第81話 お母さんの有能な社員
お母さんのいつも通りの実態を会社で確認しつつ、少しだけカッコイイと思ったところで、そう言えば会社はどんなものを作っている会社なのか聞いていたことを思い出した。あの時は凪さん?という人が来てあやふやになったけど別にもう1回聞いてもいいはずだ。
「お母さん、もう1回聞くけど、この会社って何をしている会社なの?」
「あぁ、そうだったね。でも……聞かない方がいいと思うよ……さっきは言いそうになっちゃったけど、いざ考えてみると恥ずかしいと言うか……」
「別に大丈夫じゃないの?」
お母さんは焦れったく、その行為を見て逆に聞き出したくなった。
「そこまで言うんだったら言うけど……この会社は…」
お母さんが言いかけた瞬間───
誰かが勢いよく入ってきた。
「大変ですよ!!!社長!!!」
その様子はかなり慌てていた。
俺は2回目なので、少し慣れ驚かなかった。冷静に後ろを見て誰が来たのかを確認した。
なんだよ、また凪さんか………
社長室に入ってきたのはさっきまでここにいた凪さんだった。
「どうしたの?というかノックしてよ。びっくりするから。」
「そんなことどうでもいいんですよ。やばい事になりましたよ!」
凪さんの手にはさっきまで持っていた書類は無く、パソコンだけを持っていた。
「それでどうしたの?」
「とりあえずこれを見て下さい!不正のウイルスが侵入してしまったんですよ!これを放置してたら、この会社の情報とか予算が奪われてしまいますよ!!!」
パソコンの画面をお母さんに見せて必死に現状を説明する凪さん。
それってやばいじゃん!どうするんだろう……
でもお母さんは少しも動揺すること無く凪さんに言った。
「わかったわかった。凪、いつも通りにウイルスを駆除して。でも今日はここで作業をしてね、娘に有能な社員を自慢したいからね。」
お母さんは許可を出した。
お母さんは何を言っているんだろう?凪さんの今のイメージは新米社員でミスが多い人という感じで認識してしまっているんだけど……?その凪さんに任せたのか?
「わかりました。すぐに終わらせます。ですけどボーナスよろしくお願いしますよ。」
すっと、メガネを外した凪さん。目はクマだらけだけど真剣な眼差しでパソコンを見つめる。
もしかして凪さんも許可を貰うためだけにここに来たのか?そして自分にはこのウイルスを駆除できるからボーナスを下さいと!?
でも凪さんにはこの状況を打破できるような技術があるって言うのか?
俺は無理だろ……と思うけど、あの目を見ると満更でも無さそうだ。
「始めます。」
静かな声で言い凪さんは作業を開始させた。
ガガガガガガ───
と、大きめの音がなるほどの高速タイピングが始まった。
1体どうやったらこんなに早く打てるんだ?と疑問に思いながらその様子を見つめる俺。指が早すぎてパソコンの画面が遅く見える。何をやってるかは全く分からないけど………
お母さんはその驚いている俺を見てニヤニヤしていた。
ものの数秒で凪さんの高速タイピングは終わった。
「ウイルスの駆除完了です。ついでにウイルスの発生元も特定したんで後で警察に通報しときます。ついでに私が自作した最強のウイルスを侵入させたので二度とそのパソコンは使えなくなるはずです。」
「そう、さすが私の有能の社員ね!私の会社にウイルスを侵入させたんだからやり返しても文句は言えないよね。」
あんな短い時間で発生元も特定したの!?すごすぎて何も言えなかった。倍返しもしてるし……
お母さんはお母さんで何にもしてないのに誇ってるし。
「でも疲れましたよ。」
凪さんは社長室のソファに腰をかけた。
短い時間でもかなり集中していたため額に汗を滲ませている。
「あのー、社長。ちゃんとボーナスよろしくお願いしますよ。」
2度言った凪さん。
「わかってるわかってる。」
「って言って前回ボーナスを忘れたの……忘れたんですか?」
「うぅ、あの時は悪かったって言ってるじゃん。優君の目の前で………恥ずかしい…」
お母さんは聞き取れない声で独り言を言いながら落ち込んでいる。社長なのに……社員に負けてるんだけど……大丈夫なのこの会社?
「あ、そうだかすみさんにお願いしましょう。かすみさんなら安心ですし。」
「かすみ!?」
あはは……お母さん(社長)よりかすみさん(秘書)の方が信用されてるってどうなんだろうね……お母さん人望少なさそうだし、しょうがないのかな……
「まぁ…これで女性下着の予算奪われないで済みましたね。一段落ですよ。」
「は?」
凪さんはとんでもないことを言った。女性の下着!?もしかしてこの会社って女性の下着を作る会社なのか!?
予想外の事を凪さんが言ったことにより、女装をしていることも忘れて素の声を出してしまった。
お母さんは見ると、知らん顔で下を向いている。
恥ずかしいって言ってた理由がこれか。お母さんめ、あえて隠していたな。
俺はお母さんのことをジト目で見ていると、凪さんが疑うように聞いてきた。
「あのー茉優さん?思ったより声太いんですね。可愛い見た目なのに意外でビックリしましたよ。」
あ……男だとバレてなかったようだ。
これ以上声を出したら怪しまれるかな?と思い会釈でどうしたのどうにか乗り切ろうとした。
「凪、早く仕事に戻りなさい。まだ午前中なんだよ!」
俺が焦っているとお母さんが助けてくれた。
「そうでした!定時までには帰りたいので頑張ります。ではまた。仕事に戻ります!」
そう言って凪さんは部屋を出て行った。
凪さんを出ていったことを確認して俺はお母さんに尋ねた。
「で?お母さん。やっぱり隠してたの?」
「………」
お母さんは黙秘を続ける。
「いいから。もう誤魔化せないからね。それに黙秘を続けるってことはこの会社は下着を作る会社だって認めてるようなものだからね?」
「もうっ!そうだよ。優君の言う通りだよ。優君は男の子だから、お母さんが異性の下着を作っている会社の社長って知られたら恥ずかしいじゃん。絶対に変な空気になるじゃん。だから嫌だったんだよ!」
お母さんは頭を抱えながら言った。
「それって本当なんですか社長?」
突然の誰かの驚きの声が聞こえた。
「え!?」
き、聞き間違いだよな?と、祈るようにして後ろを向いた。なんと後ろにいたのは凪さん。さっき出ていったはずじゃ……
「どうして凪がここにいるの?さっきので用事は済んだじゃないの?」
「パソコンを忘れてしまって………」
お母さんが聞くと、凪さんは苦笑いをしながら頭をかく。
凪さんは俺とお母さんから白い目で見られているので居心地が悪そうに部屋を後にしようとする。
「それでは……話の続きをどうぞ……私は邪魔なんで失礼しますから。」
「ちょちょ、待って!さっきの話、聞いてましたよね?俺のことを!」
手を捕まれ部屋を出ることを俺に封じられた凪さん。
凪さんは小さな声で言った。
「はい、しっかり聞きました。社長の声大きいんですもん……」
はい……お母さん……戦犯だよ。
「ところでですね……茉優さん……いえ、優さんはどんな下着をつけているんですか?教えてくれません?」
「え?」
凪さんは俺の体を服越しに触ってくる。何この人!?普通の女の子とはどう考えても違う行動をとってきた。
凪さんの目の色が変わった!俺は全身から身震いした。この人はやばい人かもしれないと……
「あ、別に気にしないでください。私が興味を持つのは男性本体じゃなくて下着ですので。下着にしか興味はありません。」
あ……もしかして凪さんはそっち系の人なのか………下着フェチって言うんだろうか?どう考えても変態じゃないか。
「ほぉー、これは興味深いですね。女性と男性は骨格が違うから……下着も違ってくるんですね。面白い!そうだ、優さん1回脱いでくれないですか?」
なでなで俺の体……いや、下着を服越しに触りながら凪さんは言う。ちょっと下半身の下着も触ろうとしてくるんだけど!?
「いや脱ぐわけないじゃないですか!て言うかやめてください。」
凪さんの手が下半身に届きそうになった時に咄嗟に後ろに下がってかわした。危なかった。
「じゃあどうやったら脱いでくれますか?」
何がなんでも俺の下着が欲しい凪さん。電話番号が書かれた名刺を俺に差し出してきた。
「私、電磁 凪って言います。私に下着を見せてくれるという日が来たのならいつでも連絡してください。待ってますから。ずっと。」
はぁはぁと吐息を漏らしながら凪さんは言う。
それを見て引きながら受け取る俺だった。
そんな面倒臭い事がお母さんの会社見学の時に起こったのだった。
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