第179話 食育を装った説得

「今日はエマのカカオマスを使った調理実習だが、その前にカカオ豆の収穫後についての授業だ。」

フギンがカカオポッドの絵を見せる。


「カカオポッドからパルプごと実を取り出して発酵させる。発酵期間は約1週間だ。その後、カカオ豆を乾燥させ、中に含まれる水分を6%から7%に減少させる。」

ムニンがカカオ豆の絵を見せる。


「カカオ豆からカカオポッドの破片などの異物を取り除く。綺麗になったらローストする。この量だと数時間はかかるな。」

フギンがエマのカカオ豆から出来たカカオマスをチラリと見る。


「ローストが終わったらカカオ豆の殻と胚芽を取り除く。この量だと1日か2日はかかるかもしれんな。」

フギンもエマのカカオ豆から出来たカカオマスをチラリと見る。


「そして、ここからが最大の難所だ。カカオ豆を細かく砕き「カカオマス」という状態にするのだが、固過ぎてフードプロセッサーは使えない。擂鉢で擂るのだが、固いのでかなり大変だ。300〜500gでも滑らかにするには数時間では足りぬという。この量なら2週間はかかるな。」


エマは、げんなり顔だ。

「エンマ、もうカカオ豆やめます。」

全員の胸に希望の光が射した。


「ならば、これからは神さまにお供えする特別な作物として育ててはどうだ。」

「うむ、神さまの作物だな。」

「そうします!」

食育は大成功だ。



「今日はこのカカオマスからチョコレートを作る!」

「調理に入る前に今日の工程を説明するぞ。」

エマの顔が楽しそうになってきた。


「すり鉢に入れたカカオマスに砂糖を混ぜ、温めながらひたすら擂る。擂れば擂るほど滑らかで美味しくなる。数日掛けると良いらしいぞ。」

「……数日…。」

エマの顔が嫌そうに歪む。


「今回はちょっとズルしちゃおうね。」

「唄子ちゃん。」

本当は湯煎で温めるらしいんだけど、今回は魔法で温度をキープ。混ぜるのも少しは手でやった方が楽しいけど、後は魔法でチャチャッとね。」

「唄子ちゃん魔法でお願いします!」


唄子さんの調理魔法で、時間をかけ過ぎずに美味しいチョコレートが出来た。

かけ過ぎないと言っても、エマを飽きさせるには充分だった。


自分で作ったチョコレートは美味しいけど楽しかったのは少しだけだった。もう2度としないと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る