第73話 神様はいつも暇らしい
「──っ、…………はぁ………!?」
気付くと……俺は真っ白な空間で、透明の椅子の様な物に座らされていた。
葵を送り届けた辺りからの記憶は、正直曖昧でどうなったのかは分からない。
でも、そんな事よりも……何だこの空間は?
何も無いただただ真っ白な空間。そこに出入口らしき物は存在せず、光源もそこら辺がどうなっているのかも分からない。
多分……夢?のはずだろう。
肉体と精神的に、そう感じられた。
──すると……突然、心の中に聞き覚えのある声が響いた。
(やっほー、和也くん。元気にしてた?あ、そっか今は優馬くんだね!)
懐かしくもあり、落ち着く……そんな優しい声だ。
「そ、その声は………それに、俺の転生する前の名前を知っていると言う事は……もしかして、神様ですか?」
(そーだよ。君を転生させた、えらーい神様だよ!)
姿形は認識出来ない。だけど、間違いなく俺を転生させてくれた神様だと分かった。
「それで……今回はなんで……?」
神様と前に会ったのは転生する時で、実質十数年ぶりだ。もう干渉して来ないものだと思っていたけど、どういう事なんだろう?
(まぁ、突然だもんね。不安になるのもしょうがない。でもこういう節目の時はね、君と話をしたかったんだ。)
「節目?」
(気にしないでね。ぶっちゃけ暇だったから、君を見ているだけだから。で、今回干渉したのも神様の気まぐれって思ってもらっていいから。)
「はぁ……そう、なんですか?」
俺はただの人間。そもそも神様と価値観は違うので考えは理解出来なかった。
「って────神様、葵は?葵はどうなったんですか!?」
何処に神様が居るのかは分からない、だけど俺は身を乗り出して神様に聞いた。初めは神様の事で頭が支配されていたけど、時間が経つにつれて葵の心配が勝ったのだ。
(神崎 葵の事だったら心配いらないよ。君が頑張ってくれたおかげでね。)
「そう、ですか。よかった。」
俺は心の底から安堵した。
だって、葵との約束をこれで実行できるからな。
──でも待てよ。
「あ、あれ………あの神様?」
(ん、なにかな?)
「俺って、死んじゃったんですか?」
俺は今、現実に戻れていない。という事は、もう戻れないのではないかと思ってしまった。だって、このむず痒い感覚は死んだ時の感覚と近かったからだ。
(あはは、心配し過ぎだよ。大丈夫。優馬くんはその程度では死なないよ。男の子で、体が頑丈だからね。)
「よ、よかった……俺は死んでないんですね。」
鍛えていて良かったと、心から思った。
でも、起きてすぐは筋肉痛に悩まされるのだろうなと予感し、憂鬱になる。
(そろそろ、ここら辺で話は閉じるけど……たまには君をここに呼び出してもいいかい?)
「えっと……それはどうして?」
(神様って言う仕事はね、案外暇なんだよ。だから話し相手が欲しいのさ。)
「…………は、はぁ、なるほど。」
(それで返答は如何にかな?)
神様は女の子らしく首を傾げる仕草で聞いているような気がした。
「それはもちろん大丈夫ですよ。でも、忙しい時は勘弁です。」
(うん!分かった。じゃあ言質も取った事だし、今回はここまで。またね優馬くん。いつでも、いつまでも私は君を見守っているからね。)
「え?あ、はい、また。」
声だけでも分かるぐらい神様は喜んでいるようだった。まぁ、神様は俺の恩人だ。それぐらいの事で喜んで貰えるのなら万々歳である。
そんな事を思っていると……パソコンゲームが急に落ちるかのように、唐突に俺の意識は途切れた。
☆☆☆
最高峰の病院の一室、そこで俺は寝かされていた。
「………………痛っ、」
俺は目を開けるよりも先に、痛みを強く感じた。
そのせいで目覚めは正直最悪、でも生を実感できる事に喜びを感じた。
「ぐっ……」
体はまだまだ、だるく重い。両足も酷い筋肉痛だし、怪我をした場所もジンジンと痛む。
でも、俺が体を起こそうとしたよりも先に……
「──お、お、お兄ちゃんっ!起きた。嬉しいよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「──優くーんっ!!!心配したんだよー!!!」
俺の両隣に居た、茉優とお母さんが泣きながら俺に抱きついてきた。
ぐむっ……く、苦しい。久しぶりだし。
でも、美人2人に抱きつかれるのは嬉しい。
「茉優、それにお母さん。どうして、ここに?」
「どうしてって、優君が林間学校で緊急搬送されて……本当に心配だったんだからね!」
「そうだよ、これで2回目なんだよ!本当に本当に怖かったんだからね!」
状況がまだ全然理解出来ていないのに、すぐに2人から説教される俺であった。でも、2人に多大な心配をかけた事は間違いない。だからこれから、一層気を付けて生活しようと思った。
しばらく2人を宥めて、落ち着いてくれると……お母さんは俺が意識を失っていた時の状況を軽く説明してくれた。
「──優君はね、2日も眠っていたの。」
「へ?……2日も!?じゃあ林間学校は既に終わってるじゃん。」
最後まで仕事を全う出来なかった、生徒会の一員として申し訳ない。それに悔しい。
「それとね、葵さん……っていう、優君と同じく運ばれた人は、かなりの手術をしたって話だったけど、無事手術は成功したそうよ。」
「そっか。よかった。じゃあ、後でお見舞いに行かなきゃな。」
神様が言っていたから大丈夫だとは信じていたけど、やっぱり元気な姿は見たいしな。
「お兄ちゃん!」
「ん……?」
俺はすぐにベットから飛び起きそうな勢いだった。だからか茉優から服を引っ張られ、止められる。
「…………本当に大丈夫なの?」
「う、うん。まだ体調は万全じゃ無いけど……問題は無いよ。」
「そう、なの?」
しょんぼりとする茉優。
「──じゃあ、茉優には心配掛けちゃったし、俺が退院したら一緒に遊びにでも行くか!」
「え!いいの?」
「あぁ、俺でよければな。」
「もちろん!行くよ。大好き、お兄ちゃん!」
これで機嫌取りをしたい訳じゃないけど、心配を掛けたお詫びと言ったところだろうか。
「あ、そうだ。……ところで聞きたかったんだけどさ、なんで俺は2日間も眠ってたんだ?」
ただの疲労だけではこうはならないだろう。
別に足の怪我もそうエグい物でもないだろうし。
「お母さんが説明してあげる。優君はね“風邪”だったの。それもかなり悪化したね。」
「え……っ、か、か、風邪?」
そう言われれば、思い当たる節はある。
体が妙に熱かったし、肉体のパフォーマンスが落ちたし、意識がモヤモヤしたし……
多分、イカダで川下りの時に川に落ちた……あれが原因だな。
でも、蚊の感染症とかじゃなくて本当に良かった。
……一安心だ。
「──よし、じゃあ行って来るよ。」
俺はベットから立ち上がった。
少しだけ、よろけるが……ギリギリ歩ける。葵に会いに行くだけならば今の所、支障は無い。
「え?お兄ちゃん、何処に行くの?」
「葵のお見舞いに行くんだよ。とにかく今は葵の顔を少しでも眺めたいからね。」
「で、でも……お兄ちゃん……」
「あ、大丈夫大丈夫。体調には十分気を付けるし、変装もして行くからさ。」
取り敢えず、男はバレずに外を出歩く時はマスクを付ける。この世界では“常識”である。(自論)
俺は1枚服を羽織り、マスクを付けると「行ってくる。」と言って病室から出た。
「ちょ、お兄ちゃん!?」
茉優が俺の名前を呼んだような気がしたけど……まぁ、いいか。
☆☆☆
「──ちょっとお母さん!お兄ちゃん行っちゃったじゃない。なんで止めないの?お兄ちゃんはまだ病み上がりなんだよ!いつものお母さんなら止めるはずでしょ?」
茉優はそうお母さんに訴えるが……お母さんはとろけた温かい目でお兄ちゃんが出て行った方向を見つめていた。
「はぁ~いいなぁ、あの子。優君がわざわざお見舞いに来てくれるのよ。そんな経験すごく貴重なのよ。それに優君、あの優君がちゃんとした“青春”を送ってるなーって。親として、母親としてすごく嬉しいのよ。」
「お母さん……」
「だけど、1人の女としては羨ましすぎるっ!」
途中まではちゃんとした“お母さん”だった。だけど、いつもの通常運転のお母さんに戻った。
「行くわよ、茉優!今すぐ優君を追いかけるのよ!」
「え、あ、うん。了解!」
お兄ちゃんを追いかける為、茉優はお母さんと一緒に勢いよくドアを開き、追いかけようとした。
「───それはダメです。」
だけど、それはドアの前に立ち塞がっていたかすみさんによって防がれた。
「ちょっと、そこをどきなさい、かすみっ!!!」
「いえ、それは無理です。優馬様にさっき頼まれました。これは優馬様の“青春”です。だから家族が邪魔をしてはいけません。」
突如として現れた
どうやらお兄ちゃんは茉優とお母さんが追いかけてくると予め予想して、かすみさんに頼んでいたのか……!?
さ、流石、お兄ちゃんだ!
茉優は呆気に取られながらも、かすみさんを突破しようと頑張るのであった。
☆☆☆
「──はぁはぁ、結構、中々にキツイかもな。」
俺は手すりを使いながら、ゆっくりと移動する。
「くっ、時間かかっちゃうかもな……」
でも、大丈夫。少しずつ、少しずつ近付ければいいのだから。
「──手伝いましょうか、優馬様?」
「いえ大丈夫です……ってあれ、かすみさん!?」
「どうも、ご無事で何よりです。」
すっと、かすみさんは俺の前に現れて肩を貸してくれた。てっきり、看護師さんだと思って焦った。
「…………そうだ、あの、1つだけ頼みがあるんですけど、これから俺は大事な話をしに行きます。だから、お母さんと茉優に邪魔をさせないようにしてくれませんか?」
どうせ、追いかけて来るだろう。だから先に先手を打っておく。
「それって………あぁ。なるほど分かりました。任せて下さい。それと頑張って来て下さい。」
「あ、はい。」
察してくれた、かすみさんは最後に少しだけ嬉しそうにしながら俺の病室に向かって歩いて行った。
「よしっと、俺も向かうとするか。」
俺は葵の病室へとゆっくりと足を進めた。
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