第45話 保健室の中で……
「──こ、ここなら安全…かな。」
俺は散々迷った挙句、保健室に隠れる事にした。
この場所を選択した理由は2つあって、1階にある保健室は最悪見つかっても窓から逃げられるし、保健室のベットの中ならば病人だと判断されてバレないかもと思ったのだ。
ちゃんと、保健室の先生の菊池先生には断りを入れたかったのだが……俺が来た時には保健室に誰もいなかった。まぁ、後で断っておけばいいだろう。
俺は窓に1番近い保健室のベットの中に潜り込み、カーテンを閉めて完全に外界とシャットアウトした。
「はぁ、はぁ、はぁー、疲れた。」
今まで散々走りっぱなしだった訳だけど、どうしてこうなったのかを考える。
えっと……事の発端は雫と俺が婚約したっていう話からだけど……途中から“俺の話を聞く”というより“俺の事を捕まえる”という感じになったんだっけ。
……うん。何故!?
女子高生の考えている事は、やっぱり俺にはわからないなぁ。なんて、ちょっぴり女子高生という生物に恐怖を感じつつ、まぶたを閉じる。
「ふぅ……ちょっとだけ、休憩かな。」
どうやら疲労が限界だったようだ。授業の疲れと、久々に走った疲れ……様々な事が要因となったため、急激な睡魔が襲って来たのだ。
俺は……無意識のうちに眠りについてしまった。
☆☆☆
──葵はリン、ミユ、マヤの命令で優馬のことを探さなければならない。
そのために葵は校舎中を探し回っていた。
しれっと帰ろうとも思ったが……あの3人に次の日に、何をされるか分かったものじゃない。臆病な葵は素直に従うしか無かった。
取り敢えず、葵は帰ることを諦め、ひたすら探す事にした。学校中では沢山の女子達が優馬くんの事を探し回っている。
普段からガードが硬かった優馬くんに、今回はちゃんとした理由あって近付けるチャンス。そのチャンスをこの学校の誰もが狙っているのだ。
葵の持つ情報では、優馬くんは放課後から逃走し、未だに校舎の中に隠れているはず……
1年3組に行き、優馬くんの荷物がまだ教室にあったのを確認した葵はそう予想を立てた。
後はただひたすら探すのみ、葵は優馬くんが隠れていそうなロッカーや、カーテンの裏、教卓の中など……安直だが、考えつく場所は程よく探してみたが、結局優馬くんが見つける事は出来なかった。周りの女子達も精一杯探していたようだったが、迷宮のように広いこの校舎では一人の人間を見つける事は至難であった。
……そのうち諦める人もチラホラと現れ、解散の雰囲気が漂い始めて来た頃……どうしても優馬くんに会いたい過激派の人達は一致団結し、怒られるのを覚悟して数箇所ある男子トイレに突撃する…………なんて暴挙も行われていた。
それほどまで、1度ついてしまった流れは止められないようだった。
葵はそこまで男性に狂信的では無い。だからさっさと諦めて帰りたい。だが、あの3人はその程度の理由じゃ許してくれないだろう。
──それに……葵だって、自分の気持ちもある。
はぁ……葵は深いため息をついていると、
「──男が見つかったって!!!」
そう叫ぶ女子の声が校舎に響いた。
待ちに待った朗報。諦めかけていた女子達の目に希望の光が一瞬にして宿る。
葵は取り敢えず急いでその声のする方へ向かうのであった。
☆☆☆
声のする方へ急いで赴くと、なんとそこは男子トイレの目の前で、40人くらいの女子がごちゃごちゃに入り乱れていた。
どうやら中心では優馬くん?の取り合い合戦が行われているのだろう。どうか無事でいて……と心の中で祈りながら人を掻き分けて葵は進む。なるべく体を小さくしてゆっくりと確実に中心へと向かった。
「──くっ、」
時間が掛かってしまったが、何とか中心に辿り着くと……
「──何だよ、変なとこ触んなよ!なんで僕の事を取り囲んだんだよ!?僕は……男だけど優馬じゃないぞ!いいから散れ!散れ!」
聞こえてきたのは小さな声で怒鳴る男の人の声。でも、その声に葵は聞き覚えはない。
……そう。まさかの男違い。女子達に捕まっていたのは、先輩の男の人だったのだ。
確か九重 大地さん……だ。この人は生徒会長の実の弟さんで、常に暗いオーラを纏っているイメージがあるが、裏ではとても優しいという噂もある。
そんな人が怒りを露わにして、怒鳴っている。
だが……女子達はその程度では止まらない。日頃溜まっているものを少しでも発散するためなのか……
もう、男であればなんでもいいのだろう。
頑張ってください。葵ではこの勢いを止めることは出来ない。だから、彼の無事を祈ることにした。
──さてと、ここに優馬くんが居ないことが分かったので、早々にこの人混みから退散してまた探さないと。
そんな時だった。
「──あなた邪魔よッ!」
「え……」
誰に押されたのかは分からない。だが、人混みの誰かに背中を押され、人混みの混雑した輪の中で葵は転んでしまった。
「きゃっ、痛っ!!」
葵は容赦なく踏みつけられる。
「痛っ、た、助け──」
葵の悲痛の声なんて聞く耳を持たない女子達。なぜなら完全に我を忘れているからだ。
助けは来ないとすぐにわかった葵は、何とかはって人混みから抜け出す。だが、その頃には……かなり踏みつけられ、それなりに怪我を負っていた。
「っう、」
泣きたくなる感情を必死に堪えながら、葵はゆっくりと立ち上がる。
「い、一旦、きゅ、休憩……しなきゃ。」
一言。葵はそう呟き、ゆっくりとあの場所へ向かう葵であった。
☆☆☆
──その頃優馬は、
「んっ、ふぁぁゎゎぁ!よく……寝たなぁ。」
保健室のベットからゆっくりと起き上がり、大きな欠伸をしていた。
何分寝たかは分からないが、体力はほぼほぼ回復した。流石にそろそろ女の子達は諦めてくれているだろう。そうじゃなきゃ、俺も流石に怒るぞ!?
なんてことを考えながら保健室から出る。
慎重になりつつ、辺りを見渡すと……保健室の周りには誰もいなく、女の子達の気配もない。
ほっと、ため息を着きながら、教室まで急いで戻る。さっき時計を確認してみたら、既に部活が始まっていたのだ。いきなり遅刻というのは後輩としてはヤバすぎる。それに椎名先輩に怒られる。
俺は焦りながら廊下を走る。
……走る。
……走る。
──そして、“曲がり角”
ん……あれ?なんだっけ、この感じ……俺は知っているぞ?確か────
唐突の直感。だけど、この感覚は無下には出来ない気がした。俺は勢いよく曲がろうとしたのを止め、ブレーキをかける。
……次の瞬間。
曲がり角から、タイミングよく女の子が現れた。
「っと!?」
「え!?!?!?」
スレスレで衝突しなかったが、俺が止まらなかったら間違いなく衝突してどちらも怪我をしていた事だろう。
危ない危ない……って!
「あれ………………葵じゃん。」
「はわ!?ゆ、ゆ、優馬くん!?」
まさかまさかの、偶然。
曲がり角から現れたのは、既に2回も衝動して俺の印象に残りまくっている女の子の……葵であった。
葵は俺に驚いた表情を見せてくれたが……前に見た時より、顔が真っ青であった。
「っ!?」
気になった俺は葵を見ると……
葵は片手を抑え、足を若干引きずっているようだった。更に制服も埃まみれで、足跡みたいなものもこびり付いていた。
「葵っ!?」
すぐさま俺は葵に駆け寄り肩を貸す。
「も、申し訳ないです。ありがとうございます。」
悲痛の表情で顔を歪める葵。でも、俺にそのことを悟らせないためか空元気のような表情を見せてくるが……バレバレである。
「怪我してたんだね。
じゃあまず、一旦保健室に行こうか。歩ける?」
「本当にすみません。」
「いいよ。それに、謝んないで。こんなの当たり前なんだからさ。」
「っ……はい。ありがとう、ございます。
……それで、質問に答えますけど。ちょっと、歩くのは辛いです。」
「OK。任せて。俺が運ぶから。」
「え?」
そう言い、俺は葵を無理やりお姫様だっこをした。
完全に油断していた葵は乙女の声を上げる。
「ひゃぁッ!?
ちょ……優馬くん、いきなり過ぎですよ!!」
「でも、早く応急処置しなきゃね。」
葵は俺のお姫様抱っこが中々気に入ってくれたのかは分からないけど、口では「降ろしてください!!」などと言っていたけど、全く暴れる様子は無く、楽々保健室まで運ぶ事ができた。
俺は葵をソファーに座らせると、何となくだけど応急処置を施した。転生する前はサッカーで負った怪我は自分で応急処置をしていた。その経験が生きたのだ。
「ふぅ、これで一時的には大丈夫なはずだよ。
でも……ずっと痛むんなら病院に行ってね。」
「何から何まで、ありがとうございます。すごく助かりました。」
葵はまだ体が痛むのにも関わらず、幸せそうな表情を俺に見せてくれる。
だがそれも一瞬。すぐさま暗い表情を作ると……
「──それであの………優馬くん……私と一緒に来て欲しい場所があるんです。」
「来て欲しい場所?まぁ別にいいけど、葵はその怪我で行けるの?おぶって行こうか?」
「えっと……私は大丈夫です。歩けます。」
なんだろう、歯切れが悪いって言うのか、葵の曖昧な返事に若干違和感を感じつつ取り敢えず葵の言う場所に行ってあげようと思っていた時……
─────ダダダダダダダダダダッ!!!
地響きが遠くの方から聞こえて来た。
こ、今度はなんだ?
「…………っ、何だこの音?」
ん、こ、この音はっ。
耳を済まし、よく聞いたから分かる。
この音は……この“足音”はッ………………
──俺は全身から恐怖を感じる。
まさか、一致団結し近くまで迫って来ていたからだ。それは葵にも分かったようですかさず、俺の手を掴み、
「い、急いで隠れましょう!」
「隠れるったってどこにさ?」
ここは保健室。隠れるのには適している筈だけど、大勢で来られたらどうしようもない。外に逃げようかもと思ったけど、あの人数なら隠れてやり過ごす方が得策だ。
「──こ、ここです。」
まぁ、でも妙に自信に満ちた葵の表情を見て何となく任せてみたくなる俺なのであった。
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