第82話 特殊な性癖を持つ豚野郎


会社見学が終わり、車に戻った俺は普段着に着替えた。メイクも水で落とし、ウイッグも取った。

ふぅ、なかなか疲れるな女装って。


これから1時間半かけて精子バンクに行って俺の精子を納品しなければならない。


はぁ……嫌だなぁ……めんどいな……


まぁ男の義務なんだからしょうがないんだけどさ。


1時間半、車の中で俺は憂鬱な気持ちで過ごしたのだった。


☆☆☆


「じゃあ優君行ってらっしゃい。お母さんはかすみと一緒に車で待ってるから。」


お母さんは仕事が残っているのだろうか大量の書類を整理しながら言う。


精子バンクに到着したものの、今回はお母さんとかすみさんは来ないらしい。まぁ別に一緒に行ったとしても待ってて貰うことになるからいいんだけど。


「すみません、私も社長の尻拭いをしなければならないので。」

「かすみ!言い方悪いよ。」


とかすみさんもお母さんに付きっきりになるようだ。


「わかった。じゃあ行ってくるよ。」


俺は2人に見送られて1人で向かった。


☆☆☆


1人で進み、精子バンクのエントランスまで来た。


「お久しぶりです優馬さん!」


俺の事を待っていたのだろう、1人の女性が話しかけて来た。


「どうもです小林さん。」


小林さんは前に精子バンクに来た時に担当してくれた人だ。久しぶりな気がする。今回も俺担当のようだ。小林さんは前来た時とは全く変わっていないようだ。


「なんか前よりカッコよくなった気がしますよ。」

「ありがとうございます。」


小林さんはうっとりした顔で俺を見つめる。

そんなに変わってないと思うんだけどな……


「今日は精子の提出ですね。滞納してるんで2回分提出をお願いします。2回提出するまで帰れませんので頑張ってくださいね。」


小林さんは書類を見ながら説明してくれた。


「はい……わかりました。」


2回分って……正直きつくね………

俺の体力もつのかな?と思いながらもあの部屋へと向かった。


頑丈そうな扉を抜け、部屋に入った。久しぶりに来たなこの部屋……ここは男しか入ることの出来ない特別な部屋。防音対策もしっかりとされているらしい。

俺は辺りを見渡すとやっぱりそれはあった。それと言うのはもちろんエロ本のことだ。今回はテレビも追加されている。それにエロ本の種類のレパートリーが増えている……壁にはられていたちっちゃい女の子のポスターも張り替えられていて、高校生くらいの水着姿の女の子のポスターに変わっていた。

という事は男の誰かがここを使ったという事になるな。誰かの趣味ってことか………うん。特殊な変態さんなのかな…


まぁ……いいか。

お母さんとかすみさん、それに小林さんを待たせる訳には行かないので俺は、ぱぱっと済ませることにした。


☆☆☆


「ふぅー」


かなり疲れた。


行為を終え、俺のブツが入った黒いタッパみたいな容器を小林さんに提出した。


今は疲れも感じられないくらい、感情が湧いてこない。○○タイムというものだな。


「お疲れ様です。先月と今月の分の精子の提出を確認しました。お金は後で口座に振り込まれるので受け取っておいてください。次は滞納しないで下さいよ。」

「はい、わかりました。」


俺は無表情で答えた。


「それでは今から研究があるので私はここで、また来月に会いましょうね。」

「はい、また今度。」


小林さんは俺のブツが入った容器を手に持って走って行ってしまった。

なんの研究か分からないけど、それほど研究がしたいんだな。


すぐに帰ろうかとしたけどそれなりに体に負荷がかかっていたらしく、体がだるい。


「少しだけ休憩していくとするか……」


俺は休憩することにした。近くにあった椅子に腰を下ろしボーッと無感情のまま時を過ごした。


☆☆☆


数分が経ち少しずつだけど感情が戻り始めた。体のだるさも無くなったので、これなら問題なく動けそうだ。


「さて、帰るとするか……」


ここでする俺の仕事は終わった。すぐに帰ろう……

もうお母さんは待ち疲れている頃だろうし。


俺は帰路につこうとした。


「ちょっと待ってくれたまえ。」


でも後ろから声をかけられ俺は足を止めた。その声は野太く、聞き慣れない声だった。


俺は後ろを振り向き俺を呼び止めた相手の方を見た。


「!?」


一瞬、服を着て二足歩行で立つ豚に見えた。

だけどよく見るとそれは人間だった。ぶくぶくに太り脂肪だらけのお腹、豚のような顔、腕や足はでかいロールケーキみたいに太い。それに服をしっかりと着れていないようだ、太り過ぎて合う服が無かったのだろう。それに腹の脂肪が少しばかり溢れている。あと、呼吸がうるせぇ!めっちゃくちゃ運動した後みたいにゼーゼーガーガーと口呼吸をしている。汗もまるで水が入ったバケツを頭から被りましたか?と聞きたくなるくらいずっと汗が滴り落ちている。それに臭い……汗臭が半端ない。


そんな豚が………いやすごく失礼だな。いくら見た目が豚でも人間だからな。言葉を発しているのだから………あれ……でもこの豚……いやこの人ってもしかして…………


「ボクの名は富田 十蔵じゅうぞう、という者だよ。キミと同じ選ばれし存在の男だよ。」

「は? 」


何を言ってるんだこの人は?変なことを言ったため驚いてしまった。


でもこの人はやっぱり男なんだ。この世界に転生してから2人目の男の人は思ったより変な人だった。主に見た目が……


「今日は男という尊い存在にしか作ることの出来ない特別な物、……精子を提出しに来たのかな?」

「え……あ、はい。」


言い方にイラッとくる。ナルシストなのかこの人は?この人とは絶対に仲良く慣れないなと思った。感なんだけど全身の細胞がこの人のことを拒絶している。本能なのかな?


もしかして、あの部屋を使っているのはこの人なのか?特殊な変態………特殊な性癖を持つ豚……か。


「キミの名前を聞かせてくれないかな?同じ男として覚えておきたいからね。」

「あ、そうですね……名前は神楽坂 優馬です。よろしくお願いします富田さん。」


年上だから一応、敬語を使う。だけど挨拶だけして帰ろうと思う。雑談なんかしたくなかったからだ。

今すぐこの場を立ち去りたい。


「おぉ、よろしく頼むよ神楽坂くん。」


すっと富田さんは手を俺に向けてきた。これはまさか……握手か!?


俺は富田さんが差し出した手を見る。


その手は汗と油でギトギトの状態。これを握れと?

ふざけてるのかな?頭大丈夫なのか?せめて汗と油を拭き取って欲しい。

でも、しょうがないか……断る訳には行かないしな。


「あはは……よろしくお願いします。」


俺は覚悟を決めて握手をした。

う………ギトギトベチャベチャだ。右手がすごく気持ち悪い。後でしっかり洗わないとな……


「ところでキミは学生かい?」

「はい、高校生です。」

「ほぉ、それで、キミはもう経験があるのかな?」

「経験ですか?なんの?」


ロールケーキの腕を胸にあてながら、ブヒヒッと豚のような笑い方で笑う。


「聞き方が悪かったね、キミはもう女と寝た経験はあるのかい?と聞けばよかったね。」

「は!?いやいや、まだですよ!」


なんという質問をするんだよ!失礼すぎやしないかい?まぁ急いで否定したけど。

この人といるとペースが狂う。それに1回1回発言でイラっと癪に障る。


「そうかい……じゃあ婚約者はいるのかい?」

「ええ、まぁ…いますけど。」


あんまり情報は言いたくないんだけどしょうがなく言った。


「そうか、それは良かった。その歳で婚約者もいないのだったら同じ男として恥ずかしいし、人生を損しているからね。」

「なんでですか?」


富田さんの言っている意味がわからなかったからだ。


「女という下等生物は賞味期限が短いからね。若く、新鮮な高校生のうちにたっぷりといただいた方がいいと助言したくてね。」


富田さんははぁはぁと呼吸を荒くしながら舌なめずりをする。


それを聞いて俺はキレた。やっぱりこの特殊な性癖を持つ豚野郎は、俺が前に予想していた最低な男というやつだ。いずれ会うことになるとは思っていたけどまさかここまでクソだとは思わなかった。いや、この世界では当たり前なのか?


「富田さん、あなたはなにを言ってるんですか?下等生物?賞味期限?女の子に賞味期限とかそんなのないですよ。女の子は俺と富田さんみたいに同じ人間なんですよ!その女の子のことを下等生物呼ばわりって言うのは失礼です!」

「ほぉ、キミはそういうタイプか……まだ経験が無いからかね?何度も繰り返せば分かるはずさ。

あぁ、そうだキミも今度ボクの屋敷で行われるパーティに招待してあげるよ。」


そう言って1切れの紙を受け取った。


「それはパーティの招待状だよ。そこで、教えてあげるよ。女と男の格の差を。それにオススメしたいものもあるしね。じゃあボクはこれから用事があるから失礼させてもらうよ。神楽坂くん、ボクと同じ男の同士として今日会えた事を嬉しく思うよ。それではパーティでまた会おう。」


そう富田さんは言いまたゼーゼーガーガー呼吸音を立てながらのしのしと歩いて行った。


俺は招待状を強く握りしめた。

こんなに胸糞悪くなったのは初めての感覚だ。

でも怒りを何かにぶつけてもなんにもならないことはわかっているのでぐっと我慢しながらお母さんとかすみさんの待つ車に戻った俺だった。


☆☆☆


「ほわぁーすごいすごい、やっぱり優馬君みたいな若い男のは活きがいいですね。」


精子バンクの優馬担当の小林は1人で研究室に来ていた。今はさっき受け取った優馬の精子を顕微鏡で観察していた。


「やっぱりね、これなら私の理論はあっているはずね。これで私は………」


小林は1人でふふふと笑っていた。


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