第100話 証拠
優馬は夜依が豚野郎のところに行ってしまった、と家に帰ってかすみさんに伝えた。
「そうでしたか……それで優馬様は自分の思いしっかりと伝えられましたか?」
かすみさんはそう聞いてきた。
「はい。」
俺はしっかりと自信を持って答えた。
その俺の表情を見てかすみさんは少しだけ笑がこぼれていた気がした。
「こうしてはいられませんね。すぐに救いに行きましょう。」
「はい。そうですね。だけどまず夜依がいる場所を特定しないといけないですね。」
夜依がいる所、つまりあの豚野郎の家を特定しなければ救出作戦なんて実行すら出来ない。
「何か夜依様と通信手段で繋がっていれば何とかなるかと思ったんですけど……持ってないですか?」
「通信手段ですか?これじゃダメですか?」
通信手段と聞いて俺はスマホのコトダマでの夜依との通信記録を見せた。
「これなら何とかなるかもしれません。この分野のスペシャリストの出番ですかね。」
かすみさんは誰かに連絡をした。
☆☆☆
夜依は今、裁縫室にいた。
今日はここに仕事を割り振られた。
理由は単純に人手が足りないかららしい。
ここでの仕事内容は19番さんが言っていた通り、富田十蔵の服の制作と妻達の服の修繕などだ。
裁縫は少しだけやった事はあるが、自分の服の破れた部分を糸で縫ったりするくらいだった。
そんな裁縫初心者である夜依がそんな責任重大な富田十蔵の服を作ることなんてできるわけが無い。
それに昨日見たお仕置をされていた妻達は裁縫のことでお仕置をされていた。そんなのを見てしまった後ので余計手を出しづらい。
そのため慣れている先輩妻達に難しい仕事は任せ、夜依は積極的にサポートに徹することにした。布を測って切ったり、糸くずの掃除などだ。
こうすれば先輩妻達に迷惑をかける必要も無いし、疲れを少しでも軽減出来ると思ったからだ。
夜依の作戦は成功。
先輩妻達は何も言わなかったけど作業がしやすそうにしていた気がする。
1日その仕事を行った。
間に昼休憩も入ったがかなりハードだ。
初めて仕事をしてみてサポートに回っただけでもかなりの疲労だ。19番さんの言っていた通り、仕事終わりに寝室の掃除なんて出来たものじゃない。全員が睡眠を選ぶのがわかった。
夜、ヘトヘトになって寝室に戻ると、1人だけ自分より幼い妻がネグリジェを着ていた。年齢は自分と同じかそれよりも低いと思う。
やっぱりこの子も目が死んでいる。
その妻は一言も喋らずに寝室から出ていった。
周りの妻達は止めもせずに自分のベットに入っていく。
このネグリジェを着た妻は富田十蔵の元に行くのだろう……その後は…………
その後のことを想像してしまい夜依は吐き気を催す。気分を悪くしないように余りそういうことは考えないようにした。
いつ自分が指名されるか分からない今の状況。夜依はすごく不安だ。
そんなことを思いながらベットに入った。
夜依のベットは3段目のベットだ。
このベットのマットレスはものすごく硬く、そして薄い、それにベッド自体がかなり狭いという最悪なベットだった。しかも毛布すらない。
それに4段ベットの骨組みがそろそろ限界なのか寝返りを打っただけでギシギシと悲鳴を上げる始末だった。
こんなの寝れたものじゃない。
それでも寝なければ明日の仕事に差つかえる。そう思い頑張って寝ようとしていた。だけど寝れない。
昨日も何度も体が痛くて起きたりして結局数時間しか寝ていなかった。今日の夜もきっと昨日と同じだろう。
☆☆☆
深夜………
日頃の慣れでしっかりと寝付いている妻達。
だけどまだ来て2日目の夜依はまだ寝付けていない。このベットですぐに寝るためにはもう少しだけ時間が必要だ。
目は瞑っているがまだ意識はある。
体は疲れているはずなのに酷い環境と極度の不安でやはり寝付けていなかった。眠気は十分にあるのにだ。
寝返りを打とうとしてもギシギシとしなるベットがうるさいし、壊れるかと思うと上手く寝返りが打てない。
「うぅっ。」
早く寝ないと、そうしないと本当に明日持たない。
そんな夜依が頑張って寝ようとしている時だった。
「夜依さん……」
小声で誰かが自分を呼んでいる
夜依は目を開けてその人物を確認する。
「………………19番さん!?」
そこには19番さんがいた。音を立てないでこの3段目ベットまで登ってきたらしい。
「どうしたんですかこんな夜中に?」
夜依は小声でコソッと話す。なぜなら19番さんは夜依のことを名前で呼んでいるからだ。
何か大事な話でもあるのだろうかと予想する。
「何って、神楽坂様が救いに来て下さる時に万が一証拠が消されないように、証拠を確保しておきたくてですね。協力して下さい。」
「わ、分かりました。」
それは名案だと思う。いくら優馬の男の特権を使ってここに突入したとしても急いで証拠を消されれば優馬の突入が無駄になってしまうことになる。
それに証拠が無ければ不法侵入などで優馬に罪が回ってくるかもしれない。
そんなこと絶対にさせないっ!
夜依はベットから起き上がった。
「行きましょう。」
夜依は力強く言った。
眠気なんてどこかに飛んで行ってしまった。
☆☆☆
夜依は静かにベットから降りると暗い部屋を慎重に、物音を立てずに進んだ。
優馬も自分を助けてくれる時に危険を犯すのだ。だったら自分も優馬が少しでも楽になるように危険を犯すしかない。
夜依と19番さんは寝室から音を立てずに出ると急いで地下を目指す。
そして昨日行った薬物を栽培していた部屋に入った。
「ここでは少し薬物を採集しておいて下さい。これを警察に見せさえすれば証拠になります。」
「そうですね。」
夜依と19番さんは少しだけバレない程度に採集した。
次に向かったのは富田十蔵の部屋だ。ここは夜依が最初に行った部屋でもある。
今は富田十蔵は寝室でさっきネグリジェを着て出ていった妻とお楽しみの時間だろう。もう行為が終わって寝付いているかもしれない。
だから少し安心して部屋に入れた。
部屋は真っ暗でよく見えないけどたまに月明かりで周りの状況が伺える。それを頼りにしながら19番さんの後に続く。
「その……ここで何をするんですか?」
「ここには薬物の売買の書類などがあるはずです。それに私か夜依さんのスマホもあるかも知れません。」
なるほど……書類があれば決定的だし、スマホもあれば色々と警察とかに連絡する手段を得ることが出来る。それに……優馬にも……連絡ができる。
夜依と19番さんは手探りで富田十蔵の机を漁る。
うっ……何これ……
暗くてよく分からないけど、たまに月の明かりで見えたのがエッチな本だった。
「っっ。」
富田十蔵の机の中のほとんどはエッチな本やら写真で埋め尽くされていた。特に幼女物のやつが多かった気がする。
夜依はそこまでこういう男女の事をよく知らないで成長してきたので顔を赤くする。
「いいから探してください。」
19番さんはなんにも気にせずに言ってくる。
夜依もあまり直視しないように気をつけながら探す。
すると、エッチな本とエッチな本の間に挟まっている書類を見つけた。
これって……
書類の内容は薬物の1個の価格や薬物全ての合計金額、売人に何個売ったのかなどなど詳細に書かれているものだった。
それに決定的なのが富田十蔵の直筆サインがあるのだ。これさえあれば言い逃れできないはずだ。
「これだ……」
「見つけましたか……ではすぐにこの部屋から出ましょう。スマホはありませんでした。」
「はい……」
スマホは無かったのか……それは少しショックだった。
19番さんと夜依は廊下へ出るトビラの前まで移動し、19番さんがトビラを開こうとした時だった。
──ガチャッ
19番さんより早くそのトビラは開かれた。そしてあいつが中に入ってきた。
「何をしているんだい、お前たちは?」
「「!?」」
そこには富田十蔵がいた。
少しだけ証拠を確保することができて安心したと思っていた夜依と19番さん。
富田十蔵が現れたことにより一気にその場は絶望に包まれた。
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