第20話 マッサージ


昨日は爆睡。久しぶりのサッカーはすごく楽しかったが思ったより体が疲れていたのだ。

でも、心のリフレッシュが出来たので十分である。


そんな、感じで寝て朝起きたらこの通り……全身筋肉痛でまるで産まれたての小鹿みたいなカクカクな動きしか出来なくなっていた。


「ぐっっぅっ。痛たたぁっ!!」

「もう、お兄ちゃん無理するからだよ!

今日は、お母さん達と大事な所に出かけるんでしょう。もっと考えて行動してよね。」


そう言いながら俺の両足、両手に丁寧に湿布を貼ってくれる妹の茉優。

流石に動けなさすぎたので、さっき茉優を部屋に呼んだのだ。


茉優は妙に嬉しそうにしながら湿布を貼ってくれる。なんでそんなに嬉しいのかは知らないけど……


「そうだ!湿布を貼るだけじゃダメかもだから。

ついでにマッサージして筋肉をほぐさない?私、よく同じチームの友達にマッサージをしてあげたりしてるから結構上手いんだよ。」


そう両手をくねくねさせながら茉優は言う。


その提案……実に素晴らしいっ!

俺にとっては利点しかないその提案。即答で頼むしかないだろう!


「へー、そりゃあいいや。頼むよ、茉優。」


という事で俺は茉優の指示でベットにうつ伏せになり、そこに茉優が馬乗りになる。


マッサージと聞いて簡単なものかなぁと思ったけど、案外ガチらしい。


……………………………!?


「茉優?聞きたいんだけどさ、馬乗りになる必要ってあるのかい?」


別に茉優が気にならないのであればいいのだけど、今日の茉優はスカートを履いているから……………その…………ちょっとね。


感触に困るって言うか………


「お、大ありだよ!馬乗りの方がね、力も伝わりやすいし、マッサージが気持ちよくなっていいんだよ。」


少しだけ動揺を見せたような気もしたけど、茉優がそこまで本気でマッサージをしてくれるという熱意は十分に伝わって来た。ならば……俺が口出しすることは何も無い。全身の力を抜き、体を全て茉優に委ねる。


「………………じゃ、じゃあいくよ。力抜いててね。痛いところがあったらすぐに言ってね。

──────えい、えい!」


可愛い声を出しながら、我が妹は頑張ってマッサージをしてくれる。


「お!おぉ!……いいね。気持ちいいよ。」


茉優は筋肉を優しくほぐしながら、丁寧にマッサージしてくれる。

流石上手いと自称するだけの腕前である。寝てしまいそうな程気持ちのいいマッサージだ。


それに、愛する妹からのマッサージというのもいい。ふぅ、癖になってしまいそうだ。


──数分が経過した。

それでも茉優は続けてくれている。

でも、


「────はぁ、はぁはぁ。」


茉優は息切れを起こしているし、少しだけ汗をかいてもいる。更に、横目で茉優を見ると顔が真っ赤っかに火照ってもいた。こんなになってまでマッサージしてくれるなんて俺は………俺は感激だよ!


もっともっとして貰いたい。だけど……

俺はスマホを開いて時間を確認する。


「茉優、ありがとう!おかげで痛みがほとんど引いたよ。」


正直な話、もっと茉優のマッサージを受けていたい。でも、1階ではお母さん達が俺の事を待っているだろうし、俺の準備もまだある。

更に出発予定時間まで既に10分を切っていた。


「え?まだ、もうちょっとなの。私が生み出した、茉優秘伝特別スペシャルマッサージコースが終わってないよ!」

「茉優秘伝特別スペシャルコースっ………!?」


くっ、マッサージをして貰いたいッ……

そのマッサージで心が揺らぎそうになるが、何とか耐え……る。


「すまない。でも、お母さん達がもう待ってるかもしれないんだ。」

「うー。勿体ない。でもしょうがない……よね。行ってらっしゃいお兄ちゃん。」


茉優は俺を馬乗りから降り、ついでに俺を立たせてくれた。


立ってみても痛みはあまり無く問題なく歩けそうだ。茉優のマッサージがすごく効いているのだ。


「うん。行ってきます茉優。

それと………ありがとな。本当に助かったよ!」


俺は優しく茉優の頭を撫でてあげる。


「っ!!!!お、お兄ちゃん、何を………!?」


茉優はビックリした様子だったが、すぐに口角が下がり、顔が真っ赤で撫でられていた。


「ははは。じゃあまた後でね。」


そう言って、自分の部屋を出たのであった。


☆☆☆


「はわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

な、何あのお兄ちゃんっっ。かっこよすぎてやばいいいいぃ。尊すぎて狂い死ぬよぉおぉおぉお!」


茉優は優馬が出ていった後、すぐに優馬のベットにダイブし、さっきまで優馬が顔を埋めていた所に自分の顔を埋める。


──スンスン


じっくり、ゆっくりとお兄ちゃんを堪能する。


「はぁ……いいっ。」


無意識に、匂いを吸い込む茉優。


「くぅぅぅぅぅ。幸せぇぇぇ。生きてて良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」


お兄ちゃんに聞こえるんじゃないの?と思えるほどの声で言う私だっけど、今はそんなことを気にする余裕など無い。お兄ちゃんの余韻を楽しむの事で手一杯なのだ。


全感覚、全神経……茉優の持てる全てのものを総動員してお兄ちゃんのベットを味わう。

まるで自分がベット(お兄ちゃんの匂い)と融合したかのように……


余り入らないように心掛けているお兄ちゃんの部屋。お兄ちゃんに内緒で何回か入ったことはあるけど、お兄ちゃんのプライベート(聖域)を汚す訳にも行かない。更に気持ちが抑えきれなくなっても困るからだ。


久しぶりに入ったお兄ちゃんの部屋、更にお兄ちゃんと2人っきり……っ。

その状況の時、心の中では必死に必死に耐えていたけど、いつ気持ちが決壊してもおかしくはなかった!お兄ちゃん……無防備過いっ!


乱れた服装、そこからのぞかせる引き締まった筋肉、直していない寝癖。

その全てを見られ、堪能出来るのは妹の特権だ。


たっぷりと、私の匂いをつけておく。動物で言うならマーキングという行為に近い。


お兄ちゃんの部屋に入ったら必ずしているこの行為にはちゃんとした意味がある。それは、お兄ちゃんに私の事を無意識にでもいいから意識させるという事だ。


鈍感なお兄ちゃんは侵入された事にも気づいていなさそうだけどいいのだ。少しずつ少しずつ距離を詰めて行ければ……

最後に私だけが勝てれば……


「お兄ちゃんっ……どうして、私達は兄妹なの?なんで……家族なの?」


茉優の内に秘める想い……それは決して叶わないこと。誰も望まない、必ず不幸になる。世間からは忌み嫌われ、友達やチームメイト達や……家族までからも嫌われるだろう。

そんなの自分でも分かっている。でも、嫌なのだ。1回もチャレンジをしないで諦めるなんてことは出来ないのだ。


他の……まだお兄ちゃんのほんの一部のことしか知らない女共にお兄ちゃんは渡さない。絶対に絶対に負けないんだからっ!

お兄ちゃんも、私の事を大事に思っててくれるし……

いつか、きっと………絶対に………………結ばれようね!


そしてまた茉優は優馬のベッドを堪能するのであった。


☆☆☆


1階に降りると、リビングでお母さんとかすみさんが俺の事を待っていた。


2人とも黒いスーツをビシッと着こなし、身なりを完璧に整えている。えっと……俺はかすみさんに作ってくれた服を着ていく予定なんだけど?


「えっと?俺、私服で行くつもりなんだけど、大丈夫なの?」


俺が持っている服はラフな服が多く、スーツのような服は持っていない。まぁ、強いて言うのならば、制服が該当するのだけど。


「うん!大丈夫だよ。これは私とかすみが気合を入れているだけだから!優くんは楽な格好でいいよ。

逆に制服とか着ていくと大変だったりするかもだし……」


その言い方だと、これから行く場所は何か運動でもするのか?体力測定か?それとも健康診断?うーん、どうなんだろう?


そんな少ない情報では何も分からない。


「どうぞ。新作です。」


かすみさんから綺麗に畳まれた服を貰った。

これはありがたい。俺は服を選ぶセンスが皆無と言って無い。でも、断言出来る。なのでこうやって着る服を決めてもらえることが本当にありがたい。


「あ、ありがとうございます。」


俺は早速その服に着替えた。でも、いちいち自分の部屋に戻って着替えるのも面倒くさいのでお母さんとかすみさんに待っていてもらい廊下でぱぱっと着替えた。


かすみさんに貰った服はやけに伸縮性の高い服でスポーツに向いている仕様だ。更にデザインも雷をモチーフにしているのがカッコイイ。お気に入りの服に決定だな!


「優くんの私服姿もやっぱり最高ね。絵になる!」

「素晴らしいです!」


お母さんもかすみさんも中々の好印象のようだった。


「いいわねぇ………」

「──お母様、そろそろ出発した方がよろしいかと。」


余りにも俺の服装に見惚れているのか?興奮しているのか分からないけど、かすみさんの一声で正気に戻されるお母さん。


「うぅ。わかったわ。じゃあ行こっか、優くん。」

「う、うん。」


前から思うけど、かすみさんはお母さんを操るのが上手だなぁと感じる。


家を出て、家の門の前に黒塗りの高級車みたいな車が停めてあってそれに俺は乗り込んだ。

俺とお母さんが後部座席、運転手はかすみさんだ。


地味に転生してから車に乗るのは初めてな訳で……少しだけ懐かしさを感じつつ乗り心地を楽しむ。

この乗り心地と多少の圧迫感に少し懐かしさを感じた。


車は動き始めるとかなりのスピードを出して進む。

それがカーテンが掛けられた車の窓から、微かに見える景色の移り変わりの速さでわかった。

この車が高級車?だからか、揺れなどはほとんどなくかなりくつろげた。


お母さんはずっと俺の腕に抱きついていた。最近はスキンシップもあまり取れていなかった影響だろう。なので、俺はあまり気にせずに筋肉痛の痛みをできる限り治すため睡眠を取っていた。


あ……そう言えば、この車ってどこを目指しているの?国のやつってお母さんが前に連絡で知らされてはいたけど、実際ちゃんと聞いていなかった。


まぁ……いいや。ゆっくり体を休めよう……


──1時間半くらいかな?深く寝ていたからよく分からないけど、そのぐらい長距離をノンストップで走り続けようやく車は停車したようだ。


早速、車から降りて辺りを見渡す。だが周りは暗く、どうやらここはある施設の駐車場のようだった。


「到着ぅー!」

「お母さん、ここってどこなの?」


体をぐっと伸ばすお母さんに俺は聞く。


「あ、……言ってなかったね。

ここは“精子バンク”って言うの。」


ふぁっ!?

お母さんは俺の知らない単語を口走る。


「精子バンク?って何……それ?」


まず言えることは、俺が転生する前の世界には存在しなかったと思われる施設だ。


「まぁ、一言で言うのならば国の最重要機関ね。細かな所は係の人が説明してくれると思うから早速行きましょう。多分、係の人がもう待っていると思うから。」


お母さんは俺の事をグイグイと引っ張って行く。

なんか、わざと急かしているのかな?……そんな感じがした。


駐車場からエレベーターに乗り、上に移動し、降りるとそこには真っ白で大きな空間が広がっていた。


少し眩しいけど、数秒で目が慣れよくその施設を眺めてみる。


従業員の人だろうか?お客さんなのか?真っ白な白衣みたいなもの着ている女性がそこには沢山いて、忙しそうに働いていた。その中で俺達の方に走って来る人がいた。


「お、お、お待ちしていました!神楽坂 優馬さんでしょうか?」

「あ、はい。合ってますよ。」


息を切らしながら言うその女性に対し俺は丁寧に受け答えをする。


「そ、そうですか………わたくしは小林と言います。今日、神楽坂さんの担当をさせていただく精子バンク担当官です。よろしくお願いします。」


そう自己紹介し、小林さんは頭を下げる。何処と無く醸し出される仕事できるオーラだったけど、俺の丁寧な受け答えに動揺し、若干そのオーラが消えていた事は黙っておこう。


「では、早速行きましょうか。説明するものが沢山ありますので。」

「はい。わかりました。じゃあ行ってくるねお母さん、それに、かすみさんも。」

「行ってらっしゃいませ。」

「行ってらっしゃい、優くん。

……私は、もしかしたら男の人が見られるかもしれないから目を皿にしながら待ってるからね!」


お母さんはノリノリで言うけど、その声は小林さんにも聞こえている訳だから正直俺には恥ずかしい。


まぁ自分の欲望のままに生きる人だから、お母さんらしいな。


「じゃあ行ってくるね。」


そう言って俺は小林さんの後をついて行った。

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