第41話 代わりの子


──今日は休日の土曜日。


今日は春香とデートだぁー!と気合を入れる俺。

取り敢えず、かすみさんに作って貰った服に着替える。しかし、この世界の男のファッションなんて何も知らないのであまり目立たない無難な紺色の服をチョイスした。


さてと……準備は完了。後は春香との待ち合わせの場所まで行けばいいだけだ。時間は……うん。大丈夫だ。いつもは時間にルーズな俺でも、こういう時ぐらいは以外にちゃんとするのだ。


「そうだ!」


春香に今日の日程の事を確認しようと、スマホを開くと……


突然スマホに電話が掛かって来た。俺はすぐに出ると、


「──うわぁぁぁぁぁ、ごめーん優馬くんっっ!」


電話の相手は春香で……え、泣いている!?


「えっ!?ど、どうしたんだよ、春香。」


俺は急いで春香から事情を聞くと……

今日は春香のド忘れで部活の大切な試合があったらしい。


なら試合終わりの午後からは?と思ったが、試合が終わったらすぐに課題テストの補習があって今日一日は全て用事で埋まっているとの事だった。


今回の課題テストの結果は俺がクラス1位だったが……逆に春香はクラス最下位だったらしい。

──そういう理由で今日の春香とのデートは中止せざるを得なかった。まぁ、理由も理由だし、しょうがないな。


──後から聞いた話だが、春香は非常に悔しかったらしく、全てを捨ててでも俺とのデートに行こうとしたらしい。だが……チームメイトが全力で阻止したらしいとか。


それで、春香との電話を切る前に変な事を言われた。


「──優馬くん!私の代わりの子を呼んでおくから、今日はその子とデートしてあげて♪優馬君の準備とか色々無駄にしちゃダメだしね………待ち合わせの場所は学校の校門前で。

それじゃねバイバイ、また月曜日にね♪」

「ちょっちょっ春香!待って突然それは無いだろう。せめて、代わりの子の名前ぐらい……」


──ピッ。


春香は俺の質問には答えてくれずに、電話は切られた。もう一度連絡をしてみたけど、出てはくれなかった。


え……っと。春香の言ってる代わりの子って、誰なの?春香の知り合い……は確定だとして。俺と顔見知りとかじゃなかったら、正直言って辛いぞ。お互いに。せめて同じクラスメイトであってほしい。


俺は別に、違う日とかに埋め合わせしてくれればよかったのに。まぁ、春香らしいっちゃ、らしいかもな。


「はぁー。取り敢えず、行ってみるしかないか……」


一体、誰が来るかが分からないという、少し不安げなため息を吐きながら、俺は家を出た。


家を出るまでに、お母さんやかすみさんと色々あったが……まぁ、いつもの事なので割愛するとしよう。


☆☆☆


俺は家の門を潜り、外に出る……


「──あ、あれ?」

「……え?」


俺は外に出てすぐに驚きの声を上げる。

……なぜなら今日は休日で、部活もないのに。その人はいたからだ。


「し、雫!?」

「……ゆ、優馬!?」


そう、俺の彼女である雫が私服姿で目の前にいたのである。


いつもは藍色の制服姿しか見ていないからか……

雫の私服姿にはかなりの新鮮味がある。


いつもは流している水色の髪は、今日は髪ゴムで適当に止められていて、そこに黒色のシンプルなキャップを被りそれを隠していて、まだ肌寒いので紺色のパーカを着て、そこにジーパンという相当ラフな格好だった。


「っ!?」


ととと、いけない、いけない。ちゃんと似合っていたのでついつい俺は見とれてしまっていた様だ。


「えっと……雫、どうしてここにいるの?」


俺はまず、状況を整理しようと頭を切り替える。


「……ん?別に私は学校に用があって、歩いていたらたまたま優馬が家から出てきたのよ?」


俺の質問に軽く答えながら、雫は身なりを整える。まさか俺に会うとは思っていなかった様で、服装やメイクの手をそこそこ抜いていたらしい。


「あ、そうなのか。」

「……というか、優馬は何で家から出てきたの?

私服姿という事はどこかに出かけるの?」


俺の私服姿をまじまじと見つめながら雫は言う。

どうやら雫も俺の私服姿には新鮮味を感じているようだ。


「う、うん。そうだよ。」

「……どこに?」


あれ、なんだか雫の目線が鋭い。もしかして……今日がデートだってバレてる?雫は俺の彼女だから……嫉妬しているのか?


「えっと、詳しくは分からないけど、取り敢えず学校前に集合だって……」

「……ふーん。そうなのね。」


そこでバッサリ雫との会話が途切れてしまった。

いつも雫との会話は余り長続きしないが、無言の時間でも一緒にいるだけで楽しかった。だけど今は雫の隣にいるはずなのに、心が徐々に離れて行っている気がした。


──結局、待ち合わせの学校まで雫とは一切話さずに、無言のまま着いてしまった。


休日の学校は……部活の人達用に校門前の門は開いているが、生徒や先生のほとんどがいない事でとても静かだった。いつもは活気に溢れているのに……これもちょっと新鮮かな。


待ち合わせの校門前には誰もいなく。春香が言っていた代わりの子はまだ来ていないようだ。


「って、あれ?雫も校門前に用があるの?」

「………ええ?私も今から来る人を待ってるのよ。」


どうやら雫も校門前で待ち合わせらしい?

うーん、たまたまなのかな?


「へぇ、そうなんだ。じゃあ、待ち人が来るまで話でもしてよっか。」

「……そう、ね。」


なんだが、嫌そうな雰囲気を一瞬だけ放った雫だったが、すぐに俺の彼女の雫へとなった。


「……はぁ、今日は一日中家でごろごろして過ごす予定だったのに急に電話が来て、結構めちゃくちゃな事を言われて、しょうがなく来てあげたのよ。全く……せっかくの休みが勿体ない。」


雫は苦笑いをしながらダルそうにする。


「へぇ、それはそれは。大変だねぇ。」


そうして……しばらく2人っきりで仲良く話をしていたけど、俺と雫の待ち人は来る気配すらない。一体どういう事なんだ?


も、もうちょい待ってみるか……とっくに待ち合わせの時間は過ぎてるからいつまで待てるか分からないけど。


☆☆☆


「──もう、いい加減遅すぎるよ。いくら俺でも待てないぞ。」

「……そうね、私もそろそろ帰る。」


いくらなんでも遅すぎる。俺も雫も1時間以上待たされている。これ以上は流石に待てないぞ!


雫もスマホで連絡をしているようだが雫の相手も電話に出ないらしい。俺も試しに春香にメールをしてみたけど既読にすらならなかった。多分、今頃部活を頑張っているからだろう。


「──なんかおかしくない?」

「……ええ、激しく同意よ。」

「あ、良いこと思いついた!俺とさ、雫をここに呼び出した相手の名前を一斉に言い合わないか?」

「……あぁ、そうね。」


互いに何となく察した俺と雫。そして、目と呼吸を合わせ、


「せーの………「(……)春香!!!」」


はい、やっぱりね。おかしいと思ったんだよね。


春香が呼んだ代わりの子というのは俺の彼女の雫だったっていう訳ね。へぇ、すごい偶然だなぁ‪。

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