第44話 婚約してから
雫が俺の婚約者になった。なってくれた……
俺はすごく幸せ者になることが出来た。
──雫は俺を家まで送ってくれて、今日は解散となった。
「今日はすごく楽しかったよ。ありがとう、雫。」
「……うん、私もよ。」
雫の左手に紺色に輝く指輪が見える。本当に雫にピッタリの指輪で最高に綺麗だ。もちろん雫の次に、だけど。
「じゃあまた月曜日に。」
「……うん。また来週。」
そう会話して雫と別れた。本当に今日は楽しいデートであった。
☆☆☆
──雫とのデートから2日後の月曜日。
俺がいつも通り、家から出ると雫はいつもの場所で待っていた。
雫はしっかりと婚約者の印の指輪を身につけていて、そのせいかなんかいつもと雰囲気が違う気もする。指輪1つでこんなにも印象が変わるんだから、やっぱりすごい。
「──あれ?そう言えばだけど、婚約者の印って学校でも身に付けてていいの?校則とかの問題でダメじゃない?」
雫と歩き始めて数分。ふとした瞬間に、今更の事が頭に浮かんだ。
「……え、大丈夫なはずだけど。校則は校則でも、例外はあるのよ。ちゃんと連絡して許可は貰ってる。」
「ほー、例外ね。すごいな。」
そんな会話をしながら俺達は歩き、学校近くまで来た。
「──おっはよぉ~、雫~ちゃん。優馬君~~」
そんな時、友達の由香子が走って俺達の元へと来た。
「お!おはよう由香子。」
「……おはよう。」
「──────ん?………あれれっ~~!?」
由香子はすぐに俺達の違和感に気付いた。
1つ目の違和感はいつもより俺達の距離感が明らかに違うこと、2つ目の違和感は雫が婚約者の印を身に付けていること。
「えっとさ~、なにかなその指輪~~?おもちゃ?」
由香子は若干不思議そうに雫の指輪を指さす。
「説明ちょうだいね~~?」
由香子はそれが何なのか、検討がついたのか分からないが、雫に強く問い詰め出した。
「……それは……あの……」
「──それは俺があげた婚約者の印だよ。雫は俺の婚約者になったんだ。」
雫は恥ずかしそうに躊躇っていたので、代わりに俺が宣言してあげた。
「……ちょ、優馬っ!?」
瞬間的に顔を火照らせる雫。どうやら自分の言葉でちゃんと由香子には言いたかったらしい。
でももう言っちゃったんだから、後戻りは出来ない。
「はぇっ?ほ、ほ、ほ、本当に~~?嘘でしょ~!」
「……本当よ。」
雫の肯定により、それが真実なのだと分かった由香子。口を限界ギリギリまでぽっかりと開け、ただただ唖然とすることしか出来なかった。
まぁ、その由香子の状態は案外早く解除され、怒涛の質問責めが始まった。雫と俺の経緯とかだ。
その質問責めは教室に着いても、終わらず……逆に質問に責めに加わる女の子達が増えて行った。
☆☆☆
雫が俺の婚約者になったという一大ニュースは一瞬で学校中に広まった。初めはデマを疑う生徒も多数いたらしいが、雫の婚約者の印を見て信じならざるを得なかった。
その影響かは分からないけど。今日一日はなんか空気が重い日だった気がする。
なぜなら、ほとんどの女の子が酷く項垂れているからだ。しかもそれは生徒に留まらず、先生達もその調子で本当に今日は空気が重くしんどい一日だった。
えっと、素直に祝福してもらいたかったなぁ。
なんて思いながら、俺は過ごしていた。
それでも質問責めに来る子は収まらず、授業以外のほぼ全ての時間、俺にまとわりつき、質問責めをして来た。
初めは丁寧に質問に答えていたけど、放課後まで来られるとさすがにしんどい。
はぁ、もうしょうがない。逃げるとするか……
心の広さに定評のある俺も流石に一日中質問責めだとストレスも溜まる。純粋な気持ちの女の子達には悪いけど、俺も休みたいのだ。
既に放課後で、何人かの女の子は俺の元に集まって逃げられないように包囲網を形成しつつあるが……まだギリギリ逃げれる。
「──あーっと、そう言えば奈緒先生に俺、呼ばれてたんだっけなぁ……」
「え!そうなんですか!」
「そうそう。だから、ちょーっと席外すね。」
逃げる口実は完全に嘘。女の子達には悪いけどしょうがないのだ。
俺は難なく包囲網を抜け出すと、走って逃げた。
一応身を隠しながら逃げるけど……そんなの無理で、途中ですれ違った女の子達に俺はターゲットロックオンされ追い掛けられるけど、あまり俺を舐めない方がいい。
普通の女の身体能力なんかより、男で日頃鍛えている俺の身体能力の方が勝っているのは確実。
素早く、そして俊敏に……走って、走って走りまくった。ハンターの女の子達を完全に撒く為に。
「………………っ。」
でも、逃げても逃げても、俺を追いかけるハンターは徐々に増加し始める。流石に人数が増えると待ち伏せされたり、連携を取られたりして逃げられなくなる。
それに俺の体力は無限という訳では無い。いくら足が早くてもずっと追いかけられ続けたらいつかは捕まる。
と、取り敢えず、休憩出来る最適な場所を求め、俺は頑張って校舎を走り回るのであった。
☆☆☆
──優馬が逃げ出す少し前。
優馬の隣のクラスの1年2組でも、話題は優馬の事で持ちっきりだった。
「はぁー。やっと終わった。」
そんな中、葵はノートをパタンと閉じ、やっと終わった授業の精神的な疲れを体から吐き出すかのように、ため息を吐いていた。
葵はこのクラスに“友人”と呼べるものが今の所いない。そのため今日の授業の2人1組のペア学習は葵にとっては地獄でしかなかった。
1年2組は全員で40人のぴったりのクラス。
今日は休みもいないので必ず誰かとペアを組むことになる。だけど、今日に限って隣の人とペアを組まなければならなく、隣の席のリンさんと組むことになった。
リンさんを含む、ミユさん、マヤさんの3人は葵が最も苦手とする種族の“ギャル”というもので、最近はこの3人に目を付けられて困っているのだ。
しかも不運なことに、リンさんとは委員会も同じなのだ。リンさんは普通に委員会をサボったり仕事を全て葵に押し付けたりする。なので正直この人達は大嫌いだ。
いつも3人で固まっているから口出し出来ないし、本当に害悪なのである。
……話は変わり、とにかく今日の授業はしんどかった。なぜかは知らないが、リンさん達3人はいつにも増して不機嫌で、物に当たったり、人に当たったりで……最悪だった。
葵は細心の注意を払ったので、当たられたりはしなかったけど、無駄に体力を使わせられた。
「さっさと帰ろう。帰って寝よう。」
もう、体力の限界で、眠気さえあった。
帰宅部に入っている葵は何も気にせずに家に帰れる。葵はすぐに荷物をまとめ帰ろうとした。
だが……
「──ちょっといーい?神崎さん。」
隣の席のリンさんから絶対に逃がさないというオーラ全開の声で呼ばれた。
「えっと……何か用ですか?」
心の中で舌打ちし、振り向くと、リンさんの後ろにはいつものミユさんとマヤさんもいた。
3人揃って呼ばれるってことは……また何か仕事を押し付けるつもりなのかな?と嫌な気がしてきた。
少しだけ身構えていると、リンさんが話し始めた。
「知ってると思うけど、“うちら”の優馬くんに婚約者ができたらしいんよねー
それで、うちらもついでに優馬君の婚約者にしてもらおうと思っているの。」
「え?………え?」
いや、優馬くんに婚約者ッッ!?普通に初耳で、普通に驚いた。本当に知らなかった。
王子様に……婚約者が出来ちゃったんだ。葵は心の底から落ち込む。でもそんな感情なんて気にせずにリンさん達は続ける。
「それでぇー、神崎さんには優馬君をうちらと一緒に探して欲しいの。どうせ部活にも入ってないから家に帰っても暇でしょ?」
「…………」
えぇ?何言ってるの、この人?
リンさんが言っていることはあまりにも自己中心的でわがままにしか聞こえなかった。
でも今の雰囲気的に断りでもしたら……不味いことになるのは明確。
ふぅ、我慢、我慢。そう心に念じながら葵は了承するのであった。
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