第15話 課題テストの結果
委員会が全て決まったのと同時に1時間目が終わり、小休憩を挟んだのち2時間目が始まった。
チャイムが鳴り俺は自分の席に着いた。
今は無事に委員会が決まり落ち着いている所だ。
そんな中、奈緒先生が沢山の用紙を持って教室に入って来た。その用紙の多さは奈緒先生だけでは持ちきれず、今決まったばかりの学級委員の由香子と雫が荷物持ちとして、こき使われていた。
それにしても、これから奈緒先生は何をするのかな?特に何も聞いてないんだけどな……
「では、今日は前回やった課題テストをまとめて全て返却したいと思います。」
そう奈緒先生が言った瞬間、クラスはどよーんと静まり返り、ため息までつく女の子も多々いた。
特に、前の席の春香は誰よりも多くため息をつき絶望しているようだった。
課題テストか……そう言えばすっかり忘れていたな。確か入学式の翌日にしたんだったっけ。
あの時は、課題テストだって当日に分かって相当焦ったなぁ……
なんて、ほんの数日前の出来事なのにも関わらず、どうも懐かしく感じていた俺。
それぐらい濃密な生活を過ごしているんだろうな。
……と、俺の目標である“青春”がどことなく送れている気がして嬉しくなってしまう。
さて、幸福感に浸っているのも程々にして。授業に集中しよう。
課題テストはまぁ、何となく分かるものがあったけどほとんど感覚で全く自信はない。それに、ほとんどノー勉に近い状態だった訳だし。自分でも今回は半分諦めている。
……はぁ、俺に比べてここにいる子達のほとんどは高い倍率を勝ち抜いた選りすぐりのエリートなんだから平凡な俺なんかよりもよっぽどの高得点を取るんだろうな。
まだ、誰がどのくらい頭がいいのか分からないけどね。
初めに課題テストの5教科分の答えが一気に渡され、出席番号順にテストは5教科ずつ高回転で返却されていく。
俺は名前が呼ばれるまで、課題テストの答えを見てみた。けど、自分の点数がどれくらいなのかがよく分からなかった。残念ながら、テストの内容はすっぽり忘れていたからだ。
テストを返却され、笑顔で喜びガッツポーズをする子やテストの内容が悪かったのだろう……返却されすぐに崩れ落ちる子もいた。
どちらかと言うと、崩れ落ちる子が多かった気がする。そのぐらい、今回の課題テストは難しかったようだ。
俺も精一杯頑張ったんだ(ノー勉の割にはね。)だから、どうにか赤点だけは避けていて欲しいっ!
神様に願うように、そして慕うように俺は祈った。
どうか、最下位とかにはなりませんように……と。
──そして、とうとう俺の番が来た……来てしまった。
やはり、答案を返されるその瞬間というものはなんとも言えない緊張感に見舞われる。
深呼吸を何度繰り返してもその感情は直らず、謎の震えも止まらない。
ドキドキしながら奈緒先生から答案を裏返しで受け取る。その姿勢は体育館のステージで卒業賞状を受け取る時のそれだ。
点数はまだ見ない。自分の机まで持って行き、そこでゆっくりコソコソと見よう。
でも、奈緒先生は謎の笑顔を浮かべながら答案を渡してきた。なので、俺の点数が良かったのか?悪かったのか?が、悟ることは出来ず、俺はそれだけ悪い点数なのか?とそんな想像をしてしまい冷や汗を垂らす。
そんなことを多く考えながら自分の席まで戻って来た。
「………………………………………………っ。」
ええぃっ!考えるより、まずは結果を見なくては始まらないぞ、俺。
俺は覚悟を決め、5枚の答案を一気にひっくり返し刮目してその答案を見る。
「ってぇい!?──うおおぉぉっっ!!!」
国語・97点
数学・94点
社会・89点
理科・95点
英語・98点
合計・473点
俺の答案には、自分でも予想外だったえぐい点数が赤ペンで書かれていた。
自分でもかなりというか腰を抜かすほど驚いた。もう、変な声も出しちゃったし。
クラスの視線が俺に集まり恥ずかしい。
それにしても、なんだこの高い点数は…………
自分でやった点数なのに、何故か信じられない俺。
もしかして、俺カンニングしたか!?
自分でそんなことを自問自答してしまうほど、混乱もしていた。
「優馬君~~。テストどうだったの~~?点数悪かったの~~?」
俺の驚きを近くで聞いていた由香子が俺の席に寄ってきた。そして、俺の答案をチラッと盗み見た。
「優馬君は点数悪かったのかな~…………って、えぇ!?何このすごい高得点はッ~~!?」
由香子が俺の点数を見て俺よりも大きな声を上げたのでクラスのほぼみんなが俺の席に集まってきて俺の答案を見てきた。
俺の答案を見た女の子達は全員口をあんぐりと開けて驚いていた。
「す、すごいよ。優馬君!!」
「男で、顔も良くて、性格もすごく良くて、更に勉強もできる!!!もしかして優馬君は超完璧人間なんじゃないのかな?」
「スゴすぎ私、結構自信あったのに………。さすが。」
「まさに理想の人!!」
……と、次々に褒められた俺。まぁ嬉しかったけど、それは俺が転生して幼い頃から勉強していたからだし、転生する前の記憶があるのだから正直ズルをしている……と言われてもおかしくはない。
慢心は絶対にダメだ。これからもちゃんと頑張らなくては………と、俺は心の中で覚悟を決めた。
……てか、ちゃっかり女の子たち俺の体を触ったり、匂いを嗅いできたりした。
まぁ、俺は気付いていない振りをしていたけど、ちゃんと気付いているからね!
でも、これ以上はまずいかもしれない。興奮しきった肉食獣な目で女の子が俺を見だしたからだ。
う……怖いし……逆にこんなに密集されたら、俺も……興奮してきてしまうぞ!?
俺は早速覚悟が揺らぎそうになる。
「はい、はい!それでは皆さん優馬君の所に集まってないで、自分の答案を確認して間違っているところがある人は私の所まで持ってきてください。」
奈緒先生が手を叩きながらかなりの大声で叫んだ。
さすがに女の子たちにもその声が聞こえたようで興奮した肉食獣だった女の子たちも普通の女の子に戻り、俺から離れていった。
ふぅ……俺はまた別の冷や汗を垂らす。なぜなら、彼女達が俺に興奮したように、俺も彼女達のせいで興奮してしまったからである。
この世界は、誘惑が多すぎるよ。
女の子から解放され、よろよろになりながらも、自分の席に座り直した。
女の子達も自分の席に座ったようで、これで一安心だ。
「奈緒先生ありがとうございます!」という熱い眼差しを奈緒先生に向けた。感謝は後で言うつもりだけど、この眼差しだけは先にやっておきたかった。
奈緒先生は俺の熱い眼差しに気がついたようで、すぐさま顔を真っ赤にさせていた。上手く伝わったのかな?
それから俺の答案に間違いは無いか確認し、クラスでも数人しか点数が間違っている人はいなくすぐに終わった。
「それでは最後にお待ちかねの、クラス順位を発表したいと思います。」
奈緒先生はお返しとばかりに、俺の事を見てやたら笑顔で言うが、俺は嫌な気がしてならない。そのせいか、謎の震えも再びしだしたし……
奈緒先生は、自分より大きいんじゃないか!?と思うくらい大きめ(俺ぐらいの身長だったら少し大きいと思う程度)の紙を黒板に頑張って貼る。
順位が発表され、クラスはざわめく。
歓喜と悲哀の声が聞こえる。
よし……
俺は再び覚悟を決め、恐る恐る目を開け、順位を見てみた。
「はは……」
俺は頭を抱えてついつい笑ってしまう。でも、その笑いには感情はこもっていない。
何故かって?だって、俺の予想通りになってしまったからだ。
《1年3組─一学期課題テスト─クラス順位10位まで》
【 1位 】神楽坂 優馬 473点
【 2位 】北桜 夜依 469点
【 3位 】藤林 智佳 458点
【 4位 】雨宮 雫 452点
【 5位 】尾関 仁奈 448点
【 6位 】榊原 真希 442点
【 7位 】近藤 舞 432点
【 8位 】作田 由香子 427点
【 9位 】吉田 心 423点
【10位】高橋 紗奈 412点
俺がクラス1位だった。
何となくそんな覚悟があったため、そこまで驚きはしなかった俺。だけど、やはり冷や汗は止まらない。
だって、ほぼノー勉でクラス1位を取ってしまったのだから。
確かにこれも努力の結果?なのかもしれない。だけど、一応俺は転生者だ。その記憶があるためどうしても喜べず、罪悪感に支配されてしまう。
それで……夜依が2位……か。あ、それに雫は4位だし、由香子は8位だ。皆頭がいいんだな。
「皆さん今回は優馬君が1位でした。さらに、学年も1位で先生鼻が高いですよ。」
奈緒先生はぺったんこの胸をずいっと前に出し、ものすごく嬉しそうだ。
(((((なんか……ほのぼのする。)))))
と、クラスにいる人達は思った。
奈緒先生はもう、クラスのマスコットキャラクターになりつつある感じがする。
それにしても、俺はクラスも1位で、学年も1位だと?もう……笑うしかないよ。
どうしてだよ、もっと難しく作ってくれれば良かったのにぃ。と、愚痴をこぼしたくもなる。
俺は次のテストはすごく難しくなれと願うのだった。
「さて、課題テストで良かった人は決して天狗にならず、悪かった人は努力で改善していくしかありません。もう少しで本格的なテストもあるのでしっかり勉強をしておいて下さい。」
「「「「「「はい。」」」」」」
奈緒先生の言葉に、全員が答えたら、ちょうど良くチャイムが鳴り2時間目が終わったのだった。
☆☆☆
「……優馬って勉強出来たのね……ちょっと意外。」
2時間目が終わってすぐ、雫が声を掛けてきた。
「あ、うん。今回は本当にたまたまだよ。」
俺は今答案を見ているけど、その可能性が高いと思った。もちろん高得点ではあるんだけど、全くわからなかった選択問題で、勘で選んだものがほぼ全て当たっている。なので、今回の学年1位は本当にたまたまなのだ。
「……たまたまで学年1位は取れないと思うけど?
呆れながら雫は言う。
「……と、言うか聞きたいんだけど、課題テストの日。本当に課題テストの事知らなかったの?まさか、あれだけの短い時間だけでテストに挑んだわけじゃないでしょ?」
「あっ……………」
そうだね、普通はありえない話だもんな。でも、本当に知らなかったんだ。正直に言いたいけど、面倒くさくなるのは目に見えている。ここは雫に合わせておくのが1番懸命だな。
「うん。そ、そうだよ。こ、こ、高得点をとって雫の事を驚かせようと思ったんだ!」
「……ふーん。そっか。」
俺が瞬時に思い付いた言葉を適当にまとめて言ってみたけど、それっぽい理由になったかな?ちょっと、話し方が戸惑っちゃったけど恐らく大丈夫だろう。
「それよりも雫は4位だろう!すごい事じゃないか!」
こういう時は話を少し変えて、はぐらかせばいいのだ。
「……いや、1位の優馬にそう言われても嫌味にしか聞こえないんだけど。」
ため息を混じりの反応を示す雫。
「あぁ、うん。ごめん。別にそういう訳じゃないけど。」
確かに嫌味にしか聞こえないように言ってしまった。俺的にはそんな事、一欠片も思っていなかったけど……それで雫が、傷ついたのたら非があるのは俺だ。
「……いい。わかってるから大丈夫よ。ちょっとした意地悪だから。」
あ……可愛いな。雫のちょっとした些細な意地悪。
だけど、そんな事をバカみたいに出来る関係……素晴らしい。
「……ところで優馬はなんでそんなに勉強ができるの?普通、男性は一応ある程度の勉学は学ぶけどそこまで頭は良くないはずなのよ。なにか特別なことでもしたの?……もしかしてカンニングでもしたの?」
雫はまるで警察官のように尋問してくる。
「いや、まさかだよ。そんなカンニングをしたって意味ないじゃん。ハッキリ言って無駄だし。自分の役に立たないじゃん。復習、予習を徹底的にわかるまでしただけだよ。」
まぁうん。それだけしかやってないな。
別に先生とかいなかったし。
凡人な俺には何か画期的な発想とか方法とかは思い浮かばず、これしか出来なかったのだ。
「……ふーん。そうなんだ……参考にさせてもらう。」
「あ、うん。どうぞ。」
「優馬君ー♪」
大声で春香が後ろを振り向き、俺の両手を掴む。
春香の表情は鬼気迫る感じで俺はやや身構える。
「ど、どうしたの春香?かなり焦っているようだけど?」
「うん。すごく焦っているよ♪焦りまくってるよ♪
まずね、コレ見てよ♪」
そう言って春香はプリントを俺にそっと差し出してきた。それは課題テストの答案だった。
俺と雫はそのプリントを恐る恐る見てみた。
でも、結果は何となく分かる。
「これは………」
「うん。やばいよね……♪」
俺の想像以上に春香の結果はやばかった……
国語・15点
数学・12点
社会・19点
理科・31点
英語・25点
合計・102点
もう、ちょっとね……笑い事では無いね。
「課題テストだから赤点はまだないけど課題テストからこれじゃあ進級にも関わるかもね。」
俺は必死に頭を回転させ、フォローする。
「……そうね。」
雫もすぐに頷く。
「うっ、だから優馬君♪私に勉強を教えてください♪土下座でもなんでもするので本当にお願いします♪私がもし留年なんてなったら優馬君と離れ離れになっちゃうんだよぉー♪」
今にも春香は土下座しそうだ。そのぐらいの覚悟を春香から感じる。
男として女の子が土下座なんていうのは見た無い。
それにクラスの女の子たちの目もあるしね。
「うん。全然OKだよ。だから、すぐに土下座の体勢をやめようか。」
それに勉強は誰かに教えると復習になっていいと昔聞いたことがある。俺は復習、春香は学力up。これをいっぺんに行える。まさに一石二鳥だと思った。
「うー♪なら毎日私の大好物のプリンをあげるからー♪……って、え?いいの!?もしかしたら私の聞き間違いかも知れないからもう一度言ってくれないかな?」
「わかったよ。答えはOKだよ。さて、勉強する場所はどこがいいかな?」
俺がそう言った瞬間、春香が俺に抱きついてきた。
「───うおっ!?春香……さん!?」
何とか受け止めた俺だけど、状況を把握出来ない俺。
「ありがとうー♪優馬君♪大好きだよぉー♪」
どうやら春香は俺にはOKを貰いものすごく嬉しかったようで自分の気のままに行動したっぽい。
春香はお構い無しに抱きつくが、顔同士がかなり近いし、女の子のいい匂いもする。それに、体が密着しすぎているッ!
春香は気づいていない様子だが、周りからはきゃーという悲鳴やチッと音を立てた舌打ちが聞こえた。
女の子の嫉妬?って怖いなぁ。それに、1番近くにいた雫も若干笑顔が引きってるし……
俺は取り敢えず、両手を上に掲げて何もしてませんよ。というアピールをするしか無かった。
「……えーっと、ゴホン!春香さん……?一応言っときますけど皆見てますよ。」
雫がわざとらしく咳払いをし、春香に教えた。春香ははっと気づいたようで顔を真っ赤にしながら俺から離れた。
「ははは……ごめんね、優馬君♪我を忘れちゃってたよ♪」
「あはは。大丈夫だよ。これからは気をつけてね。」
俺はあの春香の一言は決して忘れないだろう。(お母さんと茉優以外で)初めて女の子から「大好き」と言われたことを……………ずっと心の中で留めておくことだろう………
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