第21話 精子バンク
小林さんの後をついて行き、何回かの厳重な扉を潜り施設の奥へ奥へと進む。
その道中でだけど、小林さんから名刺を貰った。
その名刺には小林さんの電話番号や、この施設の電話番号などその他よく分からない電話番号が色々と書いてあった。
まぁ、使う事は多分無いだろうけど一応保存しておくか……
途中で職員の人とすれ違ったが………なんて言うんだろう。対応が普通だった。まるで転生する前の男女比が平等だった時かのように……
「…………………?」
だってこの世界は男がほとんどいない世界。
なので普通、男を見ると女の人は興味深々な目で見てきたり、性的な目で見てきたりと何か大きな反応を見せるのが普通だった。
だけど、この施設に限ってそれは無かった。
「えーっと、やっぱり気になりますか?」
「えっと?何が……ですか?」
「疑問の顔をしていらしたので、どうして“男の自分に会ったにも関わらず女は普通でいられるのか?”と思っているのかと思いまして………」
え、バレてた?
「…………はい。そうですね。そう思ってました。」
「やっぱりそうなんですか。
初めてここに来る男の人の殆どは、そう質問してくるんですよ。
それで疑問に答えますと、ここで働いている職員は身近に男の人がいるんですよ。
夫、父親、叔父、兄弟、従兄弟、親戚、クラスメイトなど色々です。つまり、ここの女性は男性に対してある程度の耐性があるんです。男の人と会ったぐらいでは動揺しない程度には……ですけど。」
だからここの職員の人達は俺に対しても平常心を保っていられたのか……
「へぇー。なるほど。」
「はい、そういう耐性が無いとこの施設で働く事も許されないんですよ。」
ほぉ……
じゃあ、俺と関わった人達で男に動揺しない人ならばこの施設で働けるということか。
「この施設で働ける人は少ないですけど、その分就職出来ますし、収入もいい方なんですよ。更に1番重要視されるのは耐性なので学歴などもあまり気にしないでいいんです!これがすごい事ですよね。」
へぇ……じゃあ、男と関わっていれば利点しかないという事か。まぁ、この世界の男は酷い事をいっぱいしそうだし、そのお詫び?みたいなものなのか?上手い具合にそのシステムができてるんだな。
「私にも弟がいるんですけど、そのおかげでここで働く事が出来ています。落ちこぼれの私を救ってくれたんです。幼い頃は色々と酷い事もされましたけど、今となっては感謝という感情もあるんです。」
少しだけ悲しそうに言う小林さん。
「そういえば優馬さんにも妹さんがいるんでしたっけ?」
「あ、はい。いますよ。」
「神楽坂さん……あなたは心優しい青年です。恐らく妹さんも大事にされているんでしょう。」
「ええ、勿論。」
「なら、いいんですけど。不幸にだけはしては行けませんよ?1度離れてしまった心は二度と修復しませんから。」
「えっと……はい。肝に銘じときます。」
俺は素直に従った。
でも、茉優と心が離れる?そんな事はまず起こらないだろう。
「長話をしてしまいましたね?すみません。」
「いえいえ、黙って歩いててもつまらないだけでしたので……」
「そうですか、なら良かった!」
会ってまだ間もないけどこの人とは長い付き合いになりそうだと思った。何となく……何となくだ。
「それでは説明を行っていきますね。それなりに大事なルールなのでしっかり聞いておいて下さい。」
「はい、了解です。」
俺の了承を確認した後、小林さんが説明を始めた。
まとめるとこうだ──
・男は1年に12回以上精子を提出しなければならない。つまり1ヶ月に1回。
・男の精子は年金のようなもので提出をしないと国から警告があり、それを無視し続けると罰金や強制徴収などがある。←注意が必要。
・精子は一定量、つまり12回以上の提出から、その量に応じてのお金がもらえる。
・これは、精が尽きるまで行わなければならない。
・これは男としてのやらなければならない最大の義務だということ。
「…………………わかりましたか?」
「はい。大体わかりました。」
覚えるのもがそれなりに多いし、忘れてはならないものもある。しっかりと頭の中に入れておかなければ……
「なら、今からここの施設の場所の案内をいたします。私の後ろに付いてきてくださいね。」
「はーい。」
なんか、旅行とかで案内をしてくれるガイドさんと客みたいな感覚で俺と小林さんは進む。
そうだ!この施設の人ならちゃんと答えてくれるかもしれない。
「──やっぱり男って女性に当たりが強いのって当たり前なんですかね?」
「うーん。まぁそっちの事の方が多いですね。
ですから神楽坂さんのような男性は女性からモテまくりますし、国からの評価もものすごく高いんですよ。いつか国のお偉いさんから声がかかるかもですね。」
俺は転生したから価値観が違う。なので初めから強気にはなれなかったし、自分がすごいのだと優越感にも浸らなかった。
そう考えると、大地先輩は凄い。
男だからと言って決して調子に乗ってないし、強気な態度も取らない。女の子を無下にも扱わないし……差別もしない。
そう考えると、大地先輩はすごいのだと分かる。
「さて、そろそろ目的地に到着しますよ。」
「そうですか。」
ふぅ……随分とデカイ施設なんだな。
茉優にマッサージをしてもらって今は歩けているが、疲労は完全に抜けてはいない。気を抜かないように気を付けて歩かなければな。
そんなことを思いながら、一際大きい扉を抜けると、数人の職員が何か顕微鏡などを見たり、ビーカーを使っていたり、注射器でなんかをしていたりと、少しだけ怖い実験を行っているような場所に来た。
「ここは、国の最重要研究施設です。
ここで男性についての研究をしているんですよ。ここで世紀の大発見、大発明をすればこの世界は大きく変わるかもしれませんし、とにかくすごい施設なんです。それで、私もたまにここで研究をしています。ここで成功すれば、国民栄誉賞なんて貰えたりもするんですよ!」
へぇ……じゃあ、この研究施設は未来への希望なのか。すごいものを見れたな。
「頑張ってください。俺、応援するんで。」
「はい。その言葉だけで勇気を貰いました。では行きましょうか。目的地はここの隣ですから。」
そう言って、隣の部屋に移動する。
隣の部屋と言っても、それなりに距離はある。
その道中で隣の部屋の簡単な説明をする、小林さん。
「次の部屋は職員でも清掃か男性に呼ばれた時くらいでしか入ることが出来ない特別でデリケートな部屋です。」
そう短く説明し、今まで通ってきた中で1番頑丈そうな扉の前まで行く。
「それでは、行ってらっしゃいませ。この部屋には誰もいません。それに部屋は完全防音、監視カメラもありません。プライバシーは保護されていますので……」
「へぇー。そうなんですか…………?」
それってどういう事なんだ?と思いながら部屋に入った。
小林さんは着いては来なく、頑丈な扉が閉じられた。
「んーと?何ここ……」
至って普通の部屋…………
「…………!?」
普通の部屋だと思ったら……全く違う。どう見てもこの部屋はおかしい。
俺は部屋の中心まで頭を抱えながら進み、部屋全体を見渡す。
「はぁっっ………」
大きなため息と共に近くにある棚に綺麗に整頓されて置かれている1冊の本を手に取る。
パラパラとページをめくる。
「──うぅ。これってやっぱりエロ本じゃんっ……」
そう、この部屋はエログッズがいっぱい置いてある部屋だった。種類は様々、どんな性癖でも満足できるように大量にある。○○○や○○○○などの、えぐいものもあった。
「何なんだよ?この部屋は!」
すぐに部屋を出て、小林さんに文句を言ってやろうと思い扉の方に歩いていくと、扉に何かのポスターが貼ってあった。
「…………………いやいや、何でちっちゃい女の子の水着ポスターなんて貼ってるんだよっ。」
それは中学か?いやそれよりも下か?
そのぐらいのロリロリの小学生ぐらいの女の子が際どい水着を着ていて色々とモザイクなポーズをしていた。
これって?何?全く意味が分からないんだけど。
それに、どういう趣味なんだよ!?
かなり特殊な性癖の持ち主という事か?
「ガガガ………神楽坂さん聞こえてますか?小林です。この部屋には慣れましたか?では、簡単な説明をします。」
この声……小林さんか、この部屋に入れないと言っていても放送は出来るのか。
「それでは、説明が書かれた紙を部屋に入れますから見てみてくださいね。」
そう小林さん言って放送は切れた。
放送が切れて5秒後くらいにガゴっと天井が開き紙と器のようなものが降ってきた。
「え、何この器?何に使うんだ?」
器はタッパーのような開け閉めが簡単にできる物で、全体が黒く塗られていて中には何も入っていなかった。
この容器の使い方とかその他諸々がよく分からなかったのでとりあえず紙に目を通す。
紙には4つのことだけ書かれていた。
・ここは男性が自ら精子を出すための神聖な、そして特別な場所。
・提出が遅れたりしている男性はここに強制送還される仕組みになっている。その時は精子を提出するまで出るのことは不可。
・この部屋にあるものは好きに使ってくれて構わない。だが壊すのは禁止。もし壊したら弁償。
・自分の趣味を共有するのは有り。
「は?なんだよそれ?」
じゃあこの器って……俺の物を入れる器なのか!?
「えっ……や、やだよ。恥ずかしいし、俺はそういうことはしたくない。」
それに趣味の共有が有りって絶対にこのポスターは誰かの趣味って事になるじゃん。
そう思うと、気持ちが悪くなる。
「ガガガ………一通り紙に目を通しましたか?
今日は施設の紹介でしたので精子を提出して貰う必要はありません。今、鍵を開けましたので、いつでも出てきてくださってOKですよ。」
そう小林さんは言って放送が切れた。
「ふぅ……出よ。」
俺はすぐに部屋を出た。なんか、この部屋に居続けると変な気持ちになりそうだったからだ。
「おかえりなさいませ。どうでしたか?」
放送が終わってすぐ部屋から出たはずなのに、もう既に小林さんが待っていた。
「えっと、精神的に疲れますね。」
「そうですか、でも義務なので慣れてくださいと言うしか職員の私には言えません。」
「はい……」
俺は恥ずかしかった。そういう話は今まで誰ともしてこなかった。だから尚更に。
「では、本日の日程は全て終了です。お疲れ様でした。」
「はい、ありがとうございました。」
そうお礼を言って俺は小林さんと別れた。
そして、お母さんとかすみさんがいるところに戻った。
お母さんは長椅子で爆睡中のようだった。
その隣にいたかすみさんが俺に気付き、立ち上がる。
「えっと…………お母さんは?」
「お母様は疲れてしまい寝ています。結局、男性は現れませんでした。」
「そうですか。」
いらない情報だな。
俺は爆睡中のお母さんをおんぶする。おんぶをしても起きないなんて相当深い眠りだ。
「帰りましょう。」
「わかりました。」
エレベーターに乗り、駐車場の車まで戻り、お母さんを車に乗せ俺も乗る。
ふぅ……しんどかったな。
今日は、色々と男は大変なんだなぁと実感出来る日だった。
「寝よ……」
現実逃避のため、俺はお母さんの隣で眠りにつく。
体もやや疲れていたし、精神も疲れていたので案外早く眠りにつけた俺であった。
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