第16話 化学の先生はやばい人?


昼休み。


昼ご飯は大地先輩と一緒に屋上で食べた。昨日大地先輩から誘われたのだ。


そして、その時に俺が生徒会に入ることになったと伝えた。


大地先輩は「嬉しいけど、多分後悔することになるよ……優馬がまさか生徒会に入るとは思ってなかったからさ、入らない方がいいよって先に言っておいた方が良かったかもね。」と残念そうに言っていた。


教室に戻って来て、大地先輩が言ったことを考える。


何でそんなことを俺に言ったのだろう…………かなり不安になるんだけど?


俺は近日中にある生徒会がなんだか怖くなって来ていた。


まぁ、それは実際に生徒会に行ってみないと分からない事だ。だから、先に悪く決め付けるのはダメだな。

自分の目で見て判断すればいいんだ!

だから、1回頭を切り替えよう。


そして、俺は別のことを考える。

そういえば、次の授業はなんだっけかな?

うーんっと、確か“化学”だった気がする。


化学はどちらかと言うと苦手な教科である。今でも不安な所も多々あるし、分からないところ、忘れているところもある。なので、化学の先生の話をきちんと聞いて予習復習をしっかりとこなしたいと俺は意気込む。


化学の授業は今日が初めてだ。すぐに先生と仲良くなれるようにしよう!俺は化学の第1目標を決めた。


そんな、俺が化学の事を考えていると、


「───神楽坂さん?少しだけ時間をください。」


突然、誰かから声を掛けられた。

雫?いや違う。じゃあ、春香か由香子?いや、違うな。皆は俺の事を苗字で呼んだりはしない。というか、俺の知るほとんどの女の子は俺の事を下の名前で呼ぶ。でもこの声何となく印象深く綺麗な声だった。


そんなことを一瞬で分かる自分スゲーと思いながら、俺は振り向く。


「──って!?ええっ!」


俺は、その人物を見て驚きの声を上げた。だって、声を掛けてきた人物があの“夜依”であったからだ。


夜依とは俺に絶対近寄るな宣言をし、何故か俺の事を嫌っている今の所世界で唯一の女の子だ。理由は知らないけど。


でも、なんで彼女が俺に?

俺には彼女が話しかけてくる理由が、すぐには思い付かなかった。


夜依はいつも通り俺用の冷たい視線で俺を見る。軽蔑しきった目だ。


他の女の子と話している時は普通に頼れる人で表情も多少は崩れる。だけど、俺の前だとこうなのだ。顔を引き攣り、無理をしている事が分かる。ハッキリ言ってこれは差別とも言えるな。


更に今日の視線はいつもより鋭い。


「え……っと?なに、かな?」


俺は夜依の冷たい視線を肌でビリビリと感じながら聞く。正直、ちょっとビビってる。まぁ、頑張って強がってるから顔には出さないけど。


すると、夜依は右手に持っていたクシャクシャに丸められた紙を開き、俺に見せてきた。


その紙は、前の授業で渡された課題テストの答案だった。


それを見ると夜依の点数は相当高い事が分かる、流石クラス2位で学年2位だ。

だけど今回の俺の点数より少しだけ低い。


「今回の課題テストは負けました。正直に言って完敗です。ですが、次のテストは絶対に絶対に負けません。次のテスト覚悟しておいてください!以上です。」


それだけ夜依は強気に自分のペースで言い切り、満足したのか俺が何かを言う前に颯爽と歩いて行ってしまった。


「………………えぇ?なんなの?」


そんな、何も夜依のペースについて行けなかった俺だけど……一体なんだったんだろう?


うーんっと。夜依は俺に課題テストで負けたのが悔しすぎて、自分で作り俺に宣言した絶対近寄るな宣言を一時的に解除してまで俺に宣戦布告をしに来たって訳か?


そう思うと、夜依はいつも気を張っているイメージが緩まり、意外と可愛いところもあるんだな。

と、俺の中での夜依の見方が変わる。


って俺もそろそろ行かなくちゃ、化学に遅れるな。


俺は化学の荷物を持ち、急いで教室を飛び出した。夜依と話していたため、教室には誰もいない。


時計を確認すると、後数分でチャイムが鳴るだろう。そこまでに化学室に滑り込む。


そんな、スプリント態勢に入る寸前だった。


──テレンッ!


左手に着けている時計がバイブした。この時計は、お母さんがくれた特殊な時計で、俺の事を守ってくれる大事な物だ。


一応学校ではマナーモードにしているので音はなく少し揺れるぐらいだけど、すぐに俺は気づいた。


この時計はタッチパネル式で操作してみて分かったけど、かなりの高スペックであり、様々な便利なアプリが入っていて使い勝手がとてもいい。更に俺のスマホとも連動している。この時計は、相当高かったと思う。

本当にありがとうお母さん。俺は心の中で母に感謝する。


──そして、俺は考える。

今このメールを見るべきか?と。


時間的には絶対に見るべきでは無い。そんなの誰でも分かる。だけど、これがもし大事なメール、緊急なメールだった場合はどうする?


くっ……急いで見ればいいか。


俺は一瞬でそう判断し、時計の画面をスライドしてコトダマを開く。


送り主はと……お母さんからか。

最近になって、コトダマ友達は急激に増えた。それに満足感を得ながら俺はお母さんのメールを読む。


《優くんへ、まだ学校が終わってないのにメールしてごめんね。でも、早く言っておいた方がいいかなって思ってメールしたの。

で、早速本題に入るけど今日ね、国から通達があって今週の日曜日に、ある施設に説明を受けに行かなきゃならなくなったの。詳細は後で説明するから今は割愛ね。

貴重な優くんの日曜日を削ることになるけどごめんね。もし用事があったりしたら先生や友達に断っておいてね。それじゃ学校頑張って♡お母さんより。》


メールにはそう書かれていた。


俺は腕時計をつけた腕をゆっくりと下ろした。


「………………」


たしか日曜日って………雫と出かける(デート)の約束をしていたよな?

お母さんからのメールには“国”っていう単語も入っていたから多分かなり重要なやつなのだと思う。

だから断ったり、日にちをずらしたり、すっぽかしたりは出来ないはずだろう……


俺は項垂れた。だって、雫と出かける(デート)を楽しみにしていたからだ。最近はその日が近づくに連れて夜も寝れなくなるほどだったのに……


「クッソぉー。なんて運が悪いんだ。はぁ、どうやって雫に断ろうかな……」


俺は時計を操作して《了解》とだけお母さんに送信して化学の荷物を持って歩き出した。


でも、その足取りはいつもよりかなり遅く、軽いはずの荷物がいつもより重く感じる。


──キーンコーンカーンコーン♪


チャイムが鳴り、授業が始まった。

もう確定で授業には遅れるはずだな。


だけど、今の俺にはそんな事気にする気分では無かった。


☆☆☆


化学の時間には勿論遅れた。だけど、まだ化学の先生が化学室に来ていなかったため俺はバレなく、今は1番後ろの席に座っている。


もう、さっきのメールのせいでテンションはガタ落ち。ため息も止まらない。他の女の子と話していても全然内容が頭に入ってこない。


それぐらい楽しみにしていたし、緊張もしていた。

それなのに……はぁ、つくづく俺はついてないな。


そんな事を思っていると、化学の先生が遅れて化学室に入って来た。


化学の先生は肩ぐらいまである紫色のボサボサな髪。そして、紫色のメガネをかけているが、前髪が長いせいか目はよく見えず。白い白衣姿の為、不気味だ。更に、右手には何かの薬品が入ってると思われるフラスコを持っていた。


その姿は完全にマッドサイエンティストのようだ。


どう見たってやばい人である。だけど、この人は化学の先生なのだ白衣を着ているのも当たり前だし、薬品を持っているのも実験の為だろう。


そう考えると、不気味な第一印象は薄れていく……

──ってぇ!?


俺はその先生を見ていると、その先生とくっきり目が合った。

そして、俺の顔を見てニヤリと不気味な笑顔になった。


それを見て、俺は背筋が凍る感覚がして身震いした。

咄嗟に距離を取ろうと立ち上がりそうになる。

1番それを感じたのは俺だろうが、その不気味な笑顔はクラス中を恐怖に陥れる。


「キヒッ!皆さん……こんにちは。これから1年間、あなた達に化学を教える、毒牙 毒味どくみ“独身”です。よろしくね。

趣味は生物の解剖、黒魔術研究、魔女研究、などです。オカルトも大好きよ。キヒヒ……」


笑い方も喋り方も暗く恐ろしい。更に、言っていることも相当ぶっ飛んでいる。なんなんだこの先生は?

いや、本当に先生なのか!?

……と、錯覚してしまう程の人だった。


毒牙先生の自己紹介が終わり、一応いつも通りの流れで皆の軽い自己紹介もした。そして、毒牙先生の化学のオリエンテーションも終わった。


「キヒッ。少しだけ時間が余ってしまいましたね。

──そうだ!ゲームでもしませんか?」


毒牙先生はそんな提案をする。

それを聞いて、なんだよ!面白そうな先生じゃん!

と、クラスの全員が先生の評価をやや上げる。


「ゲーム?例えば何をするんですか?」


クラスの女の子がゲームと聞いて、テンションが高揚したのかゲーム内容を尋ねた?


「キヒッ。例えば……解剖競走。黒魔術を実際に使ってみる。コックリさんをやるとかですかね?」

「「「「………え……?」」」」


俺を含めた全員が絶句し、化学室が沈黙した。

やはり、この人は恐ろしい人だ!

その事を確定させた全員。


「すごいマニアックなゲーム?……だな。」


そんな中、俺をつい口に出してしまう。1番後ろで、小声で言ったから大丈夫だろうと思ったのだ。だが、俺の声は想像以上に響き毒牙先生の耳に入ってしまった。


「キヒキヒッ!分かってくれるの?」


俺が反応したからか、すごいスピードで毒牙先生が近寄ってきて顔をずいっと近づけてきた。


「──うわっ!?」


急に近付かれた焦りと恐怖で変な声を出してしまう俺。だって、怖いんだもん。しょうがないだろう!


この人を近くで見るとより恐ろしい。前髪で少ししか見えないけど、そこに隠れた目がとにかく鋭く俺の事だけしか見ていない。


「キヒッ。なら優馬君は何をするの?解剖競走?黒魔術?コックリさん?」

「あ、えっと、うーんっと。普通のゲームをしませんか?先生が提案したゲームも面白そうですが、残りの時間的に足りないと思いますし……ね?」


正直どれもやりたくない。なので、先生を傷つけないように丁寧に断った。ストレートに口に出した場合、何をされるか分かったもんじゃない 。


「キヒッ。そうね。なら生物の名前を当てるゲームでもしましょうか?」


毒牙先生は素直に了承してくれた。


「はい。それで、お願いします。」


何とか普通のゲームに変えられた。けど、この先生のことだ……嫌な気がする。


だけど、周りを見てみると女の子達が尊敬の目で見てきている。春香は毒牙先生に見えないようにしながらグーサインをしていた。

少し照れくさかった。頑張った甲斐があった。


そこから普通の生物の名前を当てるという無難なゲームをした。だけど、その間毒牙先生は俺の傍から動かなかった……

チャイムが鳴り、化学の時間が終わった。


クラスの皆が続々と教室へと帰る中、俺は中々帰る事が出来なかった。何故かというと毒牙先生がずっと俺の隣で話しかけてくるからだ。恐らく、どうにかして俺をここに居させたいのだろう。


話の内容は化学や生物などのことが含まれていたため勉強になるものも少々あるのだが趣味の話は正直怖いし、理解が追いつけない。もう少し俺の事を考えて欲しい。


なので、俺は相槌をすることしか出来なかった。


誰か助けて欲しい。そう皆に目で訴えたが皆先生が怖かったのか無視されたり先生にバレないように頭を下げて謝って行ってしまった。


これっていつまで続くの?もしかして先生が話をやめるまで!?でも先生……やめる気がしないけど……


「先生………そろそろ俺、行かないと次の時間に遅れてしまいますから、そろそろ………」


と、俺はあからさまに話を終わらせようとする。


「キヒッ。毒味でいいですよ優馬君。それと次は授業はありませんよ。今日は5時間授業ですからね。」


だけど、何かと理由を付けて論破されてしまい俺は逃げられなかった。


無理やり走って出ていってもいいのだけど、そうした場合、今後1年間先生との仲が最悪になってしまう。なるべく穏便に、そして素早く、先生を傷付けることなく話を終わらせられれば……


俺は、先生の話を適当に流しながら頭の中でその事必死に考える。


「キヒッ。さぁ、優馬君たっぷり時間があるので、遅くなるまでずーっとずーっと私と化学の話をし合いましょうね。」

「……………………っ!?」


もう目がマジでやばい。更に、俺の両手を掴んじゃったし、精神的にも肉体的にも逃げられないよ!

た、助けてくれぇ。


俺はもう、限界で声を出して本当に拒絶してしまう寸前の時──


「……先生、少しいいですか?」


すると、誰かが毒味先生に声を掛けた。

…………雫だ!雫が助けに来てくれたんだっ!


俺は心の中で歓喜する!


「キヒッ。何ですか?今、優馬君とお話し中ですよ?」


毒味先生はギョロりと雫の方を向き鋭く睨んだ。まるでゴミを見るかのような負のオーラも強く放つ。


それでも雫は動じない。俺だったら逃げてしまいそうだ。


「……これから優馬は生徒会の仕事があるんですよ。だから私はそれを伝えに来たんです。」

「キヒッ。そうなの?優馬君?」


雫は毒味先生にバレないように“合わせて”と言うような合図をしてきた。生徒会の仕事なんてまだ何も無い。けどいい理由だと思う。


「えーっと。はい、そうです。雫の言う通りです。これから生徒会の仕事が少しあって…………」


俺は雫の話に合わせる。顔に出て嘘だとバレないように気を付けながら……


「キヒッ。それなら、しょうがないわね。また今度ね、優馬君。」


数秒の間を開けて毒味先生はようやく手を離してくれた。でも、寂しいのか話した途端に手をワラワラと小刻みに動かす。本当に本当に怖いよ!


「はい、また次の授業で……、さ!雫行こうか。」

「……ええ。」


俺と雫はヒラヒラと不気味に笑いながら手を振る毒味先生に頭を下げて急いでその場から立ち去った。


もう、俺は限界だったのだ。いつの間にか雫の手を引っ張って走っていた。


化学室からできるだけ遠く離れた廊下まで走り、ようやく俺と雫は止まった。

ここは、屋上近くの廊下なので、人通りはほとんど無く廊下には俺と雫しかいない。


「はぁはぁ。」

「……ふぅ。」


互いに息を切らしながら、呼吸を整える。俺は壁にもたれ掛かり、雫は膝に手を当てる。


「本当にありがとう雫。助かったよ。よく咄嗟に理由が言えたね。」


俺は雫に感謝の言葉を伝える。本当に、雫が来てくれたあの時はまるで雫の事が女神に見えた。


「……別に適当よ。」


そう、余裕そうな表情を雫は見せる。


「いや、それでも嬉しかったんだよ。ありがとうな雫。」

「……なら、ちょっといい?」


雫が俺に近付いてくる。

ん?どうしたんだろう。


雫は俺の胸に頭がコツンとぶつかるまで近付いた。

いやいや、どうしたんだ!?


「あ、あのー、どうしたの?」


疑問符を浮かべる。


「……正直に言うけど。──やっぱり怖かったっ。」


雫は今までに無い表情で言う。

雫のここまで崩れた表情を見るのは初めてだった。


「……だから。少しの間でいいから、“抱きしめて”」


涙目で、上目遣いでのお願い。

それを見た、は断れるはずが無い。


「わ、分かったよ。じゃあ、いく……よ?」

「……ええ。お願い。」


俺は目をつぶった雫を更に引き寄せ、優しく抱きしめた。雫は俺の背中に手を回し、俺の胸に深く顔を沈める。


雫の香り、そして胸の感触が服越しに来る。

そのせいで、頭がボーッとして来るが、何とか理性を保つ。


「……優馬……怖かった。でも頑張ったよ。」

「うん。本当に感謝してるよ。ありがとう、雫。」


俺は優しく雫の頭を撫でた。


色々とやばい化学の授業で、精神的にすごく疲れたけど今はその事が全く気にならないくらい、雫の事で頭がいっぱいになっていた俺であった。

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