第58話 本館にて


昼食を食べ終わった俺達は次のイベントのキャンプファイヤーとBBQで使う薪拾いを協力して行う事にした。


一応、林の楽園からも多少の薪は配給されるのだが、そのほとんどはキャンプファイヤーなどで使用してしまうのでBBQで使う分の薪は自分達で集めなくてはならない事になっていた。


正直すごく面倒くさいし、早めに薪や木、枝などなどを集めに行かないと手頃の物が他の班に取られるので効率良くスピーディに行動しなければならない。


俺達はテント設営が終わって直ぐに軽く話し合い、分担をして集める事にした。


分担チームは公平のジャンケンの元、メンバーが決まった。


俺、雫、葵は近くの山の斜面で集めるチーム。

夜依、由香子、菜月、春香は近くの指定されている地域で手頃な物を大量に集めるチームだ。


ハッキリ言って、後者の方が大変な仕事である。なぜなら後者の方が周りに人が居るからである。


これは完全に力仕事だ。なので俺の力を今こそ十二分に発揮出来ると思ったんだけど……やはり、皆がそれを許してくれなかった。





「──はわわっ、思ったより山の斜面は危ないですね!!??」

「……確かに。足を滑らせたら確実に怪我するでしょうね。」


葵はそろりそろりと緊張感を持ち一歩一歩慎重に進む中、雫は葵と話をしながらもそれなりに動けていた。元々テニスをやっていた雫は純粋に身体能力が高いのであろう。


俺もそんな2人を見つつも、足を滑らせないように細心の注意を払いながら、カゴに薪や枝、乾燥した松ぼっくりなんかを放り込んでいく。



……取り敢えず、分担して数十分後。


俺達のチーム全員のカゴが大体満杯になったので、班のテントに戻る事にした。多分、俺達の居た場所は相当な穴場だったのだろう………だって少し歩いただけでポンポンと手頃な物が見つかったからだ。それに周りの班はほとんどここに気付かずに俺達の方には来ていなかったからだ。


「多分、夜依達はほとんど取れてないんじゃないかな?」

「そうかもですね。でも、私達の分で充分足りると思いますし、恐らく大丈夫ですよね?」

「……そうね。問題無いとは思うけど、人数も人数だから、少し足り無くなる気もする。」

「まぁ、その時はその時でまた取りに行けばいいじゃん。」

「……それもそうね。」


そんな会話をしながら、班のテントに戻って来ると……


「──あら……随分と遅かったですね。待ちくたびれましたよ。」

「え!?」


既に夜依達はテントに戻って来ていて、菜月のいれたお茶でティーパーティを催していた。


「え!あ、えぇ?」


困惑する俺達、どうやら夜依達の事を……買いかぶりすぎていたらしい。


俺達はすぐに夜依達の集めて来た物を見たが……かかった時間は俺達より断然短く、集めて来た薪の量も遥かに多く、俺達を圧倒的に上回っていた。


「えっと……すごい、ね。マジックか何か、かな?」


逆に怖い。声を震わせながら夜依達を賞賛する。


え、えっと……確か、夜依達の行った場所って言わば“戦場”だよね?だってほとんどの班がそこで集めるのだから。そんな戦場でここまでの成果を挙げるとは……もはやすごいとしか言いようがなかった。


マジックと俺が疑いたくなる気持ちも分かって欲しい。


「ふふふ、まぁ私がいたからね♪」


そんな時に春香は自信満々に胸を張る。


「あぁ……なるほどね。確かにそれだと可能かも。」


春香の一言で、高速で薪を拾う春香の姿が目に浮かんだので、夜依達へのマジック疑いを晴らした俺。


「──皆さんのお茶を用意したっすよぉー」

「お、助かるな!」

「……ありがとう、菜月。」

「ありがとうございます!!いただきますね。」


そして夜依達のしていたティーパーティに参加するのであった。


……そんな感じで俺達の薪拾いは早々に終わり、夕食前の自由時間を班で楽しむのであった。


☆☆☆


〘──ガガッ………優馬君、聞こえていますか?〙


俺はテントの中でのんびり葵達と話をしていたら、突然所持していたトランシーバーに連絡が入った。


数秒考え、連絡者はどうやら奈緒先生のようだった。


「うおっ、ビックリした!」


トランシーバーでの通信は初めてだったので、少しだけ驚く俺。


「一体、どうしたんですか?何か生徒会での仕事ですか?」


俺に連絡してくるのであれば恐らくそうだろう……と、思ったけれど?


〘………いえ、生徒会の仕事では無いです。でも大切な事なんです。優馬君だけのね。〙

「そうなんですか……?」


いつも真剣な奈緒先生だけど、このトランシーバーから出ている声は、いつもより切羽が詰まっていて焦っているような……そんな声だった。


〘………それで、もう優馬君達の班は自由時間に入っていますか?〙

「はい、もう入ってますよ。」

〘ガガッ………なら、大丈夫ですね。では、優馬君は林の楽園の本館まで必ず“1人”で来てください。それと、全ての荷物を持って来て下さい。〙

「あ……はい、分かりました?」


やけに“1人”を強調したような言い方だった気もしたけど、まぁ素直に従う事にした。


テントで広げていた荷物(お菓子類)をある程度片付ける。


でも周りで聞いていた皆がこの事で口出しする様子は無く、何処と何となく何かを察しているような感じがした。


「えっと……じゃあ行ってくるよ。」


ほぼ全ての荷物を持った俺は皆にそう伝える。


「……ええ。」

「行ってらっしゃいっす。」

「いってら~~」

「うぅ、バイバイ♪」

「さようなら。」


うーむ。やはり何かが引っかかる。けど、まだ俺には分からない。


取り敢えず、このむず痒い気持ちを我慢しつつ、奈緒先生の元へ急いだ。


☆☆☆


少し早歩きで数分、俺は林の楽園の本館入口前付近まで来た。そして遠目から奈緒先生が指定した場所を見ると……


おっ、いたいた。


俺の目の先に、林の楽園の本館入口前にちょこんと佇む小さな人……奈緒先生がいた。


「おーい奈緒先生。」


俺は少し軽い口調で遠くから話し、駆け寄った。


「おや、来ましたね。それで確認ですが、誰も着いて来ていませんね?」

「あ、はい……多分。大丈夫ですけど?」


奈緒先生は出会って直ぐにそれを確認してきた。更に周りを警戒しているのか、目を右往左往させ辺りを見渡した。何処か真剣な雰囲気だったので、俺はふざけずに嘘偽り無く質問を肯定した。


「ならいいです。では早速行きましょうか。」

「え…どこにですか?というか俺を呼んだ理由って一体、何なんでか?」

「あれ……トランシーバーで言った意味がちゃんと伝わっていませんでしたか?ならきちんと説明しますね。

……今優馬君を呼んだ理由は、男の優馬君を女だらけの場所で寝させると大変危険ですので、優馬君だけは特別に本館の一室に避難させて貰う事になったんです。」

「はぁ……なるほど。」


さっき雫と話した通りになったという訳だ。

これまでの違和感が一気に一掃され、少しだけ気分が楽になった。


「それで今から、本館での宿泊を許可してくれた寛容な森さんの所に挨拶に行きますよ!なので用意をして下さい。」


そう言い奈緒先生と共に自動ドアを抜け、本館の中に入った。


本館は想像以上に綺麗な木造建築で、森さんの趣味?なのか……至る所に立派な盆栽が置かれていた。そのため、素朴で独特な雰囲気がその場には流れていた。


「全ての盆栽は森さんの私物なんですよ。」


俺がその盆栽達に目を奪われていると、奈緒先生が森さんについて少しだけ教えてくれた。


「へぇー、奈緒先生って森さんの事をよく知ってるんですね。」

「ええ、そうですね。森さん──いえ、森“先生”と言った方が適切ですね……森先生は元私の担任だった御方なんです。それで私が教師となる志をくれた人で……私が世界で1番と言ってもいいほど尊敬している人です。」


なるほど、どおりで…………俺は2人の関係に納得した。


「おっと……もう森さんは事務室で待っていらっしゃるはずです。急ぎましょう!」

「あ、はい!」


俺は奈緒先生について行き、森さんが待つ事務室に向かうのであった。


☆☆☆


──林の楽園の事務室にて。


「よぉ来たの、奈緒、それと……君はさっき話をしていた男児じゃな?」


杖を近くに置き、木製の座椅子に座る森さんは奈緒先生、俺の順に目を右に動かした。


「はい、神楽坂 優馬と言います。よろしくお願いします。」


取り敢えず、高校生らしい元気ハツラツな態度で自己紹介をした。


奈緒先生からはいつも通りに挨拶をしてくれと予め言われていたので、素の自分を無難にさらけ出して挨拶した。


「おぉ、噂通り行儀がいいんじゃな。それに、見れば見るほどの色男。まさに乙女の理想の様な男児じゃな。」

「あ、ありがとうございます……?」


俺の事をそう絶賛すると、森さんは手招きして奈緒先生と俺を座るように促して来たので、森さんの向えに座った。


「早速本題に入らせて頂きますが……今回、神楽坂 優馬の為に本館の部屋を貸して頂けるという事で、その感謝の挨拶に来ました。」

「あぁ、確かにそうじゃったな。だが当然の事なので問題ないのじゃ。それに初めての事でもないからの。」


初めてでは無いというのは……恐らく大地先輩の事であろう。


「お主が泊まる部屋の掃除はもう済ませてあるのじゃ。部屋は3階のすぐ左の部屋で、部屋番号は17番。質素な部屋じゃが……この本館の中では選りすぐりの部屋なのじゃ。ほれ、受け取るのじゃ。」


森さんはそう説明すると、17番のタグが付いた鍵を渡してくれた。


「すぐに確認して来るといいのじゃ。」

「はい。ありがとうございました。また来ます!」


俺と奈緒先生は一緒にお辞儀をしてから事務室から出た。


☆☆☆


1度、さっき盆栽があった所まで戻り、そこから階段で3階まで上がると……3階はまるでホテルみたいで静かな造りになっていた。


そして森さんに言われた通りに左へ進み、すぐに17番のプレートが掛けられた部屋を見つけた。


「よし……部屋も無事分かった事ですし、後はもう大丈夫ですね。」

「はい。俺一人の為にここまでして下さってありがとうございます、奈緒先生!」

「い、いえ。」


少し照れつつも、すぐに先生として気を引き締めた奈緒先生。


「では、また後で。部屋で荷物の整理をしたら早めに班と合流して下さいね。後、先生達は本館の2階に宿泊する予定ですのでもし何かあったらそこに来て下さい。後、戸締りは必ず行って下さい。それと、女子生徒から後を付けられないようにも心掛けてください……それからそれから。」


何個かの注意事項を聞き、奈緒先生は満足気に階段を降りて行った。


さてと……じゃあ部屋に入りますか。


俺は森さんから貰った鍵を使い、部屋の中へと入る。部屋は閑静な和式造りで、部屋の床全てに畳が敷かれ、窓には襖もあり、味のある座敷や、1人用のちゃぶ台などなど……一見地味にも見えるその部屋だが、俺は十分落ち着く。というかほのぼのした。


「──よしっと、じゃあ始めるとするかな。」


ここからは簡単な荷物の整理整頓の時間だ。

俺はまぁ適当に整理整頓をし始めるのであった。

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