第11話 弁当


久しぶりの家族の団欒の一時を楽しみ、その日は終わった。


茉優とは、なんとも弊害無く普通に話せる様になった。


これなら、今週に雫と出かける時に何を着たらいいか?の服の事について相談することも楽に出来るはずだろう。


俺は朝起床し、朝ご飯を食べにキッチンに降りて行った。


キッチンに近づくに連れて、いい香りがした。


キッチンに入ると中学校の制服にピンク色のエプロンというなんとも愛くるしい姿で茉優が朝ご飯を作っていた。


「おはよ!お兄ちゃん。朝ご飯出来てるよ!」


俺に気が付いた茉優は笑顔で言ってくる。

朝からこんな満面の笑みを見られて俺は心がポカポカと暖かくなる。今日一日はいい日になりそうだな。そんな気がして来た。


「あれ?今日は朝練は無いの?」


確か、いつも茉優は朝練があって俺が起きて来る頃の時間にはもう家を出ていたはずだ。


「無いよ!これからの朝練は自主練にしたんだ。だから、毎日お兄ちゃんの朝ご飯を作ってあげられるんだよ。」

「本当か!?ありがとな茉優。お兄ちゃん嬉しいよ。」


そう言って俺は茉優の頭を撫でる。これから茉優とは家族として交流出来るのが嬉しいと思った。


「えへへ!!」


茉優は嬉しそうに頬を赤くした。

例え、好きな相手がいたとしても俺にはただ1人の妹として振舞ってくれるのが嬉しい。


俺は、まだその茉優が好きな男を完全に認めた訳じゃないけど……それはそれ、これはこれだ。


はぁ……それにしても、茉優のご飯をずっと食べ続けられるかもしれない茉優の好きな男を俺は羨ましいと思う。


まだキッチンには俺と茉優しかいない。

お母さんは昨日の仕事疲れが残っているのか、まだ寝室で寝ているようだ。かすみさんは……うん……分かんないや。


ってそう言えば、時間があんまり無かったんだっけ。今日は少し寝坊してしまったのだ。なので、すぐに茉優が作った朝ご飯を食べるため椅子に座り、茉優がテキパキと用意してくれた朝ご飯をすぐに食べる。


今日の朝ご飯のメニューは真っ白の炊きたてホカホカのご飯に味噌の香りがほんのりと漂うワカメの味噌汁。この味噌汁は深いコクがありいいダシがとれている。ちょうど良い甘さの卵焼きに、焼き具合が完璧な紅鮭。それに漬物も程よいしょっぱさで朝の食欲がない時でもどんどん食べれる。


そういえばよく考えてみると、俺がいつも食べているご飯ってどれもレストランみたいに本格的で、何より美味しいく、口がとろける。


それを中学生である茉優が1人で作っているというのは物凄いことだと思う。

茉優の料理の腕だったら、飲食店を開けるかもな。


なんて、想像をしながら今日の朝ご飯を美味しくいただいた。


「茉優、今日も朝ご飯、すごく美味しかったよ。ありがとう。」とだけ伝えて俺は家を出ようとした。


「──ちょっと待って、お兄ちゃん。確か今日からお弁当が必要でしょ。はい、これ。作っておいたよ。」


茉優がそう言って俺を追いかけて来た。弁当を渡したかったらしい。


そう言えば、今日から普通授業で授業が午後まであるんだ。それで弁当が必要だということを忘れていた。


茉優は弁当箱を渡してきた。


「これって弁当!?ありがとう茉優。大事に食べるよ。」


すごい嬉しい。もう感動しそうだ。

でも、そんな事を妹の茉優に見せる訳には行かないのでグッとその感情を堪える。


茉優は玄関まで来てくれて「いってらっしゃい、お兄ちゃん。」と言ってくれた。


俺は元気よく「いってきます!」と言って家を出た。


今日の天気は晴れていて気持ちのいい朝だ。

茉優のいってらっしゃいという言葉もあり、俺のテンションは最高潮まで達している。


「おはよう雫!」

「……おはよう、優馬。今日はやけに元気ね。」


いつも通りに雫は門の前に待っていて俺は元気よく挨拶をした。


俺は久しぶりに妹と話したことを雫に歩きながら話した。誰かに、この嬉しさを少しでも共有したかったのだ。


雫は完全に俺の家族の話なのに、静かに聞いてくれていた。


「……ふーん。優馬には妹がいたのね。」

「うん。茉優って言ってね。まだ中学生なんだけど……」

「……え?茉優?それって確か………………あの?

神楽坂 茉優……のこと?」

「え?雫は茉優の事を知ってるの?」


なんで?俺は疑問に思う。


「……知っているというか、聞いたことがある名前だったから。」


そう言って雫はスマホを取り出し、数秒後に雫はスマホの画面を俺に見せてきた。


雫のスマホの画面はあるスポーツニュースだった。

そのニュースには青いサッカーのユニホームを着た茉優が大きく一面に取り上げられていた。


茉優はサッカーボールと金色のトロフィーを持ち、仲間達と笑顔で笑っている…写真だった。


そして大きな文字で大々的に《神楽坂 茉優率いる日本女子第8中学が全日本新人大会で日本一に‼‼‼》 と書かれていた。


「何だこれ……」


茉優がサッカーをやっている事は知っていた。だけど、ここまですごい選手なのは知らなかった。

俺は驚き、動揺が隠せなかった。


「……これって優馬の妹さんで合ってるの?

それとも同姓同名?」

「間違いなく俺の妹の茉優だよ……」


どんなに見たって……茉優だった。


「……そうなのね。優馬の妹さん、すごいわね。」

「うん、ほんとだよ。俺も正直驚いてる。」


今日帰ったら茉優と話をしてみようと思った。

それで一緒にサッカーをしてみたいなと思った。元サッカー少年である俺はすごくワクワクした。


「……そろそろ時間が危ない。立ち止まってないで早く行こ、優馬。」

「あぁ、うん。そうだね。」


いつの間にか俺は立ち止まっていたようだ。


スマホを見るともう後数分で学校の門が閉まる時間だった。さすがに学校が始まってすぐに遅刻はダメだと思うので少し小走りで学校まで行った。


☆☆☆


昼休み。


「はぁぁっ。疲れたぁな。」


俺は手を上に上げ下げして、授業で固まった筋肉をほぐした。

ようやく昼休み。弁当の時間だ。


俺はこの時間を心待ちにしていた。何故なら、この弁当は茉優が作ってくれた物だがらだ。


俺はカバンから弁当箱を取り出し、机に置く。この弁当は木製のプリントがされているなぁ……なんて思ってたけど、よく見てみると本物の木製の弁当箱のようで高級感がにじみ出る弁当箱だった。


俺が弁当箱のフタを開けようとした時だった。


「──おーい、優馬。今日、一緒に弁当食べないかい?」


突然声を掛けられ、びっくりした俺。急いで声のした方に視線を送る。


「え?って……、大地先輩じゃないですか。」


クラスの女の子だと思ったら、予想外の大地先輩だった。


大地先輩は片手に弁当箱を持っていた。

というか全く気がつかなかった。頭の中が茉優が作った弁当の事でいっぱいで周りの状況が全く掴めていなかったようだ。


「はい!もちろんいいですよ。えっと、ここで食べるんですか?」

「いや、ここだと多くの目があって食べづらいからね。それにあの相談も一緒にしようと思ったんだけど。」


大地先輩はチラッと周りの女の子達を見て小さな声で俺にだけ聞こえるように言った。


周りの女の子達は俺と大地先輩が一緒にいるせいか誰も近寄ってこず、俺と大地先輩を熱い目で眺めていたり、隣の女の子同士で抱きついてきゃきゃしておそらく俺たちの話をしていたりとさまざまだった。


それでも雫や、夜依とかは普通に弁当を食べていた。興味が無いのだろうか気にしていない様子だった。


相談とは部活のことについての事だ。このことは女の子に聞かれてはダメだ。二人っきりで話すついでに弁当を食べるのはいい提案だと思った。


「分かりました。」


俺は弁当箱を片手に持ち立ち上がった。


「じゃあ行くか。」

「はい。」


俺は、大地先輩の後について行った。


☆☆☆


「さっきはすごかったね~~。まさか優馬君と大地先輩が一緒にいる所を見られるなんてね~~」


由香子は興奮しながら、雫の席まで自分の椅子を持って来て雫の向かいに座った。

中学の時もこんなふうに一緒に弁当を食べていた。


「……そう。別に私は興味無いけど。」

「え~~?何で?毎日優馬君と一緒に登下校してるから~~?」


由香子は、少し声を大きめに言った。クラスの視線が雫に集まる。


完全に嫉妬の視線である。


「……由香子、余り大きな声を出さないでよ。」


そこまでクラスの人達と関係が築き上がった訳では無い雫は、今の由香子の失言でクラスの人達との溝が深くなってしまった。


「うん。ごめんごめん~~。」


まったく、由香子はたまに周りが見えなくなる短所がある。その短所が男の話になるとよく表れる。

いつもは空気の読める良い子なんだけど……


「前から聞きたかったんだけどさ~~優馬君と雫の関係ってなんなのかな~~」


由香子の質問はクラスの人達も聞きたかったようで、クラスがやや静かになる。


恐らく、さり気なく聞こうと思っているのだけど、雫にはバレバレだった。

別に、言って損のような話でも無いため気にしない事にした雫。


「……そうね、はっきり言った事は無かったね。」

「うんうん~~!聞かせて~~」


一呼吸置き、由香子が落ち着いたのを確認してから雫は話を始める。


「……私と優馬が出会ったのは──」


そこから数分。雫は優馬との出会いを語った。


その話はクラスのほとんどの人間が耳にし、そんな雫と優馬の奇跡的な出会いを羨んだ。


「いいなぁ~~羨ましいな~~」


蕩けた顔で言う由香子。

なんとも、みっともない顔だ。


「やっぱり~~雫は優馬君の事~~気になってるの?」

「……まだ分からない。だけど、つい優馬の事を見ちゃうのは確かね。」

「うんうん~~その気持ち分かるよ~~」


雫の言った事に由香子は共感する。

でも、すごくニヤニヤしているのが癪に障るけど……


「でも、雫は優馬君の婚約者候補なんじゃないの~~?」

「……なんでそう思うの?」

「だってさ~~雫と話している時と他の女の子と話している時を見比べるとね~、どう見ても態度が違うんだよ~~

他の子と話している時は確かに優しいんだけど完全に受け身な感じで余り楽しくは無さそうなんだよね。だけど、雫と話している時は本音を言ったり、楽しそうで、明らかに心を許している感じがするんだよ~~」

「……そうなのかな?余り変わらないような気がするけど?」

「絶対そうだよ~~だから雫ちゃんは優馬君にとっての特別な存在として認識されつつあるんじゃないのかな~~?」


由香子の言葉を聞き、微動だにしないように見せているが、雫の心の中では物凄く喜んでいた。


「あれ~~雫ちゃん~~顔赤いですよ~~」


どうやら、嬉しさが漏れ出してしまったようで、顔が赤くなっていたようだ。


「……っ、そ、それは由香子があんな事言うからでしょっ!」


恥ずかしさを堪えながら由香子を怒る。


「……もう!弁当食べよ!この話はもう終わり!」


これ以上、赤面して恥を晒したくなかった雫は、ほぼ強制的に話を閉じ、自分の弁当を食べ始めた。


「はいはい~~分かったから雫。今日はやり過ぎたよ~~

ほら、雫の好きな弁当の具、あげるからさ機嫌直してよ~~」

「……うっ、私が食べ物なんかで機嫌が直るとでも?」

「ほらほら~~雫の大好物の塩コショウたっぷりのお肉さんだよ~~」

「……っっ!しょ、しょうが無い。今回は許す。

今回だけ、だからね!」


雫はそんなことを言いながら由香子から好物を受け取り幸せそうにそれを頬張っていた。


雫ちゃんは、相変わらずチョロいな~~

なんて……由香子は心の中で思ったのであった。


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