第51話 実行委員会
次の日の放課後、俺は林間学校の実行委員会に行くため、筆記用具などその他諸々を準備をする。
そんな中、同じ生徒会で仕事を押し付けられた仲の夜依がそそくさと教室を出て行くのが見えた。
まだ実行委員会が始まるまで時間はあるが、真面目な夜依は早く場所に行って待っておくのだろうな。
よし、俺も行くとするか!
俺は急いで荷物をまとめ、教室から出て行った夜依の後を追いかける。
「──待って北桜さん、俺も一緒に行くよ。」
「は……?」
夜依は俺に声を掛けられ、キレ気味に足を止め、こちらを振り向く。そして大きなため息を俺にぶつけた。
「…………露骨に嫌そうにしないでよ。いくら俺でも傷つくんだよ?」
そんな愚痴を軽く言ってみる。
だが夜依はその行動に対し、再びの大きなため息で言葉を返した。そしてそのまま踵を返し、歩き始める。
「待って待って、置いてかないで!
俺、まだこの学校の地理に疎くて……実行委員会が行われる場所が分からないんだよ。だから夜依と一緒に行きたいんだ。」
嘘ではなく本当の事である。まぁそれとは別の理由も少しは混じっているのだけど、理由の大半はこれである。
夜依は俺の言葉を聞き、再び足を止め、呆れた表情で俺を睨む。
「…………話しかけないで、と言いたい所ですが流石にそれだと、これからの生徒会や実行委員会などで不便だと思います。それに貴方は私の言った事を余裕で無視して普通に話しかけて来ますし……ですので、この前言った言葉は取り消しましょう。」
苦渋の決断だったかのように夜依は嫌そうに言った。この前……というのは、夜依から宣言された“完全拒否宣言”の事であろう。
「んっと?つまり、もう気軽に話し掛けて“いい”ってことかな?」
「そうです。どちらかと言えば話し掛けて欲しくはありませんが、構わないです。妥協する事にしたので。それに、貴方は私の知る男とは少しだけ違うので……」
夜依は少しだけ俺を見る目を変えてくれたようだった。まぁ……とにかく俺は喜ぶ事にした。だって、散々嫌われていた俺に心を少しだけ開いてくれたのだから。
「じゃあ、改めてよろしくね、北桜さん。」
握手は……当然、拒否られた。だが、小さな声で「よろしくお願いします」とだけ、夜依は返してくれた。それだけで俺は満足だった。
「──それと……言っておきますが、私の事を“苗字”では呼ばないで下さい。普通に夜依でいいです。」
「ん、ん。わ、分かったけど……いいの?」
俺的には下の名前で気軽に呼べるのは万々歳な事だけど、どうしてだろう?
夜依はその“北桜”という苗字を忌み嫌っているかのような感じがした。
そんな夜依はブツブツと念仏のように言葉を繰り返し繰り返し唱え始める。
「──私は家名なんかに囚われない。自分の道は自分自身の力のみで切り開く。誰かに強要される人生なんてつまらない。強制的に………なんて、そんなの……」
だがその念仏の声はとても小さく、自分に喝を入れる為だけのものであったため……全てを聞き取る事は出来なかった。
まぁ、いいや。プライバシーの問題もある訳だし。
仲良くなって、夜依の気が向いた時とかに色々と聞かせてもらえればいいしな。
今後の夜依との関係を楽しみに思いながら、俺は前を歩く夜依を追い掛ける。
──そんなこんなで、夜依と少しだけ距離を詰める事が出来た俺。そんな俺は嬉しさのあまりか、実行委員会が開かれる場所に着くまで夜依に積極的に話しかけ続け、夜依を困らせたのであった。
☆☆☆
林間学校の実行委員会が開かれる空き教室に到着し、席に着いた俺と夜依。まだ時間的には早いが、思ったよりも実行委員と生徒会の集まりが早く、俺はすぐに実行委員の人に囲まれる。
いつもの事だから、徐々に慣れつつあるが少しだけしんどい。
……やはり、俺以外の全員が女の子。
1年に男は俺しかいない為、当たり前のことなのだが、やはり違和感は感じる。まだ前世の価値観が抜け切れないんだよなぁ。
という事で、否応にも視線を集めまくる俺。
若干の居心地の悪さを感じつつも、実行委員会に集中してその意識を少しでも紛らわす。
「──よし、これで全員集まりましたね、ではこれから第1回実行委員会を始めます!」
林間学校の担当の先生が元気に1回目の実行委員会を開いた。
まず初めに行われたのは生徒同士での自己紹介だ。
その自己紹介中に俺は実行委員の中に顔見知りがいる事に気が付いた。その人物とは……まさかの葵で、前回あった怪我も既に完治したようで、目が合うと明るい笑顔を見せてくれた。
最近の俺は葵に隠れて、ちょくちょく隣のクラスの2組に顔を出し、目を光らせていた。これ以上、絶対に葵を傷つかせる訳には行かないからな。
その隠れた努力もあって、一層葵の笑みが良くなった気がする。
大変な満足を感じる俺。
おっとっと……そんな事を考えていたら、次は俺の自己紹介の番だ。
俺は無難に、次の夜依は完結に自己紹介を終わらせ………次は葵の自己紹介の番になった。
葵はオドオドと緊張気味に立ち上がり、自己紹介を開始するが……言葉に詰まったり、声が小さかったりしたが最後まで諦めず、ちゃんとした熱意を語っていた。
うん。ほんの少しだけ……いや、前の葵と比較して明らかに……俺は成長を感じた。
自己紹介が無事に終わった後、担当の先生が会を進め、その日のうちに実行委員会の実行委員長が決まり第1回実行委員会は終了したのであった。
☆☆☆
次の日も、もちろん実行委員会は開かれる。
なぜなら林間学校が来週までに迫って来ているからだ。今回の実行委員会は例年より開かれるのが遅く、準備が例年よりも滞っている為、少し駆け足気味に林間学校の準備を行わなければならないのだ。
昨日、決まった実行委員長が担当の先生に変わり進行を行い、着々と林間学校の話し合いが行われる。生徒会はあくまでサブ要員なので、人手が足りないときや雑用など、実行委員が効率よく最速で動き回れるようにサポートするのが役目だ。
全員が全員の役割を自覚、協力し合い効率よく実行委員会は進む。
「──それでは確認しますね。今回、我々が林間学校で行うものは……イカダで川下り、BBQ、テント設営、バイキング、キャンプファイヤー、肝試しの6つでいいですか?」
今日の実行委員会で決まったものを、実行委員長が改めて確認を取る。
どれもかれもとても面白そうで、いい思い出を皆で作れそうで、今からとてもとても楽しみである。
実行委員と生徒会、担当の先生の全員が頷いたのを確認にし、実行委員長は最後にもう1つの議題を提案する。
「それでは最後に、誰がどのイベントの運営をするか話し合いましょうか。」
そう。それはイベント運営の分担である。
もちろん各イベントには先生がつくのだが、もちろん人手が足りない。なので実行委員と生徒会がそれぞれ分担してイベント運営をするのである。
まぁ、追加で生徒会の俺達は各イベントの見回り、後片付け、林間学校の職員の人達との交渉などなどの仕事があるからやばいぐらい大変なんだけどね。
俺はなるべく疲れなさそうなイベントの運営をしたいけど……特にこれと言った希望は無い。ただ、夜依か葵のどちらかとは一緒になりたいとは考えているけど。
まぁ……………想像通り、女の子達は俺と同じイベント運営をしたい為、壮絶な話し合いが行われ、最終的にジャンケンという名の運ゲーで各担当場所が決められたのであった。
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