第99話 仕事
「うっ……」
夜依はメイド姿に着替えた。
このメイド服、色々と欠点がある。脱ぎやすい作りになっているのかしっかり留め具で止めなければならないし、露出部分が多く肌寒い。それに体のサイズに合うように作られていて上の下着を付けることが出来なかった。
夜依はしょうがなく上の下着は脱いでいる。
ここで夜依の唯一の情報網であるスマホが回収された。これも富田十蔵の命令らしく19番さんとは違う妻が回収に来た。
1度回収されたスマホは富田十蔵がしっかりと管理するらしい。
夜依は自分の格好に羞恥心で頬を染めながら19番さんの前に立つ。
「着替え終わりましたね。じゃあ仕事の説明と並行に各部屋の紹介もしますのでついてきてください。」
19番さんは何も感想などは言わなかった。
同じ格好だし、同性だから何も感じないのだろう。
「わかりました。」
別に感想を求めていた訳では無いので夜依は先に歩き始めた19番さんの後に続いた。
☆☆☆
初めに紹介されたのは厨房だ。
ここでは富田十蔵含めこの家にいる全ての人間の料理を作る場所だ。
今は先輩妻達がせっせと食材の下処理を行っていた。
19番さんいわく富田十蔵は料理にとことん厳しいらしく味が落ちていたり、見栄え、どんな料理なのか、嫌いな食材が使われていないかなどいちいちチェックされるらしい。もちろんダメだった場合は即作り直しだ。
次に紹介されたのは用具室だ。
ここでは掃除道具だったり予備の調理器具、富田十蔵の予備の家具、妻達の予備の服など様々な物が大量に置かれていた。
富田十蔵はよく家具を自重で破壊する。それを変える仕事も急遽指名されるらしく家具の種類や配置などを覚えておいて、との事だ。
19番さんはそこで救急セットを持ち出していた。
次は裁縫室だ。ミシンやアイロン、糸や針、布など裁縫の道具が並べられそこで数名の妻達がせっせと働いている。この部屋はほつれた妻達の服を直したり富田十蔵の服を作ったりするらしい。富田十蔵の体型以前に男の服はほとんど市場で作られていないので男の服はオーダーメイドが当たり前だ。富田十蔵が着る服を作るので完璧に仕立てなければならない。失敗はもちろん許されない。
次は家の外に出て庭に案内された。
庭では庭師のように庭を整備する仕事をするらしい。この家には様々な草木がありその量も計り知れない。
家にはたまに男も招待するらしく庭は家へ入るまでそこを仕切る人間の顔とも呼べる場所だ。なので庭の整備を怠るときついお仕置になるそうだ。
次は警備室だ。
ここが1番大切な仕事らしい。ここは家からは少し離れていて門の手前にある小さな小屋のようなところにある。
そこにはガタイの良い妻が仁王立ちして門の警備をしている。手には警棒、腰には拳銃を携帯していた。
男である富田十蔵を狙った女達から富田十蔵を守る仕事だ。この仕事は戦闘経験がある妻が任せられる。もちろん夜依には任せられない仕事だ。
次は富田十蔵の寝室だった。
その部屋は金色のベットや金色の机、金色の家具などが綺麗に設置されていてこの部屋だけで相当のお金が使われていることが分かる。それにこんなピカピカした部屋では目がチカチカして寝れなさそうだ。
今は妻の1人が手際よく掃除を行っている。
この部屋は富田十蔵と妻の1人が寝る場所でその妻が選ばれるのは富田十蔵の気分で変わるらしい。
ここは清潔感を保たなければならない場所なので、
1日に1回は必ず掃除をするそうだ。
もう二度と来たくないなと夜依は思った。
ここまで見てきて全員の妻が謎の緊張感を持って仕事を行っていた。その姿に本当に妻なのか?と思ってしまった。
優馬の妻の雫さんは本当に毎日が楽しそうで幸せそうだった。その雫さんとこの妻達を見比べると優馬と富田十蔵には決定的な差があることがわかる。
この2人を選べと言われたら間違いなく、誰もが優馬のことを選ぶだろう。
次は夜依達妻が寝る寝室に案内された。
「うっ……」
夜依は部屋に入った瞬間に鼻を抑える。それほどの刺激臭がそこには漂っていた。
「初めは皆そうなりますけど、慣れないといけないですからね。これだけはどうしようもありません。耐えてください。」
19番さんはこの臭いに慣れているので全然平気らしい。
「うっ……掃除とかってしないんですか?」
こんな臭いがする部屋……綺麗好きの夜依は今すぐにでも掃除がしたかった。
「そんな体力なんて残ってないんですよ。皆掃除するくらいなら睡眠を取ります。」
「そ、そうなんですか……」
とても酷い環境だ。他の部屋は清潔感があって居心地がいいのにこの部屋だけは汚く掃除もされていない。埃まみれだ。妻達の荷物で足の踏み場も無い状態だった。
4段ベットがギュウギュウに部屋に置かれていて個人の空間なんてあったもんじゃない。ここに妻全員が寝るらしい。
こんなところで睡眠をとっても全然休めるはずが無い。その状態でこの家の激務なんて耐えられるわけが無いと夜依は思った。
「これで大体の重要な場所の説明は終わりですね。それで最後に教えたい場所があります。」
寝室を出た後、19番さんは声のトーンを1段階下げた。
「ここからは十蔵様の悪行を教えます。辛いかもしれませんが実際に行われているのでよく見ておいてください。」
「はい……」
夜依は19番さんの話を聞いて固唾を飲む。
優馬も富田十蔵はかなり危険だと言っていた。でも実際どんな悪行をしているのかは知らなかった。
19番さんについて行き、地下に降りた。
地下は薄暗く、ジメジメとしていた。
気持ち悪い。それになんだろう血の臭いも少しだけする……
そして、19番さんは鉄で出来た重いトビラをギギギギッと音を立てて開ける。
夜依は部屋の中を恐る恐る覗いてみる。
「な、なんですかこれ?」
そこでは妻達が謎の植物を栽培をしていた。外で育てればいいのにわざわざ日光の代わりに明るいライトを使い植物を照らして栽培している。それを接せと手入れをする妻達の光景が夜依の目に写った。
「これは薬物を作る時に使用する植物です。」
「や、薬物!?」
その言葉を聞いて夜依は声を上げた。
ま、まずいっ!と思って口を塞いだ夜依だったが、夜依の声を聞いても妻達は全く気にも止めずに手入れを続ける。
「そうです。十蔵様の収入源のほとんどはこの薬物を大量に生産することで得ています。」
「な!?」
19番さんは悲しそうに言う。
「こんな悪行すぐに警察に通報した方がいいですよ。たとえ男だろうが犯罪に手を汚してしまっているのなら関係ないです。有罪です。即逮捕です。」
「そう上手く行く訳では無いんですよ。そのことを警察や国に通報する手段も無いですし、その報告をしてバレてお仕置をされるという危険もあります。」
「くっ、」
「十蔵様は悪知恵が働く方なんです。十蔵様を捕まえるのには警察も国も時間がかかります。その間に証拠を全て消す。それが十蔵様の男の特権を最大限まで生かした悪行なんです。」
「もうどうしようもないじゃないですか……」
「まだ……希望はあります。十蔵様を嫌っていて自ら動いてくれる男性なら何とかなるかもしれないんです……」
「それって……」
男性と聞いて夜依はすぐに優馬の顔を想像してしまう。
「優馬なら何とか出来るんですか?」
「はい。恐らくですが。」
優馬は優しい。だからこんな悪行を許すはずがないのだ。それに必ず迎えに来てくれると言ってくれた。優馬なら何とかしてくれるかもしれない。
「まず、神楽坂様を信じて待ちましょう。きっともう行動に移していると思いますし。」
「そうですね。」
夜依は手を合わせて祈った。
☆☆☆
「まだ、悪行はあるんです……」
19番さんは一層暗い声で夜依に言った。
「ここからは本当に辛いかもしれません。行きたくなければそれでいいです。どうしますか?」
「……………行きます。」
夜依は答えた。
19番さんと夜依は薬物の部屋を出て、更に地下の置くに進む。
さっきからしていた血の臭いはどんどん強くなる。
それに何か変な音が奥から聞こえてくる。なにかのうめき声だろうか……?
そして、その部屋に着いた……
夜依はそれを見て力が抜け両膝を着いてしまう。
な、なに…これ……
夜依の顔はもう真っ青だ。
そこは牢獄のような場所で、足枷をつけられた女性が3人ほどその中にいた。
3人はあーあー、うーうーしか言っておらず不気味なうめき声はこの3人の声だった。
3人は全身がボロボロで、顔を殴打されている後だったり、歯を抜かれていたり、爪を剥がされていたり拷問をされたような状態だった。
3人の目は更に濁りきり、遠くの方を見つめている。精神をグチャグチャに壊されているのだろう意識はあるのに反応をしない。
「ど、どうして……なぜ……」
夜依は震えながら19番さんに聞く。
「この3人は私達と同じ妻です。元々、裁縫の仕事をしていたんですがこの間のパーティで十蔵様の服のサイズが合っていなかったんです。それで、恥をかいたとその3人の妻は揃ってお仕置をされた結果がこれです。」
19番さんは怒りを顕にしながら言う。拳は強く握られていて歯を食いしばっている。
はっきり言ってあの男はクズだ。こんな人間を人間とも思わない悪行をしているあの男はもう人間とは言わない。ただの化け物だ。
「夜依さん。あなたにはこんな風になって欲しくない。だからあえてこれらをあなたに見せました。」
3人の傷をさっき用具室で持ち出していた救急セットを使いながら19番さんは言った。
夜依も19番さんを手伝う。
「気を付けてくださいね。どんな行動、仕草、表情まで全てに神経を尖らせてください。油断したら必ずミスをおかしますから。どうか肝に銘じておいてください。」
「はい…」
夜依は深く頷いた。
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