第61話 女子達のテント


覗きをした4人は結局、警護の為に残っていた奈緒先生に見つかり、尋常じゃない程に怒られた。俺が口を出さなかったら説教徹夜コースだったかもしれない。


俺はまぁ、そんな涙目の4人を哀れみの目で眺めつつ、さっき買ったコーヒー牛乳を飲んで甘味に包まれた。


……そんなごちゃごちゃな時間を過ごし、その日はすぐに寝てしまった。1人だから特にやる事が無かったのだ。


☆☆☆


──就寝時間が過ぎ、夜は一層に深まる。

だがそんな暗闇の中に微かな明かりが付いているテントがあった。そのテントからは小さな声だが……話し声も漏れ出している。


……雫、由香子、春香、菜月、夜依、葵の6人はそんなテントの中で女子会を開催していたのだ。


皆それぞれリラックスした体勢で支給された寝袋に入り、各々で持ってきたおやつを食べる。


「それで~~優馬君に助けてもらってさ~~」

「そうっすよ、大変だったっす。もう二度と覗きなんてしないっすね……」

「うん、だね……奈緒先生すごく怖かったもん♪」

「ふふふ、ですね!!」


女子トークの内容は、ほぼほぼが優馬オンリーの話で各々が彼のいい所を言い合う。そして、互いの価値観の違いや性格、心情などを見せ合ってゆく。


「──私はやっぱり優しいって素晴らしいと思うっす。それにあのルックスとあの性格。文武両道。まさに完璧人間っすよ!」


菜月が心を躍らせながら言う。


「だよね~~優馬君には弱点なんて無いのかもね。」

「……いやいや、案外弱点あるよ。」


皆、菜月の話に共感し、そう信じた。だがこの中で一番優馬の事を理解している雫がその言葉をすぐに否定した。


「え!!た、例えばどんな弱点があるんですか?」

「それな~~聞きたい聞きたい!」

「教えて欲しいっすよ!頼むっすよー!」


葵、由香子、菜月は当然のようにそれにすぐに食い付いた。

……後の2人。声を出さなかった春香、夜依を雫は見た。


「……」


春香はおやつを口いっぱいに頬張っていたため反応が遅れただけなんだとすぐに理解し、今まで話にほとんど参加していなかった夜依もこの話には興味がありそうだった。


「……優馬はね────」


雫は得意気に優馬の話をする事にした。単純な優越感を得られると同時に、皆がもっと優馬の事を知ってくれる事が単純に嬉しかったからだ。


☆☆☆


1時間ぐらいは経過しただろうか。

見回りの先生を何度かやり過ごし、女子会はどんどん続く。

……話のネタは未だに変わらない。

皆は優馬の事だったら無限に話せるからだ。


だが、そろそろ女子会も終わりが近そうだ。なぜなら今まで進行の役割を担っていた春香と由香子が寝落ちしそうだからだ。


夜依や葵はまだまだ行けそうな感じもするが……菜月は完全に眠りに落ちていたし。


雫はまだ行ける感覚はあるが……明日も色々と大変なのでそろそろ休みたい気持ちもあった。


「そろそろ……皆寝ようかねぇ♪」

「だね~~もう眠いもんね~~じゃおやすみ~~」


完全に頭が回っていない春香、由香子。もうこの2人は脱落のようだ。ボソボソと言い終わった後にそのまま寝落ちしてしまったようだ。


最後に残ったのは雫、葵、夜依の3人。


あまり接点の無いもの同士。学校ではほとんど話をした事が無いし、雫にとってはこの林間学校で初めてまともに話をした2人である。


「「「…………」」」


なので当然話は途切れる。3人はコミュニケーション能力が由香子や春香程高い訳じゃないからでもある。


静寂。そのせいで、眠気も増してくる。

このまま無言のうちに静かに寝落ちするのだろうか……?そう予想していた、雫。


──だが、静寂はすぐに消えて無くなった。


「私は神楽坂 優馬は不思議な人間だと思います。」


それは夜依の一言であった。その言葉は単純に夜依が優馬に対して思っている事なのであろう。


「確かに。色々と優馬くんって不思議ですよね!!」


葵も同じく、言葉に乗っかった。

もちろん雫も2人と同意見である。


「本当に……何者なんでしょうね、彼は。いくら振り払ってもめげずに何度でも話しかけて来ますし。

そのせいで……私の男に対しての強い嫌悪感も多少変えられてもしまいました。」

「……へぇ、そうなんだ。」


……優馬、一体夜依に何をしたのだろう。

たまに優馬は訳の分からない行動をする。自己中……という訳では無いのだが、意味の無い行動をしない優馬なら何かその行動に意味があるのだろう。


雫は夜依を見つめる。

……カワイイ。それに美しい。

自分なんかと比べると、その差は明らかに大きい。


雫の中で新たな彼女候補が出来てしまった。

考えれば考えるほど、優馬なら、そうなのだろうと思ってしまうのだ。嫌……という気持ちは特に無い。逆に喜ばしい事なのだから。だけど、初めての“嫉妬”を雫は感じたような気がした。


「まぁ……そんなこんなで、私に親しくして下さった皆さん。本当にありがとうございます。これからも末永くよろしくお願いします。」


冷静でストイックな夜依らしくない感謝の言葉。

だが自然と……夜依という人間少しが分かったような気がした。


「……よろしく。」

「よろしくお願いします!!」


雫、葵、夜依……3人はまだまだ深い関係ではない。だが……この2人とならばもっと、もっと仲良くなれると雫は確信出来たような気がした。

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