第57話 テント設営
シュュュ────と、虫除けスプレーを充分過ぎる程吹きかけ、これで準備完了だ。
俺はオーナーの森さんが言っていた蚊が怖すぎて、虫除けスプレーをひたすら自分に吹きかけて虫除けをしていた。
自分でも正直かけ過ぎだなとは思うけれど、それでも怖いのだ。それに、虫除けをしていても関係無しに問答無用で刺してくる蚊だって多分いると思うからだ。
まぁ、でもそんなにビクビク怯えていたら、この林間学校をめいいっぱい楽しめないと思ったので、あまり蚊の事は考えないようにした。
「よしっと、じゃあ早速テント設営をしよっか。」
俺はやる気満々で言った。
今は開校式も終わり、俺と夜依と葵はテント設営をする近くの草原に移動していた。広大な敷地にそれぞれ決められた場所で、テント設営を開始する。
「──ところで、テント設営は2班共同で行うものでしたよね?一体、どの班と組むんですか?」
夜依の言う通り、今回のテント設営は2班合同で行うのである。それはテントの数や道具の問題らしい。まぁ、人数も人数なので当たり前である。
「確かに、事前に決めておくんでしたよね?」
「うん。そうだよ。あ、そっか。そう言えば2人に言ってなかったね。」
俺がすっかりその事を伝え忘れていて、頭をかいていると……
「優馬くんー♪今回はよろしくねー♪」
遠くから走って来た春香が叫びながら俺にダイブしてきた。
そんな春香をギリギリで受け止めつつ、もう残りの3人が来ているのを確認した。
……うん。皆いるようだ。
「……優馬、今回はよろしく。」
テント設営で使う道具だろうか、重そうな荷物を大量に持った雫はそう俺に言って来た。
「おう。よく来たね。」
……そう、俺達との合同班は雫達の班と組む事にしたのだ。理由は単純明快で、雫がいるからである。
この件で周りの女の子達からはかなり囲まれて熱心に誘われたけど、これだけは譲るつもりは無かった。
俺、夜依、葵。雫、由香子、菜月、春香の合同班全てのメンバーが集まり、互いに顔を見合せた。
謎の空気感が場を支配した。
夜依や由香子、春香は同じクラスだから顔見知りだろうけど……葵や菜月は完全に初対面ではないだろうか?取り敢えず慣れるまで、俺が仲介に立って仲を取り持とう。
と、思っていたけど……
「よろしくね♪」
「仲良くしようね、葵~ちゃん。」
「はい!!」
え!?
「あのっ!よろしくお願いしますっす!」
「ええ、よろしくお願いします。」
えぇ!?
皆、案外積極的で開始早々に下の名前で呼び合うほど仲を深めていた。
ふ、ふーん。まぁ、いいけど。仲介役とか面倒だったし。べ、べ、別に気にしてないし!
なんだかよく意味のわからない感情になった俺は、目の前の女の子達の会話が終わるまで、取り敢えず黙って待つ事にしたのであった。
☆☆☆
「──よし、じゃあ改めてテント設営をしようか。」
「道具はもう持ってきてるよ~~」
そう言えば、やけに雫達の班は荷物が多いなと思っていたけど、どうやら俺達の班の分も持って来てくれていたみたいだった。
「おー、流石用意周到だね。」
……それから、俺達は協力してテント設営をした。
雫達の持って来てくれたテント道具を開封し、一旦中身を広げると、大きめのテントと下に敷く防水シート、寝袋、蚊取り線香、ランタンなどなどがあった。
あれ……?何となく寝袋の数を数えてみたら寝袋が6個しかないんだけど?もしかして持ってくる数を間違えたの、かな?
まぁ、後で俺が1つ寝袋を取ってくればいいんだし、別にいっか。俺はあまり気にせずにテント設営に集中した。
……と言っても、皆はなるべく俺に簡単な作業を任せ、重くて辛く、面倒な作業は皆が率先してやった。
絶対俺がやった方がいいはずなのに、でもこれはこの世界にとっての当たり前で彼女達も譲ってくれなかった。
なので、テント設営は俺に次ぐ力を持つ春香を中心に効率良く組み立てられていった。
☆☆☆
「完成ーっす!」
「やった~~」
「……初めての割には早かったかも。」
「完璧に出来て良かったです。」
「だねー、やっぱり皆でやるとすんごい早いね、
ねー葵ちゃん♪」
「そうですね!!」
と、皆は立派に立ち上がったテントの前で、意気投合して仲良く話し合っている。
葵もあまり自から話をしていない感じだったけど、仲間の輪にしっかりと加わっていて楽しそうに笑っていたのが見えたので良かった。それに夜依も性格的に大丈夫かな……なんて思っていたけど、よく考えてみたら夜依は男の俺にだけ冷酷な態度をとっているので、女の皆にだったら全く問題は無かった。
「ランタンも設置完了……蚊取り線香もいつでも使える状態にした。よーし、じゃあ昼食をそろそろ取った方がいいかな?」
「そうですね。時間も時間ですし早速用意しましょう。」
「そうだね♪私、もうお腹ペッコペコだよ♪」
俺の問に皆が賛成してくれたので昼食を取る事になった。
昼食は1人2個ずつのサンドイッチが本館前で配られる事になっている。
「……じゃあ私が取ってくるよ。」
「あ、俺も行くよ。」
雫が率先して取りに行くようだったので、俺も慌てて声を上げた。さっきから仕事が簡単すぎて暇だったので皆の為に働きたいという気持ちもあった。
春香も行きたそうにしている様子だったけど、何故か由香子と菜月に止められていた。
「……っ、余計なお世話よ、由香子。」
「ん?」
雫がそんな事をボソリと呟いたような気がしたけど、深くは追求しなかった。
「じゃあ、行ってくるよ。」と皆に伝え、俺と雫は一緒に本館前に向かった。
雫と2人きりになる事はよくある日常だ。だけど、最近は林間学校の準備で2人きりの時間が極端に少なかった。だからか、もじもじと顔をほんのりと赤くさせながら雫は俺の手をさりげなく握って来た。
これは雫からの精一杯の“甘え”なのだろう。
言葉には決して表さず、行動で素直に表してくる。雫らしくて、本当に俺の婚約者は可愛い。心の底から大好きだ。
そんな2人は手を繋ぎながら本館まで向かった。
それは優馬、雫にとっては最高の一時であった。
☆☆☆
さすがに皆のサンドイッチを持つため、手を繋ぐのは解除した。
7人分のサンドイッチは想像以上に多く、雫と半分ずつ分けて持ったとしても、両手がどちらとも塞がってしまった。
なので、再び手を繋ぐ事は出来なかった。
「あ、そうだ寝袋だ。寝袋を取りに行かないと……
確かあっちには6個しか無かったんだよ。」
俺は寝袋の事を思い出した。手にはもう持てないけど、何とか工夫すれば寝袋1個ぐらいは持っていけると思う。
「……え?寝袋は6個で合っているはずだけど?」
俺が寝袋を取りに倉庫に向かおうとすると、雫から呼び止められた。
「いやいや、俺らの班と雫達の班を合わせたら全員で7人だよ。だから後1つ必要なんだよ?」
ん……なんだ?何か話が上手く噛み合わないような気がする。
「……さっきから優馬は何を言っているの?優馬は私達と同じテントで寝る訳がないじゃない?」
雫は俺に呆れながら言った。
「え……もしかして俺って皆と同じテントじゃないの?」
まぁ、確かに常識的に考えれば男女同じテントのはずがない。だけど、それじゃあ俺はどうすればいいのだ。
「……ええ、当たり前じゃない。夜の女子は獣なのよ。それでも私達のテントで寝たいのなら止めはしないけど……?」
「すいません。御遠慮させてもらいます。」
う、なるほどそういう事でもあったのか……
流石にその度胸は俺には無い。
潔く別の場所で寝ることにしよう。
「……そう。」
雫はちょっぴり残念そうな顔をしたが、結果は分かりきっていたためすぐに頭を切り替えたようだ。
「じゃあ俺は一体どこで寝るの……かな?」
「……さぁ、林の楽園の本館とかじゃないの?多分、奈緒先生あたりから連絡が来ると思うけど?」
「まぁ、そうだと思うね。」
そんな俺の心配事を雫としているとテントについてしまった。
まぁ、多分俺の事はちゃんと考えてくれていると信じ、俺は林間学校を満喫する事にした。
それから皆でテントの中でサンドイッチを食べた。
サンドイッチはもちろん美味だった。
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