第12話 相談


俺は大地先輩の後をついて行き階段を登った。

少し疲れるくらい階段を登って着いたのは学校の屋上だった。


外に出てみると、今日はそよ風程度の風しか吹いていなく天気も晴れ。ポカポカと暖かく、決して寒くは無い。そのため大変居心地が良かった。


すぐにこの場所が好きになった。


今すぐ寝転がって昼寝をしたいほどだ。

まぁ、大地先輩がいるし、ピカピカな制服も汚れそうだったからやめておくけどね。


俺は屋上のフェンス越しから景色を眺める。この学校はとにかく大きく高さがあるので多少怖いけど、その分景色がとてもキレイだった。


遠くから街の方を見ると、何か大きな鉄塔のような建物が見えたり、その近くに沢山の大きなビルが連なっている所が見えたりと初めてまともに見る外の景色は俺の興味をくすぐった。


いつか……行ってみたいなと思った。

1人で……いや、彼女と……いや、この世界だと、彼女達と……との方がいいのかな?


そんな、楽しそうに笑いながら青春を送る自分の未来を頭の中で想像しながら数分ほど景色を楽しみ、興味があった建物を頭のメモに記憶しておいた。


「いい眺めだろう?」


大地先輩が聞いてきた。

俺はすぐに頷く。


「でも、こんなにも屋上は良い場所なのに、昼休みに1人もこの場所にいないはちょっとおかしく無いですか?」


ふと俺は疑問に思った事を聞いてみた。


「お、いい所に気付くな。優馬の考える通り、おかしいって感じるよな。」


大地先輩は俺の気付きに感心しているようだった。


「まぁ簡単に言うとだね、ここはまず人の立ち入りが禁止されているんだ。だから誰もここに来ないのは当たり前だし、この場所はほとんどの生徒や先生は知らないはずだよ。」


つまり秘密の場所と言うわけか。

そう聞き、なんだか男心をくすぐるなぁと思った。


「なるほど……」

「だから、優馬が来る前までは僕はほぼ毎日ここで弁当を食べてたんだよ。ここには誰も来ないし安全だったからね。」


そうなんだ……まぁ、その時は学校に大地先輩1人しか男がいなかったわけで、俺なんかよりも色々と大変だったんだろうな。


それに比べると俺は環境に……人に、すごく恵まれているんだなと思い、なんだか嬉しくなった。


「そう言えば、禁止って大丈夫なんですか?もしバレたら怒られませんか?」


よくよく考えてみると焦り出す俺。

入学早々に先生に目をつけられる訳にはいかない。

そうなると評価にも関わってくるからだ。


「うん。まぁ、大丈夫でしょ。実際、僕がここを見つけて利用し始めてもう約1年ぐらいになるけど、1度も生徒や先生が屋上に来た時は無いよ。それに危ないって優馬は言うけど、こんな頑丈なフェンスがあるんだからそんな、危険なんて無いんだよ。」


うん……まぁ……いいの……かな?


「あ、それとどうやって屋上に出入りしてるんですか?」


立ち入り禁止という事ならば、普通は鍵がかかっていて当たり前のはずだ。

鍵が掛かっていなかったら不用心だしね。


でも、俺と大地先輩は普通に屋上に入った。


もしかして大地先輩はピッキングでもして無理やり入ったりとかしたのか………?でも後ろからでは手元が見えなかったし、そんなことをしている素振りはなかった。


「え?どうやってって……普通に鍵を使ってだけど?それがどうかしたのかい?」


そう言って大地先輩は制服のポケットから“屋上”と書かれた名札が付いている鍵を取り出して俺に見せてくれた。

俺はそれを見て少し安心し、自分の考え過ぎを反省した。


「いえ……なんでもないです。」


あれ?でも普通、生徒は屋上の鍵なんて持っているはず無いと思うんだけど?


「それは僕が生徒会に所属しているからだよ。」


俺が疑問に思った瞬間に、大地先輩は何かを察したのか、俺が質問をする前に答えを言ってくれた。


──生徒会。それは学校の頂点に立つ組織の名前だ。でも実際どういう仕事をしているのかは俺はよく知らない。

だって、転生する前の時の関わりはほとんど皆無だったからだ。


まぁ……朝挨拶を校門の前でするとか……?全校でやる朝会とかの司会進行とか……?生徒会総会でなんかするとか……か?そんぐらいしか俺は思い付かない。


「あ!付け足すけど、僕は生徒会の用具管理という仕事についているからこそ、この鍵を持っているんだよ。この仕事は簡単に言うと学校の行事で使う道具や用具、それから様々な教室や部屋の予備の鍵を管理するのが仕事だよ。

それでたまたま屋上の鍵を見つけて、今に至るんだよ。」


ということは、無断でその役職の特権を利用しているってことか。

うーん?いいのだろうか。


「そ、それってバレたら相当やばいんじゃないですか?」

「うん、そうだね。先生ならまだなんとかなると思うけど生徒会長……僕の姉に見つかったりでもしたら、かなりやばい事になるね。考えたくも無いけど……」


若干想像してしまったのか顔が青ざめる大地先輩。


あっ、そうか。この学校の生徒会長は大地先輩のお姉さんだったっけ。いくら男の大地先輩でもお姉さんには勝てないものなのか……?それに、お仕置という言葉もやや気になる。


「でもな、姉は昼休みは友達と一緒に教室で弁当を食べたり、生徒会の仕事をしたりしているから昼休みの姉はほとんど、教室から外に出ないんだよ。

僕も姉にバレないように何回も監視してデータを取ったらから恐らくは大丈夫なはずだよ。」


大地先輩はお姉さんの事を完璧に把握しているらしいな。自信を持って言い切った大地先輩。


そんな事をするぐらい大地先輩はお姉さんに相当恐怖の対象として見ているのか?

1度もそのお姉さんとは話したことは無いけど、大地先輩のイメージだけで俺は人間像を作り上げてしまい、今では若干俺も怖い。


「さぁ、そろそろ弁当を食べようぜ。」

「そうですね、もうお腹ペコペコでしたよ。」


俺と大地先輩は近くのベンチに腰掛け、俺は茉優の作った弁当箱を開けてみる。弁当箱の中身はキレイに並べられた、俺の大好物がたくさん入れられていた。1品1品がとても美味しそうだし、彩りも素晴らしく食のバランスも取れていると思う。


「お!優馬の弁当はかなり手が込んでるな。すごく美味しそうだ。」

「はい。俺の妹が作ってくれたんです。」


自慢の妹の事を大地先輩に自慢する俺。

ついでに最近の妹の事も話してしまった。


「へぇー。いいなぁ、僕なんて自分で手作りだよ。

それも毎日だ。それに、姉の分も作らなきゃなんないし。嫌いな物を入れたら怒られるし、毎日早起きしなきゃなんないし大変なんだよな。」


そう、弁当をせっせと口に運ぶ大地先輩がボヤく。


「え?大地先輩が弁当作ってるんですか?すごいじゃないですか。」


大地先輩の弁当を見てみるとまさかのキャラ弁っ!?

なんのキャラかは知らないけど、思ったより大地先輩って女子力が高いんだな……

と、先輩の意外性に驚く俺。


「いやいや、優馬の妹に比べたら僕は全然ダメだよ、料理の腕も全然だし……ね。あーあ、僕もあんな怖い姉なんかより優しい優馬の妹が家族だったら良かったのになぁ……」


大地先輩は愚痴を挟んだけど笑いながら言った。


少々雑談を挟み弁当を半分くらい食べたところで大地先輩が本題に話を変えてくれた。


「そろそろ時間もあるから相談の話をしようか。」

「あ、はい。」


俺は一旦弁当を食べるのを辞め、大地先輩の話を聞く。


「優馬の相談って部活の事だよね。」

「はい。」


俺は頷く。


「あ、先に言っとくけど僕は部活には所属はしてないよ。生徒会の仕事が忙しいから、部活どころじゃないからね。

それで、昨年はこの高校に初めての男が入学したってなってね、この学校は大きく荒れたよ。毎日大変だったし、色々な事もあったよ。」


大地先輩は何かを思い出したのか、暗い表情になる。


「まぁ、部活動の勧誘も半端なかったし、すごく辛かったよ。それでもし、僕が多くある部活動の中の1つの部活に入りでもしたらその部活が妬まれたりしてその部活動に多大なる迷惑をかけてしまう事になる。

だから先生にも部活に入るのは遠慮してくれと言われたんだよ。まぁ僕は元々運動とかは不得意だったし、特に入りたい部活もなかった。だから、部活に所属しなかったんだ。別に僕はそれが良かったから万々歳なんだけどね。それに女の人と極力関わらなくて済むからいいしね。」


大地先輩は色々と大変だったらしいな。

今年の俺はその分恵まれてるんだなと思った。


もし俺が大地先輩よりも早くこの学校に入学していたとしたら……地獄だったのだろうな。

そう思うと、ゾッとする俺。


「だからな、優馬は興味がある部活に入ればいいよ。僕の事なんか気にせずにね。やっぱり自分で選んだ部活だと楽しいし後悔もないからね。」

「はい。わかりました。じっくり考えて決めたいと思います。」


相談に乗ってもらえて少しは心が楽になった気がした俺。


そこからまた少し雑談しながら弁当を食べた。


「今日はありがとうございました。相談に乗っていただけてすごくすごく助かりました。」

「あぁ、全然大丈夫だよ。また何か相談とかあったら連絡をくれてもいいし、昼休みにここに来ても構わないよ。大体僕はここで弁当を食べてるからさ。」

「はい。了解です。」


弁当を食べ終わった俺と大地先輩は揃って立ち上がった。


「それじゃあ。」


大地先輩と屋上を出て少し降りた階段の所で別れた。


自分の腕時計を見てみるともうそろそろで昼休みが終わる時間だ。俺も早く戻らないとな。


俺は教室まで早足で向かった。


───ちょうどそんな時だった。

曲がり角を勢いよく曲がろうとした時。

俺と同時に誰かが曲がり角からすぅと出て来た。


「うおっ…!」


急に出て来て急いでいた俺は交わせなかった。


──ドンッ


誰かと強くぶつかった。


「きゃっ!!」


女の子は悲鳴を上げた。


女の子と男の俺がぶつかったら俺の方が体が頑丈なので勝ってしまうのは当たり前だ。俺はそこまで体勢が崩れなかったが、女の子は大きく倒れ込みそうになった。


でも、俺がぶつかるのはこれで2回目だ。

1回目の時は女の子が倒れて気絶してしまった。完全に俺が悪かった。

だからそんな事が2度と無いように何度も何度もシュミレーションを重ねた。


俺は腕を精一杯伸ばし、女の子の手を掴むと思いっきり自分の方に引き寄せた。


そして両手でその女の子を抱きしめて、俺の方に倒れる。こうすればケガをする可能性があるのは俺だけで女の子は確実守れるはずだ。


それが……俺が導き出した答えである。


────ドサッッ!


「くっ……」


背中には大ダメージ。受け身も取れていないし2人分の体重が乗ったダメージだ。実際すごく痛いが、歯を食いしばって耐える。それに、女の子が傷付くのを見て心のダメージを負うよりかは全然マシだ。


「はわわ。また、ぶつかってしまいました。すいません。それに庇ってもらって、ケガはないですか?ってえぇ?まさかっっ!?またっ、お、お、お、男の人ですか!?」


その女の子は叫ぶ。


「痛って、ててっ。……ってあれれ?もしかして、前もぶつかった子じゃないか!」


──そう。なんと1回目の時と同じ女の子と再びぶつかったのだ。


その女の子は俺の胸の中で、両手で顔を隠して「はわわ……はわわ。」と言ってモジモジしていた。今回は気絶しないようだ。


「あ、あのー。悪いんだけどさ。……どいてもらっていいかな?これじゃあ、起き上がれないもんで……」


俺は女の声にかき消されないように少し大きめな声で言った。


「はわわわっ。すみません。」


その女の子と俺は馬乗りの状態になっていたのだ。

その女の子は今気付いたようで素早く俺から離れた。その動きは、ものすごく俊敏だった。


ふぅ……危ない所だった。


俺がゆっくりと起き上がると女の子は謝ってきた。

あの時と同じ土下座でだ。


「すいませんすいませんっ!!まさか、まさかでぶつかってしまうとは思っていませんでしたっ!!」


女の子はブンブンと風を切る音を立てながら頭を上下させた。


なんで、この女の子は謝っているんだろう?悪いのはよそ見をしていた俺なのに。


「全然大丈夫だよ。こっちも急いでいたから。ごめんね。」


俺がそれを言い終わった後……


──キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴った。

午後の授業が始まる時間になったのだ。

人気のない廊下にそのチャイムの音は響いた。


「うわっ、急がないとな。」

「本当にすいません、すいません!!」

「いや、いいからいいから、君もすぐに行った方がいいよ。本当に気にしないでいいからね。」


本当に、なんだろう、気が弱いのかな?そこまで謝らなくていいのに。


最後に女の子はまた、「すいません!!」と謝って走って行った。


少し女の子の後ろ姿を見て、行ったことを確認し、俺も走らないとなと思い振り向くと……


「ん?なんだこれ?」


廊下の真ん中に何かが落ちていた。


それを拾い上げて見てみると、それはあの女の子の生徒手帳だった。顔写真を見てあの子本人の物であることを確認した。


ぶつかったときか?それとも、女の子が謝って頭をブンブンと上下させていたときにでも落としたのかな?


あの子……結構ドジっ子なんだな。

と……少し笑ってしまう。


「えっと、あの女の子の名前は……“神崎 葵”って言うのか。」


顔写真の隣には名前とクラスと学年が全て書かれていた。


神崎さんは同級生で俺の隣のクラスの2組だったのか。俺は上級生かと思っていたよ。あの大きな胸的に……な。

なら、またすぐに会えそうだしこの生徒手帳を返せそうだな。


後を追わなくてよいとすぐに判断した俺は、その生徒手帳をポケットにしまった。


「やばい、こんなことしてる場合じゃない。早く教室に戻らないと!!」


俺は走り出した。


☆☆☆


結局、俺は授業には遅れてその教科の先生から少し怒られた。


授業中、俺はふと大地先輩の言葉を思い出す。


後悔しないように………か。だったら………やっぱり俺は………自分の意志を貫き通し、あの部活に入ろう。

そう心の中で俺が入る部活を決めた。


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