第43話 婚約者の印
服屋さんを後にし、そろそろ昼時という事もあって隠れた名店でご飯を食べたり、そこからゲーセンに行ったり、雑貨屋に行ったりと……周りの目を気にしながらも、存分に俺と雫はデートを楽しむのであった。
でもその楽しいデートはそう長くは続かなかった。
何故なら……
「──あのっ、あなた神楽坂優馬くんだよね?」
雑貨屋から出ると、俺の事を待ち構えていたかのように3人の女子から絡まれる。
その3人は簡単に言うとThe・黒ギャルである。
スカートは限界まで上に上げ、派手な指輪やネイル、厚化粧に濃い日焼け。持っているカバンには沢山のキャラクターストラップが付いている。
……俺が余り得意としないタイプである。
「う、うん。そうだけど?」
少し戸惑いながらも一応答える。
だけど……
「どうして君達は俺の名前を知ってるのかな?」
フルネームで名前を呼ばれたので、流石に俺もおかしいと思ったのだ。
「うちら、優馬君と同じ学校なんよねー!」
「たまたま歩いてたら優馬君が見えてさ~」
「1度でいいから話してみたくて、後を付けて来たってわけ!」
変な高テンションで答えられ、俺は直感する。
……まだ少し話をしただけだけど、既に彼女達の第一印象は“最悪”に近い状態であると。
「そ、そっか……覚えておくよ。じゃあ、俺達は行くから。」
別に彼女達には興味は無いし、さっきから雫が完全に蚊帳の外だった為、早々にこの場を去ろうとした。だが──
「待ってよぉ。」
「そーそー、もっとうちらと話しよ!」
「絶対楽しーからさ。」
そのギャル3人は逃げようとする俺を素早く取り囲み、三角形のフォーメーションを組んだ。俺を絶対に逃がさないように絶妙なバランスである。
そこからは怒涛の話攻め。別に必要でない情報や、謎のスキンシップなど……本当に面倒な事になって来た。
それで分かった事だけど……3人の名前はリン、ミユ、マヤと言うらしく、クラスは隣の1年2組で
“葵”と同じクラスだという事だ。
…………はぁ、いつまで続くんだろう。流石に寛大な心を持とうと決めた俺でも我慢の限界に近いぞ?
ストレスが溜まり、そろそろ解放しやろうと思っていた時、それよりも早く──
「………あの、すいません。優馬が困っているのでそろそろいいですか?」
雫が3人の作ったフォーメーションをぶち壊し、俺との間に入ってくれたのだ。
「──はぁ?急に話しかけてきて…あんた誰よ!」
「──そうよ!うちらの話を遮らないでくれる?」
「──ねぇ、優馬君!!この女を追い払ってもいい?すぐに排除するから。」
だがそんな雫に対し、ギャル3人は……“俺の彼女に”対し暴言を言い放った。
明らかに俺と雫とで口調と態度が違った。
更に雫の手を掴み、無理やり俺との間を引きちぎうとして来た。
──ブチッ!
流石に……俺の堪忍袋の尾が切れた。
「──おい!」
俺は声を低く、ドスを聞かせながら言う。
その俺の声にその場は一瞬にして凍り付く……
遠目に俺達の事を見ていた歩行者達も、その尋常で無い雰囲気に飲み込まれ、固まってしまう程だ。
「「「──えっ!?」」」
フォーメーションは今ので完全に崩れ去り、俺から1歩離れる3人。
「はぁ……ふざけんなよ。せっかくの雫とのデートがお前らのせいでぶち壊しじゃないか。」
「「「デ、デート?」」」
3人は俺の顔見てか……顔を引き攣らせ、俺に恐怖する。俺が今どんな顔になっているかは分からない。だけどそれぐらい許せないのだ。
俺が3人に近づくと、3人は俺と同じ距離を後ずさる。
「君達は俺の彼女を傷つけたんだよ。」
俺は女には手を出さない。それは俺が転生する前から心に誓っている誓約だ。だが、別に言葉で責めないわけじゃない。
不器用で、鈍感な俺でも、彼女の為ならば例え
“鬼”にでもなれるのだ。
「「「ご、ご、ごめんなさいー!」」」
そして壁際まで追い込まれた3人は恐怖の限界に達したのか、声を合わせて俺に謝りしっぽを巻いて逃げ出すのであった。
その滑稽な姿は俺の怒りが何処かに飛んで行くほど無様な姿であった。
「──俺に謝るんじゃなくて雫に謝れよ。」
俺は深いため息をして、雫を探す。感謝の言葉を掛けてあげようと思ったのだ。
……が、鈍感な俺は今更気付いた。
雫が俺の背中にぎゅっと抱き着いている事に。
「し、雫……さん!?」
「……ありがと。」
戸惑う俺に対し、雫は冷静に一言だけ言葉を発した。だから俺も……「ありがとな。」と伝えるのであった。
☆☆☆
そこから数分ほど雫が俺に後ろから抱き着いているという状態が続いたけど、流石に人の目も沢山あって……2人共、赤面しながら逃げるようにして場所を変えた。
俺と雫は、人が絶対に居なさそうな高台まで逃げて来ると……やっとひと息ついた。
そろそろ夕日が上り、夜が来る。楽しかったデートもそろそろ終わりが近づく。
「今日……色々あったけど、すごく楽しかったね。」
「……ええ。」
ここならば2人の時間を存分に満喫する事が出来る最高の場所で、この雰囲気は最高のシチュエーションだと言える。 だけど……
雫はその事に気付いていないのか?とある店を指さした。
「……あれって、店?」
雫が指差す方向を見ると、こんな高台にポツンと……古臭い宝石屋さん?があった。本当に店なのか?既に潰れてるんじゃないか?とさえ思う。こんな所だと集客とか得られなそうだし……
でも若干、宝石屋というのに興味があったので、試しに行ってみる事にした。
その店に入ると中は薄暗く、透明なガラスケースに一つ一つ丁寧に収められた高そうな宝石の数々が所狭しと並べられていた。それで分かったが、ここが薄暗い理由はライトの淡い光で宝石を照らし、見栄えを良くするためであろう。
チラリとそこら辺の宝石の金額を確認すると……
うん。馬鹿みたいに高いや。高校生が買う値段では到底無い。多少のお小遣いを持つ俺でも買える代物では無い。
「……綺麗ね。」
「うん、そうだね。」
でも、将来に向けてはいい経験になると思う。雫は単純に眺めているだけかもしれないけど、俺はその覚悟を持って眺めていた。
「──らっしやぁい。」
すると……俺達の話し声に気が付いたのか、店の奥からノソノソと若い20代くらい女性が出てきた。
「どうも。」
服装はどう見ても、定員さんなどでは無かったが、一応挨拶はする。
「うおえっッ!お、お、お、男の客ッ!!」
その人は俺が男だと分かると、尻もちを勢いよく着く。
「ま、まさかこんな辺鄙な場所に男の客が来るとは思わなかった。
……あ!ゴホンッ。いらっしゃいませ、お客様。」
思いっきり本音が漏れていたけど、定員さん?は身なりを出来る限り整え、口調も変えて、丁重な対応になったが……今更である。
「それで今日は何をお求めで?」
「え……えっと、それはまだ決めてないです。」
「そうですか?」
まずい。こういう店って大体買う物が決まってから入らなきゃ行けないやつだったのか?
そういう上級市民みたいな経験が皆無である俺にとってはそんなの予想もしていなかった。
うーむ。でもよく考えれば、これはチャンスなのでは?だって、雫の好みの物(プレゼント)を買うチャンスだからだ。
「……ゆ、優馬?」
「ん、どうしたの?」
そう思っていると、雫が俺の服をつねってきた。
「……そろそろ出ない?」
「え、何でさ?」
「……冷やかしだと思われるからよ。」
あぁ、そうか。雫なりに気を使ってくれたらしい。だけど、ここは俺にとって男を見せるチャンスである。
「いや、ちゃんと買うよ。」
「……本当に言ってる?」
「うん。」
雫も普通の女の子なので、金額を見て驚愕している。だからであろう……俺が買うと言って、信じられないという顔をする。
「……聞くけど、何を買うつもり?」
「それは雫が選んでよ。指輪でも、ネックレスでも何でもいいからさ。」
「……え、私?な、なんで?」
あからさまに動揺する雫は顔を一瞬で赤くさせる。
「それは……察してよ。」
そんな顔されちゃ……俺だって恥ずかしくなる。
返答だって困ってしまう。
雫は数秒意味を考え、頭から大量の湯気を発した後……一言。「……指輪がいい。」とだけ言ってくれた。じゃあ、最高の指輪をプレゼントしなくちゃな。
そこから2人でいい指輪を探し──遂に見つけた。
「「(……)これ!」」
2人の声が揃ってしまうほど、その指輪は魅力的で、見蕩れてしまい、すぐにこれだと即決した。
その指輪は紺色の宝石が付いたシンプルな指輪。
だが、その指輪は何処か引き込まれてしまうほど繊細で一瞬にして俺達2人は引き込まれた。
「これにしようよ!」
「……え、でも。悪いよ。」
「今更、遠慮なんてしなくていいよ。任せろって。
たまには男らしい事させてくれよ。」
「……男らしいって、全く男らしくないと思うけど。」
最後に雫が愚痴?みたいなものを言っていたけど。余り気にしないようにした。
……うっ、でも金額的にやっぱり足りないなぁ。こうなる事なら服なんて買わなきゃ良かった。
「──どうしました?」
俺はどうしようか必死に考えていると……店員の人がそっと聞いてくれた。俺は「欲しい指輪を見つけたんですけど、お金が足りなくて……」と説明すると。
「なるほどなるほど……分かりました。
じゃあ、いいですよ。サービスします。」
「っぇえ!?………マジですか?」
雫に悟られないように必死に声を抑えながらも、俺は驚く。
「──でも1つ条件があります。
あなたがこれから指輪やネックレス……宝石類を買う時は是非この店を利用して頂けると約束して頂けるのなら……」
「──約束します!」
即答。この店は品揃えもまぁまぁいいし、家からも近い。更に人も余りいないので男の俺には最高の場所であったからだ。それに、その程度の約束ならば何も問題は無い。
「判断が早い人、嫌いじゃないですよ!」
ニヤリとニヤつく定員さん。何となくだけど、この人とは気が合いそうな気がした。
そこから雫の名前を教え、指輪に刻印を入れてもらい、指輪を受け取った。
「ありがとうございます。約束は必ず守ります。また来ます!」
何度も何度も店員の人にお礼をしてから店を出るのであった。
☆☆☆
外に出ると、もう遅めの夕方で、夕日が少し薄暗くなり始めていた。
でも高台から見る夕日はとても美しく綺麗だった。
さっきよりも最高のシチュエーションだ。
これは行くしかない!そう直感すると……
「雫!」
「……どうしたの?」
俺から呼ばれ振り返る雫。俺の放つ緊張感が伝わったのか、顔を少しだけ赤く染め下を向く。
俺は片膝着き、下から雫を見つめる。
「っっ!!!」
「……!?」
2人の目線が奇跡的に重なり、2人共緊張を爆発させる。
俺の心臓はドッキドキ、それのせいでさっきからまともに呼吸すらままならない。でも、この言葉だけは必ず伝えなければならない。
「──雫っ!」
「……は、はいっ!」
「俺と……俺と結婚してくれ!!」
シンプルに簡潔に……自分の気持ちを伝えた。そして、買ったばかりの指輪を雫に差し出す。
「……っ。」
──数秒の静寂。雫はいつの間にか、目に沢山の涙を貯めて俺を見ていた。そして、
「……優馬、ありがとう。すごく嬉しい。優馬に会えて本当に良かった。こんな私だけどこれから……よろしくお願いします。」
よっしゃぁ!と、声を張り上げて喜ぶのはまだ早い。俺は立ち上がり、雫の左手の薬指に付けてあげる。俺の指輪はまだ無いけど、また一緒に買いに行けばいいのだ。
雫の左手に付けられた指輪は赤い夕焼けの光に照らされ、青白く美しい色を放つ。
雫の綺麗さにも最高にマッチしていて、すごく可愛い。
「うん。最高に似合ってるよ。」
「……あ、ありがとう。」
2人は最高に幸せそうに笑う。
──夕焼けが沈み暗闇になって行く高台で、最高に盛り上がった2人はムードに身を任せ、唇を重ね合わせるのであった。
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