第14話 委員会決め

その日は、教室で待っていてくれた雫と一緒に帰り、今は丁度家についた頃だ。


俺はお母さんとかすみさんに「ただいま。」と言って自分の部屋で着替えてリビングに行った。


リビングに入ると、


「お兄ちゃん、おかえりなさいっ!」


妹の茉優が制服姿で俺の腕に抱きついてきた。


「うおっ!びっくりしたよ。」


急に来たからびっくりしつつも、ちゃんと受け止めた俺。


数日前に茉優と話せるようになってからは、どんどん積極的に茉優と喋るようになった。もう、感覚的にはものすごく仲良しな兄妹だ!


茉優と一緒にいること自体俺には凄く嬉しいことで、久しぶりに“兄”を感じていた。


「今日、茉優は部活は無いのか?」


茉優はいつもこのぐらいの時間は部活で忙しく、家にいないはず。この時間にいることは大変珍しい事だった。


「うん。今日はね、私個人の特別なインタビューがあって部活は休みだったんだ!」


茉優は頬を俺の腕にスリスリしながら言う。その顔を見ると本当に幸せそうだ。


「インタビュー…………?」


あ、そうだ。思いだしたぞ!

俺は雫から教えてもらった事を思いだした。


「えっと。茉優って今世間が注目する、すごいサッカー選手なんでしょ?雫から聞いたんだけどさ!」

「え?お兄ちゃん!私の事を知っていてくれたの!?嬉しいっ!」


茉優は本当に笑顔で歓喜するものだから、なんだか俺も嬉しくなる。


「ところでさ……“雫”って誰なの、お兄ちゃん?」


さっきまで明るく接してくれていた茉優の声の質が急に重く、深くなる。

顔は笑っているが、目は笑っていない。茉優の質問はどう見ても尋問のような感じだった。こんな茉優は、初めてだったので少し驚いた俺。結構怖かった。


「あ…………」


やべ……今気付いた。どうやら俺は口を滑らせてしまったようだ。


「うーんっとね、雫は……学校の友達の1人だよ。ただ家が近いから毎日一緒に登下校をしているだけだよ。」


そう雫の事を説明した。

これで友達という事をアピールできたはずだけど、どうだろうか?


って……ひぃっ!!??


茉優から謎のドス黒いオーラが出ている。

更に茉優の後ろには阿修羅のような鬼が見える。


ハッキリ言って怖い。

俺は腰を抜かす。正直、情けないと思うけど致し方がない。


「ふーん。そっか。そうなんだ。わかったよ、お兄ちゃん。」


茉優は素っ気ない返事をしてそっぽを向いてしまった。多分、怒っているのかな?


でも……なんでだろう。ただ俺は雫の名前を言っただけなのにな。


ちょっと、そこからは謎の気まずい雰囲気の状態になってしまった。

うん……前から聞きたかった雫と日曜日に出かける時の服を選んで欲しい。だなんて今の茉優には口が裂けても言えなかった。


結局、茉優が夜ご飯を作るために、不機嫌でリビングを出ていってしまうまで一言も喋る事は無かった。


え?なんで?……と、俺は終始疑問符を浮かべ続けていた訳だけど……最後の最後まで分からなかった。


なんて言えばいいのかな?初めての兄妹喧嘩?みたいなものをした。


☆☆☆


次の日の学校の1時間目。


「今日はクラスの委員会を決めたいと思います。委員会の仕事は多くあって大変かもしれませんが、どれも責任がありやりがいのある大切な仕事なのでしっかり決めましょうね。」


奈緒先生がそう言って、学校にある委員会の名前が書かれた紙を黒板に貼った。


委員会は全部で10個あって生徒会、風紀委員会、学級委員会、体育祭・文化祭委員会、美化委員会、図書委員会、保健委員会、広報委員会、放送委員会、選挙管理委員会あって、転生する前にあった委員会とほぼ同じだった。


委員会は2人ずつで全部で20人までしか入ることが出来ないので人気がある委員会はすぐに取られてしまいそうな感じだ。


俺は後ろの席からクラスの皆を見てみるが活気に満ち溢れていて委員会に入る気が満々だ!と感じられた。


「──あ、それと。」


途中で奈緒先生が言葉を付け足した。


「やりたい委員会はすぐに挙手すること!

理由はもし優馬君がどこかの委員会に入ろうと挙手した場合、あなた達は優馬君と同じ委員会に入ろうとして遅れて手を挙げる可能性があるからです。

それだと本当にやりたい人や優馬君に大変失礼です。それに時間も余計にかかるのでやめましょうね。逆に本当にその委員会で頑張れる人、頑張って行きたい人は素早く挙手してくださいね。」


つまり、やりたい委員会はすぐに手を挙げろということか………簡単で、わかりやすい。


皆が了承したことを確認した奈緒先生椅子を持って教室の端の方にちょこんと座った。

挙手の速さは奈緒先生が厳正にチェックする為なのか、奈緒先生はいつにも増して真剣な面持ちだ。


でも、体が小さい奈緒先生では小学生が座っているようにしか見えなく、笑いが込み上げてくる。


必死に笑いを我慢していると、奈緒先生がいつの間に俺の事を凝視しているのが分かった。

──目が合ったのだ。


俺は慌てて視線をずらした。別に何も見ていませんし、思ってもいませんでしたよ!という感じで。


人一倍、体の大きさに敏感な奈緒先生は、俺が奈緒先生の身長の事で笑いを堪えていることに気付いたのだろう。


さて、俺も早く入りたい委員会を決めるか……

別に俺は委員会には入っても入らなくてもどっちでもいいというのが本音だけど、転生する前はろくに委員会の仕事をした事がなかったため、少しだけ興味はあった。


でも、委員会に入るのなら仲がいい女の子と一緒がいい。体育の時のペア組と一緒で、雫や由香子、春香、夜依だね。


でも、狙った女の子と同じ委員会に入る事など普通は不可能な事だ。


既に、奈緒先生によってそういう事は出来ないようにルールを作られてしまった訳だしね……


──だけど、今いい案を思い付いた俺!


狙った女の子と同じ委員会に入りたい?だったら、その子が手を上げる瞬間に反応し、ほぼ同時に手を挙げるのだ!


この方法は、動体視力、身体能力、反射神経が優れていないと出来ない無理やりで圧倒的力技の方法だけど、俺だったら出来るはずだと思う。


それに、いかにこの動作をさりげなく行えるかが勝負の鍵だ。


「ふぅ……」


俺は深呼吸を繰り返し、集中力を高める。そして、頭もクリアにさせる。


俺の中で、1番に一緒の委員会に入りたいのは“雫”だね。


だって、雫と一緒の委員会に入れれば色々と都合がいい。まず、一緒にいて楽でとにかく気を許せる。それに、委員会が終わればそのまま一緒に帰れる。


雫と一緒の委員会に入る事が出来ればメリットしか無いという事は考えるまでもなかった。


うん、決まりだね!……一緒の委員会に狙って入るのは雫と同じ委員会だ!


「さてと、まずは……司会が欲しいので、学級委員の2名を早急に決めたいと思います。学級委員長をやりたい人は挙手をして下さい。」


奈緒先生が端っこでそう言った。


まぁ、1番初めに司会を決めるのは最適だと俺も思う。最初に決めておけば、奈緒先生はズルをしている生徒を見極めやすくなる。俺も力技が難しくなるけど、まぁ、何とかなるだろう。


そして、奈緒先生が言った数秒後に、ほぼ同時に2人が手を挙げた。


その頃、俺は頭を整理していたため反応が遅れた。

けど、雫が学級委員に立候補する訳が無いだろうと、決めつけていたため俺は初めから手を挙げるつもりは無かった。


──数秒後、俺は自分の判断を後悔することになる。


な、なにぃーーー。なんでだァァァ!?。


手を挙げたのはまさかの予想外の雫と由香子だった。


心の中で俺は叫んだ。それに、挙動不審にビクつき、前の席の春香と隣の席の女の子に笑われてしまう始末。


で、で、でも。なんで!?雫のようなややめんどくさがり屋の性格ならば、100%学級委員のような大変な仕事はしないだろう。


もしかして…………由香子と一緒だから雫は学級委員に入ったのかもしれない。

俺が雫と同じ委員会に入ろうだなんて元々言ってないし、雫と由香子は仲がいい、一緒に入ろうと、元から計画していたのかもしれない。


完全にしてやられた。


雫と由香子はクラスの前に揃って出てきてた。

立候補した人は抱負を前で話す決まりらしいな。


「私は楽しく学校生活を楽しみたいです~~。そのために頑張るので皆ついてきてね~~。よろしく!」


そう由香子は簡単に言って頭を下げた。

ちょっと学級委員ぽくなかったけど、でも由香子らしかった。


次は雫の番だ。

由香子より、1歩前に出て皆を見る。

その表情はやや緊張しているのか、強ばっている。

俺と初めて会った時と近い表情だ。


なんかそれが新鮮で、そっと心の中で応援した。


「……私は由香子の補助や支援などの事を精一杯していこうと思います。由香子ほど人望はあまり無いですが皆さんが楽しく学校生活を送れるように尽力していこうと思います。私と由香子の承認よろしくお願いします。」


そう言って雫は頭を下げた。


2人が言い終わった後、奈緒先生が「この2人に学級委員を任せてもいいですか?」と聞き、クラスの皆が承認をしたので2人は学級委員として認証された。


でも……確か学級委員会って結構大変な仕事でそれなりに時間がかかるはずの委員会だ。

うーんっと。じゃあ学級委員と同等な委員会を選べば大体同じ時間で終わって一緒に帰れるのかな?


学級委員と同等な委員会って……生徒会と風紀委員会しかなくないかな?


という事は、雫と一緒に帰るために委員会を選ぶとしたら生徒会or風紀委員会のどちらか2つしかないということだ。


ぐっ。どっちかだとなんとなく風紀委員会だけどなぁ。でもどっちも辛いんだよね。

風紀委員会という肩書きだけでもかっこいいと思ったからまずは風紀委員会がいいけど、生徒会には大地先輩もいるからそれはそれで気が楽そうだしなぁ。


さてどっちにしようかな。

あれ?でも……どうして俺はこんなにも迷っているんだろう。

別にどちらかにしなくても、違う委員会を選べばいいじゃないか。女の子は沢山いるんだし、俺だったらすぐに仲良くなれるはずだろう。


そこまで俺は雫と一緒に帰りたいのか?

……うん。帰りたい。


自問自答し、自分の気持ちを整理した。


そして……


そこから司会が雫と由香子に代わり委員会を順々に決めていった。話を進めるのは由香子、書記が雫で黒板に板書して行った。


そこから順々に委員会が決まっていく。


皆やる気はものすごくあるらしく、多少委員会が被ることもあったが誰も手を挙げない不人気な委員会はなかった。


春香は体育祭・文化祭委員会に入っていた。春香らしい選択だ。


そして、残りは生徒会と風紀委員会しか残っていない状態になった。


「じゃあ~、次は生徒会の2人だね~~。誰かやりたい人はいますか~~?」


すっと、無言で夜依が手を挙げた。

そして、ほぼ同時に俺も声を出して手を挙げた。


「はい!」


俺は考えた結果、生徒会に入る事に決めた。恐らく風紀委員よりもよっぽど大変な委員会だと思う。

だけど、先輩もいるし1度やり甲斐のある仕事がしてみたいと思った。ほんの出来心だけど挑戦してみる価値は充分にある。


まぁ、夜依が生徒会に立候補したのは意外だったけど。まぁ、一石二鳥と考えると嬉しいものだ。


俺が手を挙げたことによりクラスの皆が驚き、悔しそうにしていたが夜依はどう見ても嫌そうな顔で俺の事を睨みつけていた。


その顔は正しく軽蔑の目。

だけど……前々から夜依はこんな感じなので、俺は気にしないように心掛けた。


奈緒先生からの指摘もなく、俺と夜依は前に出てきた。

喋ることは全く考えていなかったので頭を高速で動かして抱負を考えた。夜依は完全にやる気を無くしているようなのかため息が多く、だるそうにしている。


それでも抱負を言う時にはピシッと顔を引き締め、話し始めた。


「私は中学校でも生徒会に入っていて生徒会長をしていました。その経験を充分に活かし、この学校のために働きたいと思います。

もし、承認を頂き、生徒会に入ったら積極的に意見、質問を出して行き、学校がより良いものにすると考えています。どうか承認よろしくお願いします。」


夜依はバシッと言い終え、そのまま黙ってしまった。始めに夜依が喋ってくれたので夜依が話しているうちに俺が何を喋るのかは充分に考えられた。


「えっと、生徒会は学校の中心で責任重大な委員会なので精一杯頑張っていきたいです。……よろしくお願いします。」


しっかり考えられた。と思ったのに、緊張して全然上手く喋れなかった。それに俺は別に生徒会がどのような仕事をしているのかが分からなかったので、大雑把な事しか考えられなかった。


俺って毎回こうなんだよね。頭ではしっかり考えられているはずなのに、なかなか口から出てこないんだ。自分の直したいことの1つだ。


でもみんなが快く了承してくれたので本当によかった。乱入も考えたけどそれは流石に無かった。

それでも少し不安でドキドキしていた。


夜依は納得いって無さそうだけど、まぁいっか。

もう決まっちゃった訳だし。流石に反論出来ないだろう。


後で大地先輩にも連絡しておかないとね。


俺がとにかく考えた委員会決めだったものの、何とかいいものに決まった良かった。それに、これで夜依とも積極的に話す機会か増えるだろう。


さて、頑張って行くかぁ。

俺は気合いを入れるのだった。

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