第177話 初めての作品はテオ君に
「出来ました!」
かぎ編みでエコなタワシを編んだ。
ジェト・マロースと呼ばれるサンタが12月31日の夜に、ヨールカの下にプレゼントを置いてゆくというストロガノフの里の風習でダイアナから贈られた編み物の初心者セットで作った初めての作品だ。
簡単に編めるし、汚れたら捨ててしまうので不恰好でもOK、初心者の練習にぴったりだ。もちろんデイモンが丁寧に教えてくれた。
「エンマ、これテオくんにプレゼントしたいです。」
「それはテオ君が喜びますね。エンマの初めての作品だから可愛くラッピングしましょうね。」
兄のテオと姉のニナは同棲中のカップルだが、飯マズで不器用なニナは掃除や日曜大工などを担当しており、毎日の料理や洗い物はテオの担当なのだ。
「こんにちはー!」
「エマ?」
エマの呼びかけにテオが飛び出してきた。
「さあ、入って。デイモンたちもどうぞ。寒かっただろう。」
「お邪魔しまーす。」
「いらっしゃい、エマちゃん!」
「こんにちはニナちゃん。」
「今日はどうしたんだい?来てくれて嬉しいよ。」
予定外のエマの訪問にテオが嬉しそうだ。
「あのね、クリスマスにダイちゃんが編み物のセットをくれたのです。
それでダモが教えてくれてタワシを編みました。」
「アクリル100%の毛糸で編んでありますので、繊維が細かい汚れをかき出してお皿やグラスをキレイにしてくれるのです。
油汚れを完全に落とすのは難しいので洗剤と併用してくださいね。」
「初めて編んだので不恰好ですけどテオ君にプレゼントです。」
はい、どうぞ。とエマが包みを差し出す。
「デイモンがラッピングしたんだぜ!」
「私とエマちゃんが選んだリボンよ!」
ジジ&マリーが嬉しそうだ。
「え、エマ!嬉しいよ!」
テオが涙ぐんで震えている。
「えへへ、開けてみて下さい。」
ガサガサ…お花モチーフのエコタワシが出てきた。
「可愛いお花!お花ってところがエマちゃんらしいわね!」
「ダモがお花の形にしましょうって薦めてくれました。」
「編み方もデイモン君が教えてくれたの?」
「はい。とっても分かりやすかったです。」
感動に浸っていて、エマとニナのやり取りを聞いていなかったテオの意識が現実に戻ってきた。
「素晴らしいな!エマは天才じゃないか!?」
「使って下さいね!」
「……。」
「テオ君?」
「エマの作品を汚すなんて…出来ない…。」
テオが苦しそうにつぶやいた。
「汚れたら捨ててください。新しいのをプレゼントしますから。」
「す、捨てるだって!?そんな事……とても出来そうにない…。」
エマが困った顔で、ニナとデイモンを見る。
ニナは諦め顔だ。
「エンマ、デザイン画をプレゼントしたらどうですか?タワシは使ってもらって、絵は残してもらって。」
「そうですね!」
編み始める前に、こんなタワシにしようとクレヨンでお絵かきしたものが残ってるのだ。
インベントリからお花のタワシの絵を取り出した。
「テオ君、これをどうぞ。タワシは使ってくださいね。」
テオに衝撃が走る。感動し過ぎて。
「エマ!エマは天才じゃないか!?」
「使って下さいね。」
「……。」
「テオ君?」
「エマの作品を汚すなんて出来ない…。」
テオが苦しそうにつぶやいた。
「汚れたら捨ててください。新しいのをプレゼントしますから。」
「す、捨てるだって!?そんな事……とても出来そうにない…。」
同じやり取りが続きエマが疲れてきた。
「エマちゃん、あとは私に任せて。」
ニナにテオを任せる事にした。
結局エマのタワシは使われず、デザイン画と一緒に額装され、テオの部屋に飾られた。
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