第13話 部活を決めた。


授業が終わり、次は体育の授業の時間だ。

体育の時間はすごく楽しみにしていたので、体育の日程だけは暗記していた。

確か今日は体育測定をするはずだ。


体育の前の授業の授業終了のチャイムが鳴った瞬間、俺は教室を飛び出した。

──俺は身体測定の件で学んだのだ。

クラスの女の子達が俺の目の前で、服を脱ぎ始める前に教室を出れば誰の着替えは見ずに済むことに。


…………ふぅ。

なんとか女の子達の生着替えを見ないですんだ。


「…………」


いや、俺だって本音は“見たい”だよ。そんな、自ら見せてくれるのならば凄く嬉しいし、興奮する。

だけど、それはなんかずるいって言うか、俺の羞恥心が勝てないのだ。


そんなヘタレなのが俺なのである。


はぁ……思うけど。なんで俺の前で女の子達は着替えるのだろう?それも、隠す仕草は一切せずに、躊躇いもなく脱ぐ。もう、清々しいほどに。


羞恥心は無いのだろうか?普通は異性に肌を見せるのは躊躇うと思うんだけど……

もしかして、あえて見せてるのか?


まぁ……いっか。別に俺は何も悪い気はしてないし、女の子達から訴えられたりもしないだろう。

じゃあ、いっか。今の事に気を付けていればこれから何とかやって行けるだろう。


そういう結論に至った俺であった。


それで、男の俺ってどこで着替えるんだろう……?教室……はもちろん着替えられないし、男子更衣室とかってあるのかな?


俺は、男子更衣室を探すor男子トイレで着替えるかでさんざん迷い、学校探索も兼ねて男子更衣室を探すことにした。


──が、数分必死に探し回ったけど結局、時間も無く男子更衣室は見つからなかった。


そのため、俺は仕方がなく男子トイレで体育着に着替えるのであった。


男子トイレは数が学校に少ない分、かなり広い造りになっていて利用する人も2人しかいないため新品同様みたいで使い心地がとてもいい。この男子トイレは大地先輩が教えてくれた屋上の次に落ち着ける場所かもしれない。


色々と思う所があった授業間の昼休みの時間だった。


☆☆☆


体育館には一度行ったことがあったので迷わずに行くことが出来た。


俺が体育館に着くと、もうクラスの女の子達は既に集まっていて先生も来ていた。


どうやら若干の遅刻かな?

と、思いながら先生に断り列に並んだ俺。


列に入ってすぐに、クラスの子達に声を掛けられた。どうやら、俺の体育着姿がとてもカッコよかったそうだ。


お世辞かもしれないけど、なんとも嬉しいことである。


クラス全員が揃ったのを確認した体育の先生は、授業を開始させた。


始めのオリエンテーションと体育の先生の自己紹介が終わり、今日やる体育の内容を体育の先生が説明した。


今日の体育の授業は俺が暗記していた通り、体力測定のようだった。


2人1組を作り、握力測定や反復横跳びなどの体育館で出来るものをする。

どうやら今日は体力測定の前半で簡単に出来るものをするらしい。


俺のクラスは40人ピッタリで、今日は休みもいない。そのため、誰も余ることも無く2人1組のペアを組むことが出来る。


さて、俺は誰と組もうか。

俺はクラスの誰とペアを組もうか悩む。


別に誰でもいい。女の子と組めるだけで万々歳だからだ。


だけど、強いて言うのならば、良く知っている子が好ましい。だって、その方が俺もカッコイイ所を見せようと頑張れるしね。


という事なので組みたい人の候補は雫や由香子、夜依と……あ、それと春香かな。


って、ペアの事を考えていると、いつの間にかクラスのほとんどの女の子の視線が俺に固定されている。


え……なに?


俺は肉食動物に睨まれた草食動物のように動けなくなる。だって……視線がまさに肉食動物のそれだったからだ。


──と、思った瞬間。


「じゃあ、各自ペアを組むように……」


体育の先生が唐突にペアを組む時間をスタートさせたと同時に──


「「「「優馬君、私とペアを組もう!」」」」


そりゃ無いぜ……先生。

俺が思った通り、クラスのほとんどの(雫や由香子、夜依などは除く)女の子達は一斉に俺の元に群がり、俺を飲み込んで言った。


「ぐっ………っっっ。」


女の子達はそれぞれ大きな声で言う。何とかして自分の存在をアピールしたいのだろう。だけど、いっぱい言われすぎて誰が何を言っているのかすら分からないし、そんな選んでられるほどの余裕は俺には無い。


って……言うか。呼吸がしづらい。 それに、少しでも俺に触れたいのか知らないけどすごく触られてる感がする。それに……体……押し付けすぎ。マジで……女の子の甘い香りと、感触がやばいッッ。


俺の本能のスイッチがそろそろ起動されてしまう。それはまずい。何とかして、この場から逃れなければ……でも、どうやって?


くっ……どうしようもないのか!?


「────えいっ♪」


そう聞こえた瞬間。俺は女の子の集団から救出されていた。


「え!?」


俺は何が起こったのか分からず、驚きの声を出す。

数秒後にようやく状況を理解した俺は頭を整理する。

どうやら俺は誰かに助けて貰ったみたいだ。


「大丈夫だった、優馬君♪」


助けてくれた子から声を掛けられる。でも、その声の感じは聞いた事があった。


「あ……ありがとう助かったよ…………春香。」


どうやら助けてくれたのは春香だった。


「いやー、優馬君は色々と大変だねぇ♪」


ニタニタと笑いながら愉快に春香は言う。


「まぁ、そうだね。でも、まず本当に助かったよ。この借りはいつか返すよ。」

「えへへ♪じゃあさ、その借りを今ここで使って、私とペア組んでよ♪」


お、おぉ。このでその権利を使うのね。


「あ、うん。いいよ。組もうか。」


春香ならばペアを組んでもベストなプレーを行う事が出来ると思う。俺が組みたかった候補にも入っていた訳だし。


それに、早々にペアを組まないと俺の身に危険が及びそうだった。それぐらいの凄みと覚悟が何故かクラスの女の子達からは感じられたのだ。


どうやら、俺の判断は正しかったようで俺がすぐに春香とペアを組まなかったら、正直何をしでかすか分からなかった。


女の子の本能って……怖いんだね。

心の中でそう恐怖した俺であった。


「やったぁっ♪」


春香は周りの目も気にせずに大喜びする。

腕を大きく掲げ、ガッツポーズだ。


俺で良いのなら全然いいんだけどさ……


春香が大喜びしている中、俺とペアを組めなかった周りの女の子達は悔しそうにしていた。恨めしそうに春香を見る子もいた。


えっと……俺のせいで不仲になるのはやめて欲しいな……ちょっと、これからのクラスの事を心配する俺だった。


「じゃあ、早速体力測定をしょっか、優馬君♪」


春香はノリノリで言う。でも、目は真剣で何かの競技のアスリートみたいだ。


「OK、じゃあ行こうか。」


春香となら、最善なプレーが出来そうな気がする。

そんな気がした。


☆☆☆


俺と春香は2人で体力測定を開始した。


まずは準備体操だ。

俺は春香と一緒に体を押して伸ばしたり逆に伸ばしてもらったりと、真剣に体を慣らす。


………っ。

うん。春香は至って真剣だ。表情を見ればそれは分かる。

こんなにも春香は真剣なのに、俺はこんな邪な気持ちになっては行けないという事は分かっている。だけどこれはしょうが無いのだ。


春香は目の前で体をいっぱいいっぱい伸ばす。準備体操には大切な事だ。だけどその分体のラインとか谷間とか色々な部分が見えてアウトだし、目のやり場にものすごく困る。

それに、2人で柔軟をする時だって、無意識に春香が自分の胸を俺の背中に押し当ててきたりとかもしてくるのだ。それに、距離感が本当に近い時は春香のスポーティな香りが鼻を刺激してくるし……


もう、耐えるしかないのだ。顔が真っ赤になってしまうのは気付かないで欲しいと願うだけだ。

俺はドキドキしながら柔軟を続けた。


少しして、ようやく準備体操と柔軟が終わり、これでやっと体力測定に取り組める。

でも春香との柔軟などで相当精神力と集中力、体力を使用したためベストを尽くせるかが正直不安である。


でも、後悔は無い。そう思えるほどの至福の時間だったからだ。


よし……まず、切り替えよう。


今回の体力測定では時間効率を考え、ペア同士空いている方に行って各自で測定するようにとの事だ。


2人で相談した結果、まずは握力測定をする事にした俺と春香。


握力測定なんてかなり久しぶりだ。確か俺はあんまり握力は強く無かったんだよなぁ。あの時は、サッカーばっかりやっていたらな。

こればっかりは仕方がないと毎回許容してたっけ。


体育の授業の時や部活の時とかなどにカッコイイ所を皆に見せられたらめちゃくちゃモテるんじゃないか!

……なんて単純な事を考えていた、まだ幼かった俺は家でコソコソとお母さん達にバレないように腹筋、腕立て、スクワットなど自分で考えられるトレーニングを毎日コツコツと継続して長年やってきていた。今ではシックスパックで中々のいい体を作れたと思ってる。


肉体的には部活をガツガツやっていた全盛期ぐらいはあると思う。あくまで予想だけど。


「いくよ。」


俺は春香に合図をして握力測定器を本気で握った。

うおらァァァッッ!!!

心の中でめっちゃくちゃ叫んだ。


その方が力が出る。


……ピピッ。


結果は男子高校生の平均ぐらいの数字だったけど、俺的には新記録だった。


「おー、優馬君すごい力だね♪」


俺の結果に春香はそれなりに驚いていたようだ。近くで見ていた女の子達の反応も同じようなものだった。


あれ……もしかしてだけど、この世界の価値観では男って運動が出来ないのかな?

まぁ、確かにケガをしないようにとかで俺もそこまで運動をさせてくれない。部活だってそうだ。


だから家でコソコソとトレーニングをやっていたのだ。


そう考えると、男は運動をしなくなる=運動音痴になる、という結論に至るのか。


春香は俺に対して更に好感度を上げたようでデレデレになったような気がする。


次に反復横跳びだ。反復横跳びはサッカーにも使える動きなので転生する前も今もそれなりに頑張っていた。


一応自信はある方だ。で、結果は転生する前より少し多く回数が出来ていた。疲れているはずなんだけどなぁ。


俺の結果は他の女の子よりも圧倒的に良く、俺の結果を見て女の子達は驚きの表情を浮かべる。


でも、俺から言わせてもらうとこの結果は当たり前である。まず、男と女では運動能力に差がある訳だし。俺みたいに鍛えてもないだろうし。


「春香、お疲れ。」


俺は反復横跳びを今終えたばかりで息を切らしている春香に声を掛ける。


「うん……もうクタクタだよ♪」


若干汗だくになりながらも春香は言う。


「あ、そうだ。これ使ってよ。」


そう言って俺は持ってきていたタオルを春香に渡す。


「え?どうしたの……これ♪」

「俺が予備で持ってきてたタオルだよ。良かったら使ってよ。」


俺が使ったやつなんて死んでも渡せないしな。

予備を持ってきて置いて本当によかった。


「ありがとう♪大切に使うよ♪」


春香はタオルに顔を埋め幸せそうな表情を浮かべる。嬉しそうでよかった。


──あ、そうだ。

春香の笑顔をみて、俺はいい事思い付いた。


「春香、ちょっといいかな?」


2つの体力測定が終わり、クラスの皆の測定が終わるまでの時間、暇になった。その時を見計らって俺は春香に声を掛けた。


「ん、何かな、優馬君♪」

「俺はこれからは体育の授業の時にペアを組むってなった時は、春香と組みたいんだけど、いいかな?」

「え………………っと?すごく唐突だね、私はとーっても嬉しいんだけど、一体どういう風の吹き回しなのか

な♪」

「えっと………ね。春香とペアを組んだ方が楽しいかなーって思ってさ。」


これからペアを組む時とかに、いちいち女の子に襲われそうになるのは怖いからね。

もう、ペアを作るという約束をしておけばいいのだ。


「ありがとう、優馬君。すごく嬉しいよ♪」


春香は顔を真っ赤にさせながら言ってくれた。断られたらどうしようかと思ったけど、了承してくれてよかった。


そんなこんなで、心拍数が色んな意味で上がりっぱなしな体育の時間は終わったのだった。


☆☆☆


放課後。


俺は事前に渡されていた部活動用紙を持ち、奈緒先生のいる職員室に向かった。


部活を決めたので今日は部活動用紙を提出しに来たのだ。


俺の部活動用紙は誰にも書くところは見られてないし、誰にも入る部活は言ってない。

なので、奈緒先生から前に言われた事は大丈夫だろう。俺もこの部活に入るのだったら真剣にしたいしな。


俺は職員室に入り奈緒先生の机の前まで行った。


奈緒先生の机はやはり物で溢れかえっていて、仕事の大変さが伺える。


やっぱり先生という職業って大変なんだなぁ。でも、やりがいがあるんだよなぁ。なんて思った。


「奈緒先生。ちょっといいですか?」

「あ、優馬君。ちょっと待ってね。ここまでで区切りがいいから。」


奈緒先生はババっと手際よく何かの書類を書いていてとても大変そうだった。


数秒待って「お待たせしました。」と言って奈緒先生は俺の方を見た。


「今日は部活を決めたので部活動用紙を提出しに来たました。」


そう言って俺は部活動用紙を奈緒先生に手渡す。


「えっと期限は来週までだけど……いいの?もう少し、悩んでくると思いましたけど。」

「はい。正直、すごく悩みました。だけど、やっぱり俺はこの部活がしたいんです。もう決めた事です。」


俺はキッチリと言い切る。


「そうですか……でも、勿論この部活ではマネージャーになるんですよ。それでも構わないんですか?」

「はい。大丈夫です。」

「それと、最後に。この事は内密にしましたか?もし、誰かに話してしまったのならばこの部活の事は再思考になってもらう事になるんですけど?」

「はい。誰にも言ってませんよ。」


女の子や家族は勿論、大地先輩にも相談をしただけで部活の名前とか特徴とかの情報は一切漏らしていない。なので、俺が何の部活に入るかは誰にも分からないはずだ。これは断言出来る。


「そうですか。分かりました。それでは、この部活の顧問の先生に説明をしてきます。」

「何から何までありがとうございます。」


俺はちゃんとお礼を言う。


「!?……ふふっ。」


それが、何だかおかしかったのか、クスッと口元を手で押さえながら笑う先生?


「え?何か俺、しましたか?」


先生の仕草を見て動揺する俺。


「いえ、ごめんなさいね。何だか私が知っている男性のイメージがあなたを見ていたらおかしく思えてしまえてね。」


そうなのか?じゃあ改めてこの世界の男について考えてみると、男ってこういう事すらしないのか?挨拶とか感謝とかは人間としての基本だぞ!?


この世界の男(大地先輩を除く)に若干……いや、かなり失望した俺。そんなことすら出来ない……の?


「では、さようなら奈緒先生。」

「はい。さようなら優馬君。気を付けて帰ってくださいね。」


俺は奈緒先生に頭を下げて職員室を出た。


「ふぅ……」


俺は大きく息を吸い、吐いた。


やっぱり俺はこの世界でも“サッカー”がしたいんだな。沢山迷った、先輩にも相談した、見学も少しだけど隠れてした。だけどやっぱり……俺はサッカー部なんだよなぁ。


なんかね、毎日ボールを蹴らないと無性にボールを蹴りたくて蹴りたくてしょうが無くなる。

サッカーを心から大好きな人あるあるだ。


いくら、マネージャーで試合に一切出れなくたとしても通常練習とかで少しはボールがに触れる機会があるはずだ。


俺はボールを蹴れさえすればいいのだ。

転生する前のようなガチでは無い。この世界で青春を謳歌すると心に決めてからはサッカーよりも青春を優先させるのだ。


悩みから開放された俺は開放感に見舞われていた。

今から部活が楽しみだ。


俺はそんなことを考え、若干の笑みを零しながら、雫の待っている教室に戻ったのだった。

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