬物が行き届かなかったわけだし……全員が今も普通に学校に居たんじゃないのかな………
俺は強くあの豚野郎を恨んだ。それはもう殺意に近いのかもしれない。富田十蔵は多くの人の人生を狂わせているのだ。その感情になるのは必然だった。
「協力お願いしますね。」
俺は言った。
河野さんは俺の殺意に気付いたのか少し怯えながら「わかりました」と言ってくれ、豚野郎の家に突入する時用に電話番号も貰った。
警察を味方につけることが出来た。
☆☆☆
まだ、かすみさんからの連絡は来ない。
もう少し時間がかかるのか?まぁ、しょうがない。だって通信記録しかないのだ。細かいところは分からないけどそこから場所を特定するのは大変な事だと思う。
凪さんもかすみさんがついているから全力でやっているはずだ。俺はただ待つことしか出来ない。
警察署から出て俺は家に歩いて向かう。
まだ朝なので人は疎らだ。
俺はマスクとサングラスをして家に向かっているのでちょっと危ない人という感じでしか見られない。男とはバレていないはずだ。
そうだ……ちょっとだけ元気を貰おう……かな。歩いて帰ってる時間を有効に使おう。そう思い、今声だけでも聞きたい人に俺は電話をかけた。
プルプルプル───
「もしもし………」
眠そうにボソボソと言ったのは俺の彼女である葵だ。葵とはまだ付き合っている状態だけどもう婚約者みたいなものだ。まだ俺が婚約者の印を渡していないだけだ。
「おはよう……葵。」
「その声……優馬君ですか!?」
葵は俺からの電話に驚いたようだ。
「まだ寝てた?」
「はい……まだ起床時間前だったので……」
「そっか……ごめんね起こして。」
「だ、大丈夫ですよ。それにこんな朝早くから優馬君とお話する事が出来て嬉しいですよ。」
葵は元気に言った。
葵はまだ病院で入院生活をしている。林間学校で負った擦り傷や切り傷などは完治したらしいのだが骨折をした足は治ってはおらず、まだ歩けもしないそうだ。だけど最近ではリハビリを開始しているらしい。
「リハビリ頑張ってるんだって?」
「はい!!早く優馬君と一緒に学校生活を過ごしたいですし皆さんとも会いたいですからね。」
葵も頑張っているんだ、俺も頑張ろうと思った。
「葵………」
「なんですか?」
「次会った時に大事な話があるんだ……」
俺は深刻そうに言った。
「だ、だ、大事な話ですか!?そ、そ、それって…結こ……」
葵が恥ずかしそうに言う。
俺はただリン達3人の事を教えようと思っただけなんだけど……
「ん?何言ってるか分からなかったよ。もう一度言ってくれない?」
葵は何か言いかけていたようだけど……よく聞き取れなかった。
「い、い、いえ、いいです。その大事な話までこの気持ちは取っておきますので……」
「そっか……」
まぁいいか。何か勘違いしている気がするけど……
「あ、起床時間になりました……これから検温と血圧を測るので……」
葵は残念そうに言う。俺も残念だ。
「そうだね。じゃあ電話、切るよ……」
「もっとお話していたかったです。」
「俺もだよ。じゃあ葵、また。」
「はい!!」
ピッ。
葵を返事を聞いてから俺は電話を切った。
まだかすみさんからの連絡は来ていないし家までもう少しかかる。後1人は電話が出来そうだ。
だったら次は……
俺は再び電話をかけた。
プルプルプル──
「……はい。」
すぐに雫は電話に出た。
雫は俺の婚約者だ。もう婚約者の印である指輪も渡している。
「俺……、優馬だよ。」
「……どうしたの優馬。こんなに朝早くに?」
雫は寝起きのようだ。声が少しガラガラな気がする。
「いや、別に大した用事とかはではないんだけど、ちょっとだけ雫の声が聞きたいなって思ってさ……」
「……珍しい。どうかしたの?もしかして夜依さんのこと?」
う、………雫は相変わらず察しがいいな。
「まぁ、そうだね。それでね、もし俺に何かあったとしても───」
「……優馬、ストップ。それ死亡フラグよ。」
そう雫に止められた。
「え!?そうなの?」
こういうのって死亡フラグなの!?
「……どうせ、必ず帰るとか、待っててとか言うんでしょ?そういうのは死亡フラグなのよ。」
「あ……うん。わかったよ……」
死亡フラグとかよく分からないけど雫がダメと言うのだったらやめておこう。
「それで?そういうのを言うってことはまた優馬は何かするの?」
「う、うん。」
俺は答えた。
富田十蔵の家に突入するという事ははっきり言って危険な事だ。だけど夜依を助けるために手段を選んではいられないと俺は思っている。
「……優馬はいつも1人で突っ走って行くから毎回心配はするけど……それでもいつも笑顔で帰ってくる。私はそう信じてるから……」
「うん。………ありがとう。」
これ以上雫は何も言わなかったし細かいところは聞いても来なかった。俺が女の子のためになると何を言われたとしてもどんな逆境にいようとも助けに行ってしまうという俺の性格を雫は知っていると思う。
その言葉に俺は勇気を貰えた。
雫は可愛くて、俺の事を信用してくれて、俺が頑張る時は背中を押してくれる女の子なんだ。
俺には勿体ない……いや……自慢の奥さんとも言えるかもしれない。
少しだけ嬉し涙も出てきたかもしれないや……
今度会ったら思いっきり抱きしめてあげようと思った。
もうそろそろ家だ。雫との電話はもう終わりにしなければならない。
「ありがとう。俺頑張るよ。」
俺はもう一度感謝の言葉を言った。
「……ええ。」
「じゃあ切るよ。」
そう言って電話を切った。
「ふぅ……」
俺は1度深呼吸をする。
葵と雫のおかげで頑張る力と勇気を貰った。
今の俺にはこんなにも頼もしい奥さん達がいるんだ。新しい奥さんの夜依も絶対に助けると今一度決意した。
雫との電話が終わったのを待っていたかのように、
───テロンッ♪
と着信音がなり俺のスマホにメールが届いた。
俺は急いでそのメールを見た。
メールはかすみさんからだった。
内容は、“優馬様、富田十蔵の家を特定しました。細かい説明は私に1回連絡を下さい。”というものだった。
凪さんが頑張ってくれたんだな……後でちゃんと報酬を渡さないとな……
そう思いながら俺はすぐにかすみさんに連絡をとった。
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